彼女はいつも斜め上

文月 青

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番外編

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今年のクリスマスイブは日曜日だったので、結局俺はその日一日を水島と過ごした。看病のお礼の品は悩んだだけで何も用意できなかったので、その代わり大型の書店に連れていって好きな本を選ばせた。店内を歩き回りながらあれこれ手にする水島は嬉しそうで、

「ありがとうございます、脇坂。これ凄く欲しかったんです」

古代史の分厚い本を抱き締めていた。

こいつの趣味は相変わらず多岐に渡ってよく分からんが、喜んで小躍りする姿を見ると、自分の気持ちまで弾んできて落ち着かない。

「クリスマスは無関係だからな」

念の為釘を刺したら、水島は二つ返事で分かっていますと請け合う。今度は何故かそれを不服に思うのだから、不可解を通り越してお手上げだ。

しかも周囲は着飾った男女の二人連ればかりで、お洒落なレストランやら宝飾店やらが繁盛する中、古墳の本なんかでこいつは満足なんだろうか。クリスマスに要は墓だぞ?

「せっかくだし、どこかで飯でも食うか?」

あてはないが一応気を利かせて訊ねると、水島はスキップしそうな足取りで首を横に振った。

「家でのんびりする方がいいです。あ、でもケーキは欲しいです」

安定の答えだ。当然俺もその方がありがたい。

「言っとくが、うちにはツリーなんぞないからな」

期待していると困るので、最初に断っておく。

「分かってます」

笑いながら繰り返す水島。もはや口癖だな。いや、それ以前に俺の言動が単純だということか?

一旦車に戻り、俺のアパートの近くのスーパーまで移動した。せいぜい弁当を買うくらいで、殆ど足を運ぶことがなかった店内を、水島は慣れているのかすいすい進んでゆく。必然的に俺が持ったかごの中には、間違っても手出しができない食材の山。

「お酒はどうします?」

酒売場で水島が足を止めた。うちの冷蔵庫にストックしてあった酒が切れているのだそうだ。いや、だから何故お前が知っている?

「ビールかチューハイが欲しいな」

普段飲んでる銘柄の缶に手を伸ばしたら、横を通りかかった見知らぬ老婦人に微笑まれた。

「ずいぶん可愛らしい奥様ね。旦那様はお幸せね」

俺はぽかんと口を開けた。どうやら俺と水島をどこぞの若夫婦と勘違いしたらしい。

「女嫌いの脇坂が、旦那様だって!」

隣りで肩を震わせる水島。我慢していても笑い声が微妙に洩れている。

「うるせーぞ」

むかついて頭を軽く小突いたところで、タイミングよく漂ってくる甘ったるい匂い。この匂いの主には最近会ったばかりだ。さっきの老婦人といい、一体今日はどうなっているんだ。

「雅人じゃない。買物なんてするのね。あら、葉菜ちゃんも一緒?」

初めから分かっていただろうに、わざとらしく水島の顔を覗き込む。いけすかない女だ。

「デートは断っちゃったの?」

こんにちはと言いかけた水島を遮り、デートの三文字を強調してにやっと笑う和泉。

「デート…ですか?」

どちらに対するものかは分からないが、嫌味のつもりの一言は水島には通じなかったらしい。彼女はきょとんとして和泉の台詞を繰り返している。

「ほら、野球部の」

些か焦ったようにせっつく和泉にも、

「あぁ、あぶれ者同士の残念会ですね」

ぽんと手を打ってへらっと答えた。引きつった和泉の表情はなかなか見物で、正直その不細工加減に笑いを禁じ得ない。よくやった水島。自覚はないだろうが。

「それより二人はこれから?」

この先の展開が読めてまたしても舌打ちしたくなった。

「お腹が空いたのでご飯を食べます」

「は?」

嘘か真か、当たらずとも遠からずか、その絶妙な返しにさすがに俺も吹き出してしまった。おそらく和泉は邪魔をする気満々だったんだろうに。

「まさ…と?」

和泉が呆然と呟く。俺はひとしきり笑った後、状況が飲み込めていない水島の手を取った。

「悪いが帰る」

二度と寄ってこないよう一睨みして、律儀にさようならと挨拶する水島を連れてその場を離れる。追いかけてきてはいないようだが、和泉にアパートの場所を知られると厄介なので、とりあえず水島の了解も取らずにレジに並んだ。手慣れた処理ですぐに会計金額が読み上げられる。

「他にも買いたい物があったか?」

バッグから財布を出そうとした水島を制し、ジーンズのポケットから自分の財布を出しつつ問う。

「ないですよ。それよりお代は私が」

どうしても自分で払うつもりのようだ。でも前に鍋を作って貰ったときも水島の自腹だ。俺も食べるのに高校生に支払いなんかさせられるか。

「いい」

「でもポイントが付くんです」

店名の入ったカードを目の前に出されてだんだん苛々してきた。しかもレジの店員も後列の客も、生温い目で俺達のやり取りを眺めているような気がする。

「うるせーな。じゃあ任せた。好きにしろ」

面倒臭くなって俺は財布ごと水島に預け、スキャンし終えたかごを抱えてサッカー台に移った。水島は躊躇しながらも俺の財布からお金を払い、申し訳なさそうな顔で隣に立った。

「すみません」

差し出された財布を受け取って、頭の天辺にげんこつを落とす。
 
「こういうときはありがとうだろ。それよりこれはどうするんだ?」

山盛りのかごを指差せば、水島はさっとエコバッグを取り出して次々品物を片付けてゆく。あっという間に空になったかごに、大した芸当だと拍手を送りたくなる。

「やっぱり仲がいいのねぇ」

その声に背後を振り返ると、酒売場で俺と水島を夫婦扱いした老婦人が、買物カートに荷物を乗せて帰るところだった。

「旦那様は奥様に見惚れてましたよ」

違う。俺が見惚れていたのは水島の荷物を捌く手際、いやそもそも見惚れていないから。誤解したまま羨ましいわなどとほざいて老婦人は去る。

「帰りましょうか、旦那様?」

悪戯っぽく笑む水島に、更に表情は苦虫を噛み潰したものとなる。くっそー、本当に今日は何なんだ? 厄日なのか?





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