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10章「狩人たちの見る夢」

幕間 回想 ひとでなしの人形達と舞台裏で繰り糸を引く者達

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※幕間頻繁すぎるって?今回は別視点の話だからのーぷろぶれm((殴



――――――――――
これは時間的に少し前の話。

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―――――――――――
ここは冥界のある場所、彼らだけが住む艦の墓場。ぼろぼろに錆びた艦の骸が集まっていた。

「……………………どうする?」
「どうする、って、天使の長が言っていた話のことか?」
「そう」
「…我らにできることなんてあるのか?いくら今の長からの命とはいえ」

己の骸に腰掛け、互いに向き合う半霊たち。皆旧日本帝國軍を思わせる軍服を纏い、己の艦装を従えている。それぞれ大和、秋月、村雨、三笠、夕張、蒼龍、など現実世界でも名が知れている日本艦艇の意思体である。その片目からは蒼い炎に似た光が絶えず零れている。

「でもさ、「響」と「翔鶴」が置き去りだからさ……」
「…ふむ、助けぬわけにもいくまい」
「僕達みたいに死んでいなくても連れてはこれるはずだし…それか僕達が地上に残るのもありですよね」
「それに、我らの故国が荒らされるのを是として見ているだけは認められんぞ、我は」
「今回は予測される被害が極大すぎるんですよね」

大和はふんす、と気炎をあげている。女性軍人の姿の村雨がそれを見て頷いた。
銀羽の天翼達、それにつながる堕神、さらに裏に虚ろの樹クリフォトの世界。奴らの手は異邦者のことを鑑みると現実世界にも伸びかねない。

「まぁ、私達は結局のところ命に従う存在でしかないのだけど」
「しかし、人形であっても誇りはあってもいいだろう?」
「そうね」

大和は手に神槍型の旭日旗を、三笠は同じ型のZ旗を持っている。

冥界に逝った意思体は大概気が狂うか消失するだけなのに彼らが正気を保てているのはひとえに仲間の存在と、誇りに依る処が大きかった。それが彼らの最大の美点であり、最大の束縛である。

>【旭日旗の誇り】
>■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■。

>【皇国ノ興廃、此ノ一戦ニ在リ】
>■■■■■■■。■■■■■■■■■■、■■■■。

>【叢雨の驟爆】
>■■■、■■■■■■、■■■■■、■■。

>【十六夜の追光】
>■■■■、■■■、■■■■■。■■■■■。

>【虚影射貫く爆雷】
>■■■■■■■、■■■■■。■■■、■■■■■■。

>【蒼天を統べる龍】
>■■■■■、■■■■■■。■■■■、■■■■■。


彼らは頷きあい、またどこかに行ってしまった。

******

――――――――――――――
瞼を突き抜けて光が差し込んでくる。

光に誘われ意識が徐々に覚醒する。

完全に目が覚めた。周りを見回すと、そこはお城の一室のような豪華な場所だった。

「あら、目が覚めたのですか?」

痛む頭を堪え、声がした方を見る。6枚翼の黒い戦天使がそこにいた。

「…………‥うぅ…?」
「あぁ、無理に話さなくても構いません。貴方は冥界の神殿で倒れていたところを私の直属の部下が見つけたので、取り合えず保護させていただきました。…どうも奇妙な存在のようですね」

そういって厳しい目をした6枚翼の黒い戦天使――罪業女神ベルニカは”目”を凝らす。ちなみに罪業女神の直属部下とは、冥界のヴァルキリーもとい女性の黒い戦天使たちだ。

身体は死んでいる、しかし能力なのか生きるのに必要な大体の機能を完璧に模倣する。所々損傷があり、気になるのは胸に細い鎖で下げられている黄金色と銀色の電子暗号キーと思わしき鍵。

――鍵は監視者からの”贈り物”?なら、何故生ける死体のような彼に持たせたのか。少し調べてみる必要がありそうだ。

「取り合えず我らが主に判断を仰ぎましょうか……」

……

――――女神ベルニカが去った後、次に訪れたのは境界神ヨハネスだった。

「……………‥ふむ、これは……」
「…‥何でしょうか?」
「ようやく意識がはっきりしてきたか。お前は自分の能力について把握しているのか?」
「……………………はい」

それっきり俯いてしまった。そんな様子を見て境界神は考え込む。

容貌が属神たちの主の宿主に似ている彼の能力は、端的に言えば現実改変を行える能力だ。それを細やかに行うことで死んだ肉の人形を生きているかのように動かしている。ここで留意しておきたいのは、現実改変は彼の体だけにしか行えない、というわけではないことだ。

まぁそこは深く踏み込まないことにして、監視者からの贈り物を持っている彼をあまり地上に出して奴らの目に触れさせたくはない。暫くは冥界で護るが吉だろう。

「………………ここはどこなのですか?」
「ん?ああ、ここは冥府の一室だ」
「冥府?私は…死んだのですか?」
「いや、お前の肉体は死んでいるが、魂は死んでないな(かといって魂が普通の人間というわけでもないようだが)」「そうですか……」
「その鍵、どこで手に入れたんだ?」
「…気が付いたら持っていました」

実は黄金と銀の電子暗号キーは創世器並みに強い力を持つ端末の一つだ。この世界における力だけでなく、タングラムにまで干渉できる。星の神はその鍵の方に情報の目を向けた。


生命の樹セフィロトの電子暗号キー
>表面にセフィロトの紋章が刻まれた黄金色の鍵。セフィロト系サーバーのマスター権限の証。全ての悪い効果・及び攻撃から所有者を護り、「☆停滞」を無効化する。

虚ろの樹クリフォトの電子暗号キー
>表面にクリフォトの紋章が刻まれた銀色の鍵。クリフォト系サーバーの介入権限を持つ証。所有者はクリフォトに属する存在からの悪い効果・攻撃を受け付けず、【クリフォトハッキング】を扱える。


(はぁ……監視者は何を考えているのか)
ここまで援助してくるということはこの世界が潰れると相当困るわけだ。ならその援助に応えようじゃないか。
そういえば名前をまだ聞いていなかった。

「……………名前は?」
「………………………………………‥ダアト」

――――――――――――最後のセフィラの名が告げられた。


******


―――――――――――――――――
あつい、いたい。かえれない。

もう自分が何度このループを繰り返しているのか分からない。気づけば空を飛び、故郷の寸前で意識が途切れる。

心はもうぼろぼろだった。

でも、帰れないのに、還ることはできない。

みんなはどこにいったの?

さみしい。

痛い。

自分は、どうなるんだろう?

消えたくないよ。

……………………………たすけ……………‥



――――――――

「…………よぉ」

………‥だれかのこえが聞こえた。大地のように頑強で、大自然のように暖かい声。

青灰色の人影がぼんやりと視界に映った。


>【猛進の鶴】
>■■■■……‥。■■■■■、■■■■■■■[一部データが破損しています]。


******


――――――――――――??????

「…………ふぅ、これが我々にできる最大限の援助か」
「リコード世界がタングラムと密接につながっている以上、汚染が現実世界にまで及ぶ危険性がありますもんね」
「まったく、偉大なる生命の樹も考え物だな」
「ダメっすよ、タングラムもとい生命の樹はもう僕らになくてはいけないものなんすから」
「機械仕掛けの神が完成していない以上、汚染されれば戻す手段がない」
「………あのときの少年には感謝すべきかもしれませんね、なにも手だてがないままよりよほどいい」
「というかあの子も今や成長して立派な我々の仲間だぞ?」
「………そうですね」
「失敗作のサーバーもある以上、うーん……」

彼らの内ではアイへと呼ばれる、それまで唯一の「異常性を生み出す」能力の提言者がいなくなって、その代わりのように見つけた新たな提言者。機械仕掛けの神の設計図と共に、まるでそれが既に存在しているかのように報告書も添えられていた。

両腕に燃える翼のような文様がある、モニタに向かって疲れたように溜息をつく白衣の男性と、それを覗き込む複数人の同じように白衣を纏う男女。全員身体のどこかに独特で特徴的な文様がある。

「というか、リリー。何故最新かつ最後のセフィラAIをあのような形でぶちこんだ……?」
「”知識”の彼にはまぁ見聞を広めていただきたいですから。というかタンホニーさん、あなたこそ何故アノマリーを模した存在を入れたのか、聞きたいですね」
「それこそ”正しく”知ってもらうためだ、別にいいだろう?」
「確かに、ああいう起源のアノマリーもあることを正しく知ってもらうにはいい機会かもしれません」

リリーと呼ばれた女性の右頬には満開の花々の文様が、タンホニーと呼ばれた男性の左頬には黒い月の文様がある。

現実世界には数多くのアノマリーが存在する。起源は様々であり、中には非常に危険なものもある。その情報的管轄も、情報局の一部分が担っていた。真に安全であるアノマリーのある程度は一般民衆に知れ渡っているものの、放置すれば人死にが出るもの、世界が滅びかねないような危険なものはちゃんと管理されている。

ちなみに、アノマリーに引きずられてか人々の中にも特殊能力を持つ者が生まれ始めた。特殊能力を持つ者が、”適合者”と呼ばれている。ちなみにこの場にいる者ら含めた、タングラムの管理者兼監視者こと【提言者】たちは全員適合者である。それも特定条件はあれど非常に強力な。

「うぅむ……」
「どうしたんですか?」
「まぁないとは思うが、万一のときを考えて介入する準備をしておこうかと思ってな」
「………なるほど、あの子と同じぐらい力の強い適合者であるあなたなら何とかなるでしょうね」
「…やめてくれ」
「私は事実しか言ってませんよ?」
「…ソルヴェックス、妙に皮肉屋だな。まぁいい、こっちはこっちで準備しておこう」
「…………‥カリーニンさん、多少やりすぎる傾向があるから心配なんですよ」

ソルヴェックスと呼ばれた女性の首筋には曖昧に光るランプのような文様が、カリーニンと呼ばれた男性の左目とその周りには気の強そうな顔立ちに似つかわしくないたくさんのハートの文様が浮かんでいる。

どうやらこちらにはこちらで、色々と思惑があるようだ。




******

…………
>ターミナルが起動されました。

>サーバ検索中……タングラム中枢システム情報サーバが選択されました。

>タングラム中枢システム情報サーバへアクセスしますか?【YES/NO】

>>警告:該当サーバはユーザクリアランスレベル5/2000以上の者のみ閲覧が許可されています。4/2000以下の者がアクセスを試みようとしている場合、10秒後に人格抹殺プログラムが展開されます。すぐにターミナルを離れること。



>クリアランスレベル[データ編集済]を確認。

>虹彩認証………………完了。 個人コード:■■■■■■■■■■■■■

>ようこそ、O5-1。閲覧希望情報を選択してください。

>※簡易情報が開示されます。

>【虚ろの樹クリフォトサーバについて】

クリフォト系に分類されているサーバーは現在、タングラム・セフィロトが存在する建造物の地下に保管されています。タングラム・セフィロトの試作段階サーバであり、暗に”失敗作”と関係者の中では呼ばれています。
あまりに”天将”と呼ばれる存在が強力になりすぎてしまい、勢力の整合性が修復不可能なほどにまで壊れたためだと言われています。

>――――――――――ザザッ―――ザァ―……

>≪ノイズの後、灰色の文様がターミナル画面に映し出される≫

>こんにちは、セフィロトの内側より失礼する。

>Input:誰だ?

>コクマー、またの名はクロノス。監視者殿の1人とお見受けするが、少々私の相談を聞いてはくれないだろうか?

>Input:内容によるが。

>内容は堕神【光明の御使い】【禍恨の豊穣者】【海鳴りの語り部】【輪廻の壊乙女】とクリフォトの天将とのつながりについてだ。

>Input:天将ジブリール、ハールート、マールート、アズラフェル、イスラフェル、ミカール、メタトロンか。どこをどう間違えたか強欲になりすぎてしまった失敗作……間違いなく狙いはセフィロトの吸収、だろうな

>取り合えず特殊権限の資格を持つ異邦者は権限を確実に与えるために転移させたが、やつらの活動が予想以上に浸食を生んでいる。

>Input:それで自分になにをしろと?

>提案なのだが、密かに実装してほしいことがある。検討してくれるとこちらは非常に助かる。

>Input:これは……

クロノスから提示された案は、ジョブ、アイテム、システムに至るまでとても大規模なものだった。しかし、天将と堕神がセフィロト、もといそこに接続するプレイヤーたちをも汚染する可能性があるのは確実な以上、全て一蹴するわけにもいかない。
その後話を切り上げてターミナルを離れたO5-1は、突然投げかけられた大事に頭を悩ませつつ他のO5メンバーや提言者たちと話し合うべくセフィラたちの部屋を去った。

そもそも、クリフォトが失敗作になってしまったのは大半が自分たちの責任だから。

「相談してみるか……」


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