彼女はいつも斜め上

文月 青

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番外編

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これはプレゼントなんかじゃない。断じて違う。ただのお礼だ。誰にも訊かれていないのに、心の中でそんな言い訳を繰り返しながら、俺は一人で百貨店の中を彷徨っている。そうだ。店内のディスプレイがクリスマス一色なのが悪い。だからおかしな考えが浮かんでしまうのだ。

十二月半ばの土曜日。俺は水島へのお礼の品を買うために、珍しく普段は足を踏み込まないような店を訪れていた。先日体調を崩したとき水島にはかなり世話になったので、少しばかり感謝を伝えようと何か欲しい物がないか訊ねてみたのだが、

「当たり前のことをしただけですから」

水島はあっさり首を横に振った。うん。正直そんな気はしていた。あいつはそこでたかるような奴じゃない。なのでこうして仕方なく一人で出かけてはきたものの、世間は景気が良いのか悪いのかどこもかしこも人だらけ。おまけに女物の服や雑貨なんてちんぷんかんぷん。

そもそも水島の欲しいものなんて本しか思い浮かばない。試しに涼に確認しても見当がつかず、本人に聞くのが一番だよ、と意味ありげに笑われる始末。考えてみれば菓子折り一つでも持っていけば済むのに、一体何をやっているんだろうか俺は。

「まーさと」

いい加減帰ろうかとため息をついていたとき、いきなり左腕に細い両手が絡みついた。現在関わりのある女の中で俺をそう呼ぶのも、こんな真似をするのも一人しかいない。

「こんな所で何やってんの?」

着飾って変な匂いを纏った和泉が、これまた睫毛ばさばさの濃い化粧で俺の顔を覗き込んでくる。

「離れろ」

容赦なく手を振り払って俺はさっさと歩き出した。せっかくの休日までこんな女に邪魔をされたくない。

「冷たいなぁ」

ぼやきつつも全くめげる様子も見せず、勝手にあーだこーだ喋りながら後を着いてくる。

「ところで雅人。クリスマスの予定は?」

そんなものはない。昨年も友人達と酒を飲んでいた。集まるのは大抵独り者だから、途中で女の愚痴になるのが少々うっとおしいが。

そういえば水島はどうするのだろう。看病してもらって以来、水島はたまに俺の部屋に現れる。約束しているわけではないので、お互いの都合があったときだけ、勉強を教えてやったり、逆に飯を作ってもらったりはしているが、クリスマスも来るのだろうか。

「葉菜ちゃんはうちの妹や、例の野球部の子と集まるみたいよ」

要らない情報を和泉が吹き込んでくる。ちっと舌打ちしたい気分になった。こいつは本当に他人の神経を逆なでするのが得意だ。

「だから雅人、私と」

「黙れ」

自分でも意外なほど低い声が出た。苛々する。でも一体何に。立ち止まった和泉を振り返りもせず、俺は早足でその場を去った。



結局買物は諦めて自宅に戻った。駐車場に車を停めてアパートの階段を上る。二階の一番奥の俺の部屋の前に、水島がぺたんと座り込んでいた。いつぞやのように横には大きな紙袋。雑誌だろうか。俺が近づいているのにも気づかずに、一心不乱に読んでいる。

「水島」

鍵の音をさせながら声をかけると、驚いたように顔を上げた。雪の気配がないとはいえ、この時期の夕方は結構冷え込む。水島もどことなく寒そうだ。

「お帰りなさい。勝手にすみません」

慌てて腰を上げ、ぴょこんと頭を下げる。水島は近所に迷惑をかけたりしないので、待っていられたくらいで怒りはしないが、こいつのまず自分の非礼を詫びる姿勢は、こちらも見ていて気持ちがいい。どこかの図々しい馬鹿女に、爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。

「いや、入れ」

ドアを開けて中を顎でしゃくる。水島はお邪魔しますと一言断って靴を脱いだ。暖房を入れて何か飲むかと訊こうとしたら、彼女が慣れた手つきでコーヒーを淹れていた。キッチンやら風呂やら水回り関係は、寝込んでいる間に水島が整えてくれたので、実は自分の部屋ながら、俺は物の在り処が今一つ把握できていない。

「どうぞ」

当然のように目の前にコーヒーを差し出される。

「あぁ」

これじゃどちらが住人か分からない。しばらく無言でコーヒーを味わった後、俺は水島にクリスマスの予定を訊ねてみた。

「お前、クリスマスは野球少年と何かやるのか?」

「いいえ。お誘いはありましたけど」

和泉の話は嘘ではなかったらしい。ただ実際水島の口から出たのは、大勢でのクリスマスパーティーではなく、少年と二人きりでという設定だった。友人カップルは当然二人で楽しむのだから、あぶれ者同士で仲よく遊ぼうといった体のようだ。あぶれ者云々は本音ではないだろうが、おそらく今回も水島は少年の真意には気づいていないだろう。

「脇坂、今日は鍋にしませんか?」

唐突に雑誌を俺の目の前で広げる水島。さっき読んでいたものだろうか。我が家の鍋特集なる記事が写真入りで紹介されている。

「美味そうだな」

さすがにこの部屋で鍋をしたことはない。せいぜい酒を飲みに行って居酒屋でつつく程度だ。

「じゃあ準備しますね」

大きな紙袋を抱えてキッチンに移動した水島は、見覚えのあるエプロンをつけると、予め用意してきた食材を手に嬉々として作業を始めた。その後ろ姿を眺めつつ、ふとあの日の涼の台詞を思い出す。

「言葉の意味を分かってる?」

水島に手を出す可能性があるから、彼女をうちに寄越すなと頼んだ俺に返された問い。その後水島とこうして二人でいても、とりあえず発作(という表現が妥当かどうかは知らねど、俺にとってはしっくりくる)は起きないので、熱のせいで一時的に錯乱しただけだったのだろうが、正直いまだに何を指しているのか、涼が何を分からせようとしているのか、全くもって掴めない。難題だ。





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