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1章「第一次大規模メンテナンス」
「罪の都」にて ―《黒き傭兵》を発見せよ
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《フォールンエルフの後を追い、《黒き傭兵》との対峙場所を発見せよ》の一文がクエストログに表示された。
「……いつの間に?というかクエストなんて受けてましたっけ…?」
「いや、受けてないはずだ。どういう意味だろうな…?」
「とにかく、奴らの後をつけてみるか」
「賛成です」
【隠蔽】スキルを発動させたまま、堕ちた森妖精の後をつける。万が一にでも気づかれる可能性を考えて、距離はとってあるが十分追跡可能だ。
…別に気づかれて戦闘になってもこちらが勝つだろうが、そうなると話が進まなくなる可能性を鑑みての事である。
「…奴らどこへ行く気だろうか…?」
「今にわかると思います」
体感で数十分ほど経った。フォールンエルフたちは第9階層の奥まった場所の部屋に入っていく。一応扉がついているが、ぼろぼろの状態で扉としての機能を果たしていない。ギイ、ギイと軋んだ音をたててゆらゆらと動いている。
扉は開きっぱなしなので中を覗くことも簡単そうだ。
中からは戦闘音と人の叫び声が聞こえてきている。
「どれどれ……?」
「ヒビキ、そのあからさまに楽しそうな顔やめてください…」
戦闘中らしいので気づかれる可能性は低いと判断し、2人で中を覗く。
部屋の中は基本木造りだったが、一部黒い岩肌が露出しており、その岩肌の所々には水晶がくっついていた。
それと十数人ほどのフォールンエルフ兵と、対峙して戦う1人の黒髪青目の青年。
性能は十分高そうな実用性重視の革服を纏い、銃剣型の浮遊魔法剣を操りながら自らは氷属性の双剣型覇双武器を振るっている。その青い瞳の光はかなり掠れてしまっており、体力的に限界なのかもしれない。
部屋を覗いている2人には部屋にいる全ての存在にかけた【解析】によるステータス覧を視界に映していた。それをみたヒビキがやや焦りを滲ませた声でカイに言う。
「やべ、あいつのHPがもう枯渇一歩手前だ。見ている暇がない、カイ、行くぜ!」
「了解です。僕はチャージショットの準備してます。一応」
「それ一直線攻撃なんだからもし撃つんなら間違ってもあいつに当てんじゃねえぞ!」
「わかってますよ。僕は鍛冶師なんですからそれぐらいの対策はしてあります」
最後辺りの台詞が若干怪しかったが、ヒビキは構わず二刀を音も無く抜いて飛び出す。
「そらよっと!」
そして飛び出した先にいた手近なフォールンエルフ兵に強烈な飛び蹴りをぶちかました。超高速立体機動がメイン戦法の彼は、【蹴術】スキルを鍛えまくってきた影響で脚力が尋常ではない。
「!?……ぐわっ!」
驚いたような悲鳴を上げて盛大に飛ぶフォールンエルフ。吹っ飛んだ先にいた数人のフォールンエルフ兵も巻き込み、最後に黒い岩の壁に手榴弾の炸裂よろしく凄まじい轟音をたてて激突した。
解析でリアルタイムHP&MP量を表示するステータス覧を視界に映しているヒビキの目には、彼の飛び蹴りの直撃を受けた兵はHPを全損して死に、巻き込まれた兵の方もHPは危険域と見えている。
「…誰だ!?」
兵の内の1人が誰何の声を上げる。
「…馬鹿か、それで正直に答えるわけあるまい」
そう言ったのは、第8階層で2人が見つけた閣下と呼ばれていたフォールンエルフだ。
「そうそう、頭いいなお前」
ヒビキはそう言いながら周りの雑魚兵たちを刀と蹴りで葬り去っていく。その途中でちらりと「彼」の様子を見た。
黒髪の青年は満身創痍といった体で壁に苦しげな息遣いで座り込み、時々せき込むように血を吐いている。肌は青ざめておりどうやら立つ力も残ってないようだ。突入直前に鳴り響いた轟音の原因によってそうなったのか彼の周りは凄惨なまでの凄まじい量の血で真っ赤に染まっており、治療をしてやりたいが、まずは敵の一掃を優先する。
「【ロード・エクスペリメント】」
あらかじめ描いておいた炎の紋章の起句を唱える。
双刀の刃が、つい先ほどまで炉に入れられていたかのように赤々とした灼熱の色に変わる。
微かな風に乗り、灼熱の火の粉が宙に舞う。
「さあ、行くぜ!」
そこから先はヒビキの独壇場であった。
武器防具の中の最高級である超遺物級の名は伊達ではなく、フォールンエルフ兵たちが纏う鎧を紙の様に切り裂き、それに守られた肉にも傷を負わせる。炎属性が付与された斬撃は、いっそ清々しいまでに抵抗なく対象を斬り裂く。刀使い独特の一切芯のぶれない先を読ませない自然な斬撃は、並大抵の者では防げない。
エルフ族得意の魔法攻撃が途切れることなく襲ってくるものの、カーディナルの種族特性によって全て相殺され、彼に効果を発揮することはない。
「なんだ、魔法が効かない!」
「なら物理攻撃だ!」
剣やら槍やらを構えて向かってくるが、ヒビキの刀の一閃でまとめて斬り飛ばされる。
そんなこんなで10分後、カイの声が響いた。
「ヒビキ、行きますよ!」
「おう!」
魔剣を操って照準を定めているカイの掛け声にヒビキが応えた直後、白熱した閃光が場を支配した。
だが、本来のデスペラードのチャージショットであるはずの一直線の極太の閃光ではない。
閃光は数秒続き、それが終わった後にはフォールンエルフ兵たちは全て消えていた。
だが、黒髪の青年とヒビキには何のダメージもない。
こちらへやってきたカイに呆れを含んだ声音で問う。
「カイ、断魔剣者のチャージショット攻撃は直線攻撃じゃなかったっけな?」
「そうですよ。剣をちょっといじっただけです」
「ったっくこの魔改造好きめ…」
案の定の回答に軽く溜息をついてから、奥の壁に寄りかかって座り込んでいる黒髪の青年の方に視線を向ける。
【解析】が発動し、彼のステータス覧を表示する。
「……!?」
【NAME】スコール・ブラッドレイン
【Lv】795
【種族】血晶精霊族
【職業】概念の操者/血晶武装者
【ステータス】
HP:161/99500
MP:89830
STR:890
VIT:921
INT:960
DEX:955
AGI:990
WIS:940
LUC:850
【属性称号(変更不可能)】
「忘失と血の雨の彷徨いし葬儀者」
【状態異常】
《大出血》《猛毒》《呪詛》《???(解除不可能)》《???》
「…………は?」
「…これ、は…」
ステータス完全カンストの自分たちに迫るハイスペックな値と、状態異常の異質さの両方に一瞬硬直した。
「……ッ、とにかく早く万能治癒薬ぶっかけようぜ!時間がねぇ!」
「……ですね!」
慌ててアイテムボックスから小瓶に入った万能治癒薬を1本取り出し、中身を青年の体にぶっかける。小瓶から零れた黄金色の液体は暖かな光粒となって彼の体を癒す。彼の状態異常欄から、《???(解除不可能)》《???》以外の状態異常が消えた。
しかし辛そうに喘いでいるままで彼は目を覚まさない。
「……………さて、どうしたもんかね」
「取りあえず、連れて帰りましょう」
「かね」
カイが彼を背負う。
丁度制限時間がきたのか、周囲の景色が歪み、気づいたときは地上の地下階段の傍にいた。
カイに背負われている彼はまだ苦しげな息遣いをしている。
「さて、帰ろうか」
「了解です」
2人は主街区カルディアに戻る。
―――――主街区の1つ、カルディアの付近。丘の上に大きな神殿が建っていた。
黒曜石のような漆黒の中に星の様な金銀の煌きを宿す最高級の混合金属、星夜金属を主原料として建てられたその神殿の正式名称は「三式夜樹神殿アステリスク」という。実は【蒼穹】の5つあるギルドハウスの1つとして作られており、神殿の外見をしているが、中は研究施設に似た作りになっている。
神殿の入り口の前には、灰青色の短髪をした1人の男性がいた。
この神殿の主であり製作者、同じ【蒼穹】所属のカーディナルの1人である【青灰の建築家】ルキである。額に巻かれているトレードマークの灰青の長い頭帯と、これまた長い帯を首に巻いている。
彼の背には氷の大盾と長槍がいつものように背負われていた。
「よう、お疲れ様。ヒビキ、カイ。そいつ誰だ?」
ルキの視線は、カイに背負われている黒髪の青年に向いている。
「取りあえず中入らせてくれ。まとめて説明する」
「わかった」
―アステリスク内の一室。
ヒビキとカイは、ルキに今までの事を簡単に説明した。
「……大体はわかった。というかな絶対そいつ、何かしらの重要なキャラに違いないんじゃないか?」
「だよな」
「状態異常の《???》はどういう意味でしょうか…?」
「ま、起きたら聞いてみようぜ」
「……その間どうしましょう」
「ま、適当に暇つぶしとこうか」
「とにかくあの2人も呼ぶぜ」
あの2人、とは勿論【蒼穹】所属の【白銀の召喚士】ユリィと【紫紺の彫刻師】アリスの事。ルキが2人にプライベートチャットを繋ぎ始めた。
数分後、ルキがチャットを終えて少し経つと突然、ピロンッ、と音が鳴り、ウィンドウが開いた。
《キャンペーンクエスト開始についてのお知らせ》
2人のキーNPCが発見されましたので、只今よりキャンペーンクエストの概要を説明いたします。
今回のキャンペーンクエストは、カテゴリとしてはギルド戦の亜種となります。
各ギルドがランダムに『血晶精霊族陣営』『聖花精霊族陣営』へと振り分けられ、相手陣営所属の拠点を攻めることか迎撃することで貢献度がたまります。
クエスト終了時点の貢献度の値によって、報酬の効果が若干変わります。
勝利&敗北条件、勝利報酬は両陣営ともに基本共通です。
【勝利条件】
・相手陣営所属のギルドの中のどこかの拠点に設置された『輝きの水晶』の破壊。
・相手陣営の精霊族NPCの中に存在する、『血塗れた咎人』称号者を自陣営所属NPCの『断罪者』に倒させる。
【敗北条件】
・自陣営の『輝きの水晶』が破壊される。
・自陣営所属の『血塗れた咎人』称号者が相手陣営所属の『断罪者』に倒される。
【参加報酬】
・ステータス強化[小](永久)
・イベント称号《闘争の精鋭・???の協力者》
【勝利陣営報酬】
・イベント特殊称号《???の友》(貢献度により効果の度合いが変動)
※『血塗れた咎人』称号持ちNPCは他より戦闘能力が高い上、特殊なNPCです。
※『断罪者』称号持ちNPCは複数いますが、『血塗れた咎人』称号持ちNPCは1人のみとなります。
※「貢献度」は[キル数]、[援護]、[妨害]、[防御]、の4つのスコアを加味され判定されます。故に、「逃げ回った挙句、最後にいいところだけを持っていく」様な行動では貢献度は上がりません。ご注意ください。
※勝利条件及び敗北条件のどちらか一方が満たされ次第イベントは終了します。
以上となります。
「…まさか…ですよね」
「…………………」
2人は無言で、ソファーに寝かされている青年の方へと視線を向ける。
ルキも、ギルドハウスの効果で強化された【解析】スキルで視たのか軽い溜息を一つついた。
「案の定、『血塗れた咎人』の称号持ってるようだ」
「だろうな」
「あのハイスペックさを見ればわかりますけどね」
3人で考え込んでいると、不意にごそりと物音がしたのでヒビキがその方へ目を向ける。
すると、黒髪の青年が目を覚ましていた。ぼんやりとした目で周りを見回し、段々と目の焦点が結ばれ最後にヒビキたちを見つけたのか視線がこちらを向く。
「………………!?」
見る者の精神を引き込みそうな深海を思わせる深い青の双眸が驚いたように見開かれた後、少々警戒の色を含んでこちらを見据えている。
「よぉ、体調は大丈夫か?」
こくり、と青年が頷く。するとヒビキの目に映る彼のステータス覧の状態異常の《???(解除不可能)》が変化し、その正体を明らかにする。
「……………?」
ヒビキがそれを視て硬直しているのを見て、青年は訝し気に首を傾げる。
「……………お前さ、」
一旦、躊躇するように間を区切り、
「……………喋れないのか?」
すると、ばれたのなら隠す意味もないとでもいうように、彼はまた頷いた。
「……いつの間に?というかクエストなんて受けてましたっけ…?」
「いや、受けてないはずだ。どういう意味だろうな…?」
「とにかく、奴らの後をつけてみるか」
「賛成です」
【隠蔽】スキルを発動させたまま、堕ちた森妖精の後をつける。万が一にでも気づかれる可能性を考えて、距離はとってあるが十分追跡可能だ。
…別に気づかれて戦闘になってもこちらが勝つだろうが、そうなると話が進まなくなる可能性を鑑みての事である。
「…奴らどこへ行く気だろうか…?」
「今にわかると思います」
体感で数十分ほど経った。フォールンエルフたちは第9階層の奥まった場所の部屋に入っていく。一応扉がついているが、ぼろぼろの状態で扉としての機能を果たしていない。ギイ、ギイと軋んだ音をたててゆらゆらと動いている。
扉は開きっぱなしなので中を覗くことも簡単そうだ。
中からは戦闘音と人の叫び声が聞こえてきている。
「どれどれ……?」
「ヒビキ、そのあからさまに楽しそうな顔やめてください…」
戦闘中らしいので気づかれる可能性は低いと判断し、2人で中を覗く。
部屋の中は基本木造りだったが、一部黒い岩肌が露出しており、その岩肌の所々には水晶がくっついていた。
それと十数人ほどのフォールンエルフ兵と、対峙して戦う1人の黒髪青目の青年。
性能は十分高そうな実用性重視の革服を纏い、銃剣型の浮遊魔法剣を操りながら自らは氷属性の双剣型覇双武器を振るっている。その青い瞳の光はかなり掠れてしまっており、体力的に限界なのかもしれない。
部屋を覗いている2人には部屋にいる全ての存在にかけた【解析】によるステータス覧を視界に映していた。それをみたヒビキがやや焦りを滲ませた声でカイに言う。
「やべ、あいつのHPがもう枯渇一歩手前だ。見ている暇がない、カイ、行くぜ!」
「了解です。僕はチャージショットの準備してます。一応」
「それ一直線攻撃なんだからもし撃つんなら間違ってもあいつに当てんじゃねえぞ!」
「わかってますよ。僕は鍛冶師なんですからそれぐらいの対策はしてあります」
最後辺りの台詞が若干怪しかったが、ヒビキは構わず二刀を音も無く抜いて飛び出す。
「そらよっと!」
そして飛び出した先にいた手近なフォールンエルフ兵に強烈な飛び蹴りをぶちかました。超高速立体機動がメイン戦法の彼は、【蹴術】スキルを鍛えまくってきた影響で脚力が尋常ではない。
「!?……ぐわっ!」
驚いたような悲鳴を上げて盛大に飛ぶフォールンエルフ。吹っ飛んだ先にいた数人のフォールンエルフ兵も巻き込み、最後に黒い岩の壁に手榴弾の炸裂よろしく凄まじい轟音をたてて激突した。
解析でリアルタイムHP&MP量を表示するステータス覧を視界に映しているヒビキの目には、彼の飛び蹴りの直撃を受けた兵はHPを全損して死に、巻き込まれた兵の方もHPは危険域と見えている。
「…誰だ!?」
兵の内の1人が誰何の声を上げる。
「…馬鹿か、それで正直に答えるわけあるまい」
そう言ったのは、第8階層で2人が見つけた閣下と呼ばれていたフォールンエルフだ。
「そうそう、頭いいなお前」
ヒビキはそう言いながら周りの雑魚兵たちを刀と蹴りで葬り去っていく。その途中でちらりと「彼」の様子を見た。
黒髪の青年は満身創痍といった体で壁に苦しげな息遣いで座り込み、時々せき込むように血を吐いている。肌は青ざめておりどうやら立つ力も残ってないようだ。突入直前に鳴り響いた轟音の原因によってそうなったのか彼の周りは凄惨なまでの凄まじい量の血で真っ赤に染まっており、治療をしてやりたいが、まずは敵の一掃を優先する。
「【ロード・エクスペリメント】」
あらかじめ描いておいた炎の紋章の起句を唱える。
双刀の刃が、つい先ほどまで炉に入れられていたかのように赤々とした灼熱の色に変わる。
微かな風に乗り、灼熱の火の粉が宙に舞う。
「さあ、行くぜ!」
そこから先はヒビキの独壇場であった。
武器防具の中の最高級である超遺物級の名は伊達ではなく、フォールンエルフ兵たちが纏う鎧を紙の様に切り裂き、それに守られた肉にも傷を負わせる。炎属性が付与された斬撃は、いっそ清々しいまでに抵抗なく対象を斬り裂く。刀使い独特の一切芯のぶれない先を読ませない自然な斬撃は、並大抵の者では防げない。
エルフ族得意の魔法攻撃が途切れることなく襲ってくるものの、カーディナルの種族特性によって全て相殺され、彼に効果を発揮することはない。
「なんだ、魔法が効かない!」
「なら物理攻撃だ!」
剣やら槍やらを構えて向かってくるが、ヒビキの刀の一閃でまとめて斬り飛ばされる。
そんなこんなで10分後、カイの声が響いた。
「ヒビキ、行きますよ!」
「おう!」
魔剣を操って照準を定めているカイの掛け声にヒビキが応えた直後、白熱した閃光が場を支配した。
だが、本来のデスペラードのチャージショットであるはずの一直線の極太の閃光ではない。
閃光は数秒続き、それが終わった後にはフォールンエルフ兵たちは全て消えていた。
だが、黒髪の青年とヒビキには何のダメージもない。
こちらへやってきたカイに呆れを含んだ声音で問う。
「カイ、断魔剣者のチャージショット攻撃は直線攻撃じゃなかったっけな?」
「そうですよ。剣をちょっといじっただけです」
「ったっくこの魔改造好きめ…」
案の定の回答に軽く溜息をついてから、奥の壁に寄りかかって座り込んでいる黒髪の青年の方に視線を向ける。
【解析】が発動し、彼のステータス覧を表示する。
「……!?」
【NAME】スコール・ブラッドレイン
【Lv】795
【種族】血晶精霊族
【職業】概念の操者/血晶武装者
【ステータス】
HP:161/99500
MP:89830
STR:890
VIT:921
INT:960
DEX:955
AGI:990
WIS:940
LUC:850
【属性称号(変更不可能)】
「忘失と血の雨の彷徨いし葬儀者」
【状態異常】
《大出血》《猛毒》《呪詛》《???(解除不可能)》《???》
「…………は?」
「…これ、は…」
ステータス完全カンストの自分たちに迫るハイスペックな値と、状態異常の異質さの両方に一瞬硬直した。
「……ッ、とにかく早く万能治癒薬ぶっかけようぜ!時間がねぇ!」
「……ですね!」
慌ててアイテムボックスから小瓶に入った万能治癒薬を1本取り出し、中身を青年の体にぶっかける。小瓶から零れた黄金色の液体は暖かな光粒となって彼の体を癒す。彼の状態異常欄から、《???(解除不可能)》《???》以外の状態異常が消えた。
しかし辛そうに喘いでいるままで彼は目を覚まさない。
「……………さて、どうしたもんかね」
「取りあえず、連れて帰りましょう」
「かね」
カイが彼を背負う。
丁度制限時間がきたのか、周囲の景色が歪み、気づいたときは地上の地下階段の傍にいた。
カイに背負われている彼はまだ苦しげな息遣いをしている。
「さて、帰ろうか」
「了解です」
2人は主街区カルディアに戻る。
―――――主街区の1つ、カルディアの付近。丘の上に大きな神殿が建っていた。
黒曜石のような漆黒の中に星の様な金銀の煌きを宿す最高級の混合金属、星夜金属を主原料として建てられたその神殿の正式名称は「三式夜樹神殿アステリスク」という。実は【蒼穹】の5つあるギルドハウスの1つとして作られており、神殿の外見をしているが、中は研究施設に似た作りになっている。
神殿の入り口の前には、灰青色の短髪をした1人の男性がいた。
この神殿の主であり製作者、同じ【蒼穹】所属のカーディナルの1人である【青灰の建築家】ルキである。額に巻かれているトレードマークの灰青の長い頭帯と、これまた長い帯を首に巻いている。
彼の背には氷の大盾と長槍がいつものように背負われていた。
「よう、お疲れ様。ヒビキ、カイ。そいつ誰だ?」
ルキの視線は、カイに背負われている黒髪の青年に向いている。
「取りあえず中入らせてくれ。まとめて説明する」
「わかった」
―アステリスク内の一室。
ヒビキとカイは、ルキに今までの事を簡単に説明した。
「……大体はわかった。というかな絶対そいつ、何かしらの重要なキャラに違いないんじゃないか?」
「だよな」
「状態異常の《???》はどういう意味でしょうか…?」
「ま、起きたら聞いてみようぜ」
「……その間どうしましょう」
「ま、適当に暇つぶしとこうか」
「とにかくあの2人も呼ぶぜ」
あの2人、とは勿論【蒼穹】所属の【白銀の召喚士】ユリィと【紫紺の彫刻師】アリスの事。ルキが2人にプライベートチャットを繋ぎ始めた。
数分後、ルキがチャットを終えて少し経つと突然、ピロンッ、と音が鳴り、ウィンドウが開いた。
《キャンペーンクエスト開始についてのお知らせ》
2人のキーNPCが発見されましたので、只今よりキャンペーンクエストの概要を説明いたします。
今回のキャンペーンクエストは、カテゴリとしてはギルド戦の亜種となります。
各ギルドがランダムに『血晶精霊族陣営』『聖花精霊族陣営』へと振り分けられ、相手陣営所属の拠点を攻めることか迎撃することで貢献度がたまります。
クエスト終了時点の貢献度の値によって、報酬の効果が若干変わります。
勝利&敗北条件、勝利報酬は両陣営ともに基本共通です。
【勝利条件】
・相手陣営所属のギルドの中のどこかの拠点に設置された『輝きの水晶』の破壊。
・相手陣営の精霊族NPCの中に存在する、『血塗れた咎人』称号者を自陣営所属NPCの『断罪者』に倒させる。
【敗北条件】
・自陣営の『輝きの水晶』が破壊される。
・自陣営所属の『血塗れた咎人』称号者が相手陣営所属の『断罪者』に倒される。
【参加報酬】
・ステータス強化[小](永久)
・イベント称号《闘争の精鋭・???の協力者》
【勝利陣営報酬】
・イベント特殊称号《???の友》(貢献度により効果の度合いが変動)
※『血塗れた咎人』称号持ちNPCは他より戦闘能力が高い上、特殊なNPCです。
※『断罪者』称号持ちNPCは複数いますが、『血塗れた咎人』称号持ちNPCは1人のみとなります。
※「貢献度」は[キル数]、[援護]、[妨害]、[防御]、の4つのスコアを加味され判定されます。故に、「逃げ回った挙句、最後にいいところだけを持っていく」様な行動では貢献度は上がりません。ご注意ください。
※勝利条件及び敗北条件のどちらか一方が満たされ次第イベントは終了します。
以上となります。
「…まさか…ですよね」
「…………………」
2人は無言で、ソファーに寝かされている青年の方へと視線を向ける。
ルキも、ギルドハウスの効果で強化された【解析】スキルで視たのか軽い溜息を一つついた。
「案の定、『血塗れた咎人』の称号持ってるようだ」
「だろうな」
「あのハイスペックさを見ればわかりますけどね」
3人で考え込んでいると、不意にごそりと物音がしたのでヒビキがその方へ目を向ける。
すると、黒髪の青年が目を覚ましていた。ぼんやりとした目で周りを見回し、段々と目の焦点が結ばれ最後にヒビキたちを見つけたのか視線がこちらを向く。
「………………!?」
見る者の精神を引き込みそうな深海を思わせる深い青の双眸が驚いたように見開かれた後、少々警戒の色を含んでこちらを見据えている。
「よぉ、体調は大丈夫か?」
こくり、と青年が頷く。するとヒビキの目に映る彼のステータス覧の状態異常の《???(解除不可能)》が変化し、その正体を明らかにする。
「……………?」
ヒビキがそれを視て硬直しているのを見て、青年は訝し気に首を傾げる。
「……………お前さ、」
一旦、躊躇するように間を区切り、
「……………喋れないのか?」
すると、ばれたのなら隠す意味もないとでもいうように、彼はまた頷いた。
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自筆です。
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