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5章「忘れ去られた都」
罪の女神の聖殿
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―最深層、第9階層。
この階層にはヒビキとカイも入ったことがない。とはいえ、最奥のボス部屋周辺以外に基本構造的には言うほど違いがある訳ではない。ただ、決して無視できない巨大な建物がこの階層には存在していた。
それは何かというと――精緻なレリーフが各所に施された暗赤色の地下神殿である。
暗赤色の石で構成され、入り口と内部中央のトーチには灰色の炎が燃えている。中には何の気配も無かった。
「……ここだな。間違いようもねぇだろ」
「…ですよね」
『ああ』
柱には蔦が這い、少なからず崩れた箇所も見受けられる。建てられてから相当な年月が経っていることは分かった。
…中央に設置された灰色の炎が燃えるトーチの、さらに奥。これもまた一目で分かる大きさの女神像があり、それは右手にトーチと同じ灰色の炎が燃える松明、左手に「目当ての物」があった。その前には円状の窪みがあり、清水が満ちていた。
「…………………あれ、だな」
「………あれ、ですね」
『……………』
こんなところにある所々が綻びたその黒い表紙の本の見た目をしたそれを見間違うとも思えない。
それを取ろうとヒビキが手を伸ばしかけた時、カイが叫んだ。
「ヒビキ、待ってください、蝕魔の気配がします!!」
言い終わるか終わらないかというタイミングで、女神像からどす黒い蝕気が勢いよく噴き出してくる。
「うおっ!?」
蝕気は最も近くにいたヒビキも巻き込もうとするが、彼が首から下げている紫色の竜眼晶のペンダントが光を発し蝕気を近寄らせない。その間にヒビキはカイたちがいる位置まで飛び退いた。
『……………………こんなところにもいるのか』
「あまり人が来ることのなくなった神殿って、やつらの大好物の一つですからね」
「さて、階級はどうかな…?」
蝕気の中から1つのカーソルが表示される。
―【レベル3:蝕魔 Lv508】
現れたのは複数の動物を組み合わせたような醜悪なキメラに似た異形だった。
「レベル3か、大した事ねぇな」
「さっさと倒してしまいましょう。僕がやっちゃってもいいですか?」
「おう」
…蝕魔にも大まかな階級が存在する。レベル1~5まで存在し、レベルが高いほど強力で、人型に近くなりまた賢い。レベル5ともなると神獣にも劣らない脅威度になる。
が、この場合は3人の敵ではなかった。
「さてと、出てきたばかりで何だが、覚悟はいいな?」
獣の如き攻撃的な笑みを見せるヒビキ。その体からは目視できそうなほど濃い殺意と覇気が迸っているように見え、蝕魔が一瞬威圧に怯んだか後退した。そんな隙なぞ彼の思う壺だ。
―剣術系聖属性複合スキル【破魔の断撃】。
対蝕魔戦闘時によく使われる攻撃スキルの1つである。
Lv500程度では、彼の重い剣閃に耐えられるはずがない。蝕魔は相当強力な個体でない限り倒しても特に旨みがある訳ではないので、倒したものにそれ以上3人が興味を向けることはなかった。
―蝕気とその発生源が消え去っても、神殿の中は特に変わった様子はない。罪の女神ベルニカの像は瑠璃色の石が嵌められた双眸で来訪者を静かに迎え入れている。ヒビキが再び近づき、その宝石の目をじっと見返す。
…その状態のまま暫く経った。
突然女神像の左手に握られた「罪人の管理簿」が淡い光を発し始めたかと思うと、左手からふわりと落ちてきた。
ヒビキが慌ててキャッチする。が、その顔は困惑の表情だ。
「…どういうことだ?」
「持っていけ、ということなんじゃないんでしょうか」
「そんな軽いモンなんかねぇ」
「ま、持って行っていいというのなら持って行かせてもらえばいいじゃないですか。どうせ悪用するつもりなんて僕たちには塵一粒分ほどもありませんし」
「ならそうするか」
カイの意見に納得した様子のヒビキが、いつの間にか隣からいなくなっていたスコールの姿を探して周りを見渡すと、彼は神殿の壁に描かれたとある壁画の前にいた。
「どうしたんだ?」
『………………』
彼は無言で壁画を指差す。
蝕魔神と配下の蝕魔たちがとある国に侵攻した時の軍団とそれを迎え撃つ人族の軍、数柱の神々との戦いの場面を描いたものであるということが絵そのものと所々に差し込まれた文章で分かった。
そしてその前にはある意味神殿などにあってはならないはずのものの山が出来ていた。
…つまり、各種毒薬や蝕気を発生させる道具、その他危険な魔法薬や魔道具とそれらの説明書きの山である。
「………………うわぁ……」
「…右に同じです…」
スコールが見ているのはある幾つかの魔法薬とそれに添えられた説明書きだ。
説明書きの一番上にはそれらの魔法薬の名前が書かれてあると推測できるのだが…その文字が今の彼らの習得範囲外の難読文字だった。
…
―この世界で使われているメインの言語は公用語と言われ(当然日本語)、NPCも全員公用語を話す。
だが文書に書かれる文字は日本語の他に幾つかこの世界特有の文字が存在しており、プレイヤーがそれらを解読するにはそれに対応するスキルを習得していなければならない。ちなみに習得の難易度はその文字がどれだけ普及しているかで決まる。勿論通常は日本語が使われており、特有の文字が出てくるのは図書館に所蔵された古代の魔術書や文献などが主である。
…この説明書きの文字は十中八九【罪の都】にいた人々が扱っていたはずであり、故に少なくとも今のこの世界で使われているところをほとんど見たことが無い。
「……読めねぇ」
「…僕もです」
『……………』
2人がそういうとスコールはその説明書きと同じ位の大きさの紙を取り出し、翻訳した内容をそっくりそのまま書き始めた。翻訳は数分で終わり、差し出された紙を受け取ったヒビキが絶句する。
それを覗き込んだカイも表情を硬くした。
>呪術薬について
・相手に服用させれば《呪い》系統の各種状態異常を付与させることができる。
・対応する解毒薬が無ければこれによる状態異常は万能薬であっても解除はできない。
・同じ相手に2回以上使うことはできない。
・解毒薬の製法は口伝される。
………
続きには目録のようなことが書かれてあった。
ほぼ即答でヒビキが答えを返す。
「…焼いておこうぜ、こんなロクでもねぇモン」
「賛成です」
『…………何故こんな場所にあったんだろうな』
不快感に身を滾らせるヒビキとカイとは逆にスコールの双眸からは一切の感情が抜け落ちていた。
カイが火をつけ、ヒビキが毒素を風で吹き散らす。そうやって処理された後はガラスの残骸しか残らなかった。
「はぁ……目的のものは手に入れましたし、帰りましょう」
「話はそれからにしようぜ」
『ああ』
呪術薬とやらの所為でどうしようもなく重くなってしまった空気を切り替えるべく、3人は帰還を選択する。
忘れ去られた都には、古代の暗い闇も共に眠っていた。が。それの一部は無へと還ったことになる。
この階層にはヒビキとカイも入ったことがない。とはいえ、最奥のボス部屋周辺以外に基本構造的には言うほど違いがある訳ではない。ただ、決して無視できない巨大な建物がこの階層には存在していた。
それは何かというと――精緻なレリーフが各所に施された暗赤色の地下神殿である。
暗赤色の石で構成され、入り口と内部中央のトーチには灰色の炎が燃えている。中には何の気配も無かった。
「……ここだな。間違いようもねぇだろ」
「…ですよね」
『ああ』
柱には蔦が這い、少なからず崩れた箇所も見受けられる。建てられてから相当な年月が経っていることは分かった。
…中央に設置された灰色の炎が燃えるトーチの、さらに奥。これもまた一目で分かる大きさの女神像があり、それは右手にトーチと同じ灰色の炎が燃える松明、左手に「目当ての物」があった。その前には円状の窪みがあり、清水が満ちていた。
「…………………あれ、だな」
「………あれ、ですね」
『……………』
こんなところにある所々が綻びたその黒い表紙の本の見た目をしたそれを見間違うとも思えない。
それを取ろうとヒビキが手を伸ばしかけた時、カイが叫んだ。
「ヒビキ、待ってください、蝕魔の気配がします!!」
言い終わるか終わらないかというタイミングで、女神像からどす黒い蝕気が勢いよく噴き出してくる。
「うおっ!?」
蝕気は最も近くにいたヒビキも巻き込もうとするが、彼が首から下げている紫色の竜眼晶のペンダントが光を発し蝕気を近寄らせない。その間にヒビキはカイたちがいる位置まで飛び退いた。
『……………………こんなところにもいるのか』
「あまり人が来ることのなくなった神殿って、やつらの大好物の一つですからね」
「さて、階級はどうかな…?」
蝕気の中から1つのカーソルが表示される。
―【レベル3:蝕魔 Lv508】
現れたのは複数の動物を組み合わせたような醜悪なキメラに似た異形だった。
「レベル3か、大した事ねぇな」
「さっさと倒してしまいましょう。僕がやっちゃってもいいですか?」
「おう」
…蝕魔にも大まかな階級が存在する。レベル1~5まで存在し、レベルが高いほど強力で、人型に近くなりまた賢い。レベル5ともなると神獣にも劣らない脅威度になる。
が、この場合は3人の敵ではなかった。
「さてと、出てきたばかりで何だが、覚悟はいいな?」
獣の如き攻撃的な笑みを見せるヒビキ。その体からは目視できそうなほど濃い殺意と覇気が迸っているように見え、蝕魔が一瞬威圧に怯んだか後退した。そんな隙なぞ彼の思う壺だ。
―剣術系聖属性複合スキル【破魔の断撃】。
対蝕魔戦闘時によく使われる攻撃スキルの1つである。
Lv500程度では、彼の重い剣閃に耐えられるはずがない。蝕魔は相当強力な個体でない限り倒しても特に旨みがある訳ではないので、倒したものにそれ以上3人が興味を向けることはなかった。
―蝕気とその発生源が消え去っても、神殿の中は特に変わった様子はない。罪の女神ベルニカの像は瑠璃色の石が嵌められた双眸で来訪者を静かに迎え入れている。ヒビキが再び近づき、その宝石の目をじっと見返す。
…その状態のまま暫く経った。
突然女神像の左手に握られた「罪人の管理簿」が淡い光を発し始めたかと思うと、左手からふわりと落ちてきた。
ヒビキが慌ててキャッチする。が、その顔は困惑の表情だ。
「…どういうことだ?」
「持っていけ、ということなんじゃないんでしょうか」
「そんな軽いモンなんかねぇ」
「ま、持って行っていいというのなら持って行かせてもらえばいいじゃないですか。どうせ悪用するつもりなんて僕たちには塵一粒分ほどもありませんし」
「ならそうするか」
カイの意見に納得した様子のヒビキが、いつの間にか隣からいなくなっていたスコールの姿を探して周りを見渡すと、彼は神殿の壁に描かれたとある壁画の前にいた。
「どうしたんだ?」
『………………』
彼は無言で壁画を指差す。
蝕魔神と配下の蝕魔たちがとある国に侵攻した時の軍団とそれを迎え撃つ人族の軍、数柱の神々との戦いの場面を描いたものであるということが絵そのものと所々に差し込まれた文章で分かった。
そしてその前にはある意味神殿などにあってはならないはずのものの山が出来ていた。
…つまり、各種毒薬や蝕気を発生させる道具、その他危険な魔法薬や魔道具とそれらの説明書きの山である。
「………………うわぁ……」
「…右に同じです…」
スコールが見ているのはある幾つかの魔法薬とそれに添えられた説明書きだ。
説明書きの一番上にはそれらの魔法薬の名前が書かれてあると推測できるのだが…その文字が今の彼らの習得範囲外の難読文字だった。
…
―この世界で使われているメインの言語は公用語と言われ(当然日本語)、NPCも全員公用語を話す。
だが文書に書かれる文字は日本語の他に幾つかこの世界特有の文字が存在しており、プレイヤーがそれらを解読するにはそれに対応するスキルを習得していなければならない。ちなみに習得の難易度はその文字がどれだけ普及しているかで決まる。勿論通常は日本語が使われており、特有の文字が出てくるのは図書館に所蔵された古代の魔術書や文献などが主である。
…この説明書きの文字は十中八九【罪の都】にいた人々が扱っていたはずであり、故に少なくとも今のこの世界で使われているところをほとんど見たことが無い。
「……読めねぇ」
「…僕もです」
『……………』
2人がそういうとスコールはその説明書きと同じ位の大きさの紙を取り出し、翻訳した内容をそっくりそのまま書き始めた。翻訳は数分で終わり、差し出された紙を受け取ったヒビキが絶句する。
それを覗き込んだカイも表情を硬くした。
>呪術薬について
・相手に服用させれば《呪い》系統の各種状態異常を付与させることができる。
・対応する解毒薬が無ければこれによる状態異常は万能薬であっても解除はできない。
・同じ相手に2回以上使うことはできない。
・解毒薬の製法は口伝される。
………
続きには目録のようなことが書かれてあった。
ほぼ即答でヒビキが答えを返す。
「…焼いておこうぜ、こんなロクでもねぇモン」
「賛成です」
『…………何故こんな場所にあったんだろうな』
不快感に身を滾らせるヒビキとカイとは逆にスコールの双眸からは一切の感情が抜け落ちていた。
カイが火をつけ、ヒビキが毒素を風で吹き散らす。そうやって処理された後はガラスの残骸しか残らなかった。
「はぁ……目的のものは手に入れましたし、帰りましょう」
「話はそれからにしようぜ」
『ああ』
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