最強者のVRMMO活動記 ~トラブルに愛されるとあるプレイヤーのトラブルシューティング記~

火の無い灰

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9章「開かれた外交、狂気の戦場」

或る狩人と銀騎士の夢

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――――ヒビキは一人で、大きく開けたどこかの高層建築の広場に立っていた。薄橙の陽光に照らされる眼下の石造りの大きく広い街は、実に精緻で美しく、ため息が出そうになる。

ずきずきと脳が激しい痛みを訴えてくる。

とりあえず痛みに耐えつつ、アイテムボックスや装備、スキルを確認する。
アイテムボックスに入っていたのは武器は双銃と弓(にもなるという不思議な)剣、アイテム系は回復の雫石と炎系の最高純度の魔法石に、見たことないアイテムが複数種類だった。スキルは見たこともない…というより今現在のリコード世界には存在しないはずの戦技スキルと炎・風・血属性魔法スキル、探索系スキル以外封印されている。

あてもなく歩いてみるが、人の気配はない。

しかし、街で見たところ最も大きい(おそらく王宮とかそんなところだろう)建物の中に入ろうとしたとき、声が聞こえた。声色からして若い男性、しかも二人いる。
声がする方に向かい、物陰から様子を伺う。

視界の先には、連れ立って歩くいかにも狩人!といった革と金属が適度にあしらわれた服装の男性と、彼より頭一つは背の高い銀の鎧を身に纏った騎士姿の男性がいた。狩人装備の男性の瞳は赤く、騎士姿の男性の顔は兜に隠されて見えない。

「…………この棄てられた国にどんな価値があるというんだい?レド。いい加減お前も完全にこの国を離れたらいいのに。まあ狩人の夢から解放された俺が言うのも何だが」
「そうもいかなくなってな。この国には恩義がある。滅びるその時まで完全には見捨てられぬよ」

そういえばレドと呼ばれた騎士姿の男性と同じ銀の鎧を身に纏った人影がこの街の至る所にいる。剣や斧槍、戦槌など得物は違えど、皆同じ主に仕える騎士らしい。

「しかし、この街を護っていた神様は忌まわしい冒涜の魂喰らいに喰われちまったんだろ?ということは」
「言うなラウル。それは分かっている。異端と呼ばれた我でも、受けた恩は返さなくてはならぬ」

銀騎士が、やや憤慨した様子で言う。狩人の方は「すまん」と素直に謝った。

【隠蔽】を発動したまま息を殺して物陰から見ていたヒビキは、首を傾げる。何をやればいいのか、わからないのだ。そんなヒビキの脳裏に、激しいノイズのかかった幻像が瞬く。



冷気と氷に侵食された凍てついた街。
正気を失い、魂喰らいの忠実な操り人形に成り果てた亡者の銀騎士たち。
何より、目の前には今視界の先で連れ立って歩く二人の血に塗れ。嬲り殺さ、れた遺体の虚ろ、な瞳、が……


怒り。
後悔。
狂気。


貌の見え無い誰かが涙を流し、叫び声をあげる。

許せない、赦せない、ユルセナイ。

その誰かは泣いていた。

やけに鮮明で現実味を帯びた幻像は数秒ほどしかなかったが、思わず叫び声をあげかけて慌てて右手で口を抑える。いけない、それは、と言う声が頭の中に微かに響く。

今のは、このまま自分が介入しなければ自然の流れで近々そうなるという未来、か?目を見開き、胸中に過ったおぞましさの恐怖を理性で抑え込む。


頭が痛い。痛みで思考が阻害され、視界がぶれる。

「で、これからどこに行くんだ?」
「篝火の方だ。もういつ来てもおかしくはないゆえ、準備しておかなければならない」
「そうか。じゃ俺も一緒に行くわ」

先ほどから暖かな火の気配を感じる。そちらの方に行くのだろう。

とりあえずその近くまで足音忍ばせ移動し、【隠蔽】は解いておく。外の壁に寄りかかり、肩で息をしながら座り込んだ。実は先ほど幻像が瞬いた後から、断続的に眩暈に襲われているのだった。誰かが早く早くと急かしているような気がする。

視界がたまにぐらぐらと激しくブレる中、集中を保ち続けるのは非常に疲れる。故にこの有様だ。

暫く経った後、不意に声をかけられた。

「おい、大丈夫か?」
「…………む?ラウル、どうした?」

脳が揺さぶられるような眩む意識に何とか抵抗して瞼を開けると、声色からも分かったことだが、狩人と銀騎士の二人がこちらを覗き込んでいた。

「ああ、何とか…」
「お?もしかしてお前、狩人か?」
「ほう?ラウルの同族か。見たところ具合が悪いようだな。これを置いていくから、使うといい」

そう言い残すと、銀騎士の彼は再び篝火の部屋に入っていった。
後には狩人ラウルとヒビキだけが残される。

銀騎士レドの置いて行った黄金の鎖付き小瓶の中身を、何とか呷る。
すると、眩暈が嘘のように引いていった。
鮮明になった視界には、狩人ラウルの得意げな顔が映る。

「その霊薬、すげぇだろ?俺の友人は本当に色々すげぇんだぜ!」

ヒビキの顔立ちは野性味を帯びた鋭い刃を思わせる端正な顔だが、狩人ラウルは精悍さを帯びたヒビキとはやや毛色の異なる雰囲気を醸し出す顔立ちだった。

その後銀騎士レドが戻ってくるまで、同じ狩人の血を宿す同族には仲間意識の強い彼は色々な事を話してくれた。暗月神に固い忠誠心を持つ彼ら銀騎士たちのことや、狩人の夢でのこと。

……無論まもなく襲撃してくるであろう、《沈黙の谷》のことも。なにより頭に残ったのは、《沈黙の谷》の主たる王はあくまで分体のようなものであり本体が別にいるということだった。

「この国に残る我ら銀騎士、命果てるまで戦うつもりだが奴らは強い。油断はならぬな」
「分かってるって。死んだらお終い。どうせ元は狩人の夢で尽きていたはずの命、お前の行く道に付き合うためなら惜しくはねぇよ」

戻ってきた銀騎士レドと言い合う狩人ラウル。どことなくこの二人、悪友かその系統っぽい感じがする。

「……この小瓶は返す。本当に助かった」
「役に立てたなら何よりだ。どうせ時間がたてば中身は戻るからな」

聞いた話、黄金の鎖付き小瓶(中央に赤い宝玉が嵌っている)の中身は吹溜まるある土地の入り口に生える樹に生る林檎から作られた秘薬らしい。即死さえしていなければどんな傷や病でも瞬く間に治すとか。

で、彼は他の回復手段も持っていると。

銀騎士レドは馬鹿でかい大槌を肩に担いでいるため、普通の人々が思い浮かべる騎士像とは少しばかりかけ離れている。その後暫く、篝火の傍で《沈黙の谷》の軍勢について教えてもらった。

暗月神が魂喰らいに喰われる前まではこの国の境界に《沈黙の谷》に属する侵入者を弱体化させる結界が張られ、撃退も容易かったこと、しかし、今はその援助なしで戦わなければならないこと……



――――数十分ほど後、鐘の音が鳴り響く。
奴らの襲撃だ、と銀騎士レドは言い残し、重たそうな鎧を纏った状態でなんでそんなに速度が出るのかと言いたくなるような速さで真っ先に鐘の音が聞こえた方へ走っていった。ヒビキも狩人ラウルと共に後を追う。

眼下には、ぼろぼろのローブと冠を身に着け、炎と闇を纏う双魔剣を引っ提げた王に率いられた冷気を纏う騎士たちが迫ってきている。騎士たちに交じって火を宿す長杖を掲げた魔女も、主教たちもいる。そして、数が多い。

数千はいそうな彼らに対し、国を守る巨人衛士および銀騎士たちの数はおよそ千近く。数が圧倒的に足りてない上、銀騎士たちには支援役がいない。更に怨敵を目の前にしたときのそれの状態の銀騎士たち以上に、冷気を纏う騎士たちの士気は高いようだ。

「…………来たか」
「よし、行くぞ」

二人は仲間の銀騎士たちと一緒に駆けて行ってしまう。……悲壮な雰囲気から感じるに明らかに皆捨て身の覚悟だ。

剣戟の音が聞こえる。
断続的に混じる岩の音は彼の大槌の戦技スキルの音か。
狩人ラウルのものと思しき銃声が響く。

***

頭が痛い。

眩む意識はより激しさを増し、その質を変える。

瞬きの瞬間、瞳の色が赤から深紫へ、纏う魔力が風と闇の入り混じった魔力から月の香りを帯びた純粋な闇の魔力へとすり替わる。

顔立ちは同じヒビキのものなれど、冷たい瞳の奥に燻るのは途轍もない濃度の憎悪の真っ黒い炎だった。喚び出した魔杖を片手に握り、低く高く、ヒビキよりやや高い良く通る声音で唄うように詠唱する。

――――神術魔法・月【断固たる誓約結界・暗き太陽】

神々が自身の領域でのみ発動できる神術魔法【断固たる誓約結界】。結界内にいる誓約者以外の敵対存在を大きく弱体化し(この場合特に《沈黙の谷》に属する敵対存在には効果が大きい)て誓約者を大幅に強化する、強力な魔法である。故に、暗月神が喰われる前までは何度《沈黙の谷》の軍勢が侵入してきても容易く撃退できたのだ。

「おぉ!?」

近くで戦っていた銀騎士レドの視線が街を覆うように展開された青ざめた半透明に揺らめく結界へと向く。他の銀騎士たちも各々、歓喜の声をあげた後に一層奮い立ったかの如く手に持った得物を振るう。

…逆に敵は酷く動揺した様子だった。

戦いはまだ続く。




******

ヒビキの周りにいる闇属性の人々の元ネタが分かった方。貴方から***脳患者の香りがします()
…神々だけが使う魔法スキル、神術魔法。暗月神は死と月の神であり月の魔導師でもあるので、彼の使う一番大規模かつ強力な魔法は神術魔法・です。他の神様たちも各々個性のある神術魔法を扱います。
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