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4章「哀れな死者たちの世界」
彷徨い人たちの墓 【第6階層】
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―神話絵の神々が見守る第5階層から、第6階層へ。
―《【彷徨い人たちの墓】に入った》
―第5階層とはまたデザインの個性が違う階層である。
壁のくぼみに並ぶ墓碑の間を埋めるように散らばる古びた骸骨の群、壁に配置された光精石の松明は灰色の光を放ち、這う蔦の葉は黒色っぽさを帯びている。
【索敵】や【危機感知】に引っ掛かる反応はと言えば、レイス系を中心にグールやスケルトンなどが見られる。
「彷徨う者たちの墓…か」
「あまりいい印象はしませんね」
「所謂、無縁墓…というものなのだろう」
「もう忘れられてしまっているが……」
不安定にゆらゆらと徘徊するレイスたちを見れば、成程確かに「彷徨い人」に見える。
意味もなく思考を巡らせながら、ヒビキは灰色の光に満たされた薄暗い通路の先を見据えた。
周りを見回しながら、先へと進む。
【魔力探知波】を応用してある程度は自動地図化が済んでいるものの、階段らしきものは見えない。
まあそうなら自分の足で埋めていけばいいとばかりに、その足取りに不安や恐怖などは見られない。
…暫く進んでいくと、少し広めな部屋に出た。
そこを徘徊するのは腐りかけた身体を持つグールとぼんやりした薄い光の塊で構成されたレイスたち。
ただ、その部屋は今までとはまた違う造りをしていた。
所々岩壁が露出し、きらきらと光る何かが窺える。また、部屋の端には銀色の大き目な宝箱まで置かれていた。
「こりゃあまた…………何とも豪勢な」
「鉱床に宝箱ですか……」
「いっそ罠なのではないか?」
「鉱床に罠もなにも無いと思うのだが」
念のためにヒビキが【索敵】を発動してみると、案の定というか、なんというか。
「宝箱、幾つかあるよな」
「そうですが」
「その中の数個、見事にミミックが混じってやがるわ」
「……悪辣だな」
「【索敵】でミミックか否かが分かるのはホントありがてぇわ…」
「宝箱恐怖症でもあるのか?」
「プレイヤーなら一度は経験したことがあるはずですし」
そう言ったエヴァンばかりでなく、ヒビキやフレイの表情も苦い。
…宝箱に潜み、無防備に蓋を開けた冒険者を襲うモンスター、ミミック。
【索敵】や【危機察知】、又はそれに類するスキルのどれか1つを高位まで鍛えればミミックか否かを判別できる上にあまり強くはないのだが、とにかく心臓に悪い「びっくり箱モンスター」である。
宝箱があるダンジョンならどこにでも湧き、連続で引き当てたプレイヤーは重度か軽度かは関係なくほとんどの場合宝箱恐怖症にかかってしまうとか。
更に意地悪いことに、ミミック入りの宝箱にもきちんと中身のアイテムなり財宝なりが一緒に入っているのだ。
…ここは意地悪いというかましな点かもしれないが。
「ミミックだけじゃなく、罠でも宝箱はままありますし」
「マジで悪辣だよなー…」
宝箱を見つけたら、罠かもしれないと思っても開けたくなってしまう。プレイヤーの心理を逆手に取った罠である。
代表的なものは「蓋を開けるとけたたましいブザー音が鳴り、周りにいるモンスターを呼び寄せる」罠だが、特に凶悪なものは…
「蓋を開けた瞬間に部屋そのものが即死級の罠に早変わり、とか」
「……凄まじいな」
「…対応できるのか?」
「んー、と」
「これで爆発に巻き込むか、もしくは眠らせてしまうかです」
そう言ったエヴァンがアイテムボックスから取り出したのはコルク栓がされた二つの丸底フラスコ。一方のフラスコには真っ赤な液体が入っており、もう一方にはくすんだ灰色の液体が入っている。
真っ赤な液体が入っている方は【爆裂オイル】、くすんだ灰色の液体が入っている方は【睡眠オイル】という薬に属するアイテムで、【調合】【合成】などのスキルとそれぞれの材料さえあれば作ることができる。ただ、エヴァンは自ら工夫を凝らした結果、彼の作る薬系アイテムの効果は通常より効果が数段上になっている。
「用意がいいな」
「それが自分の取り柄の一つですので」
「じゃ、遠慮なくやってくれ。勿論どちらでもいい」
「では、お言葉に甘えて、行きます」
その言葉が言い切られるかどうかのタイミングで、エヴァンは手にしたフラスコを遠くに放った。
オイルの入ったフラスコは宙を飛び、床に接地するやいなや落ちた衝撃でガシャンと割れ、効果を発揮する。
凄まじい爆発が巻き起こった。
爆風が周囲に広がり、破壊が辺りを嘗め尽くす。
爆発とそれによる影響は数秒で終わったが、結果はこれまた凄まじいモノであった。
純粋な物理的破壊であったため、被害を受けていなかったのはレイスたちのみ。グールもミミックも全て一緒くたに消え去っていた。
「あとはレイスだけですね」
「…中身だけ外に放出してやらぁ」
ミミックが消え去ったことで、中に入っていたアイテムが放出されていた。
ミミック入り宝箱は消滅したが、本物の宝箱は何故か無事である。…モンスターではないから、なのか。ちなみに罠宝箱も、攻撃により消滅することはない。
「自分は鉱石採取してきます」
そう言い残してエヴァンは露出した岩盤の方へと向かっていく。
「フレイ、ライア。レイス討伐は任せてもいいか?」
「私は構わない」
「俺も同じく」
2人は頷くと、早速レイスの方へと向かっていった。
ヒビキ自身はエヴァンと同じく、別の鉱床へと向かう。ヒビキにとっては特に必要がないのだが、レアな鉱石はカイが喜ぶ類の代物だ。ギルドハウスの生成機能も、このゲーム世界に存在する全てのアイテムを網羅しているわけではないのだから。
暫くカンカンとつるはしで叩いていると、ドロップした鉱石の群に混じって奇妙なモノがあった。
「なんだこりゃ、【未鑑定】…………………………」
訝しく思って【鑑定】スキルを発動させて見てみると、予想の斜め上を行く判定結果が得られた。
>鑑定結果
【名称】静寂のマテリアル
【属性】闇
【カテゴリ】(鉱物)
【ランク】SS(超レア)
手にずっしりとした重さを伝えてくるその鉱物は自らの属性を示す濃い紫色の中に、深海の様な濃い青色を煌かせている。
「マテリアル系アイテム…だと」
…マテリアル系アイテムは星夜金属を始めとした色々な混合金属や薬などの材料になる、超レアアイテムである。
存在する場所によって様々に形を変え、鉱床なら鉱物に、草地なら薬草に、水底なら水に、といった具合にその姿は固定されていない。通常のダンジョンでは滅多に見つかることがなく、それ故有用性は非常に高い。
「こちらにもマテリアル鉱物がありましたー!」
喜色を帯びたエヴァンの声が聞こえる。
振り返ってそちらの方を見てみれば、確かに彼の手には大地属性を示す茶色っぽい色の中に赤い煌きを誇示している【洞窟のマテリアル】なる鉱物があった。
―そして暫く採掘作業に精をだし、数十分経過したところでモンスターが狩りつくされて一時的に湧出が枯渇した部屋の中央近くに集まる。
「まさかこんなところにマテリアル系アイテムがあるとは思いもよらなかったな」
「暫くは困らないと思いますー」
「嬉しそうだな」
「うちの魔改造好き鍛冶師にやったら嬉々としてまた武器打ちだすはずだ」
「【白の鍛冶師】か…後日店に伺うことにしようか」
「多分喜ぶと思うぜ」
思いがけぬレアアイテムの宝庫を後にし、4人は先へと進む。
後ろから迫るモンスターはフレイの炎剣の魔炎に焼かれ死に、前から来るモンスターはヒビキの刹那の剣撃によって砕け散った。天井からその姿をのぞかせるレイスはエヴァンの魔矢とライアの魔剣の遠隔攻撃によって塵と化す。
そんな感じで暫くは特にイレギュラーもなく、進んでいく。
…突然、前を歩いていたヒビキが立ち止まって鋭い目で先を見つめる。
「…どうした?」
「この先、罠まみれな上に奥の大部屋に中ボスが待ち構えていやがる。不用意に進むのは危険だ」
【危機察知】には壁、床、天井にまで隠された罠の反応が多数引っ掛かっている。
【索敵】には、罠まみれの通路の奥にある大部屋に中ボスレベルのモンスターが居座っているのが映った。
「…本当ですね」
「罠の種類は分かるのか?」
「軽いヤツだと火炎噴射、弓矢反射とか。酷いヤツだと転移罠や即死攻撃の罠まである」
「転移罠の設定先は間違いなくモンスターハウスか即死部屋の2択でしょうね」
「……私とライア殿は解除などのスキルを持っていないのだが」
「問題ない。俺が全部やる」
そういったヒビキは目を閉じて何事か呟き、右手の五指を不可視のウィンドウを操作するかのように動かす。すると、ガチャガチャガチャガチャ!!!というカラクリが組み変えられる音がそこらじゅうから響いた。
音は十秒ほどすると収まり、音が収まると同時にヒビキは目を開けた。
「…相変わらずの常識はずれですね。あの数を全部解除してしまうなんて」
そう呆れ顔で言ったのはエヴァンである。【危機察知】で罠の反応を確認していたのだが、それが全て無くなったことに対して彼は呆れを呈していた。
「そうか?【魔巧技師】を修めれば誰にでもできる技だぞ?」
きょとんとした様子で訊いてくるヒビキに、今度はフレイが言った。
「私の仲間の1人も【魔巧技師】は修めているのだが、とてもそんな事はできないぞ」
…今ヒビキがやった大規模な罠解除は確かに、【魔巧技師】の職業固有スキル【魔力感応】からの【感応操作】によるもの。ただ、魔導機人族の内包する莫大な魔力と、彼のイメージ力、装備に付与された「闇を従える」能力によってそれがとんでもないレベルまで引き上げられてしまっただけのことだ。
「…では、中ボス対処に移りましょうか」
そう言いだすエヴァンは若干精神的な疲弊が見られる。理由はさっきの大規模罠解除の目撃だと思うが。
「…この先にいるのは死者の集合体だ」
そう言ったのはライアである。
「知っているのか?」
ヒビキが訊くと、ライアは淡々と答えた。
「死体と怨霊と腐った魂の集合だ。純粋なアンデッドモンスターだから、聖なるものと炎に弱い」
「なら、私も役に立てそうだな」
フレイが薄く笑う。すると彼女の傍らにいつの間にか、複数の色の混じった魔炎を纏う狼がそこにいた。
「フロウ、勝手に出てきてはいけないぞ?まあもういいけども」
「ウォン!」
元気な吠え声で答えたその魔炎狼の精霊‐フロウがフレイに頬をすりつける。
「その狼がフレイの契約精霊か」
「その通りだ」
「なら炎で焼けそうだな」
―事前情報を少々だけ携えて、危険が排除された通路へと走り出す。
―かなり広い部屋の中央辺りに鎮座しているのは、見るのも耐え難くなるような醜悪な亡者の集合体。
無数の死体が、無数の怨霊が、無数の腐植物が、ひとつに集まって巨大で歪な髑髏を形作る。
黒い蝕気を纏う醜悪で悍ましい髑髏が侵入者に反応し、その虚ろな眼窩の中に燃える暗赤色の炎が向けられる。
【解析】が映すカーソルの一番上にある記述は、こうだ。
―【混沌の亡者の髑髏 カオシック・レギオン Lv704】
カタカタカタカタ。音を鳴らしながら蝕気の尾を引き、こちらへ向かってこようとする髑髏に4人は容赦のない一斉攻撃を叩きつけた。
―刀術系聖・雷属性複合スキル【白雷閃】。
―弓術系聖・風属性複合スキル【天上からの旋風矢】。
―剣術系聖・炎属性複合スキル【華炎豪断】。
―剣術系聖・光属性複合スキル【浄花の覇斬】。
斬撃に沿って白雷が迸り、髑髏の頭上の虚空から純白の魔矢が大量に降り注ぎ、白い炎と花弁を纏った大ぶりな斬撃が振るわれた。
…あまりにもその髑髏が醜悪で禍々しくて長く見ている気になれなかったからかもしれない。そしてあまりにも容赦のない4人の全力スキル攻撃+2匹の精霊の援護射撃によって、亡者の髑髏は一瞬で瀕死にまで追い込まれた。
「さっさと砕けて消えろッ!」
ヒビキは返す刀で更にもう1回スキルを発動する。
―刀術系戦技スキル【覇断・天撃】。
【覇断】スキルシリーズの中でも純粋な斬撃のダメージを突き詰めたスキルである。
それがトドメとなって、醜悪で歪な髑髏は黒いガラスとなって砕け散った。
その場に落ちるドロップアイテムがシステムによって自動回収され、最寄り位置にいたヒビキのアイテムボックスに収まるのには目もくれず、パーティメンバー‐あくまで一時的なものだが‐の方を振り返って言った。
「さて、このダンジョンも次で今回のお別れだ」
秘境入り口地点では転移の使用が許される。その事実に基づいた言葉。
他の3人は頷くと、歩を再開させて4人は大部屋の奥の階段を下る。
―彷徨う霊たちの墓から、更に下へ。地下牢へと続く階層へ。
―《【彷徨い人たちの墓】に入った》
―第5階層とはまたデザインの個性が違う階層である。
壁のくぼみに並ぶ墓碑の間を埋めるように散らばる古びた骸骨の群、壁に配置された光精石の松明は灰色の光を放ち、這う蔦の葉は黒色っぽさを帯びている。
【索敵】や【危機感知】に引っ掛かる反応はと言えば、レイス系を中心にグールやスケルトンなどが見られる。
「彷徨う者たちの墓…か」
「あまりいい印象はしませんね」
「所謂、無縁墓…というものなのだろう」
「もう忘れられてしまっているが……」
不安定にゆらゆらと徘徊するレイスたちを見れば、成程確かに「彷徨い人」に見える。
意味もなく思考を巡らせながら、ヒビキは灰色の光に満たされた薄暗い通路の先を見据えた。
周りを見回しながら、先へと進む。
【魔力探知波】を応用してある程度は自動地図化が済んでいるものの、階段らしきものは見えない。
まあそうなら自分の足で埋めていけばいいとばかりに、その足取りに不安や恐怖などは見られない。
…暫く進んでいくと、少し広めな部屋に出た。
そこを徘徊するのは腐りかけた身体を持つグールとぼんやりした薄い光の塊で構成されたレイスたち。
ただ、その部屋は今までとはまた違う造りをしていた。
所々岩壁が露出し、きらきらと光る何かが窺える。また、部屋の端には銀色の大き目な宝箱まで置かれていた。
「こりゃあまた…………何とも豪勢な」
「鉱床に宝箱ですか……」
「いっそ罠なのではないか?」
「鉱床に罠もなにも無いと思うのだが」
念のためにヒビキが【索敵】を発動してみると、案の定というか、なんというか。
「宝箱、幾つかあるよな」
「そうですが」
「その中の数個、見事にミミックが混じってやがるわ」
「……悪辣だな」
「【索敵】でミミックか否かが分かるのはホントありがてぇわ…」
「宝箱恐怖症でもあるのか?」
「プレイヤーなら一度は経験したことがあるはずですし」
そう言ったエヴァンばかりでなく、ヒビキやフレイの表情も苦い。
…宝箱に潜み、無防備に蓋を開けた冒険者を襲うモンスター、ミミック。
【索敵】や【危機察知】、又はそれに類するスキルのどれか1つを高位まで鍛えればミミックか否かを判別できる上にあまり強くはないのだが、とにかく心臓に悪い「びっくり箱モンスター」である。
宝箱があるダンジョンならどこにでも湧き、連続で引き当てたプレイヤーは重度か軽度かは関係なくほとんどの場合宝箱恐怖症にかかってしまうとか。
更に意地悪いことに、ミミック入りの宝箱にもきちんと中身のアイテムなり財宝なりが一緒に入っているのだ。
…ここは意地悪いというかましな点かもしれないが。
「ミミックだけじゃなく、罠でも宝箱はままありますし」
「マジで悪辣だよなー…」
宝箱を見つけたら、罠かもしれないと思っても開けたくなってしまう。プレイヤーの心理を逆手に取った罠である。
代表的なものは「蓋を開けるとけたたましいブザー音が鳴り、周りにいるモンスターを呼び寄せる」罠だが、特に凶悪なものは…
「蓋を開けた瞬間に部屋そのものが即死級の罠に早変わり、とか」
「……凄まじいな」
「…対応できるのか?」
「んー、と」
「これで爆発に巻き込むか、もしくは眠らせてしまうかです」
そう言ったエヴァンがアイテムボックスから取り出したのはコルク栓がされた二つの丸底フラスコ。一方のフラスコには真っ赤な液体が入っており、もう一方にはくすんだ灰色の液体が入っている。
真っ赤な液体が入っている方は【爆裂オイル】、くすんだ灰色の液体が入っている方は【睡眠オイル】という薬に属するアイテムで、【調合】【合成】などのスキルとそれぞれの材料さえあれば作ることができる。ただ、エヴァンは自ら工夫を凝らした結果、彼の作る薬系アイテムの効果は通常より効果が数段上になっている。
「用意がいいな」
「それが自分の取り柄の一つですので」
「じゃ、遠慮なくやってくれ。勿論どちらでもいい」
「では、お言葉に甘えて、行きます」
その言葉が言い切られるかどうかのタイミングで、エヴァンは手にしたフラスコを遠くに放った。
オイルの入ったフラスコは宙を飛び、床に接地するやいなや落ちた衝撃でガシャンと割れ、効果を発揮する。
凄まじい爆発が巻き起こった。
爆風が周囲に広がり、破壊が辺りを嘗め尽くす。
爆発とそれによる影響は数秒で終わったが、結果はこれまた凄まじいモノであった。
純粋な物理的破壊であったため、被害を受けていなかったのはレイスたちのみ。グールもミミックも全て一緒くたに消え去っていた。
「あとはレイスだけですね」
「…中身だけ外に放出してやらぁ」
ミミックが消え去ったことで、中に入っていたアイテムが放出されていた。
ミミック入り宝箱は消滅したが、本物の宝箱は何故か無事である。…モンスターではないから、なのか。ちなみに罠宝箱も、攻撃により消滅することはない。
「自分は鉱石採取してきます」
そう言い残してエヴァンは露出した岩盤の方へと向かっていく。
「フレイ、ライア。レイス討伐は任せてもいいか?」
「私は構わない」
「俺も同じく」
2人は頷くと、早速レイスの方へと向かっていった。
ヒビキ自身はエヴァンと同じく、別の鉱床へと向かう。ヒビキにとっては特に必要がないのだが、レアな鉱石はカイが喜ぶ類の代物だ。ギルドハウスの生成機能も、このゲーム世界に存在する全てのアイテムを網羅しているわけではないのだから。
暫くカンカンとつるはしで叩いていると、ドロップした鉱石の群に混じって奇妙なモノがあった。
「なんだこりゃ、【未鑑定】…………………………」
訝しく思って【鑑定】スキルを発動させて見てみると、予想の斜め上を行く判定結果が得られた。
>鑑定結果
【名称】静寂のマテリアル
【属性】闇
【カテゴリ】(鉱物)
【ランク】SS(超レア)
手にずっしりとした重さを伝えてくるその鉱物は自らの属性を示す濃い紫色の中に、深海の様な濃い青色を煌かせている。
「マテリアル系アイテム…だと」
…マテリアル系アイテムは星夜金属を始めとした色々な混合金属や薬などの材料になる、超レアアイテムである。
存在する場所によって様々に形を変え、鉱床なら鉱物に、草地なら薬草に、水底なら水に、といった具合にその姿は固定されていない。通常のダンジョンでは滅多に見つかることがなく、それ故有用性は非常に高い。
「こちらにもマテリアル鉱物がありましたー!」
喜色を帯びたエヴァンの声が聞こえる。
振り返ってそちらの方を見てみれば、確かに彼の手には大地属性を示す茶色っぽい色の中に赤い煌きを誇示している【洞窟のマテリアル】なる鉱物があった。
―そして暫く採掘作業に精をだし、数十分経過したところでモンスターが狩りつくされて一時的に湧出が枯渇した部屋の中央近くに集まる。
「まさかこんなところにマテリアル系アイテムがあるとは思いもよらなかったな」
「暫くは困らないと思いますー」
「嬉しそうだな」
「うちの魔改造好き鍛冶師にやったら嬉々としてまた武器打ちだすはずだ」
「【白の鍛冶師】か…後日店に伺うことにしようか」
「多分喜ぶと思うぜ」
思いがけぬレアアイテムの宝庫を後にし、4人は先へと進む。
後ろから迫るモンスターはフレイの炎剣の魔炎に焼かれ死に、前から来るモンスターはヒビキの刹那の剣撃によって砕け散った。天井からその姿をのぞかせるレイスはエヴァンの魔矢とライアの魔剣の遠隔攻撃によって塵と化す。
そんな感じで暫くは特にイレギュラーもなく、進んでいく。
…突然、前を歩いていたヒビキが立ち止まって鋭い目で先を見つめる。
「…どうした?」
「この先、罠まみれな上に奥の大部屋に中ボスが待ち構えていやがる。不用意に進むのは危険だ」
【危機察知】には壁、床、天井にまで隠された罠の反応が多数引っ掛かっている。
【索敵】には、罠まみれの通路の奥にある大部屋に中ボスレベルのモンスターが居座っているのが映った。
「…本当ですね」
「罠の種類は分かるのか?」
「軽いヤツだと火炎噴射、弓矢反射とか。酷いヤツだと転移罠や即死攻撃の罠まである」
「転移罠の設定先は間違いなくモンスターハウスか即死部屋の2択でしょうね」
「……私とライア殿は解除などのスキルを持っていないのだが」
「問題ない。俺が全部やる」
そういったヒビキは目を閉じて何事か呟き、右手の五指を不可視のウィンドウを操作するかのように動かす。すると、ガチャガチャガチャガチャ!!!というカラクリが組み変えられる音がそこらじゅうから響いた。
音は十秒ほどすると収まり、音が収まると同時にヒビキは目を開けた。
「…相変わらずの常識はずれですね。あの数を全部解除してしまうなんて」
そう呆れ顔で言ったのはエヴァンである。【危機察知】で罠の反応を確認していたのだが、それが全て無くなったことに対して彼は呆れを呈していた。
「そうか?【魔巧技師】を修めれば誰にでもできる技だぞ?」
きょとんとした様子で訊いてくるヒビキに、今度はフレイが言った。
「私の仲間の1人も【魔巧技師】は修めているのだが、とてもそんな事はできないぞ」
…今ヒビキがやった大規模な罠解除は確かに、【魔巧技師】の職業固有スキル【魔力感応】からの【感応操作】によるもの。ただ、魔導機人族の内包する莫大な魔力と、彼のイメージ力、装備に付与された「闇を従える」能力によってそれがとんでもないレベルまで引き上げられてしまっただけのことだ。
「…では、中ボス対処に移りましょうか」
そう言いだすエヴァンは若干精神的な疲弊が見られる。理由はさっきの大規模罠解除の目撃だと思うが。
「…この先にいるのは死者の集合体だ」
そう言ったのはライアである。
「知っているのか?」
ヒビキが訊くと、ライアは淡々と答えた。
「死体と怨霊と腐った魂の集合だ。純粋なアンデッドモンスターだから、聖なるものと炎に弱い」
「なら、私も役に立てそうだな」
フレイが薄く笑う。すると彼女の傍らにいつの間にか、複数の色の混じった魔炎を纏う狼がそこにいた。
「フロウ、勝手に出てきてはいけないぞ?まあもういいけども」
「ウォン!」
元気な吠え声で答えたその魔炎狼の精霊‐フロウがフレイに頬をすりつける。
「その狼がフレイの契約精霊か」
「その通りだ」
「なら炎で焼けそうだな」
―事前情報を少々だけ携えて、危険が排除された通路へと走り出す。
―かなり広い部屋の中央辺りに鎮座しているのは、見るのも耐え難くなるような醜悪な亡者の集合体。
無数の死体が、無数の怨霊が、無数の腐植物が、ひとつに集まって巨大で歪な髑髏を形作る。
黒い蝕気を纏う醜悪で悍ましい髑髏が侵入者に反応し、その虚ろな眼窩の中に燃える暗赤色の炎が向けられる。
【解析】が映すカーソルの一番上にある記述は、こうだ。
―【混沌の亡者の髑髏 カオシック・レギオン Lv704】
カタカタカタカタ。音を鳴らしながら蝕気の尾を引き、こちらへ向かってこようとする髑髏に4人は容赦のない一斉攻撃を叩きつけた。
―刀術系聖・雷属性複合スキル【白雷閃】。
―弓術系聖・風属性複合スキル【天上からの旋風矢】。
―剣術系聖・炎属性複合スキル【華炎豪断】。
―剣術系聖・光属性複合スキル【浄花の覇斬】。
斬撃に沿って白雷が迸り、髑髏の頭上の虚空から純白の魔矢が大量に降り注ぎ、白い炎と花弁を纏った大ぶりな斬撃が振るわれた。
…あまりにもその髑髏が醜悪で禍々しくて長く見ている気になれなかったからかもしれない。そしてあまりにも容赦のない4人の全力スキル攻撃+2匹の精霊の援護射撃によって、亡者の髑髏は一瞬で瀕死にまで追い込まれた。
「さっさと砕けて消えろッ!」
ヒビキは返す刀で更にもう1回スキルを発動する。
―刀術系戦技スキル【覇断・天撃】。
【覇断】スキルシリーズの中でも純粋な斬撃のダメージを突き詰めたスキルである。
それがトドメとなって、醜悪で歪な髑髏は黒いガラスとなって砕け散った。
その場に落ちるドロップアイテムがシステムによって自動回収され、最寄り位置にいたヒビキのアイテムボックスに収まるのには目もくれず、パーティメンバー‐あくまで一時的なものだが‐の方を振り返って言った。
「さて、このダンジョンも次で今回のお別れだ」
秘境入り口地点では転移の使用が許される。その事実に基づいた言葉。
他の3人は頷くと、歩を再開させて4人は大部屋の奥の階段を下る。
―彷徨う霊たちの墓から、更に下へ。地下牢へと続く階層へ。
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多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
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自筆です。
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