最強者のVRMMO活動記 ~トラブルに愛されるとあるプレイヤーのトラブルシューティング記~

火の無い灰

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10章「狩人たちの見る夢」

悪夢の子供たち

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―――――――――

空は蒼褪め、赤い月がぽっかりと浮かんでいる。


それを見つめる暗月神とルクス。2人はビルゲンワースを経由し悪夢の辺境に来ていた。どうやらここに、アメンドーズと呼ばれる上位者がいるらしい。

いたるところに毒沼があり、遠目には高楼のような建物が視認できる。

そして他のエリアからは完全に隔離されており、灯りを使わず元の教室棟に戻ることは不可能だ。

ちなみに2人は禁域の森で手に入れたカレル文字「澄んだ深海」を付けていている。「澄んだ深海」のカレル文字は、遅効毒の耐性を上げる恩恵を持つ文字である。ただ…助言者の狩人が言及していたのだが、ルクスは特に装束を変えることはなかった。

ルクスとアカの纏う装束は一般の医療教会系装束より強化されているとはいえ、発狂耐性が低い。これは医療教会系の装束に総じて言える特徴である。そこを指摘したところ、

「【鎮静剤】いっぱい買ってきたから大丈夫!」

……と笑顔で言われた。ならまあ、大丈夫だろう。現にルクスのベルトホルダーには、コルクで栓がされた古びたラベルが貼られた試験管のようなものに収まる【鎮静剤】が数本ある。

「なぁなぁ、ここ大きな彷徨う悪夢がいっぱいいるって!アカから聞いたことあるぞ!」
「彷徨う悪夢?」
「んーっとな、倒せばわかる!どんどん倒そう!」

なんとも適当な返答をされ、暗月神がやや眉を顰める。丁度頭上から降ってきた小型の彷徨う悪夢がいたので、暗月神はまず彷徨う悪夢の腕振り攻撃に合わせて銃をぶっ放した後に、容赦なく銃槍の槍部分を突きさした。追撃にルクスの振るった、ルドウイークの遺品である月光の聖剣の光波が飛ぶ。

小さな彷徨う悪夢が霧散して数個の【血石の欠片】をドロップするのを横目に、暗月神は今自分たちが立っている場所の下方を見下ろす。ごつごつした岩だらけの荒れた地層が重なる下に、この悪夢の辺境に棲むアメンドーズの寝所が見える。一見飛び降りていけなくもなさそうだが、こんな高さから飛び降りれば確実に落下ダメージでお陀仏だろう。大人しく迂回道を行く。



暗月神が灯りのあった洞窟から出た場所から見て確認できた限りでは、【捨て子の巨人】と呼ばれる枷が付けられた巨人、灰銀色の体色と毛を持つ人獣【ローランの銀獣】、うねうねした銀白色の獣【這いよるもの】。因みに名前はルクスが知っていた。「相棒情報ではないんだな」と言ったら「流石にこれぐらいは知ってるぞ」だそうです。

ルクスが言った通り、彷徨う悪夢はそこらじゅうにいた。中には非常に嫌らしい場所にいたものもあったが、個体のHPはそれほどないどころかルクスたちなら一発か二発で倒せる。ので目についた彷徨う悪夢はその持ち前の逃げ足を発揮される前に銃撃か仕掛け武器の一撃で塵にした。

「ふむ…確かに銀獣と同じぐらいに彷徨う悪夢がいるな」
「だろ?」
「まさかここで火炎瓶と火炎ヤスリが大活躍するとは」

そうであった。

彷徨う悪夢もローランの銀獣も、炎属性が物凄いよく効くのだ。ついでに物理攻撃が非常に効きにくいので好奇心を発揮したルクスが月光の聖剣の光波を当ててみたところ、こちらも同じくらいよく効いた。

「~♪」

教会の聖歌を口ずさみ始めた、何故かいつにもましてご機嫌なルクスを横目に暗月神は油断なく周囲に目を配る。今のところ折り返しなどはあるものの一本道で迷う心配はない。

「……………ほら早速」

向こうの方にアーチ橋の架かった、クレバス状に裂けた谷を見下ろす。谷底には深緑色の沼が広がっており、その所々に【這いよるもの】が佇んでいる。ここは飛び降りても落下で即死はしなさそうだが、危険が大きいし落ちているアイテムをわざわざスルーすることになる。

順当に谷底へ降り、毒沼を足でかきわけ地面を踏みしめつつ先へ進む。這いよるものは今度は刺突系攻撃に関し異様に弱かった。

「そういえばオレ、聞きたいことがあるんだった」
「こんな場所毒沼で唐突に何だ?」
「………………………もしかして”月の魔物”と関わりがあるのか?」

あまりに単刀直入なその質問に、暗月神は言葉に詰まる。

「………………っ」
「……無理に答えなくていいぞ!悪いこときいた」

不意にぴり、と走った頭痛に表情を歪めた暗月神を見て慌てて言い、ややしょんぼりしたルクス。その様子からは子供のような印象を受けるが、彼もまた相応の年月をこの世界で生きた狩人である。印象の方が濃すぎてそれを忘れかけるが。

ベルトポーチから小さなケースに入れた白い丸薬を時折口に運びつつ、谷底を進む。



谷底は程なく終わり、折り返す道を上に上がって小さな橋の上に辿り着く。そこには2人組の狩人が佇んでいた。こちらを認識した瞬間、1人が武器を構えて走ってくる。

「……………………‥あっ」

ルクスの間抜けとも思える声が聞こえる。暗月神の銃撃に加えまず一発は当てようと振った月光の聖剣の光波がクリティカルヒットし、走ってきていた方の狩人が派手に吹っ飛ばされた。しかも小さな橋の上だったので、案の定毒沼の谷に落下。あれでは戻ってこられないだろう。

やっちまった、と言いたげな顔をしているルクスに大丈夫だろう、と返す。もう1人の方は主にルクスが接近戦で倒してしまった。暗月神は相手の攻撃の振りに合わせて銃を撃ったぐらいである。

左の方の壁沿いを見上げると、アイテムが高い場所にあった。そこに続くように通路が伸びているが、通路は途中で途切れている。

「あれぐらいなら問題ないか」
「そうだな!」

助走をつけてジャンプすれば普通にいけた。ちなみに頂上のアイテムは炎ダメージを減らすカレル文字「消えゆく湖
」でした。で、頂上から飛び降りてごつごつした岩場の道を進む。

彷徨う悪夢やローランの銀獣を倒しながら進むと、暫くもしない間に2つの道という選択肢が現れる。

飛び降りて非常に大幅なショートカットをするか。

岩場の下をくぐる抜け道を行って散逸しているであろうアイテムを集めに行くか。

…ほぼ秒で2人は抜け道の方に足を向けた。



岩場に挟まれた狭い抜け道を抜けると、一気に視界が広がる。相変わらずごつごつした岩場と、名前の分からない白い花をつけた草むら。それと…………!?

「……どした?」
「…………走れ」
「お、おう!?」

高い岩場の上にちらりと目を向けた暗月神がルクスの手を引き走り出す。

―――――ドゴォォン!!

数秒後、2人がいた場所に着弾した大岩が炸裂し崩壊する。しかもその大岩はやむことなく断続的に2人の位置を狙って飛んできている。

「なんだなんだ!?」
「あそこだ」

ルクスの手を引きジグザグかつ不規則にルートを変えながら走る暗月神が岩場の山の天辺を視線で示す。巨人らしき影が大岩を掲げて投げようとしている姿が見え、慌ててコースを変える。どさくさに紛れてルクスが近くのアイテムを拾ってきていた。

やっとのことで大岩が飛んでくる地帯を抜け、毒沼を足でかきわけ進む。



――――――
「うおー!」

大岩が飛んでくる地帯を抜けると、長い橋が架かる地点に着いた。その手前にいかにも乗れと言わんばかりに足場からせり出す巨石があり、ルクスが先に乗ると巨石は重みでなのか倒れだし、灯りのある洞窟の近くにあったせり出す石の橋と繋がった。楽しそうなルクスの声がこちらまで響いてくる。

丁度良いので、石の橋を通って一旦灯りの近くで休むことにした。

ZZZ…とすぐ寝始めたルクスを横目に、暗月神はゆっくりと眠りに落ちていく。





―――――――――
月光の聖剣が孕む光と同じ色合いの、暗い光を纏う月。同じ色の星が瞬き、昏い夜空が頭上に広がっている。

「???」

周囲には墓標のように無数の狩り武器の残骸が突き立っている。

見捨てられた娘がすすり泣く声が聞こえる。

聖歌隊の秘密、狩人の始原。

「…………いずれカタをつけるべきだよな」

どうせ殺したって死にはしない。それが聖歌隊が施した秘密の儀の1つ。

しかし、尊敬すべき人々を眷属にしたあいつは殺す。

それが生き残った自分のけじめ。

そんなことをつらつら考えていると、粒子が凝集するように半透明の影が現れる。それは無論と言うか、ルドウイークの幽体であった。

『助けが必要なら、いつでも呼んでくれ』

やや低い声が聞こえる。

「どういうことだ?」
『………………………』

問いに答えはない。しかし、散るように消える寸前、微かに微笑みが見えたような気がした。




――――――――――――
冥界の香りが微かに届く、図書館。赦されなかった美しい魂の実体たる半霊族の出現の兆候。

人の願いは時に奇跡を起こす。仲間の元へ行きたくても行けない「不死鳥」と呼ばれた東の国の駆逐艦、同じくあまりに「帰る」遺志が強すぎて故郷への道を繰り返し飛行し堕ち逝くとある空母の魂の実体。

今まで様々な魂の輝きを見てきた。救いようもないほどに穢れた悪の魂から、非常に極稀であるが一切の穢れを知らない純白の魂。白い魂は天に昇った。穢れた魂は煉獄の底に堕ちた。

深々と冷気と沈黙が降り積もる全知者のための図書館の中を、無言で歩く。壁には精緻な絵画に紛れて、死の近い者や罪人の現在の様子を映す鏡が複数かけられている。

「……………………‥!」

その中の一つが、妙な輝きを一瞬だけ見せた。

「……………………そういえば、告死天使アズライールが空位だったな……」

皆同じように黒い翼を持つ下位冥天使と違い、個人ごとに特殊な姿を持つ上位冥天使。告死天使アズライールは全く翼も光輪も持たない。死に逝く孤独な者の”歴史”を看取り、最期の僅かな時を寄り添う存在である。

深海に棄てられ独り溺れ逝ったの魂を呼び寄せた。
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