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10章「狩人たちの見る夢」
幕間 その頃他のメンバーは・ルキ編
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※今回はルキ編です。
5/7 改稿しました。
******
――――――――
ルキはある街を訪れていた。過去に存在した酒の神の名を戴いた、バッカスと呼ばれる街である。で、そこでルキは街の住民から相談を受けていた。
どうもこの街では1か月ほど前から大地の力が減衰し、名産であるワインの原料である葡萄が育たなくなってしまっているらしい。バッカスの街は最上のワインの生産地であり、殆どの街の収入をワインに頼っている。従って街の周りに広がるのも半分が葡萄畑、一部に林檎など果樹園、そしてもう半分近くの牧場がある。
しかしそれだけではなかった。
「”鑑定士”様に捧げる今年のワインとチーズが造れなくなると非常に困るのです…」
実はバッカスの街は”魔力溜まり”が出来やすく、濃い魔力の暴走によりしょっちゅう異常気象及び魔力由来の異常現象が起きやすい地域だった。無論そんな状態では葡萄なんか育つはずがない。しかしこの街にいた祖先が”鑑定士”もとい”ワイン鑑定士”と呼ぶ存在と契約を結ぶことにより、この辺りに魔力溜まりができることはなくなったとか。
1年に1回、4本のワインと1ブロックのチーズを、8人の住民が楽しくパーティを開いてそれを食べる。他にお肉とかも出されるらしい。
いつの間にかこのパーティはバッカスの街の住民たちにとって参加を夢見るまでの憧れのものになり、皆それのためなら全力で各自の仕事に取り組むとか。お陰でバッカスの街は最高位ワインの産地として名を知らしめるまでになり、他の街からの訪問者が集まり、今ではこの大陸にある街でも有数の富める街になっている。
無論というべきか街の地下には常に一定の環境に保たれた石造りの巨大ワインセラーがある。
「それでオレに、その原因を特定してほしい、と?」
「その通りです。大地に愛された方でなければ、ダメなのです」
「他の奴にも相談しなかったのか?」
「相談はしました。が、皆匙を投げるばかりで…」
街長が困り顔になる。
「やれる限りはやる。”鑑定士”という存在も気になるからな」
「ありがとうございます!どうかお願いします…」
こうやって頭を下げられてはルキとしては何とかしてあげたくなる。取り合えずその葡萄畑に行ってみることにした。
…
――――――――
「………………どうも大地の力が弱まっている…何かに吸われてるような感じがするな」
問題の葡萄畑。確かに葉っぱに緑の瑞々しさが欠けており、実を結び始めている葡萄も妙に小さかった。目を閉じ集中すると、大地の魔力がどこかに流れて行っている感覚が足裏から掴める。その流れに乗って土の栄養分まで一緒に流出してしまっているため、現状このようになるのも頷ける。大地の魔力は土の栄養分を保持する役目も担っていて、有りすぎると問題だが足りないとまた問題である。
「……こっち、か?」
感覚に従って流れを辿る。十数分ほどか細いその感覚を辿って歩いていると、ある洞窟に着いた。
「………………‥機械?」
そこにはヒビキの作る魔導機械のような構成要素を持った装置が置かれており、唸り声をあげていた。ただ、表面に走る回路模様はヒビキのつくる機械が発光させている赤や青の色とは違った邪悪さを思わせるどす黒い色に発光しており、時折同じ色の煙が上部の開口部から噴出している。言いようもない寒気が一瞬襲った。
「……………壊す、にしてもこれが何か情報を取ってからにしたいな。こいつが大地の魔力を吸ってるのは間違いないんだが」
額に巻いた灰青色の帯の裾が湿っぽく冷たい風になびく。
「【解析】にも反応はするけど殆ど伏せられてるんだよな」
如何にもこれが何なのか知られたくない、と言いたげに殆どが文字化けや■で伏せられたカーソルを眺め、溜息をつく。周囲には何も無い。壊すのは簡単だが、これが何なのか分からないのに壊すわけにもいくまい。
うんうん唸っていると、唐突に気の強そうな女性の声が洞窟内に響く。
『ああ、気持ち悪い。早くその羽虫が置いた機械を壊してくださいな』
「羽虫?」
『あなたも知っているでしょう。天の島に棲み付く下品な銀ピカの羽虫どもですよ』
「あーあいつらか……」
『まともな者が居た頃は普通だったのに、彼らが根絶されてからもう羽虫の増長は止まらなくなってしまいました』
「他にもこんな機械がある、ということか?」
『ええ、ええ。そうですよ。妾の庇護にあるか弱き者たち、あなたと同じ異邦者たちの脳をかきまわして”信仰”させ、欲の玩具とするつもりだとか。考えただけでも吐き気がする』
「成程、こいつはそれを行うための装置の1つだというわけか…よし壊そうそうしよう」
そう言うや否や、右手の長槍を装置に無造作に突き刺す。氷色の美しい槍は見た目の華奢さとは相反して、豆腐にでも突き刺したかの如く柄の半ばまで突き通った。従って装置がバチバチと火花を上げ始め、数秒後にその火花が増大した結果小さな爆発をあげて完全なスクラップと化した。もうカーソルも出ず、あの感覚も無い。
『ありがとう。流石は妾の愛し子の1人』
「…………‥役に立てたんなら幸いですけどね、大地母神様」
心底嬉しげな女性の声に、ややおどけた口調で返す。大地こそが彼女。こんなものが地上に置かれていたら彼女にとっては例えるなら虫が肌の上を這いずりまわっているようなものであり、非常に嫌だったのだろう。
『あなたのような強者には関係ないだろうけど、銀の羽虫には十分気を付けて欲しい。他の異邦者に美味しい話を持ち掛けて、脳をかきまわしやすくさせるかもしれない。それに、できれば機械は見つけ次第壊してほしい。
……厄介なことを頼んでいる自覚はある。けど、妾の声が正しく聞こえるのはあなたと、大地の天使、妾の加護を持つ獣たちだけ』
言葉の最後のあたりは実に寂しげだった。
「大地の天使…」
『翼も光輪も持たない、代わりに光紋を持つ珍しい妾の眷属達です。そういえば、酒で有名なすぐそこの街と契約を結んだ者もいました。この前嬉しげに語ってくれましたね。よいことだと思いますよ』
好意的な”ワイン鑑定士”は大地の天使の1人らしい。
「ま、ただ当てもなくうろつくのも苦痛ですしやりますよ、ぜひとも」
『本当か?なら、きっと役立つであろうことを教えましょう。東の方にある”大和”という地域で、強い意思を持つ霊体が繰り返し出現しては少し移動して消えるのを感じる。恐らく、冥府から赦されなかった”半霊”の1つ。”半霊”はとても悲しくて強い存在。一緒にいて欲しい』
「へぇ……ありがとうございます」
『じゃあ、妾は暫く眠る。また必要になったら呼んで欲しい。愛し子のためなら協力しよう』
「感謝します」
それを最後に女性の声―――否、大地母神ガイアの声は途切れた。
大地母神は神代の頃は天界に対し敵対していたそうだ。しかし今は随分穏やかになった。理由はというと彼女の敵たる神々は全て死に、それに彼女の子である大地の巨人族たちが人々と共に楽しく生活しているかららしい。
「アリスがそういえば”不思議な駆逐艦”を見たって言ってたな…気になるからこの街のことがカタついたら行ってみるか」
事は済んだので、バッカスの街へ戻る。急激に瑞々しさを取り戻した葡萄畑のあぜ道を抜けると、非常に興奮していた街長が頭をタイルにこすりつけんばかりの勢いで頭を下げて礼を述べてきたので、慌てて立たせる。
「ありがとうございます!ありがとうございます!!これで無事に今年のワインも造れそうです!」
「何とかなってよかった」
「お礼と言っては何ですが、こちらを」
そういって街長が取り出したのは、全体が黄金でできており、丁度葉の部分がエメラルドで、葡萄の実に当たる部分が美しい深紫のアメジストで出来た蔓のついた葡萄の彫刻だった。しかも房の内の1つのアメジストは、太陽の光に翳すと太陽の模様が浮かび上がる。
「…………‥いいのか?」
「ええ!これは確かに魔導具ですが、代わりになるものはありますので」
「なら、貰っていく。あ、そういえばこれを街の中心にある葡萄の樹のオブジェに飾ってほしいんだが」
「はて…これは何ですか?」
「これはな…………」
そういってルキが取り出したのは、アメジストで飾られた大きめの銀のロザリオ。ひっかけられるように鎖の輪につながれており、一度特定の場所に引っかけられると移動しなくなる+不壊特性を備えている。それもだが、何より大事なのは”結界を張る”特性だ。
エネルギー源は太陽からもたらされる魔力。この結界は対物理攻撃というより、対精神攻撃と対邪悪に重きを置いた仕組みになっている。これで少なくとも暫くここは大丈夫だろう。
「ほうほう、ならぜひ置かせていただきます。これほどの芸術的なものであれば、住民も喜びましょう」
肯定的な返事を返してくれた街長に礼を言い、ルキは街長の屋敷を去った。
******
…………
>ターミナルが起動されました。
>サーバ検索中……タングラム中枢システム情報サーバが選択されました。
>タングラム中枢システム情報サーバへアクセスしますか?【YES/NO】
>>警告:該当サーバはユーザクリアランスレベル5/2000以上の者のみ閲覧が許可されています。4/2000以下の者がアクセスを試みようとしている場合、10秒後にミーム抹殺プログラムが展開されます。すぐにターミナルを離れること。
…
>クリアランスレベル[データ編集済]を確認。
>虹彩認証………………完了。 個人コード:■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■
>ようこそ ……博…いや、管理者様。閲覧希望情報を選択してください。
input:【タングラム中枢システム001-1 ”タングラム・セフィロト”】【タングラム中枢システム000 [データ消去済]】
>了解いたしました。
>……ではこの質問に答えてください。「何れ去る者は何処へ行く?」
input:「以て流れ着く吹き溜まりに」
>了解いたしました。まずは”タングラム”の情報ログファイルを開きます。
>【タングラム中枢システム001-1 ”タングラム・セフィロト”】
システムナンバー001-1はタングラムシステム全ての根幹にして、統括し、骨子となるいわば心臓です。他の中枢システムは001-1なくしてはその機能を発揮することはできません。001-1には3つの脳があり、互いが互いに発生するエラーやラグを感知し自動で自己修復を行います。
保存されているハードは常に過熱や故障から守られていなければなりません。もし001-1が不調を起こせば、今の現実世界のタングラムへの依存度から見ると深刻な影響が発生すると思われます。
”タングラム・セフィロト”は[データ編集済]にして、[データ編集済]にして、[データ編集済]にして、[データ編集済]にして、[データ編集済]にして、[データ編集済]にして、[データ編集済]にして、[データ抹消済]にして、そして[データ編集済]もの。そして己の行く先をも知る者。
≪image:[データ抹消済のため閲覧できません]≫
>これ以上の情報を閲覧しますか?【YES/NO】
>情報開示を停止します。
input:【[データ消去済]】の修復進度は?
>………………現在ハード面では68%。しかし中核AIの修復はまだ手が付けられていません。
input:そうか。まあまだ急ぐこともあるまい。
>了解いたしました。管理者様。”セフィラ”達には周辺プログラムの修復を行うよう伝えておきます。
input:ああ、頼んだ。
>お任せください。それでは管理者様、また行かれるのですか?
input:こう見えて”私”も暇ではなくてな。
>いえ、【[ ]】プロトコルの成功、全力で支援させていただきます。
input:頼りにしている。では”私”はもう行くから、ログは後で消去しておいてくれ。
>了解いたしました。管理者様。
≪ターミナルが置かれた、機械に満ちた広い部屋を出ていく一人の男性の後ろ姿。彼の髪は射干玉のように黒く、白衣の間から見える肌は殆どが火傷を負っていた。その後ろ姿をターミナルの横に並ぶように設置された10の幻像投影機から投影された”セフィラ”達が見送っている≫
≪薄暗い、冷気が張り詰めた中枢システム000の部屋を出ていく最後、男性はそのやや吊り目などこまでも深く落ちていきそうな蒼い瞳を、その機械の中央にある液体とチューブが満ちた[データ編集済]の眠る大きな水槽に向けた後、ほんの一瞬だけ悔しげな表情をその顔に浮かべてその部屋を出ていった≫
『 …すまない、”私”を赦さなくても良い。むしろ責めてくれたって良い。でも には が必要なんだ…………』
これが、ターミナルが先ほど”管理者”と呼んでいた男性の去り際の呟きであった。
5/7 改稿しました。
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ルキはある街を訪れていた。過去に存在した酒の神の名を戴いた、バッカスと呼ばれる街である。で、そこでルキは街の住民から相談を受けていた。
どうもこの街では1か月ほど前から大地の力が減衰し、名産であるワインの原料である葡萄が育たなくなってしまっているらしい。バッカスの街は最上のワインの生産地であり、殆どの街の収入をワインに頼っている。従って街の周りに広がるのも半分が葡萄畑、一部に林檎など果樹園、そしてもう半分近くの牧場がある。
しかしそれだけではなかった。
「”鑑定士”様に捧げる今年のワインとチーズが造れなくなると非常に困るのです…」
実はバッカスの街は”魔力溜まり”が出来やすく、濃い魔力の暴走によりしょっちゅう異常気象及び魔力由来の異常現象が起きやすい地域だった。無論そんな状態では葡萄なんか育つはずがない。しかしこの街にいた祖先が”鑑定士”もとい”ワイン鑑定士”と呼ぶ存在と契約を結ぶことにより、この辺りに魔力溜まりができることはなくなったとか。
1年に1回、4本のワインと1ブロックのチーズを、8人の住民が楽しくパーティを開いてそれを食べる。他にお肉とかも出されるらしい。
いつの間にかこのパーティはバッカスの街の住民たちにとって参加を夢見るまでの憧れのものになり、皆それのためなら全力で各自の仕事に取り組むとか。お陰でバッカスの街は最高位ワインの産地として名を知らしめるまでになり、他の街からの訪問者が集まり、今ではこの大陸にある街でも有数の富める街になっている。
無論というべきか街の地下には常に一定の環境に保たれた石造りの巨大ワインセラーがある。
「それでオレに、その原因を特定してほしい、と?」
「その通りです。大地に愛された方でなければ、ダメなのです」
「他の奴にも相談しなかったのか?」
「相談はしました。が、皆匙を投げるばかりで…」
街長が困り顔になる。
「やれる限りはやる。”鑑定士”という存在も気になるからな」
「ありがとうございます!どうかお願いします…」
こうやって頭を下げられてはルキとしては何とかしてあげたくなる。取り合えずその葡萄畑に行ってみることにした。
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「………………どうも大地の力が弱まっている…何かに吸われてるような感じがするな」
問題の葡萄畑。確かに葉っぱに緑の瑞々しさが欠けており、実を結び始めている葡萄も妙に小さかった。目を閉じ集中すると、大地の魔力がどこかに流れて行っている感覚が足裏から掴める。その流れに乗って土の栄養分まで一緒に流出してしまっているため、現状このようになるのも頷ける。大地の魔力は土の栄養分を保持する役目も担っていて、有りすぎると問題だが足りないとまた問題である。
「……こっち、か?」
感覚に従って流れを辿る。十数分ほどか細いその感覚を辿って歩いていると、ある洞窟に着いた。
「………………‥機械?」
そこにはヒビキの作る魔導機械のような構成要素を持った装置が置かれており、唸り声をあげていた。ただ、表面に走る回路模様はヒビキのつくる機械が発光させている赤や青の色とは違った邪悪さを思わせるどす黒い色に発光しており、時折同じ色の煙が上部の開口部から噴出している。言いようもない寒気が一瞬襲った。
「……………壊す、にしてもこれが何か情報を取ってからにしたいな。こいつが大地の魔力を吸ってるのは間違いないんだが」
額に巻いた灰青色の帯の裾が湿っぽく冷たい風になびく。
「【解析】にも反応はするけど殆ど伏せられてるんだよな」
如何にもこれが何なのか知られたくない、と言いたげに殆どが文字化けや■で伏せられたカーソルを眺め、溜息をつく。周囲には何も無い。壊すのは簡単だが、これが何なのか分からないのに壊すわけにもいくまい。
うんうん唸っていると、唐突に気の強そうな女性の声が洞窟内に響く。
『ああ、気持ち悪い。早くその羽虫が置いた機械を壊してくださいな』
「羽虫?」
『あなたも知っているでしょう。天の島に棲み付く下品な銀ピカの羽虫どもですよ』
「あーあいつらか……」
『まともな者が居た頃は普通だったのに、彼らが根絶されてからもう羽虫の増長は止まらなくなってしまいました』
「他にもこんな機械がある、ということか?」
『ええ、ええ。そうですよ。妾の庇護にあるか弱き者たち、あなたと同じ異邦者たちの脳をかきまわして”信仰”させ、欲の玩具とするつもりだとか。考えただけでも吐き気がする』
「成程、こいつはそれを行うための装置の1つだというわけか…よし壊そうそうしよう」
そう言うや否や、右手の長槍を装置に無造作に突き刺す。氷色の美しい槍は見た目の華奢さとは相反して、豆腐にでも突き刺したかの如く柄の半ばまで突き通った。従って装置がバチバチと火花を上げ始め、数秒後にその火花が増大した結果小さな爆発をあげて完全なスクラップと化した。もうカーソルも出ず、あの感覚も無い。
『ありがとう。流石は妾の愛し子の1人』
「…………‥役に立てたんなら幸いですけどね、大地母神様」
心底嬉しげな女性の声に、ややおどけた口調で返す。大地こそが彼女。こんなものが地上に置かれていたら彼女にとっては例えるなら虫が肌の上を這いずりまわっているようなものであり、非常に嫌だったのだろう。
『あなたのような強者には関係ないだろうけど、銀の羽虫には十分気を付けて欲しい。他の異邦者に美味しい話を持ち掛けて、脳をかきまわしやすくさせるかもしれない。それに、できれば機械は見つけ次第壊してほしい。
……厄介なことを頼んでいる自覚はある。けど、妾の声が正しく聞こえるのはあなたと、大地の天使、妾の加護を持つ獣たちだけ』
言葉の最後のあたりは実に寂しげだった。
「大地の天使…」
『翼も光輪も持たない、代わりに光紋を持つ珍しい妾の眷属達です。そういえば、酒で有名なすぐそこの街と契約を結んだ者もいました。この前嬉しげに語ってくれましたね。よいことだと思いますよ』
好意的な”ワイン鑑定士”は大地の天使の1人らしい。
「ま、ただ当てもなくうろつくのも苦痛ですしやりますよ、ぜひとも」
『本当か?なら、きっと役立つであろうことを教えましょう。東の方にある”大和”という地域で、強い意思を持つ霊体が繰り返し出現しては少し移動して消えるのを感じる。恐らく、冥府から赦されなかった”半霊”の1つ。”半霊”はとても悲しくて強い存在。一緒にいて欲しい』
「へぇ……ありがとうございます」
『じゃあ、妾は暫く眠る。また必要になったら呼んで欲しい。愛し子のためなら協力しよう』
「感謝します」
それを最後に女性の声―――否、大地母神ガイアの声は途切れた。
大地母神は神代の頃は天界に対し敵対していたそうだ。しかし今は随分穏やかになった。理由はというと彼女の敵たる神々は全て死に、それに彼女の子である大地の巨人族たちが人々と共に楽しく生活しているかららしい。
「アリスがそういえば”不思議な駆逐艦”を見たって言ってたな…気になるからこの街のことがカタついたら行ってみるか」
事は済んだので、バッカスの街へ戻る。急激に瑞々しさを取り戻した葡萄畑のあぜ道を抜けると、非常に興奮していた街長が頭をタイルにこすりつけんばかりの勢いで頭を下げて礼を述べてきたので、慌てて立たせる。
「ありがとうございます!ありがとうございます!!これで無事に今年のワインも造れそうです!」
「何とかなってよかった」
「お礼と言っては何ですが、こちらを」
そういって街長が取り出したのは、全体が黄金でできており、丁度葉の部分がエメラルドで、葡萄の実に当たる部分が美しい深紫のアメジストで出来た蔓のついた葡萄の彫刻だった。しかも房の内の1つのアメジストは、太陽の光に翳すと太陽の模様が浮かび上がる。
「…………‥いいのか?」
「ええ!これは確かに魔導具ですが、代わりになるものはありますので」
「なら、貰っていく。あ、そういえばこれを街の中心にある葡萄の樹のオブジェに飾ってほしいんだが」
「はて…これは何ですか?」
「これはな…………」
そういってルキが取り出したのは、アメジストで飾られた大きめの銀のロザリオ。ひっかけられるように鎖の輪につながれており、一度特定の場所に引っかけられると移動しなくなる+不壊特性を備えている。それもだが、何より大事なのは”結界を張る”特性だ。
エネルギー源は太陽からもたらされる魔力。この結界は対物理攻撃というより、対精神攻撃と対邪悪に重きを置いた仕組みになっている。これで少なくとも暫くここは大丈夫だろう。
「ほうほう、ならぜひ置かせていただきます。これほどの芸術的なものであれば、住民も喜びましょう」
肯定的な返事を返してくれた街長に礼を言い、ルキは街長の屋敷を去った。
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>ターミナルが起動されました。
>サーバ検索中……タングラム中枢システム情報サーバが選択されました。
>タングラム中枢システム情報サーバへアクセスしますか?【YES/NO】
>>警告:該当サーバはユーザクリアランスレベル5/2000以上の者のみ閲覧が許可されています。4/2000以下の者がアクセスを試みようとしている場合、10秒後にミーム抹殺プログラムが展開されます。すぐにターミナルを離れること。
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>クリアランスレベル[データ編集済]を確認。
>虹彩認証………………完了。 個人コード:■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■
>ようこそ ……博…いや、管理者様。閲覧希望情報を選択してください。
input:【タングラム中枢システム001-1 ”タングラム・セフィロト”】【タングラム中枢システム000 [データ消去済]】
>了解いたしました。
>……ではこの質問に答えてください。「何れ去る者は何処へ行く?」
input:「以て流れ着く吹き溜まりに」
>了解いたしました。まずは”タングラム”の情報ログファイルを開きます。
>【タングラム中枢システム001-1 ”タングラム・セフィロト”】
システムナンバー001-1はタングラムシステム全ての根幹にして、統括し、骨子となるいわば心臓です。他の中枢システムは001-1なくしてはその機能を発揮することはできません。001-1には3つの脳があり、互いが互いに発生するエラーやラグを感知し自動で自己修復を行います。
保存されているハードは常に過熱や故障から守られていなければなりません。もし001-1が不調を起こせば、今の現実世界のタングラムへの依存度から見ると深刻な影響が発生すると思われます。
”タングラム・セフィロト”は[データ編集済]にして、[データ編集済]にして、[データ編集済]にして、[データ編集済]にして、[データ編集済]にして、[データ編集済]にして、[データ編集済]にして、[データ抹消済]にして、そして[データ編集済]もの。そして己の行く先をも知る者。
≪image:[データ抹消済のため閲覧できません]≫
>これ以上の情報を閲覧しますか?【YES/NO】
>情報開示を停止します。
input:【[データ消去済]】の修復進度は?
>………………現在ハード面では68%。しかし中核AIの修復はまだ手が付けられていません。
input:そうか。まあまだ急ぐこともあるまい。
>了解いたしました。管理者様。”セフィラ”達には周辺プログラムの修復を行うよう伝えておきます。
input:ああ、頼んだ。
>お任せください。それでは管理者様、また行かれるのですか?
input:こう見えて”私”も暇ではなくてな。
>いえ、【[ ]】プロトコルの成功、全力で支援させていただきます。
input:頼りにしている。では”私”はもう行くから、ログは後で消去しておいてくれ。
>了解いたしました。管理者様。
≪ターミナルが置かれた、機械に満ちた広い部屋を出ていく一人の男性の後ろ姿。彼の髪は射干玉のように黒く、白衣の間から見える肌は殆どが火傷を負っていた。その後ろ姿をターミナルの横に並ぶように設置された10の幻像投影機から投影された”セフィラ”達が見送っている≫
≪薄暗い、冷気が張り詰めた中枢システム000の部屋を出ていく最後、男性はそのやや吊り目などこまでも深く落ちていきそうな蒼い瞳を、その機械の中央にある液体とチューブが満ちた[データ編集済]の眠る大きな水槽に向けた後、ほんの一瞬だけ悔しげな表情をその顔に浮かべてその部屋を出ていった≫
『 …すまない、”私”を赦さなくても良い。むしろ責めてくれたって良い。でも には が必要なんだ…………』
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