最強者のVRMMO活動記 ~トラブルに愛されるとあるプレイヤーのトラブルシューティング記~

火の無い灰

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10章「狩人たちの見る夢」

「教区長エミーリア」戦、夕刻から日が暮れる

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―――

不意に目覚める。

「………………」

いつの間にやら眠り込んでいたようだ。眠っている間に何か夢を見た気がしたが、思い出せないし特に気にする必要もないだろう。今日中に教区長を討伐して【旧市街】へ行きたい。いくつか水銀弾を取り出して、矢に変化させておく。矢にした水銀弾は矢筒にまとめて直行。

ついでに拾ったアイテムの中で、白い霧が内側に渦巻く液体の入ったフラスコを取り出して眺めてみる。


感覚麻痺の霧

種別:道具

敵対狩人に投げつけると白霧が発生し、狩人の生きる感覚、それを阻害する。血の城の貴きとある一族の、遺産ともいえる技術で作られたもの。


エリア主にも効くとなれば使わない手はない。

しかし、この世界のアイテムはどれもこれもリコード世界と比べ独特かつ強力なものばかりだ。一つでも持ち帰ればひと騒ぎ起きそうである。特にプレイヤーが。

ちなみに青い官憲装備になっても変わらず装備されたままであった黒い十字架の耳飾りと白い月長石のアンクレットはそのままだ。

「……………………」
「……?」

一瞬何かチリッと首筋に電気が走ったような感覚があったが、あまりに僅かなものだったため気にも留めなかった。

とにかく、灯りから奥へ進み、一番大きな聖堂の扉の前まで来た。
周囲を見回すと、道の脇に何かが落ちておりそれが白く光っている。近寄って読んでみるとどうやら手記で、文面は「助けが必要なら 鐘を鳴らすんだよ」とあった。今まで会った中でこんな口調で話しなおかつ戦える狩人は血族狩りのアルフレート以外にはいない。

「…………………………………………………呼ぶか」

相当考え込んだ後、アイテムボックスに仕舞い込んでいた「狩人呼びの鐘」を鳴らす。カランカランと手持ち鐘ハンドベルの涼やかな鐘の音が鳴ると、白い魔法陣のようなものが一瞬床に現れたかと思えば、その陣が消えたのと同時に灰色基調な装束を纏ったアルフレートが姿を現す。丁寧な仕草で一礼をされたので、見様見真似で同じ礼を返す。

そしておもむろに大扉に両手を押し当て、扉をこじ開け始めた。扉はゴゴゴゴッ…と重い音を立てながら、ゆっくりと開いていく。その奥からは生暖かい不気味な風が吹いてきていた。
…扉が完全に開ききり、エリア主の姿が明らかになる。



―――――「教区長」という肩書と、助言者の「あの女」という言い方からして神父のように”最初は”人の姿なのだろうと思っていた。が、現実目の前にいるのは、白と灰色の体毛と巨躯、鹿のような角を持った獣。かろうじて、首のあたりに見える元の服の袖らしきものや前足の人っぽい手などは人間らしさを残すもののそれはもう明らかに獣と成り果てていた。

『グルルルル…………』

侵入者の気配に気づいたか、白い獣が唸り声をあげる。

『グォオオオォォオオ――ン!』
「来るぞ!」

ヒビキは発火させた曲剣を構え、クロノは同じく発火させた月光の聖剣を光波発射態勢にしている。アルフレートは教会の連装銃を構えていた。背に背負っている見るからに重そうな車輪は、接近戦専門かつ通常の狩人からしたら非常に扱いにくいものらしい。まあそうだろうな、とは思っていた。

***

――戦闘開始から約5分。今まで戦ってきたエリア主とは違い、エミーリアは戦闘開始直後から掴み攻撃(左右)、側面や背後にいれば腕や足を振りまわして攻撃、正面にいれば抱き着き、ひっかき、圧し潰し、ジャンプ攻撃などなど、実に多種多様な攻撃方法をとってくる。

しかし助言者の言通り、炎属性や対獣武器には非常に弱く、簡単に怯んだ。どうしようもなくなれば《匂い立つ血の酒》をぶん投げて一瞬気を引き、その隙に回復するという手が取れる。相手が獣だからこそできる手法だ。

「こいつの後ろ足か頭、腕に攻撃を集中させてください!」
「了解!」

アルフレートが叫ぶ。しかし指定された範囲は結構広い。

炎を纏った曲剣が、月光の聖剣が、強化された連装銃の銃弾が、エミ―リアの左後ろ足に突き刺さる。そうしないうちに、『グルゥ!?』と驚愕の声をあげエミーリアの左後ろ足がガクンと頽れた。ここぞとばかりに内臓攻撃を仕掛けに顔を狙う。特にアルフレートが時たま接近してぶち込む車輪の連撃はかなりダメージと崩し能力ともに高いようで、がりがりとエミーリアのHPが削れていく。

『グルァッ!』

HPが50%を切った。
一声吠えたとたん、大きく飛び退って何か祈りのポーズを取る。そこはかとなく嫌な予感がしたヒビキは、エミーリアのHPが回復しだしているのを確認した瞬間に《感覚麻痺の霧》を思いっきり投擲した。

フラスコは儚い音をたてて割れ、白い霧がぶわっと発生する。エミーリアのHP回復が停止した!しかしそれで黙ってくれるはずもなく、今度は大きくジャンプする。距離を取っていたため3人ともに無事であったが、着地地点から衝撃波が発生した。

……その後、最初の祈りやジャンプからの衝撃波に加えてジャンプからの叩きつけ→引っかき、引っかきからの腕振り回しなど、更に攻撃方法が増え、一番注意を引き付けていたヒビキは流石に《匂い立つ血の酒》を投げる余裕もなくクロノやアルフレートと交互に注意を引きつけながら、生じた隙に回復をしたり息を整える。

「あともう少しです!」
「おう、分かった行くぞ!!」
「!」

ついにエミーリアのHPが10%を割り込んだ。もう既に周囲は誰のものとも知れぬ流された血で塗れ、裂けた肉片や割れた角の欠片などが四散している。3人の集中力ももう限界に近かった。何しろエミーリアはとにかく攻撃手段が多く、気を抜いていると大ダメージを喰らうわ回復されるわで一瞬も油断ができない。

アルフレートが血の煙を噴き出しながら廻る車輪や連装銃の銃撃でダウンを奪い、クロノが内臓攻撃を狙う。ヒビキが弓に変形させた弓剣で目や口内を狙撃し、攻撃精度を下げる。そんな調子で十数分後、ついにエミーリアがどうと倒れた。


≪ログ≫
灯り「大聖堂」が解放されました。狩人の夢の「市街の墓石」とこの灯りとの転移ができるようになります。


ドロップアイテムは血の遺志と金のペンダント。金のペンダントは使うと《黄金の血晶石》に姿を変えるらしい。アイテムを仕舞い込んでから、アルフレートに礼を言う。また助けが必要なら鐘を鳴らして下さい、と言いおいて彼は去っていった。

2人で次はどこにいこうか、と考え始めた瞬間、目の前に何かが瞬いた。ノイズのかかった幻像だ。



地下牢。
そこには大勢の鉈などの大型刃物と大きな麻袋を持った巨躯の男、人さらいがうろついている。そのうちの一体がこちらに鉈を振り上げて―――…飛び散る血と痛みともに視界が真っ暗く閉ざされる。

目覚めた時には牢の中。しかし元の地下牢とは違う場所。
周りの敵を潜り抜け、階段を上った先が―――隠し街、と呼ばれる所在位置不明の街だった。



「…………………………」

やや青ざめた表情で、ヒビキが立ち止まる。直接ではないとはいえ殺されるのは、気持ちのいいものではない。頭上に?マークを浮かべこちらに顔を向けるクロノに、大丈夫だと返してまた歩き始めた。先ほどの幻像には続きがあり、記憶というより未来予知じみた2通りの映像が見えた。このままあの隠し階段を通って旧市街に行った場合、そこに居つく古狩人とは話が通じない。しかし、隠し街側から通っていけば話が通じる。見えたのはそれだけで、他には音声も何も付随していない。

……故に、ヒビキはこれから地下牢へ行くつもりだ。灯りで十分に休んだ後、身を翻し来た道を戻る。無論大聖堂の奥に刻まれていた”あいことば”は確認済みだ。



―――地下牢エリアには確かに多数の大型刃物と大きな麻袋を持った巨漢、人さらいたちが徘徊していた。麻袋も刃物も赤黒い血がこびりついており、それがことさらに恐怖を掻き立てる。わざと隙を晒し武器も構えず、人さらいのうちの一体の前を横切る。

案の定気づいた人さらいが重たい足音を鳴らしながら迫ってきた。無意識に剣を振るいたくなるのを抑え(人さらいを殺してしまうと隠し街に行けなくなるため)狂気に侵された人さらいの赤黒い眼を見据え、て、いると直上からヒュウッと巨大包丁が振り下ろされる。

激しい痛みとともに、大量の血がびしゃりと辺りに飛散する。牢の黒っぽい石の壁に新鮮な血の化粧が施され、弱点判定が発生しHPが一撃で枯渇、視界が闇に閉ざされた。


≪ログ≫
あなたは死亡しました。ただし涙石の加護が発動したため血の遺志は失いません。「人さらい」に殺されたため”隠し街”への移動が発生します。


リコード世界とは違い、この狩人の世界では狩人も敵も死体はそのまま残る。

右の頸部から肩口にかけて無残な傷を刻まれ、その傷から尋常ではないほどの血を流し”死んで”いるヒビキと、それに寄りそうように直後別の人さらいに心臓部を一突きにされ同じように血を流し”死んで”いるクロノの姿があった。彼らを殺した人さらいは、それなりの手つきで遺体を麻袋に入れたかと思うとそれを担ぎ、どこかへ去っていく。
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