あの日さえ

滝尾ゆき

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俊矢のこと

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結局倒れたその日はそのまま早退した。
心配したクラスメイトからのメッセージが届く度に温かい気持ちになる。

翌日、登校すると友達が心配そうな顔で大丈夫かと聞いてきた。

「もう大丈夫だよ!心配かけてごめんね」

「良かった~」

「あ、私2組に行かないと」

「2組?あ、紗代ちゃんも相田くんのこと見に行くの?すごいかっこいいもんね!」

相田という名前が出ただけで、何人かの女子が振り向いた。

「あ、相田って、相田俊矢のこと?」

「そうだよ!モテすぎて、上級生からも告白されたんだって!」

「そ、そうなの?」

確かに、見た目はすごく良い。背も高いしかっこいいとは思うけど...

「2組行くなら私も行くー!」

結局何人か着いてきてしまった。
俊矢に連絡先を聞こうと思ってたのだが、これは反感を買うパターンになりかねない...連絡先聞くのは今度にして、俊矢のモテっぷりを見に行くか...

2組のドアの前には女子が数名居て、中を覗いていた。
教室の中を見ると、人だかりが出来ていてその中心には俊矢がいた。

こんなにモテているなんて...

私はそっと帰ることにした。

「お、おい!紗代!」

まじか...空気読めよ...

私はとりあえず走って教室に帰った。
一緒に行った女子達も着いてきて、またしても質問攻めにあった。

「さっき相田くん、紗代!って言ってなかった?」

「紗代ちゃん相田くんと知り合いなの!!?」

「えっと...うん、知り合い」

「え、どんな知り合い!?まさか付き合ってるの!?」

目の前の友人の鼻穴が開ききっていた。

「小学校からの同級生...」

「じゃあ相田くんって西中出身なの...?」

やばいことを言ってしまったかもしれないと思った。俊矢が西中出身だということを隠していたとしたら?

「えっ?」

クラス中がざわめき始めた。

「紗代...なんで逃げんだよ」

俊矢が私のクラスに入ってきた。
空気読めよと一瞬思ってしまったが、俊矢の隠し事をバラしてしまった罪悪感が勝った。

「と、俊矢...あの...ごめん!俊矢が西中出身だって言っちゃって...ほんとにごめん!」

「はあ?別に隠してねーよ」

更にクラス中がざわめくのがわかった。私が俊矢と普通に話していること、禁句だった西中の話題を自ら出していることの両方がクラス中から反感を買う対象になってしまったようだ。

「お前ら西中出身なの?くっそウケる!」

空気が読めないことで有名な男子、高崎が大声で笑い出した。

「じゃあ何?あの爆発の時死体とか見たのかよ!?爆発すると人ってバラバラになるの?教えろよ」

やめなよ高崎...言いすぎだって...
そんな声も聞こえてきた。

今まで思い出さないように努力していたことが一瞬で蘇ってきた。フラッシュバックだ。振り払おうとしてもずっと流れ続け、私は頭を抱えてその場に座り込んだ。息が苦しい。呼吸の仕方がわからない。苦しい。助けて。そこで私は意識を手放した。

「紗代...大丈夫か?」

保健室で目が覚めて1番最初に聞いたのは、俊矢の声だった。

「私また倒れたの...?」

「あぁ」

俊矢の目が赤い。

「俊矢...泣いたの?」

「泣きたくなくてもあの事件以来、勝手に涙が出て止まらなくなることがあるんだ」

俊矢は苦しそうに言った。私たちの心は崩壊していたようだ。
私はベッドの小さな柵に手を置いて下を向く俊矢の手を握った。

「辛いね...」

涙が出てきた。

「...辛い」

俊矢も泣いていた。

「俺、どうすればいいのか考えたんだ」

「うん」

「逃げてばかりじゃなく、向き合ったほうがいいんじゃないかって思う」

「どういうこと?」

「みんなに伝えよう...全校で作文を読む集会があるだろ?そこに二人で応募してみないか?」

俊矢は依然辛そうなままだが、その声には強い意志を感じた。

「でも、また泣いたり過呼吸になったりしたら?」

「そうならないように二人で練習しよう。一人では無理だけど、二人でなら出来るかもしれない」

それは悪くない提案のように思えた。
カウンセリングに通い続けても回復の兆しが見えなかった私達にとって、それは大きな決断だった。

「今年の作文発表は3ヶ月後。たぶん間に合わないだろうから、来年か...それでも無理なら再来年。とにかく、やらなきゃいけないと思うんだ。高崎みたいな無神経なやつを黙らせることにもなるはずだから」

握ったままの俊矢の手は震えていた。
俊矢も怖いんだ。
これは、心の崩壊を止めるための大きな賭けだ。

「やる。俊矢と一緒ならできるかもしれない」

私も賭けてみよう。

「よろしくね。俊矢」

「ああ...よろしく」


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