最強者のVRMMO活動記 ~トラブルに愛されるとあるプレイヤーのトラブルシューティング記~

火の無い灰

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4章「哀れな死者たちの世界」

神話描かれし墓地 【第5階層】

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―第5階層もまた、一風変わった…というよりある意味えらく本格的な造りだった。

―《【神話描かれし墓地】に入った》

石造りの天井、壁、床。壁に等間隔に配置された光精石の松明は深い藍色の光をぼんやりと放っている。
壁には藍色を帯びた葉をもつ蔦が這う。
上を見上げれば天井には微細な絵画…神話絵が描かれているのが見える。
ただ、彩色は施されているものの長い年月が経っていることを示すかのように色は掠れていた。
狭い通路の中を、ヒビキ、ライア、エヴァン、フレイの順で進んでいく。

「これはまた…えらい本格的な絵が描かれてるんだな」
「綺麗なものだな」
「……だな」
「名前からしてそうなんですよね」

時々道をふさぎにかかるモンスターは主にヒビキの、後ろから迫ってくるモンスターは主にフレイの刃の攻撃範囲内に入った瞬間に黒いガラスと化して砕け散る。
幾つかの広い部屋とそれらを繋ぐ狭い通路を抜けた後、一際広い部屋に出た。

「ほぉ…ってうぉあ!?」
「いくら何でも湧きすぎでしょう!?」
「真っ黒いな…」
「これで通常の量なのか!?」

黒い光の玉そのものの姿をした【堕ちた黒霊ダークスピリット】を主に、ローブを被った人の姿を模した幽霊レイス【ファントム・ホロウ】などが混じっている。
ただ、その量が尋常じゃなかった。それぞれの距離は2,3歩歩けばすぐ刀のリーチに入るほどのものでしかなく、元々の部屋が広いので、ざっと数百単位はくだらなさそうである。

「狩り甲斐がありそうだな」
「やる気満々ですねー。殺る気が」
「……仕方ないな」
「じゃあ各々、全力で狩って来い!」

ヒビキのそんな掛け声と同時に3人が爆発的な加速で初めの接敵を果たし、1人は弓に生成した魔矢を数本つがえて狙いを定める。
…相手が実体を持っていなかろうが、厄介な魔法を使ってくるとかは関係ない。
ただ、屠るだけである。

―踊り、狂い、猛る。
黒霊に罪は無いが、邪魔をするモンスターに容赦をかけるような面子ではない。
魔炎が灼熱をもって敵を焼き焦がし、死を告げる風が吹きすさび、奔る。
多属性の幾本もの魔矢が宙を飛び、青き光芒が迸る。
数分後、全て狩りつくされた黒霊の成れの果てであるドロップアイテムの群のみが床を埋め尽くしていた。

「さて、行こうか」
「ふん。手ごたえがなかったな」
「この程度のダンジョンに何を求めているんですかフレイさん」
「それもそうか。期待すべきは秘境にだったな」
「その通りだな」

この世界のプレイヤーレベル帯の内、ボリュームゾーンに該当するのは350~450程度。勿論転生は考慮にいれず。
そのあたりのプレイヤーからしたらやはり常識はずれな会話である。
…天井に描かれている神話絵を見れば、中心の辺りに一際目を引く女神の絵が描かれていた。
―創造の女神ミューズ。
この世界を形作ったとされる主神めがみの絵ですら、やはり所々が掠れていて鮮やかさは失われていた。
ふと耳を澄ませる。
僅かに何か、誰かの声が微風に乗って聞こえてくる。
ただ、何を言っているのかは聞き取れない。
……死者の声か。否か。
そんなことについて考えながら、神話絵の主題が描かれた部屋から4人は立ち去った。
そこから階段まで続く狭い通路の両側にあるのは壁のくぼみに並べられた墓碑の群ではなく、整然と区分けされた部屋が並んでいた。
扉はなく、入り口に備え付けられたアーチの上部には家族の姓らしき文字が彫られていた。

「……家族葬か」
「ここの天井にも神話絵が描かれているようですね」
「…ここの階層に弔われたのはある程度力を持っていた者たちだ。…家族でな」
「…空虚なものだな」

歩いていると、ヒビキやエヴァンの【索敵】や【危機察知】に引っ掛かる反応があった。

「天井に1匹、右に1匹、左に1匹。そしてその後ろを固めるかのようなスケルトンなどの群…」
「十中八九、コマンダーだろうな。どうする?このままいくと囲まれること請け合いだが」
「…わざわざ敵の思惑に乗ってやることもあるまい」
「種類は?」
「上のが【ダークホロウ・コマンダー】、左のが【エルダーマッドトレント・コマンダー】、右のが【ハイスケルトン・コマンダー】」
「上のは自分が対処しましょうか?」
「応、頼む。右のは俺が殺るわ」
「…俺は後ろの奴らを」
「じゃ、私は左のだな」

臨時パーティな癖にこのスピーディな決まりようである。
素晴らしいまでの息の合いようで、先手必勝とばかりに決められた通りの方向へと突撃する。

―上の天井から滲みだすように現れた、【ダークホロウ・コマンダー】とその配下の霊たち。
彼らは眼下で戦闘状態に入る3人の近接アタッカーを認識するや、魔法スキルを使おうと掠れた音にしか聞こえない声で詠唱を始めた。
魔力が凝集しだす。が、そんな隙を彼らの敵は見逃すはずがなく、幾本もの魔矢が彼らを襲った。
一斉に彼らの注意が、その魔矢を発射した者に向けられた。
彼‐エヴァンは緑色の外套をすっぽりと被ったまま、漆黒の弓に次の5本の魔矢をつがえる。
2秒後、それらが一気に放たれた。

―弓術系戦技スキル【ペイン・オブ・シュート】。

実体のない相手にも効くスキルで、刺さった相手に一定時間、継続ダメージを強要する。
当然の如く魔矢には属性が付与されており、彼らは魔矢に命を削られて次々に消えていった。
…一番最後まで耐えた【ダークホロウ・コマンダー】も、結局は耐えることしかできずに反撃も許されず、地下墓の闇に溶けるように消えていった。

―左に陣取っていた、腐りかけの植物こと【エルダーマッドトレント・コマンダー】とその後ろに控える【エルダーマッドトレント】たちはその気味悪い触手をうじゃうじゃと動かしながら、迫ってくる赤い鎧を纏った女騎士‐フレイを認識した。
…といっても、植物系モンスターには視覚が存在しないのであくまで気配上のものであるが。
ちなみに通常、視覚の無いモンスターに対して【隠蔽】を発動させた場合、効果が若干下がるそうだ。
カイと同じく豪快なまでに圧倒的な火力で短期決戦をむねとするフレイは、一切容赦というものをしなかった。
スキルの効果範囲に入った途端、いきなりスキルをぶっ放したのだ。

―剣術系炎属性複合スキル【灰散りの炎】。

斬線をなぞるようにして魔炎が発生し、腐りかけの植物を焼き焦がしていく。
元々アンデッドモンスターの内、「実体をもつものリビングデッド系」は聖属性だけでなく炎属性にも弱い。なら尚更である。
「私はエヴァン殿のような器用な真似はできぬからな。核ごと焼かせてもらう」
よく言えば豪快な、悪く言えば大雑把な戦い方と言えよう。
そんな彼女の何回かの剣撃によって、腐りかけの植物の群も灰燼と帰した。

―右に陣取る【ハイスケルトン・コマンダー】と配下のスケルトンたちが、一斉にカタカタと音を立てて動き出す。
その骨の手に持つ錆びた武器を振り上げ、へと振り下ろそうとする…
が、彼らは武器を振り下ろしきる直前に砕け散った。
飛び込んできた少年‐ライアの【アストラの血の直剣】が放つ青き光芒が宙に残像を残し、古びた骨と壊れかけた鎧を遠慮なく断ち切っていく。
そしてそれ以上の殲滅速度を誇るのが、一陣の死の風‐ヒビキだった。
そもそも敵が認識する前に攻撃し、精確に弱点を狙って攻撃しその命を絶ち切れるという神がかりの敏捷性があるからこその離れ業で、骨の群を殲滅してのける。

「フレイの言った通り、確かに手ごたえはねぇな!」
「…一体何を期待していたんですか」
「いや、イレギュラーがねぇかなと」
「普通はそんなのないでしょう」
「…まあそうだな!」

そんな軽口をたたきながら戦える分、一番余裕があったのはここかもしれない。
周りのスケルトンたちより幾らか装備の質がよく、腕前も高かったはずのコマンダーも2人の刃にかかり、散った。


―戦闘とも呼べないような一方的な殲滅劇が終わった後は特に何も起きず、散発的に襲ってくるモンスターはヒビキの双刀の一閃で斬り倒しながら先へ進んだ。
十数分ほどたった後に階段を見つけ、下へと降りていく。

―神話絵の神々が天から見守り続ける墓から、更に下へと。
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