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番外編 出会った頃の
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希さんとの出会いは最悪だった。俺は恋人である上司に振られた直後で、完全に自分を見失っていたし、普段ならあり得ないが誰かを気遣う余裕なんてなかった。だから頼めてしまったのだ。七夕の日に駅で偶然遭遇しただけの彼女に。
「捨ててほしいんです」
恋人に贈るために用意した、要らなくなった婚約指輪を処分してくれなどと。そして更に酷かったのは、希さんが同じ会社の社員である事実も、彼女の顔も名前も存在すらも全く知らなかったことだ。
「分別できませんでした」
俺を探してくれていた彼女から、指輪の包みを突っ返されたのはそれから二週間後。まさかこんな形で見たくもない、失恋を象徴する物が返ってくるとは思いも寄らなかった。
こういっては何だが希さんは変な人だった。一見ぽやっとした危なっかしい人なのに、自分というものをちゃんと確立している。だから他人の目も噂も全く取り合わない。お詫びのつもりで初めて食事に誘ったときも、せっかく女性が喜びそうな店を予約しようとしたのに、
「ファミレスがいいです」
と安価な店を希望された。その理由も半端なく食べるから。女性でそれはないだろう。何だこの人。俺の給料が安いと遠慮してるのか。
「こんなに食欲旺盛な女の子、初めて見た」
食事を開始して間もなく、希さんの言葉が嘘ではないことを知った。冗談抜きで男並みに食べる。なのでうっかり失言してしまったのだが、彼女は少しも機嫌を損ねたふうもなく、今更ワリカンは駄目ですからねと嘯いた。その気取らない笑顔が可愛いなと思った。
希さんは俺個人に関心がなくて、指輪やそれにまつわる人物にも興味がなかった。営業でそこそこ顔を知られていた俺は、まずその反応の薄さに驚いた。しかも要らなくなった指輪を処分するなら、やけ食いの助太刀をすると言い出す始末。
「あなたといると力が抜けます」
食べることにしか力を注がない、自由な希さんに仕事用ではない笑みが久しぶりに零れた。その癖彼女は妙なところに気が回る。俺との出会いが希さんの最寄り駅だったからか、食事の後に送ると申し出たら寄る所があると遠回しに断ったのだ。俺を辛い思い出の場所に連れていかないように。そんな人柄に胸が温かくなった。
「行きましょう」
動こうとしない希さんの手を取ったとき、ちらっと表に出た恥じらいの表情に微笑ましくなった。豪快なのかと思えば男慣れしていないそのギャップに、もう少し一緒にいたいという気持ちが膨らんでくる。
「私は総務に配属されているんです」
駅までの道程を歩きながら、ほぼ初対面に近いお互いについて話が弾んだ。
「佐伯さんは営業でしたよね? 先輩達がクールだと騒いでましたよ」
「実はそれ違うんです。単なる人見知りです。営業なのに」
そこで希さんは吹き出した。
「聞いてみないと分からないものですね。安心しました。佐伯さん格好いいですから」
「格好良くなんかありません。朝はうどん食べてますし。振られたばっかりですし」
更に笑いが加速する。
「失恋はともかく、うどんって何の関係があるんですか?」
「いや、消化にいいかと。ご飯だと噛まないといけないし」
「子供みたいですよ、佐伯さん」
自分をよく見せようともせず、俺を色眼鏡で見ることもなく、どこまでも飾らない希さん。
「ありがとうございました。おやすみなさい」
結婚を考えた恋人に振られたばかりでおかしいかもしれないが、駅の前で別れるとき、繋いだ手を離したくない、また会いたいと何故か思ってしまった。
「捨ててほしいんです」
恋人に贈るために用意した、要らなくなった婚約指輪を処分してくれなどと。そして更に酷かったのは、希さんが同じ会社の社員である事実も、彼女の顔も名前も存在すらも全く知らなかったことだ。
「分別できませんでした」
俺を探してくれていた彼女から、指輪の包みを突っ返されたのはそれから二週間後。まさかこんな形で見たくもない、失恋を象徴する物が返ってくるとは思いも寄らなかった。
こういっては何だが希さんは変な人だった。一見ぽやっとした危なっかしい人なのに、自分というものをちゃんと確立している。だから他人の目も噂も全く取り合わない。お詫びのつもりで初めて食事に誘ったときも、せっかく女性が喜びそうな店を予約しようとしたのに、
「ファミレスがいいです」
と安価な店を希望された。その理由も半端なく食べるから。女性でそれはないだろう。何だこの人。俺の給料が安いと遠慮してるのか。
「こんなに食欲旺盛な女の子、初めて見た」
食事を開始して間もなく、希さんの言葉が嘘ではないことを知った。冗談抜きで男並みに食べる。なのでうっかり失言してしまったのだが、彼女は少しも機嫌を損ねたふうもなく、今更ワリカンは駄目ですからねと嘯いた。その気取らない笑顔が可愛いなと思った。
希さんは俺個人に関心がなくて、指輪やそれにまつわる人物にも興味がなかった。営業でそこそこ顔を知られていた俺は、まずその反応の薄さに驚いた。しかも要らなくなった指輪を処分するなら、やけ食いの助太刀をすると言い出す始末。
「あなたといると力が抜けます」
食べることにしか力を注がない、自由な希さんに仕事用ではない笑みが久しぶりに零れた。その癖彼女は妙なところに気が回る。俺との出会いが希さんの最寄り駅だったからか、食事の後に送ると申し出たら寄る所があると遠回しに断ったのだ。俺を辛い思い出の場所に連れていかないように。そんな人柄に胸が温かくなった。
「行きましょう」
動こうとしない希さんの手を取ったとき、ちらっと表に出た恥じらいの表情に微笑ましくなった。豪快なのかと思えば男慣れしていないそのギャップに、もう少し一緒にいたいという気持ちが膨らんでくる。
「私は総務に配属されているんです」
駅までの道程を歩きながら、ほぼ初対面に近いお互いについて話が弾んだ。
「佐伯さんは営業でしたよね? 先輩達がクールだと騒いでましたよ」
「実はそれ違うんです。単なる人見知りです。営業なのに」
そこで希さんは吹き出した。
「聞いてみないと分からないものですね。安心しました。佐伯さん格好いいですから」
「格好良くなんかありません。朝はうどん食べてますし。振られたばっかりですし」
更に笑いが加速する。
「失恋はともかく、うどんって何の関係があるんですか?」
「いや、消化にいいかと。ご飯だと噛まないといけないし」
「子供みたいですよ、佐伯さん」
自分をよく見せようともせず、俺を色眼鏡で見ることもなく、どこまでも飾らない希さん。
「ありがとうございました。おやすみなさい」
結婚を考えた恋人に振られたばかりでおかしいかもしれないが、駅の前で別れるとき、繋いだ手を離したくない、また会いたいと何故か思ってしまった。
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