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番外編
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ホテルに併設されたチャペルから、永遠の愛を誓った新郎新婦が姿を現した。ウエディングドレスの白さもさることながら、招待客の祝福を受け、新郎の隣で幸せそうに微笑む新婦が何よりも一番眩い。けれど私がさっきから見惚れているのは、こんな場でさえご機嫌斜めのあの人。
「君、どこかで会ったことあるよね? うちの会社の人だっけ?」
おそらく新郎新婦の同僚なのだろう。天井の蜘蛛の巣を難なく払えそうな、背の高い男性に肩を叩かれた。
「あ、えっと、私は」
どう説明したらよいのか困って言い淀む。実は私は正式な招待客ではなかった。主役の二人のたっての希望で、式後のガーデンパーティーにのみ参加することになっている。本当はそれも固辞したのだけれど、立食で流動的なものになるから、身内のふりをしていればいいと説得されたのだ。
「ああ、この人はあれだよ。同期会の会場の…桜屋って言ったっけ? あそこの仲居さん」
また別のすらりとした男性がやってくる。六月の予定外の暑さを吹き飛ばすような、涼しげな雰囲気の人だ。それにしてもつくづく美男美女率の高い職場だ。他の出席者も目の保養に事欠かない人ばかり。場違いな自分が嫌になってしまう。
「そうか! 可愛いなと思ってたんだよね、俺。確か指輪してなかったよね。名前聞いてもいい?」
目敏く私の左手を一瞥してから、背の高い男性が顔を近づける。口を挟む隙もない速さで、ぽんぽんと話を畳みかけられ、私は途方に暮れてしまった。しかも桜屋の宴会場では、ろくに会話もしなかった人達に憶えられていたことにもびっくりだ。
「なぎ」
氷点下の声が頭上に降った。私はほっとして背後を振り返る。そこには不機嫌を隠そうともしない修司さんが立っていた。
「他の男にナンパされてんじゃねーよ」
お叱りの拳骨が脳天に落ちる。
「そんなんじゃないです」
「ったく、目を離すとこれだよあんたは。主任といい先輩達といい」
チッと舌打ちする修司さんを、私は涙目で見上げる。
「…っ! こんな所でそんな顔するな」
更なる拳骨がお見舞いされ、私はそんな顔って何なのと内心で詰った。
「ちょ、待て。今の痴話喧嘩は何だ。誰だ。幻覚か?」
「いや、紛うことなき女嫌いの富沢だ」
私達のやり取りを眺めていた背高さんとすらりさんが、見てはいけない物を目にしたように呆然と呟く。
「あり得ない!」
声を揃えて真っ向否定する彼らを、修司さんは無言で睨みつけている。先輩と呼んでいたのに大丈夫なのかな。
「やっぱり驚くよな」
いつのまにか傍に来ていた新郎新婦が、せっかくの衣装が皺になりそうなくらい、腰を曲げて笑いを噛み殺していた。
緑鮮やかな庭園のあちこちに、新郎新婦の門出を祝う笑顔の輪ができていた。設えられたテーブルにはお洒落な料理が並び、出席者が思い思いに食事を楽しんでいる。青空の下の素敵な空間。
しかし私はそれどころではなかった。女性陣の視線が痛い。修司さんと離れているときは感じなかったが、ぴしぴしと突き刺さる、あの不細工は何者と言いたげな値踏みする数多くの目。会社の女性から慕われているのは知っていたけれど、正直怖くて今すぐ帰りたい。
「私の従姉妹ということにしてあるから、怯えなくてもいいわよ、なぎさちゃん」
招待客に挨拶をしていた新婦の美香さんが、笑顔でこそっと耳打ちしてくれた。この人は同期会の幹事を務めていた、修司さんの先輩の彼女であった美人さん。今日からは奥さんだ。
「それになぎささんに手出しした奴は、漏れなく富沢の返り討ちにあうぞ。男女問わず」
寄らば切るぞ的なオーラを放つ修司さんに呆れながらも、本当は楽しそうな新郎の竹山さん。二人は何故か修司さんを骨抜き(断じて誤解!)にした私を気に入り、こうして一生に一度の宴に招いてくれた。
「君は真面目に富沢の彼女なの?」
腑に落ちないという表情で、背高さんが確かめる。女性陣の反応を怖れるあまり、私は力一杯首を横に振った。
「違います。私など恐れ多いです」
「じゃあどういう関係?」
今度はすらりさんが訝しげに訊ねた。
「友…人?」
私の返答にこの場にいた全員が瞠目する。何かおかしなことを口走っただろうか。不安になって隣の修司さんを窺えば、まるで雷様を従えたような様相を帯びている。
えっ? どうして? だって私達はおつきあいなんてしていない。誕生日のプレゼントの代わりにと、キスをされたことはあったけれど、あれから約三ヶ月。好きだと告げられるどころか、甘い雰囲気になったこともない。つまり私の片想いのまま。
「とんだ一つを選んじまった」
その言葉を聞けたときは、私のたった一つ選びたいものと同じ重さを持つのかと、天にも上るような心地になったが、勘違いも甚だしかったらしい。修司さんの態度は以前と全く変わらない。
「肝心な言葉が足りてないようだぞ、富沢」
竹山さんの一言を合図に、私と修司さん以外の面々が吹き出した。
「友人なら俺が貰っても構わないよな」
意地悪な笑みを浮かべる背高さん。
「今すぐ足元に沈めますよ?」
即答した修司さんに、四人は肩をぶるぶる震わせている。ただ一人訳が分からずにいた私は、いきなり炸裂した今日三度目の拳に頭を押さえた。
「このど阿呆が」
何で?
「君、どこかで会ったことあるよね? うちの会社の人だっけ?」
おそらく新郎新婦の同僚なのだろう。天井の蜘蛛の巣を難なく払えそうな、背の高い男性に肩を叩かれた。
「あ、えっと、私は」
どう説明したらよいのか困って言い淀む。実は私は正式な招待客ではなかった。主役の二人のたっての希望で、式後のガーデンパーティーにのみ参加することになっている。本当はそれも固辞したのだけれど、立食で流動的なものになるから、身内のふりをしていればいいと説得されたのだ。
「ああ、この人はあれだよ。同期会の会場の…桜屋って言ったっけ? あそこの仲居さん」
また別のすらりとした男性がやってくる。六月の予定外の暑さを吹き飛ばすような、涼しげな雰囲気の人だ。それにしてもつくづく美男美女率の高い職場だ。他の出席者も目の保養に事欠かない人ばかり。場違いな自分が嫌になってしまう。
「そうか! 可愛いなと思ってたんだよね、俺。確か指輪してなかったよね。名前聞いてもいい?」
目敏く私の左手を一瞥してから、背の高い男性が顔を近づける。口を挟む隙もない速さで、ぽんぽんと話を畳みかけられ、私は途方に暮れてしまった。しかも桜屋の宴会場では、ろくに会話もしなかった人達に憶えられていたことにもびっくりだ。
「なぎ」
氷点下の声が頭上に降った。私はほっとして背後を振り返る。そこには不機嫌を隠そうともしない修司さんが立っていた。
「他の男にナンパされてんじゃねーよ」
お叱りの拳骨が脳天に落ちる。
「そんなんじゃないです」
「ったく、目を離すとこれだよあんたは。主任といい先輩達といい」
チッと舌打ちする修司さんを、私は涙目で見上げる。
「…っ! こんな所でそんな顔するな」
更なる拳骨がお見舞いされ、私はそんな顔って何なのと内心で詰った。
「ちょ、待て。今の痴話喧嘩は何だ。誰だ。幻覚か?」
「いや、紛うことなき女嫌いの富沢だ」
私達のやり取りを眺めていた背高さんとすらりさんが、見てはいけない物を目にしたように呆然と呟く。
「あり得ない!」
声を揃えて真っ向否定する彼らを、修司さんは無言で睨みつけている。先輩と呼んでいたのに大丈夫なのかな。
「やっぱり驚くよな」
いつのまにか傍に来ていた新郎新婦が、せっかくの衣装が皺になりそうなくらい、腰を曲げて笑いを噛み殺していた。
緑鮮やかな庭園のあちこちに、新郎新婦の門出を祝う笑顔の輪ができていた。設えられたテーブルにはお洒落な料理が並び、出席者が思い思いに食事を楽しんでいる。青空の下の素敵な空間。
しかし私はそれどころではなかった。女性陣の視線が痛い。修司さんと離れているときは感じなかったが、ぴしぴしと突き刺さる、あの不細工は何者と言いたげな値踏みする数多くの目。会社の女性から慕われているのは知っていたけれど、正直怖くて今すぐ帰りたい。
「私の従姉妹ということにしてあるから、怯えなくてもいいわよ、なぎさちゃん」
招待客に挨拶をしていた新婦の美香さんが、笑顔でこそっと耳打ちしてくれた。この人は同期会の幹事を務めていた、修司さんの先輩の彼女であった美人さん。今日からは奥さんだ。
「それになぎささんに手出しした奴は、漏れなく富沢の返り討ちにあうぞ。男女問わず」
寄らば切るぞ的なオーラを放つ修司さんに呆れながらも、本当は楽しそうな新郎の竹山さん。二人は何故か修司さんを骨抜き(断じて誤解!)にした私を気に入り、こうして一生に一度の宴に招いてくれた。
「君は真面目に富沢の彼女なの?」
腑に落ちないという表情で、背高さんが確かめる。女性陣の反応を怖れるあまり、私は力一杯首を横に振った。
「違います。私など恐れ多いです」
「じゃあどういう関係?」
今度はすらりさんが訝しげに訊ねた。
「友…人?」
私の返答にこの場にいた全員が瞠目する。何かおかしなことを口走っただろうか。不安になって隣の修司さんを窺えば、まるで雷様を従えたような様相を帯びている。
えっ? どうして? だって私達はおつきあいなんてしていない。誕生日のプレゼントの代わりにと、キスをされたことはあったけれど、あれから約三ヶ月。好きだと告げられるどころか、甘い雰囲気になったこともない。つまり私の片想いのまま。
「とんだ一つを選んじまった」
その言葉を聞けたときは、私のたった一つ選びたいものと同じ重さを持つのかと、天にも上るような心地になったが、勘違いも甚だしかったらしい。修司さんの態度は以前と全く変わらない。
「肝心な言葉が足りてないようだぞ、富沢」
竹山さんの一言を合図に、私と修司さん以外の面々が吹き出した。
「友人なら俺が貰っても構わないよな」
意地悪な笑みを浮かべる背高さん。
「今すぐ足元に沈めますよ?」
即答した修司さんに、四人は肩をぶるぶる震わせている。ただ一人訳が分からずにいた私は、いきなり炸裂した今日三度目の拳に頭を押さえた。
「このど阿呆が」
何で?
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