最強者のVRMMO活動記 ~トラブルに愛されるとあるプレイヤーのトラブルシューティング記~

火の無い灰

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10章「狩人たちの見る夢」

月夜と隠された街

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――――意識を取り戻す。案の定というかなんというか、見上げているのは牢の天井。周りにはひたひたと徘徊する、人さらいではない敵の気配が複数。横に視線を向ければクロノもいた。

地下牢の扉に鍵は掛けられておらず、扉を開けて左へ進み階段を登る。さらに階段を登ると、聖堂街の教会とは毛色の違う教会に出た。階段を一番上まで登ると灯りがあったのでつけておく。


≪ログ≫
灯り「地下牢」を解放しました。狩人の夢の「隠された地の墓石」とこの灯りとの転移ができるようになります。


「………………これでまた来るときに殺される必要はなくなったな」
取り合えずここへ来た第一目的は達せられた。一息ついてから、この教会―ヤハグル教会から外の大通りへ出る。周りを見回すと、左側の一番端の門の前にアイテムが落ちているのが見える。右側は下り坂だ。落ちている何かを拾ってみると、それはアイテムではなく《トニトルス》なる鉄球槌の武器だった。


トニトルス

製作者:アーチボルド 種別:ギミック武器
ランク:S+

医療教会の工房で変人として知られた
アーチボルドの手になる独特の「仕掛け武器」

この奇妙な鉄球の槌は、マッチのように擦ることで
黒獣が纏うとされる青い雷光を人工的に再現する

ただし当時の狩人たちには、あまり好まれなかったようだ……


――――だそう。
使うかどうかはわからないが捨てるにも惜しいのでアイテムボックスに放り込み、右側の坂を下る。と今度は《ヤハグルの黒》シリーズの装束が落ちていた。マップ曰く左側の建物内にエレベータが、右側にどこかへ通じる門があるのだが、そのどちらも今は動かせないらしい。仕方ないのでヤハグル教会に戻り、教会正面の出口から左手沿いに回り込んでを開けておく。



――灯り「地下牢」から階段を二つ降り、監獄地帯を歩く。

「……………………」

ヒビキは先ほどから、一旦狩人の夢に戻るかこのまま進むか悩んでいた。何故かというと、このまま進むとこの隠し街ヤハグルの2体いるエリア主の片割れの元へ辿り着き、かつ一度エリア主が待ち構えるフィールドに降りてしまうと撃破まで戻れないからだ。

「?」

うんうん唸って考え込みながら歩いていると、クロノに首を傾げられた。

「ああ、…………このまま行くとエリア主と一戦交えることになるみてぇなんだけど、大丈夫か?一度降りてしまえば戻れねーみたいなんだけどよ」

マップと顔を突き合せながらクロノに問いかける。頷きが返ってきたのでまあ大丈夫なのだろうが、やはり水銀弾の数がギリギリなのが心配なので一度狩人の夢に戻ることにする。特に反対もされず、灯り「地下牢」から狩人の夢に戻った。


≪拾ったアイテム≫
・濃厚な死血【6】
・狂気の死血【7】
・輸血液×6
・水銀弾×10
・カレル「月」
・血石の二欠片
・狩装束「ヤハグルの黒」シリーズ
・狂人の智慧×3
・狂気の死血【8】×2
・雷光ヤスリ×5
・トニトルス
・狩装束「ヤハグルの狩」シリーズ


***

――――家の中、助言者こと車椅子の狩人は机の一つに向かい、己の武器を強化していた。鎖は外されており、部屋の片隅で椅子に座ってカタカタ動く人形の横の棚の上に置かれている。
邪魔するわけにもいかないので、まずは外の使者から水銀弾をまとめて百ほど買う。輸血液もいくらか補充しておいた。そして次はノコギリ武器を追加でそれぞれ1振りずつ買っておく。獣に有効な手段は一つでも多い方がいい。最悪弱点向けてぶん投げるという方法がとれる。
そうして買い物を済ませて、狩人の家に戻った。いつの間にやら車椅子の狩人は工房仕事を終えており、定位置に戻っている。鎖は相変わらず外されていたが、立って移動することはできないようだ。こちらに気づいたか、帽子に隠れた視線が向けられる。
…その後、隠し街ヤハグルのことを話すと代わりにその街の2体のエリア主について教えてもらえた。あと、ついでにと言わんばかりに車椅子の狩人/助言者が旧市街のことについて軽く警告してきた。

「…旧市街はかつて”灰血病”の大流行が起き、今は”獣の病”が流行って焼き棄てられた古い街だ。行ったら分かると思うが、。これだけ伝えておこう。

余計な敵を作らぬのは、常道だからな」

なんの、とは明言しなかったが、確かに狩人内で余計な敵は作りたくない。消耗がその分激しくなるし、気持ち的にもよしみを通じておいて損はない。
とにかく牢獄通路の先にある広場で待ち構えるエリア主だけは倒しておかないと、その”旧市街に居つく狩人”とは話すら通じないと確実な言がきた。正確には広場の先にあるショートカット門からその狩人がいる塔へ行けるらしい。

暫く休んだ後、そのエリア主―「黒獣パール」を倒しに行くことにする。
クロノも異論はないようだった。



隠された地の墓石から灯り「地下牢」へ飛び、牢獄通路を抜ける。通路は暗いが、アイテム《携帯ランタン》のおかげで視界は十分確保済みだ。マップと角突き合わせながら歩いていると、牢獄の一つの壁に大きく穴が開いているのが見えた。その先から広場へ降りる足場が続いている。

「行くぞー?」
「(こくり)」

一度行けばエリア主を倒すか自分たちが倒されるか戻れない。それでもいかないと話が進まないため、2人は牢獄の壁に開いた大穴から足場を通じて広場へ降りていく。一番下の地面に足をつけた瞬間、が咆哮を上げた。

『グォオォォオオ…―ン!』

それは青い雷光を纏い、黒い闇で出来たような四足歩行の真っ黒い獣だった。人の顔に似た頭部の、眼と口の部分はがらんどうで口には鋭い牙が見え隠れしている。体躯はほぼ骨と皮といった体でガリガリなため聖職者の獣や教区長エミーリアと比べると体格的には劣るが、その分俊敏そうだ。
車椅子の狩人/助言者曰く、黒獣パールに毒は効かない上自らが雷を纏っているため雷光もあまり効果がないらしい。逆に神秘属性なら効く。しかし毒メス以外遅効毒・劇毒効果武器など持っていないし、先ほど拾ったトニトルス以外雷光属性もn……まさかトニトルスが近くに落ちていたのは、このことを示唆していたのか…?

ややずれた思考を慌てて戻し、手に持つ武器を構える。

『グルル!』
「!」

黒獣の姿がぶれる。次の瞬間、2人の真後ろにその姿があった。

「……………これは距離を取って戦うとヤバいな」

ヒビキはその自らのスピードを見せつけるような行動を見て覚悟を決める。こういう敏捷特化型を相手取る場合、リコード世界でのヒビキと同じく、距離を取って隙を探しながら持久戦かまそうとするとすぐに詰められて削り殺されるのがオチだ。

「じゃ、行くぞ!」
「!」

曲剣モードの弓剣に炎を纏わせ、思い切って黒獣の腹下へ飛び込む。クロノも聖剣を携え、ついてきた。そしてみるからに細い四肢へ攻撃を集中させる。本音を言えば弱点らしき頭部に攻撃したいのだがこの位置からだと少々高くて狙えない上、相手がよく動くため狙撃も難しい。纏う青雷が見るからに危ないので、後ろ足に数発攻撃を叩き込む→そのまま離脱を繰り返す。その判断は間違っておらず、腹下へ潜り込んでいるとき高確率で放電してきたのだ。幸いギリギリで回避できたが、あのまま長居し続けていたらもろに喰らっていただろう。
他にも黒獣は爪での引っかき、突進からの噛みつき、手での振り払いやジャンプからの叩きつけや噛みつきに手での叩きつけなど、雷光を纏わせた攻撃をしてくる。数回受けきれず、ヒビキの官憲装束やクロノの狩人装束には生々しい裂け傷が刻まれ、そこから血が滲みだしていた。《匂い立つ血の酒》を使おうかとも思ったが、もともとよく動き回る敵相手にあまり隙を作れるとも思えない。

そこから数十分ほど、黒獣の後ろ足を狙ったヒット&アウェイ一撃離脱戦法を繰り返していると唐突にそれは起こった。

『ガウッ!?』

ガクンと黒獣が足を折り、纏う雷光が消えた。

「よし、今なら頭を狙えるな!」

曲剣状態から弓状態に変形させ、がらんどうの眼と口の並ぶ頭目掛けて水銀矢を撃つ。クロノは大胆にも黒獣に飛び乗り、剣に月光を纏わせた状態で頭部に何発も攻撃している。その姿はやや猟奇的に見えなくもない。
青い雷が消えた途端黒獣はいきなり消極的になり、こちらが近寄ると後退るような動きすら見せるようになった。攻めるなら今だが、あまりもたついているとまた青雷が復活しそうだ。

広場のタイルに赤い血が振り撒かれる。それは黒獣のものとも、ヒビキたちのものとも知れない。

『グルルォォオオオ―――ン!!』
―バリバリバリッ!!!
「うおっ!?」
「…!!」

青い雷光が復活した!しかも同時に雷光がかなり広い範囲に拡散し、紙一重で避けきった2人は荒く息をつきながら黒獣を見据える。黒獣のHPも半分を割り込んでいる―が、裏を返せばまだあと半分を削り切らないとこちらの勝ちにはならない。
しかし取る戦法は変わらない。腹下へ潜り、四肢を攻撃してダウンを狙う。ただし今度はヒビキが黒獣の右側斜め後ろに陣取り、弓状態の弓剣を構えて注意を引く。ヒビキの身体は既に傷だらけ血塗れのスプラッタ状態で鈍い痛みが全身を侵しているが、HP自体は一瞬の隙をついて輸血液で回復しながら黒獣のがらんどうの眼を見据え続ける。

「クロノ!お前は今まで通りヒット&アウェイで行け!注意は俺が引き付ける!」
「…………!」

そのまま水銀矢を撃ち続けていると水銀弾の消費が馬鹿にならないので、銃弾と水銀矢の両方に自らのHPを削り取って生成する”血弾”を混ぜる。減ったHPは輸血液とリゲインで補う。注意がクロノに向かないように絶妙のバランスで黒獣に銃撃と狙撃を断続的に加える。



その調子で十数分、ほぼ接近戦オンリーで戦い続けた結果黒獣はついに倒れた。
HP的には全快状態なもののその青い官憲装束は裂け傷血塗れでスプラッタ寸前のヒビキと、ほとんど攻撃の的にはされなかったものの流れ弾よろしく爪撃や叩きつけを数発喰らったクロノ。2人とも肩で荒く息をついており、ヒビキの赤い瞳に宿る光は掠れかけている。それでもこのまま気絶するわけにもいかないので、広場の少し奥に現れた黒カンテラに火をつける。


≪ログ≫
灯り「黒獣の墓地」が解放されました。狩人の夢の「隠された地の墓石」とこの灯りとの転移ができるようになります。


黒獣パールからのドロップアイテムは血の遺志と《雷光の狩人証》。金属の輪の中央に青い雷光を抱く紫の石が配された、風変わりな狩人証である。


雷光の狩人証

医療教会の工房で変人として知られた、アーチボルドの仲間の証。

※水盆の使者に見せると、販売するアイテムのラインナップが追加されます。


――…灯りを解放したとほぼ同時にヒビキは緊張の糸が切れたか、力尽きるようにその場に倒れこんでしまった。





******
このエリア主倒す順番は推奨されていないんですけどね……
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