最強者のVRMMO活動記 ~トラブルに愛されるとあるプレイヤーのトラブルシューティング記~

火の無い灰

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9章「開かれた外交、狂気の戦場」

棄てられた神の国の夢

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―――――――

濃密な月の香りを含む闇の魔力が、国を一瞬で覆いつくす。虚ろの月光蝶と血の蝶が優雅に不気味にひらひらと辺りに踊る。

「「うぉぉおおおおおお――…!!」」

先ほどまで悲痛な覚悟を定めていた雰囲気はどこへやら、一転して凄まじい勢いを得る銀騎士&巨人衛士たち。そりゃあ彼らが固い忠誠を誓う暗月神が彼らの前に現れたのだから、奮い立ちもする。姿は違えど、魔力でわかる。


右手に持った魔杖が黄金の大弓に形を変え、月光矢が構えた手に現れる。
怜悧な輝きを宿す紫の瞳は獲物を見定める狩人のそれになり、数秒ほど狙いを定めていたかと思うと撃った。矢は高速で魂喰らいの傍に控えていた法王騎士のうちの1人の心臓部を音もなく撃ち抜く。

「久方ぶりに帰ってきてみれば……危ないところだった」

ひとりごちたその声は、誰にも聞こえない。
記憶の一部分が戻り、彼専用の魔杖(=錫杖)などの武器を喚ぶことができるようになった。ちなみに、少し前から使っていた特殊付与術エンチャントは暗月に属する存在であれば使え、かなり性能がいい。しかしこの弓は今のところここでしか本来の姿を保つことができないようだ。
右脚のほんの極一部分に、蛇のような竜のような鱗が浮き上がる。



そこからは一方的だった。国を護っていた結界が復活し、守護神本人(本神?)が現れたことによる大幅な士気上昇。数が少ないといえど大幅なアドバンテージを得た銀騎士&巨人衛士たちは、目の前の敵をばったばったと薙ぎ倒し始める。
その様子を見下ろす位置にいる暗月神は、魔法や光弓矢で彼らを援護する。

特に凄まじかったのは銀騎士レドの大槌の戦技が呼び出す岩や、狩人ラウルの殺傷力が高い銃撃。特に身軽な狩人ラウルは、アクロバットに飛び回り先読みして銃撃をたりなどもしていた。無論銀騎士レドの振り回す大槌の軸合わせも正確で、一回の振り回しからの叩きつけに数人の敵が巻き込まれている。

数十分、戦いは続いた。
この国を護る騎士たちは元々個々の練度が凄まじく高いため、精神的な支柱さえ戻れば無双の働きを見せる。

しかし、彼らの半分ほどがいつの間にやら各々の得物を特大剣やら大槌やら特大系武器に持ち替え、大盾を構える相手の防御を大盾ごとひっぺがしてから素早く直剣に持ち替え、正確に相手の急所を突く戦い方をしているのには笑った。おそらく銀騎士レドの大槌による豪快な戦い方の影響を多分に受けているのだろうが、アイテムボックスを彼らも持っているからこそああいう無茶な戦いができるのか。
まあ大盾を構える相手以外にはその戦法を使っていなかったから、大丈夫だろう。

撃退に成功した後、銀騎士たちは律儀に元の持ち場に戻っていく。
しかし銀騎士レドと狩人ラウルはそのままこちらへ歩いてくる。顔を合わせるなり今度は跪こうとする銀騎士の彼を手ぶりで制止し、笑みを向ける。

「まさか主様が戻っていらっしゃるとは……」
「何とか、な。この者がここまで力を取り戻していてくれたからこそ、魂宿りに耐えきれたわけだが」
「…なかなか面白れぇことになってんな!」

狩人ラウルだけは純粋に興味と好奇心が出てきているようだ。

「しかし、私はいつまでもここにはおれん。また戻ってくるまでの間の護りは、お前たちに任せるぞ?」
「任せてください」
「俺も付き合うぜ?」

無論暗月神は、レドが各地を放浪してきた異端の銀騎士と呼ばれているのを知っている。しかしそれはこの都市の守護を疎かにしているという意味ではなく、自らの鍛錬と広い世界を知るためであることも知っている。実際、特大剣よりもある意味扱いにくい大槌をうまく扱えるあたりこの都市を護る銀騎士たちの中で彼の技術は最高に近いといっても過言ではない。

この世界での神は不死人全員に最低限の加護は与える。しかし己の誓約者たちにはより一層強い加護を与え、庇護する。例えば神々の物語たる「奇跡」は一定以上の能力がある不死人全員が使えるが、特定の奇跡や加護は誓約を結ばないと与えられない。

また、狩人の夢から解放された、所謂”古狩人”の分類に入る彼も物凄い強さを誇り、彼らだけが使える特殊な魔法やアイテムも存在する。技術の進み具合がリコード世界とズレているので、それに初見で対処するのは難しい。

そういえば途中から参戦していた「岩のような」騎士ハベルも眼下の広場をうろうろして適当な相手を見つけては修練を持ちかけている。彼の持つ武器は古竜の牙をそのまま槌にしたという「大竜牙」で、その重さはレドの槌どころではない。両手で槌を担ぐレドとは違い、ハベルはそれで左手に大盾をも持っている。

凄まじい筋力だ…

暗月神が都市からいなくなっても、結界自体は彼が完全に眠りに陥るまで持続する。暫くは問題ないだろう。

2人が去った後、暗月神はその場から姿を消した。


***【システム異界線:nhy1btj867(真の深淵)】***

また、一対の世界蛇が顔を合わせていた。

――状況はどうだ?

――墓守修道女曰く、力を2,3割制限される代わりに人化の術は俺たちでも覚えられるようだ。

――まあ、そのくらいは仕方あるまい。

――最初に人化の術を習いに行ったときに、”火の封”の不死人の彼に酷く警戒されたよ。まあいきなり出て行った俺も悪いんだけどな。

――…そういえば、異邦人たちの一部がついに不死たちの世界の一部を見たようだが。

――ほぉ?それは興味深いな。そこまで闇に適性のある強者が極一部であれどいるということか。

――そのあたりのさじ加減は監視者たちに任せるとしてだ、が……

念話で話していた最中に、一人の闇霊が唐突に現れる。

――なんだと!?

――どうしたんだ?

――あの銀羽連中のうちの1体が現れたようだ。今俺の眷属たちが相手をしているが決定打が足りないようだから、援護しに行ってくる。

――ああ。私も遠隔で援護できる分は援護してやる。

――ありがたい。なるべく早くいかねばな。

そう言って世界蛇の片方は姿を消した。
残ったもう片方の世界蛇はひとりごちる。

――もうそろそろ私も特異な異邦人の方々に接触してみるべきなのかもしれないな……


***【システム異界線:nuge3y7hmij(冥界)】***



ここはアマナの祭壇を介しリコード世界と接している、死人の魂が集まる冥界。
冥界は主に住む者の違いで2つに分かれている。片方は裁定神の天秤に無罪判定を受けた者や刑期を終えた者が住む冥界の楽園ことエリュシオン。

もう片方は裁定神の天秤に有罪判定を受けた者が刑罰を受ける、塀の無い監獄ことタルタロス。タルタロスは罪の程度でさらに細かく分かれており、死者それぞれの罪の程度に応じた罰が課されている。
その真ん中にある大きな城に似た建物こそが冥府である。

ちなみに罪人がタルタロスから逃げてもすぐに感知され、冥天使たちが捕縛にやってくる。

その冥府の天辺の大きな部屋では、暗月神に「苦労人」認定されている裁定神がいた。周りでは黒い翼をもつ天使が書類なり魔導具なりをもって忙しなくあちこち動いている。裁定神本人も列をなす死者たちの裁定に大忙しだった。

別に裁定自体は死者の生前の行いすべてを記憶している宝石と、自らの片目にも義眼代わりに嵌っている正義の宝石たるアイスクリスタルを天秤の皿の両端に置く
→有罪の場合宝石の方に天秤が傾き、かつアイスクリスタルが罪の程度に応じ紅く染まるためその程度と内容を見極めることで結果を出す(しかし結果が釣り合う場合もある)という極めて単純なことなのだが(要するに現実世界で言うところの古代エジプトの冥界裁判システムに近い)

なんせ死者の数が数だ。

しかも最近送られてくる死者たちには悪党の分類に入る者たちが多分に交じっており、正直刑場の方が追っついていない。暗月に属する神たちの中では裁定神が明らかに一番の「苦労人」だった。

「ふぅ……」

ようやくひと段落ついたところでへとへと状態一歩手前の裁定神が椅子にへたり込む。外見的には18歳ほどの強靭でしなやかな体つきに短めの黒髪、白い義眼と紫の左目そしてやや吊り目という、現実ではちょっといそうにもない姿だ。刃のように鋭くもあるが、味方となる者を護る頼もしい雰囲気をも纏っている。彼の背には白い翼と黒い翼が1枚づつ生えている。

無論彼も専用神器というか専用武器を喚ぶことができるが、場所が場所上滅多にそういうことはない。
そんな彼に、念話がつながった。相手は火の探索者ことフラムトだ。

――いきなりつなげてすまないな。

「ああ、どうしたんだ?」

――いや、銀羽の連中に対する備えと力添えを復讐霊らにも頼みたいから、と思ってな。

「物質界で傲慢を極めに極めたあいつらのことか?それならうちの主に頼めばいいじゃないか」

――そちらはカアスがやっている。頼みたいのは冥界にいる復讐霊たちへ働きかけてほしいということだ。

「そうか。なら俺から一応言うだけ言ってみる」

――ありがたい。こちらも眷属の強化と人化の術を覚えるのに動かねばならないから、今回はこれで失礼する。

「ま、任せておけ。じゃあな」

で、念話が切れた。
裁定神は呟く。

「傲慢と強欲の過ぎた紛い物の天使か。俺の誇りにかけて地獄の奥底に叩き落してやる」

正義と裁判を司る神であるからか、ある意味暗月の眷属たちよりも正義感が強い。早めにやっておこうと、その場から彼らのいる場所へ転移した。


******
決戦は着々と近づいてくる。
今回は異界の存在にも注目を当て始めています。
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