最強者のVRMMO活動記 ~トラブルに愛されるとあるプレイヤーのトラブルシューティング記~

火の無い灰

文字の大きさ
65 / 120
9章「開かれた外交、狂気の戦場」

海の底の都

しおりを挟む
―――

意識が急速に浮上する。何か夢を見ていた気がするが、途中から記憶がぷっつり途切れている。精神の虚が満たされたような、そんな感覚がある。



〔あなたは管理者/暗月神の見る悪夢を消滅させました。
【******】が規定量上昇し、更に闇属性・深淵属性に関わる魔法・魔導具などを扱う際にMPコストが40%カットされます〕

「…………?」

先ほどまで見ていた世界が恐らく暗月神の悪夢の世界なのだろう。それはわかる。だが******とか管理者とかは訳が分からない。まあ分からないことを考えていても仕方がないので、取り合えず恩恵があることは理解する。
身を起こすと、隣にはスコールが既に起きていてごそごそと自分のベルトポーチ(【無限収納インベントリ】の装備スキル付与)の中身の整理をしていた。

『お、起きたか』
「ああ、というかここどこだ?」
『どうやら俺たちは、海民族ウェンティの街に飛ばされてきたようだ』
「へー、って海の底かよここ!?」
『そういうことらしい。全くあの黒い穴、何だったんだ…?』

スコールが首を傾げる。そういえば、と思って右手を見ると、まだ眼晶がそこにあった。

「これも何なんだろうな」

ヒビキもそろって首を傾げる。とその問いになってない問いに答える声があった。

「それは獣を狩る者たちの一部が呑まれた悪夢世界ゆかりの魔導具ですよ」

現れたのはアラビアっぽいデザインの衣装に身を包んだ海民族の男女。答えたのはその女性の方だった。

「悪夢…というかここは?」
「背徳と邪の廃都ルルイエに最も近い海底都市、アカシアです。あなた方、ルルイエ近くに突然開いた黒い大穴から吐き出されるようにして出てきたんですよ。ただの人族なら海水とルルイエの邪気の両方でとっくに溺れ死んでいたはずですが……何者なんですか?」
「地上の冒険者だ……今回のことは本当に予想外だったんだ、申し訳なかった」
「いえいえ、こちらも面白いものを見させていただいたので気になさらず」
「そんな面白いものなんて見せた覚えはないが…」
「一部の者を除いて滅多に地上に出ることはないので、噂程度にしか聞いたことがないのですよ。そちらのあなたは血晶精霊で、あなたは魔導機人カーディナルでしょう?」
「…………やっぱバレてたか。それで、悪夢というのは?」

何も隠蔽工作などをしてないので、まああっさりこうなるだろうなとは思った。

「…………少し長くなるのですが、いいですか?」

ヒビキが頷き、スコールも了承した後その男性の方が語り始める。


***


――狩る者と獣の起源は、ルルイエがまだ滅びていなかった神代の少し後にまで遡る。
ルルイエとはまた違う体系の、ヤーナムと呼ばれた古代国エクスマキナの文明の一部を受け継ぐ都市があった。
その都市に住む者たちは神や上位者が持つ力と不老に憧れ、その時最も力を持っていた上位種族(これは5種族から派生する上位種族とはまた違う存在だそう)の血を自らの身体に入れることでその種族の宿す力と不老性を得ようとした。

が、その異物の血に対する身体の防衛本能か獣と化す病が都市で蔓延。一度罹れば治しようがなく、人々は次々に異形の獣となり果てていった。

しかし、稀にその血に適合する者が現れた。彼らは理性なき獣となり果てた人々にせめて楽に逝けるよう引導を渡そうと、獣を狩る狩人となり、やがて彼らに目をつけた上位種族のうちの一体がヤーナム全体を悪夢の世界に隔離し、自らの目的に利用しようとした。実際に最初の狩人がその上位種族の悪夢に囚われ、獣狩りを見張る役となった。
今も狩人の悪夢は人々が探知できないだけでどこかで続いているのだろう。

狩人の中には役目を果たし、最初の狩人の介錯を受け悪夢で死亡し夢から目覚める者、
数人ではあったが、監督役の狩人の遺志を継ぎ獣狩りの監督役となった者、
そして、あるアイテムの力により上位種族の幼体に生まれ変わった者などもいた。

狩人たちは人族から変質した特殊な種族であり、故に人族以外の他種族が狩人になることはない。
血の力を宿すためか皆鮮血の如き赤の瞳と、不老性と半不死性を併せ持っている。
それと、血を操る力と銃器と刀剣を高次元な領域で扱うだけの技量も。
そして戦いの時にその瞳はより紅く輝くという。

その魂と血脈は非常に少ないながらも現在まで繋がっており、狩人としてこちらの世界で目覚めた血脈を継ぐ者は凄まじい血の力を宿しているが、短命で散ったという。
それも寿命やなんだという話だけでなく事故死、戦死、挙句の果てにはその血を狙われた賊に殺されたなんていう結末を辿った者もいるとか。後の世に狩人の血は不老不死の薬になるとかいう俗信が流れた影響だろうと男性は語る。


***


「不老不死の薬…ねぇ。ミイラみたいなもんかね」

昔、ミイラは万能薬になるという俗信が元で、エジプトの数々の墓が盗掘被害に遭ったりしたという。そういやエジプトの王の墓って、有名どころはほぼ軒並み盗掘に遭った後の状態が今に残っているそう。少年王の墓はあれ、盗掘に遭った後にすぐ気づかれて再封印が施されたからこそあんなに副葬品が残っているわけで。
…やや逸れた思考を慌てて元に引き戻し、耳を傾ける。

「結局のところ、俗信は俗信でしたが。…上位種族の血を取り込んだ結果と、ほぼ変わらなかったそうです」
「ふーん……で、この眼晶は結局何なんだ?」
「血に酔った狩人の瞳……といえばいいでしょうか。血に酔い正気を失い、悪夢に飲み込まれた彼らの一部の者たちの瞳です。所有している者をたまに様々な悪夢の世界へ呼ぶといいます」
「なるほどなあ……ってたまにかよ」

ヒビキはそのまま一人で思考の海に沈んでいく。それを横目で見ていたスコールが仕舞ってあった魔導具で筆談を始める。音声チャットは戦闘可能なNPCの一部とプレイヤーの間でしかつながらず、一般の住民に向けてはスコールは筆談でないと意思疎通が取れない。

『…………そういえば、俺の隣の…ヒビキっていうんだが、もしかしたらなのか?』

いきなり筆談が始まったので若干相手は面食らった表情を見せたが、暫くすると立ち直った。

「……………それは私たちより詳しい者がいます。後で場所をお教えしますね」

そういうなり、口を閉じてしまった。

教えてもらった場所へ向かいがてら、海民族の街というものを軽く見て回る。
地上の海上にあるシーディーネの街も独特だったのだが、この街をシャボン玉のような膜がすっぽり覆い、全体的に氷で出来ているかのような青系統の色の建築素材で造られていた。
周囲の水路や泉に流れる清水から放たれる、ひんやりとした冷気が満ちている。

特徴的な幾何学模様と雪の結晶のような模様が組み合わされたデザインは精緻で、一種の芸術品のような雰囲気を醸し出している。

歩を進めるたびにカンカンと硬質な音が鳴り、その音に周囲の水が流れる音が重なる。
教えられた場所に向かうと、周りの家より少し大きめの家があった。扉をコンコンと2回ノックすると、すぐ反応があり扉がゆっくりと開いていく。

…中は図書館のように、壁は本がぎっちり詰まった本棚で埋め尽くされており中央の台に占いなどで使いそうな水晶玉があった。そしてその台のそばにアラビアンチックな紫基調の衣装(丁度アリスの装備と似たようなデザインだった)を纏った女性が立っていた。勿論当然のごとく海民族ウェンティだが、女性はその上位種の上位海民族ハイ・ウェンティという種族だった。

「…………ようこそ。お話は伺っております」

落ち着いた声が聞こえる。

『……ヒビキ』
『ああ。ここ、妙な感じだな』

自分の語彙力では形容し難いが、満ちる魔力が少しばかり異質なのが感じられる。そこに警戒しつつ、女性の方に目を向けた。
占い師の格好をした女性はヒビキに向けてそのまま話し出す。

「まず、あなたは魔導機人族じしんのしゅぞくに関して、どれだけ知っていますか?」

この質問には正直答えに窮する。なんせ今までヒビキが読み漁ってきた古文書の中の魔導機人に関する記述自体がとても少なく、どれも似たり寄ったりだったのだ。それでも答えないというわけにはいかないので、知っていることはすべて話す。

「…………わかりました。やはり悪用されないために封じられていたせいで、記録が少ないのですね……これから話すのは、魔導機人族カーディナルの起源となった国と人物、そしてそれに関係する神々についてです」
そういって彼女は椅子を勧めてくる。長くなりそうなので用意された椅子に2人は座り、話を聞くことにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ミックスブラッドオンライン・リメイク

マルルン
ファンタジー
 ある日、幼馴染の琴音に『大学進学資金』の獲得にと勧められたのは、何と懸賞金付きのVRMMOの限定サーバへの参加だった。名前は『ミックスブラッドオンライン』と言って、混血がテーマの一風変わったシステムのゲームらしい。賞金の額は3億円と破格だが、ゲーム内には癖の強い振るい落としイベント&エリアが満載らしい。  たかがゲームにそんな賞金を懸ける新社長も変わっているが、俺の目的はどちらかと言えば沸点の低い幼馴染のご機嫌取り。そんな俺たちを待ち構えるのは、架空世界で巻き起こる破天荒な冒険の数々だった――。

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します

miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。 そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。 軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。 誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。 毎日22時投稿します。

スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~

榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。 彼はその日から探索者――シーカーを目指した。 そして遂に訪れた覚醒の日。 「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」 スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。 「幸運の強化って……」 幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。 そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。 そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。 だが彼は知らない。 ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。 しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。 これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

処理中です...