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3:a boy give a beginnig to you under the starbrithts
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非常灯とナースステーションの明かりだけが照らし、薄暗い廊下はさらにその暗さを際だたされている。
暗い廊下に、小さな嗚咽が微かに聞こえる。
慌ただしくナースステーションと救急救命室を行き来する看護士。通常とは違う数名の雰囲気に看護士の一人がちらりと目を遣るが、ぱたぱたと行くべき所へ行く。
――頭部打撲、脳内出血、後部腰部刺傷、腹部刺傷。
切れ味の悪いペーパーナイフで刺された為、傷口が裂傷に近く止血に手間取り脳内出血の手術までまだ踏み切れていない。
席田橋と咲津港駅の中間にある、平城崎市立みなと病院の廊下で数名の男女が黙りこんで待合いのベンチに座り込んでいる。弓削家、巳津子と成壱。真央家、由紀夫と早実。
真央聡美はここにいない。逸朗が気を失った直後に取り押さえられ、彼を救急搬送した後警察に身柄を拘束された。
「……なんで、こんなことになったんだ」
逸朗の父、成壱がぼそりと言った。
「そんなの、こっちが聞きたいですよ!」
「姉さん、どうなるの? ああぁ」
「うるさい、私だって混乱している」
いらだちを隠せない由紀夫。
「私の配偶者は犯罪者になったんだぞ! めちゃくちゃだ! 何もかもめちゃくちゃだ!」
苛立ち落ち着かせようと数歩歩いて座り、また黙り込む。
重い空気がたれ込む。そんな折りに、成壱が切り出すように言い始めた。
「……そもそもだよ、そこのやつがうちの逸朗をたぶらかしたんだよな?」
言い争いには入り込まずひっそりと嗚咽をもらしていた早実がひくりと怯えて震える。
「逸朗はあんなだいたんな事をやるやつじゃない。最近おかしいと思ってたんだ……おまえがたぶらかしたんだろ」
「そうよ、そうだわ。姉さんだって、あなたの事嫌いって言ってたもの」
非難の矢が向けられていく。巳津子までも加わり、意地悪く早実をにらみつける。そして、うすうすわかってはいたものの知りたくもなかった事まで知らされてしまい、早実の胸はばりばりと音を立てて引き裂かれていく。
「親戚だから甘い目で見てたけどな、ほんとは冗談じゃないって思ってたんだ。ほら見ろ、あんたのせいで逸朗はぼろぼろだ! 逸朗が死んだらどうしてくれるんだ?」
「そうよ、あの子はいつも千夜子(ちやこ)の面倒見てくれてたのよ! いなくなったら誰が毎日の様に見てくれるっていうの?」
――いつくが、死ぬ?
手足から冷たい感触が走っていく。喪失への恐怖。急激に落下する際に感じる感覚に似た冷たい感覚。
「逸朗が死んだら、おまえのせいだ」
――私の、せい?
ぐらぐらと言葉が反芻して響く。
――いつくが死ぬ。私のせいで死ぬ? 私のせいで……?
手と体ががたがたと震える。言葉がコピーされ無理矢理頭に詰め込まれるような錯覚が更に早実を追い込んでいく。
対応に当たっていた救命士が弓削家の両親を呼びにきたので、そのまま二人は救命士の言われるままに立ち去った。つられるように早実の父、由紀夫が立ち上がった。
「……おまえはもう娘でもなんでもない。これで好きに出ていけ。のたれ死のうが、知ったことか」
はらりはらりと紙切れが落ちる。
「ま、まって……」
椅子から立ち上がり、父の背を見つめても彼は振り返りもしない。そのまま崩れ落ちる早実。
「……う、ああぁ……」
ぼたりぼたりと床に落ちた数枚の一万円紙幣の上に涙が落ちる。
かつんかつんと父親の靴の音が遠のいていく。
「ああ、……あああぁぁぁ……あああぁあぁぁぁぁ!!」
呻く様な嗚咽が、やがて絶望が吹き出すように叫びに変わった。
――すべてを失った。
喪失感にただ泣き声をあげる。
――無力で、無知で、無鉄砲だった。
やがて疲れきり、泣くのを辞めた彼女の背に『死』の陰がすり寄ろうとしていた。ふと、父親が去った方向と逆の方向から、革靴の堅い足音が近づくのに気付いた。
老いてもおらず、かといえど若々しくもなく。外国製とおぼしきスーツをかっちりと着こなし、日本人特有の黒髪もふわりとしたままきっちりとまとめている。かつりかつり、上品な革靴の音がゆっくりこちらへ近付いて来る。
「これほどの絶望をかつて見たことがあるだろうか。否、私の知る所では見たことがない」
薄暗い廊下を、ゆっくりと歩き早実の面前で男性は足を止めた。
「稚拙な、逃避行の末のこの結末は万人が悲劇と認める事だろう。故に、少女は絶望する」
「…………」
ただ黙してこの滑らかに語られる演説を見つめる。
「轗軻不遇にして、世に受け入れられず己の無力さに涙するか。それを肯定し“傀儡のように黙していれば”――そう後悔するのかもしれない。もの言わぬ石ならば――彼が気にも留めぬ石ならばこの結末は来なかった」
「……うるさい」
「私はただ手を貸そう。その絶望から抜け出す意志があるならば」
「…………」
感情の見えない男の言動。何を言っているのだろうか。
「もの言わぬ石になるか。それとも鳥に変容し、大きな翼を広げ、望む未来へ羽ばたくか」
再び、早実の心に何かがこみ上げ始める。
「苦しみのない未来を欲するか。この悲劇を嘆き、変えたいと願うか」
嗚咽で呼吸が詰まる。
「私は……ッ」
「さあ、手を」
いつの間にか男の手には白い立方体があった。
「私は、こんな未来欲しくなかった!!」
救いを求めるように手を伸ばす。
――白転。
――――――――――――――――――――…………
――――――――――……
――――何も、起きないね」
「そうだな。帰ろうか」
「うん、帰ろう……―――――――――――――
―――――ー……――――――――――――――…………
――――――――――――……
「あのさ、俺家を出ようと思ってんだ」
「…………」
「その、さーちゃも一緒に出よう。あの家にずっといたらダメになっちまう」
「……いいよ」
「……そっか、うん。俺バイト頑張るよ!」
「なんか、かけおちみたい」
「そうだな、みたいだな――――――――――――――――――…………
――――――――――――……
――――――――……
――――――……――――――…………
――――…………迎えにいくよ』
『分かった』
――――――――――――――――――――…………
――――…………
――――――――どこに行くんだ」
早実が振り返った。いつもなら夜中に帰ってくる由紀夫が、リビングで玄関の物音を聞きつけて早実を呼び止めた。
「コンビニ」
「そんな大きな鞄持ってか?」
何も言わず、視線を逸らす。
「だいたいおまえ、最近成績が悪すぎる。学業をおろそかにする事は愚かな事だ」
――何も、知らない癖に。
「なんだその目は。父親に対する態度じゃないだろう」
――何が父親なの。
「こんな時間に出歩くなんて私は許さん」
無視してドアノブに手をかけたが、引き離そうと由紀夫に腕を掴まれる。
「離して……!」
「いつからおまえはそんな不良娘になった? 学校もろくに行ってない、勝手にバイトはする、そのうえ暗くなってから出かける、そんな娘に育てるつもりなどなかった!」
「何もしてないくせに!」
振りほどきたくても、早実の力では男の力には勝てない。
「私、もう嫌なの……!」
「何が嫌だっていうんだ……!」
「なにやってるの?」
リビングにいた聡美(さとみ)が騒ぎを聞きつけて、玄関の方をのぞく様にリビングのドアからのぞき込む様に見ている。
「お父さんになにするの!」
揉み合い争う二人の様子に驚き、聡美は血相を変えて早実に掴みかかった。
「やめて、離して……!」
三つ巴で争ううちに腕がドアノブに当たりがちゃりとドアが開き、反動で外によろけ出てしまった。
「……!? さーちゃ?!」
「いつく!」
ドアの向こうに、すでに待っていた逸朗がいる。
手を伸ばすが両親に引っ張られ家の中に引き込まれてしまう。閉められる前に無理矢理足を差し込み強引にドアを開ける。
「早実を離せ!」
「おまえの指図は受けん! おまえだろう、早実をたぶらかしたのは! 従兄のくせに汚らわしい!」
「そんなんじゃねえよ! おまえらはさーちゃの事なんもわかってねえじゃねえか!」
あまりにも酷い言いぐさに腹が立ち、拳で殴り飛ばしてしまった。やりすぎたか? と少し焦ったが、殴られた由紀夫が早実の腕を離したのでその隙に早実の腕を掴んでこの場を離れようとした。
「早実が、いなくなったら、私は、私は……!!」
後ろからの声に振り向く。思い詰めた様な、追いつめられたともいえる形相の聡美が手に何か持って震えている。
「ああああああああああああぁぁぁッ!」
ぎらりと光る物が何か気づいた瞬間に早実の手を離しかわす。
「やめろ!」
室内の狭い廊下ではかわすにもスペースが足りない。やみくもに振り回されるナイフを避けるにもどんどん余裕が奪われていく。
「聡美、やめろ!」
叫ぶも怯えて動けない彼にも何も出来ない。
「私から、取るな、お父さんを、取るなあッ!」
支離滅裂な言葉と共に、家具に足を取られてよろけた逸朗にナイフが振りおろされる。
――いつくが、死ぬ。
ふいに、そばで怯えていた早実の脳裏に何かが掠めた。――そして立ち上がり、
「――お願い、やめて」
逸朗の視界を早実の背が塞いだ。
力無くどさりと早実が崩れ落ちる。
「え……うそ、だろ。……さーちゃ? さーちゃ。おい、なん、なんだよ、ねえ、意味分かんねえ、なんだよこれ!! 何なんだよこれはッ!」
揺すっても起きない。抱きかかえても反応もない。胸部から溢れる物がなんなのか理解を拒む。赤く染まっていく手が、震えている。
「きゅ、救急車、呼ばないと!! くそ!!」
我に返った由紀夫が慌てながらも立ち上がり、聡美からナイフをもぎり取りばたばたとリビングへ駆け込んでいく。
「早実、早実、なんで、やめてよ、俺こんなの嫌なんだ……なんで、意味わかんねえよ、早実、早実あああぁぁッ!」
涙で視界がぐらぐら揺れる。髪を撫でても、頬を撫でても何にも返してくれない。
「俺は、おまえを助けたかったんだ、こんなこと望んでなかったんだ」
呆然と立ち尽くす聡美、生の気配が遠のいていく早実、余裕をなくしながらも救急車の手配をする真央由紀夫。その中で、弓削逸朗は叫ぶように彼女の名を叫び泣き続けた。
――咲津港駅の近く、平城崎市立みなと病院に運ばれ、まもなくして真央早実の死亡が確認された。
彼女の血で赤く染まった手にぼたりぼたりと涙が落ちる。待合室の椅子に座り込み、手をじっと見つめ嗚咽をこらえる事もできない。自分の手を染めているのは彼女の血液だというのに、頭は一向に受け入れようとはしてくれない。
――どうして。
反芻する言葉。
――なぜ、早実が。
ぐるぐる回る思考。
泣くのを辞めたい。でも涙は言うことを聞かない。
そうしているうちに、苛立ちを隠せなくなった真央由紀夫が彼の胸ぐらをひっつかみ無理矢理顔を上げさせた。
「どうしてくれるんだ、おまえのせいで何もかも失った!!」
薄暗い、逸朗と由紀夫の二人しかいない廊下に怒声が響く。
「母さんは犯罪者になった、早実は死んだ! 私に残ったのは何もない! 犯罪者の配偶者と知るものがいる職場に居られるわけがない!」
何の抵抗もせず、絶望にまみれた瞳で逸朗は彼を見返す。
「おまえがすべてを奪ったんだ! 貴様が、私のすべてを奪ったんだ! 一層の事、おまえが犯罪者になって死んでいればよかったんだ!」
由紀夫は手を離し、吐き捨てるように言って去った。
――そうだよな。
力無くだらりと腕を下げ、床に膝を付け天井を仰いで弓削逸朗はぽつりと思った。
――そうしよう。
そして、彼はよろりと立ち上がった。ぼろりぼろりと涙が落ちる。
――短かった。十七年は。
血だらけのシャツも気にせず、よろよろりと歩く。
「弓削逸朗、ですか」
ふいに声がかけられた。
「データの異常ポイントが確定されました。情報の是正が必要となります。スクリプト開始まで百八十分四十秒です。弓削逸朗に、データ是正移行作業の協力と同伴を願い出ます」
機械的に発せられた言語に戸惑いしか感じない。そもそもこの人物は誰なんだろうか。
肩口までのボブカットの髪を一部後ろで留めハーフアップにし、どこにでも売っていそうな白くふんわりしたケミカル繊維の長い袖のブラウス、ボックスに近いタイトな黒っぽい膝丈のスカートを履いている。何も言わずに街に立っていたら、誰しもが『OLである』と認識する姿である。
「誰なんだ」
ぼろぼろの精神ながら、自分の名前を知るこの女性に当然の疑問をぶつける。
「私の名称は、『榛原朱鷺子』です。残り三十秒でここでの実行内容が保証されます。移動を願い出ます」
何を言っているのか、まるでパソコンと喋っているようだ。
「時間がありません。強制執行します」
というと逸朗の返答を待たず、腕を掴んで歩き始める。
「データの強制ブリングが実行されています。拡張コピーが実行される前に予定スクリプトを実行します」
「は、はああ? なんだ、ブリング?」
立ち止まろうとしたものの、意外にも力が強かったためよろけそうになる。諦めて相手に歩幅を合わせ歩く。
「おかしなバイト、というワードを提示します。この言葉の意味を理解していると確定した場合、弓削逸朗には同伴の義務が発生します」
「……バイト?」
栗原(くりはら)時香(いつか)から申し出されたあのアルバイトを思い出す。あれのことなんだろうか。
「その表情を、理解したと見なします。あの”アルバイト”はブリング用データの収集行動です」
表情の動きもなく機械の様にそういうとドアを開け、外に出た。
理解が全く追いついていない。
――ブリング? データ? なんだそれ。
「港側のポイントに移動します」
またも返事を待たず、歩き出す。
ほどなくして、”ポイント”らしき場所に到着したらしく、立ち止まった所でようやく腕を離して貰えた。河口が近くにあり、やや複雑に入り組んでいて小さい漁船用の造船所も河口に沿っていくつかあった。
「やあ、君は弓削逸朗くんだね」
その造船所の、鉄骨で出来たリフトをぼんやり見ていた少年とおぼしき人物が振り向くなりそう言った。
おしゃれ、とは言い難い東南アジアに売っていそうな淡いブルーのラフなコットンシャツ、シンプルな飾りで緩く留められたループタイ、紺色のハーフ丈のカーゴパンツ、荒い素材の白いサボシューズ。見た目からして十五、六ほどだろうか。ほとんど金髪の髪が、ショートヘアでふわりと纏められている。ふわふわとした柔らかい面立ちでどことなく育ちがよさそうで、なおかつ何かを悟っていそうでもある。
「なんで俺の名前、知ってんだ」
「そりゃあねえ、ずっと捜してたから」
「なんで俺を捜してんだよ」
そういうと少年は、こめかみに人差し指をとんとんと当て、
「榛原、この子にちゃんと説明した? 来るとき混乱しないように時間までにある程度は説明しておいてって僕言ったよね?」
「はい。簡潔にですが、説明しました」
「……君の『簡潔』は何も知らない人物に説明するには、説明が足りないよ」
「……説明の為の『説明』を省略したということですか」
「そうだけど、……まあ、君だから仕方ないか。僕が説明するよ。時間がないから移動しながらになるけどいいかな」
事態が飲み込めないまま進行していく事に不安を覚える逸朗を察し、少年は微笑んだ。
「よく分からないことに巻き込まれそうって顔してるね。大丈夫、君はとっくに巻き込まれてるからさ」
黙して俯く逸朗。
「……気持ちはわからなくもない。今動くことはたぶん君の負担になるだろうね。でも、君がちゃんと今動けば、やるべきことをやれば、真央早実が死んでいないという本来のデータへ修正出来るとすれば? 君はどうする?」
逸朗が顔を上げる。
「真央早実は死ぬはずではなかった。この今ある現象はあるべきではない現象なんだ」
「……あいつ、死なないのか?」
こみあげる涙で声が震える。
「そうだよ」
「でも、死んだ、あいつは死んだ」
「でも、それはあるべき事ではない。僕たちはそれを修正できるんだ」
逸朗は涙を拭いた。
「一緒に来るかい?」
うないづいた逸朗を見て少年は微笑んだ。
「まだわけわかんねえけど」
「そうだね。説明しなきゃね。あ、そうだった。名前言ってなかったね。僕は鐸鳴(さなき)弥継(やつぎ)。難しすぎてちゃんと読んで貰えないような字で書くよ」
少し困ったような顔で笑う。
彼は、言いながら逸朗をうながすように駅に向かって歩き始めた。
朱鷺子を含めた一行は、港駅まで戻りそこからほぼ終電に近い電車に乗った。客はほとんどおらず、三人が乗り込んだ車両には彼ら以外には誰も乗っていなかった。
「どこから説明しようかな。そう、そうだね」
座席に座るなり、弥継がそう切り出しポケットからメモとペンを取りだした。
「まず、世界系線の説明が必要だね。世界系線というのは、いわゆる時間軸に依存した時空線、まあ、言ってしまえば世界線だね。この世界系線の線、セクションラインというのは無数に、平行に直進していて交わる事もない。一切の干渉を受けられないようになっているんだ」
顔をしかめる逸朗をよそに、メモに線をすらすらと何本か書き込む。
「これを干渉、あるいは、うーん、バグのように差し込む事ができるのがブリング。これは高次次元式を多重に構築した事により可能になったんだ。――これを君は見たことがあるはずだよ」
そういって弥継はポケットから何かを取りだした。
「これ……」
「そう、これはブリングキューブ。データ収集専用のものもあるけど、これは僕専用のブリングキューブだよ」
白、あるいは完全燃焼した灰の様な白さの、硬質であり光沢のないおかしな物体――見たことのあるあの立方体によく似ていた。幾何学的な筋がこちらの方が色濃く出ている。
「この中に多重高次元体を構築し、閉じこめてある。これがね、こんな風にセクションラインを飛び越えてナイフみたいに傷を付けるんだ。そしてこじ開けた穴に別の世界系線のデータをブリング、移行すると……ってわかりにくいかな」
逸朗の眉間の皺が深くなっているのに気づき、苦笑いを浮かべ弥継は別の絵を描き始めた。
「もっとわかりやすく説明しようか。たとえると、セクションは蓋をしたジュースみたいなもの。これが並んでいても何も起きない。だけどね、この蓋に穴を少し開けて漏斗みたいな物を差し込む、そして片方のコップの蓋にストローをさして漏斗へ傾けて蓋を押してみる。どうなるかな?」
「ストローのあるほうからジュースが出てきて漏斗に落ちてコップに入る……?」
「そうそう、正解。漏斗がブリングキューブ、ストローがデータ収集キューブなんだよ。これ自体をデータ移行、ブリングって呼ぶんだ」
逸朗の眉間の皺がゆるみ、少し表情が明るくなったのを見て弥継は、
「君ってわかりやすいね。僕、そういうの好きだよ」
にっこり微笑んだ。
「てか、どこまで行くんだ? 俺、何したらいい?」
「うん。行き先はね、堰島駅だよ。君が何をすべきかの前に、君が置かれている状況を理解して置いて欲しい」
逸朗がその言葉にうなづく。
「いいかい、君たちの状況は非常に複雑で修正には時間がかかる。弓削くん、真央早実の二人に起きているのは、完全なブリングではなくデータのコピーの挿入なんだ。しかも、君たちの周囲だけに限定されている。君たちがデータ収集中に行動しなかったその先は、この世界系線には存在していない」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、それって、世界が俺がいた場所以外無いってことだよな?」
「そうだよ」
「でも、テレビはちゃんと映るし電車の向こうの駅からは人だって」
「そうだね」
あまりにも衝撃的な”事実”に動揺する逸朗をたしなめるようにうなづく彼は、柔らかい表情のままじっと逸朗を見つめる。
「それはね、その先の存在空間は正常な世界系線に依存しているからだよ」
そういって線をまたメモに書き込み、階段のように下へ下へ次々と書き込んでいく。
「データの強制的なコピーによって、他のセクションに矛盾を起こし、自然収束するためにパラドクス的な世界系線の断裂が起きる。そして存在しない世界系線が新たに分岐する。その世界系線は元から矛盾を持っていて更に分岐していく。そしてまたほぼ自動的に次の世界系線へと浸食していく」
話している間にもどんどん階段状の分岐が書き込まれていく。真っ黒になるんじゃないかと、恐怖すら感じ始めていた。
「じゃ、じゃあ、俺、今どのへんにいるの?」
「……さあ」
怯えながら聞いたが、弥継は表情を変えずにそう答えた。
「末端かもしれないし、改変拡張された分岐の途中かもしれないし。僕らは世界系線の異常な浸食を追って調査してここにいるからね。間に合ったのがこの世界系線の君というだけなのかもしれない」
電車が秦市駅に到着し、ゆっくりと立ち上がった。
「さあ、乗り換えだね。いこう」
「あ、ああ」
席田橋から秦市の間は市営線なので京逢線である堰島に行くには乗り換えが必要になる。迷うこともなく徒歩で移動し、すみやかに乗り換える。
乗り換えまでの経路の間、逸朗が弥継に尋ねた。
「あいつら、どうして俺たちをこんな目に遭わせるんだ? 利用、されてるんだよなこれって」
「……そうだね。思いっきり利用されてるね。それはね」
俯きながら、そっと言葉を発するとポケットからブリングキューブを取りだし、続けた。
「これは未完成なんだ。完全ではない。動作もする、問題もさほどない。でもね、これを作った人の理論はもっと先をいってたんだ。そう、世界系線をまるごと作り変えられるほど、言い換えれば『世界』そのものを書き換えられるほどのものだった」
彼はそこで一度立ち止まった。
「それは、ハイパーアルティレイトキューブ、通称ハイパーキューブって呼ばれているんだ」
「それがあいつらの目的?」
逸朗が息を呑んで聞き返す。
「そう。このキューブを作った人はね、ここまで来て作るのをやめたんだ。僕はそれを賢明な判断だと評するよ」
再び歩きだし、こう続けた。
「これを開発させようとやっきになっているのが彼ら。頭脳派とも言われているね」
「頭よさそうな呼び方だな」
「まあ、そういう感じより単純に頭と金で人を動かしている節があるからってのもあるかな」
「嫌な感じだな……」
「君の感覚ってくすぐったいね」
逸朗の反応に弥継は微笑まし気に言ったが彼は首を傾げて、
「なんで?」
「なんでもないよ」
そんな反応にも弥継は微笑んで、嬉しそうに先陣を切って歩いていった。
そうこうしているうちに京逢電改札に到着し乗り換える。秦市も堰島も鈍行しか止まらない。乗っている電車も終電まであと数本というところだった。平日の夜の鈍行ともあって、客はほとんどいなかった。
「っていたのかよ」
「いましたが」
存在を完全に忘れていた、榛原が表情を変えずに答えた。手をきっちり揃えて姿勢良く座席に座っている。
「まあ、気にしないでよ。いつもこうだから」
慣れているらしく、ふわふわとした半端な笑みで弥継は言う。
「それより、到着する前にこれを渡しておくよ」
そういってポケットをまた漁ると、一辺が三センチほどの小さい黒っぽい立方体を数個取りだして逸朗に手渡した。
「これはね、ムーブキューブって言ってあちこちから採取した災害のエネルギーデータが入っている。それを持っている状態で解除コードを言うとエネルギーデータが解放される。これが解除コード。今言わないでね、死にたくはないから」
にっこり笑って紙切れを一枚渡した。解除コードは英語で書かれているようだ。
「……? ディ、ディス、」
「――ッ?!」
そのつぶやきに烈火のごとく、制止の手を逸朗に差し向けたが、
「……ちゅー? ぶ?」
「……正しく読んでいたら僕ら電車内で大変な目に遭ってたよ、弓削くん」
「え? ……すまん」
苦笑いの弥継の言葉に逸朗は疑問を抱きながらも危ないことをしたようだと思い謝罪した。
「……カナを振るけど、必要な時以外には絶対声に出さないこと。非常に精密にコードを聞き取るから、このキューブは」
「わかった」
逸朗の手のひらを台にして弥継がペンで読みを書き込んでいく。
「なあ、こんなの必要になるってどういうことなんだ」
「必要だからだよ」
「…………防衛?」
「防衛でどうにかなる状況じゃないよ。これは攻撃用だよ」
特別でも何でもないのかそっけなくいう弥継。
やや首を傾け手のひらに乗っているキューブを眺め逸朗は呟く。
「物騒だな……」
くすりと弥継が笑う。そのうちに電車は堰島駅に到着していた。
弥継に促され、下車する。そのまま改札を出て駅前の小さなロータリー広場に出る。そこから少し歩いて駅の西側、大きな楠(くすのき)がある神社の前まで行く。
この楠の木は、高架駅の真ん中を貫くように佇んでいて電車を降りてすぐからでも目にすることが出来る。この樹自体が主神であり、堰島の大楠(おおくす)として奉っている神社の前で三人立ち止まる。
「榛原、オーダー、ブリングオペレート、スタンバイ」
「はい、ブリングスタンバイ――了承しました。データの集拾を開始します」
「弓削くんー、キューブ持って警戒しててね」
「へ? あ、ああ、はい?」
キューブを手のひらに乗せ、榛原がなにやら機械的に難解な言葉を高速で発しているのを唖然として見ていた逸朗が振り返り、更に戸惑いを見せる。
「まあ、普通に追いかけてくるよね」
なんだ? と弥継の視線を追うとその先には逸朗の知らぬ女が一人立っていた。駅の下をくぐる川の側、橋の向こうから誰かがこっちを見ているようだった。
つかつかと女性らしいハイヒールの音と共にこちらに近づいてくる。
「あっちにいないからおかしいとは思っていたけどね、まさかあんたたちが来るとは」
「まあ、ひさしぶりではあるかな。そっちはどうか知らないけど」
「あんたの仏面顔なんてみたくないわよ」
お互い知り合いのようだ。女はヒールの高いハイヒールに、ぴったりとしたスーツスカート、七分丈のぱりっとした袖と襟のシャツを着ている。秋である今、夜更けには肌寒い格好ではある。いらいらしているのか、腰に手を当て片方の手でぱっつりと短く揃えた髪をかき上げてヒールをかつかつ鳴らしながら弥継を睨んでいる。
「そ、れ、に! なんであの女がいるわけ?! もう最悪!」
「そう言われても、今組んでるの彼女だから」
女は榛原朱鷺子を指さし、弥継を見たときより一層険悪な面相で弥継に詰め寄った。高速でぶつぶつと難解な言語――実行コードを発していた榛原が首少し傾けこちらを見た。
「データ集拾一時停止。――こんにちわ、年増の田中真鞠子さん。コード展開再開――」
「きいぃぃぃぃぃーーーッ!! なんなのよあんた!!」
無表情で言うだけ言ってブチ切れる女――田中真鞠子を完全に無視して再び実行コードを高速で呟き出す榛原。
「ほんとむかつく! あんたになんか言われたくないわよ! ていうか年そんなに変わらないでしょ?!」
「口喧嘩なら集拾防いでからにしてくださいよ」
きいきい噛みつく田中真鞠子の後ろ、橋の向こう側から少女が一人歩いてきていた。その少女が、栗原時香であることに逸朗は驚き、同時に納得した。
――利用されていた。その事実は今はっきりと彼の中で明確になった。
「弓削くん、榛原の周り三メートルの中にあいつらを近づけないで」
「お、おう、わかった」
すっと寄って逸朗に耳打ちし、地面を蹴るように飛び出し時香の方へぐっと距離を詰める。
「セクションNo.58965、カテゴリQ、時系座標A4679F0、コタキナバル沖――」
呟いて即座にムーブキューブを時香の足下に投げつける。
「disturb(ディスターブ)」
キューブの着地と同時に解除コードを言い放つ。コンマ一秒の解除コードの認証の直後、キューブからエネルギーが解放され地面が、巨大なおもりでも落としたかのようにべこりとへこむ。
「チッ……!」
寸前で時香が飛び退く。
「相変わらず乱暴だわ、武闘派は」
「君がそれを言うの? そもそもそれは勝手にそっちがそう呼んでるだけでしょ? 僕らは君らのやっていることが気に食わないから殴り飛ばしてるだけ」
臨戦態勢に入った真鞠子が弥継を睨む。弥継は怯むこともなくむしろ軽くバカにしたように笑う。
「なあ、なあ弥継、さっきの爆弾なのか?」
「似てるけど違うよ。ほんと君のその感覚、くすぐったくなるね」
小声で耳打ちしてきた逸朗ににこにこしながら答える弥継。
「君のはテンペスト、風害だね。さっきのは別に言わなくていいよ。僕の趣味だから」
言ってまた新たにムーブキューブを真鞠子と時香の足下に投げつける。
「カテゴリQ、disturb」
「それを乱暴な暴力っていうのよ!」
真鞠子が叫びながら飛び退き解放エネルギーから逃れる。
「そうかな、なら君らは性格悪い頭脳派だね!」
間髪入れず、キューブを投げつける。
「弓削くんも加勢してよー」
「あ、そっか。わかった! えっとー、disturb!」
呆けて見ていたが、加勢しようと逸朗も解除コードを呟くが、
「うおわあああああぁぁッ?!」
キューブを握りしめたまま解放した為に風が拳の隙間から吹き出し腕に引っ張り回されるように走り出してしまった。
「……こいつはすげえな」
風が止み、キューブを握りしめたまま未知の機器の機能の用途と使い方を得て高揚した逸朗がにやりと笑った。
「愉快だね」
茶化すように田中真鞠子の応戦の相手をしていた弥継が横目で彼の様子を確認しぼそりと言ってふっと笑う。
「集拾完了まであと三百六十秒。バグレポートはありません」
「いかせるかですよッ! 座標コードx376930、y27364、z000234、エクステンドコード01009723、移動座標コードy000072、ムーブ」
榛原の機械的な報告を耳にした時香が、近くにあった細い街頭の柱に手をかざしそう叫んだ。ばぎり、と不自然な音を立てて五十センチほどの長さでちぎれるように、独りでに移動し時香の手に収まった。ちぎれた街頭の上部分が派手な音を立てて落下する。時香は落下音も待たず、鈍器と化した街頭の支柱パイプを振りかぶる。決死と言わんばかりに逸朗に走り寄り、その勢いのまま右手を払うように逸朗の顔をめがけて鉄パイプを振り回す。
「うわあぶッ」
ぎりぎりでかわし、よろけながらもなんとかバランスを取り距離を取る。
「止められては困るんですよ! 行かせるわけにはいかない」
相手は攻撃する事になれているわけではないようだ。やみくもに振り回しているのがよくわかる。
――むちゃくちゃだし読めないけど、早くはない!
休みなく振り回される鉄パイプをぎりぎり、バランスを崩しそうになりながらも避ける。
「キリ無えよ!」
だんだんと疲れと苛立ちが見え始めた逸朗が痺れをきらしたように、彼自身も闇雲に拳をふりかぶり、
「disturb!」
叫び、ほとんどまぐれで時香が振り降ろした鉄パイプに衝突し鉄パイプもろとも彼女までも吹き飛ばす。
「……?! い、ぐ……あッ!」
なんとか身を屈めバランスを取って姿勢をすぐ立て直せたが、風の勢いで腕が引っ張られ肩に痛みが走った。肩に手を当て、逸朗を睨みつけた。
「え、や、やりすぎた?」
一方、なぜか戸惑う逸朗。それもそうだ、彼は喧嘩は売られてもやりかえしたことなどない。いじめとして一方的に攻撃されていただけの、それも普通の十七歳である。その反応すらも腹立たしいのか、時香は一層険しく彼を睨みつける。
「あんた、敵に情けでもかけるつもりなんですか?」
「……いや、なんつうか」
「反吐が出るんですよ!!」
それこそ苦虫を噛んで吐き捨てるような険相で彼女は叫び、足下のアスファルトに手を着けた。
「座標コードx576498、y847399、z0、エクステンドコード1037850、移動座標コードz07843、ムーブ!!」
時香が叫ぶ。ごぎりがらりと足下からおかしな音が聞こえだした。
あまりにも不自然すぎる音に、何が起きたのか理解するのに一歩遅れる逸朗。
――地面が、めくれた?!
時香の足下から数センチ先から逸朗が立っている方向に向けて、あたりの地面が数十メートルほど先までアスファルトもろともめくれあがり、急激な坂になって逸朗を翻弄しようとした。その坂はほとんど直角になり、逸朗は重力のまま落下していく。
「お、落ち――……くそッ!」
このままではかなりの勢いで地面に着地、叩きつけられてしまう。寸前でキューブを持っていた右の拳をぐっと握り、下の方へ向けて着地点につくかいなかで逸朗は叫んだ。
「disturb!」
風の圧力が薄く壁となり拳を保護した上落下せず、それどころか風圧が彼を押し上げ身体を横回転しながら浮き上がらせる。
「うわっ、ッんだくそ!!」
空中でややじたばたしながらも無理矢理体制を取り、回転の勢いを崩さず岩壁となったアスファルトに拳を突きつけ、
「dis……turb!」
解除コードを叫び、叩き込む。
風圧がアスファルトを砕き、へし折るように吹き飛ばしながら再び解除コードを叫ぶ。
キューブを軽く握り直し、風が自分の身体の後ろへいくように微妙な調整を瞬時に行いアスファルトを砕き突き抜けた後も勢いを止めず、更に加速し前へ飛び出す。
「うおおおおおおおおおおおあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
着地への恐怖から自分を引き剥がすかの如く咆哮する。
「……?!」
アスファルトを砕き、突き破ってそしてなおも空中を突き抜けてくる少年に戦慄にも近い驚きを見せる時香。
「先に謝る!!」
着地寸前に叫ぶ。着地、というより風をまとったまま拳で時香の頬をぶん殴る。
「――ごブッ!」
時香を踏み台に勢いを無理矢理削いだが余った落下の勢いで受け身も何も取れず、地べたに叩きつけられごろごろと転がる。
「いてえ……」
でたらめに破壊された地面の、アスファルトの瓦礫がごろごろ転がる中着地し、身体中からくる痛みに呻きながら動けず仰向けに寝転がる。
見える範囲、目を向けると神社より数メートル先で爆弾でも使用しているのかと疑いたくなるような音を立てて弥継と真鞠子がやりあっていた。どうも弥継の方が優勢らしく、田中真鞠子は何か叫んでいるだけで彼を追い込む事も出来ていないようだった。
隆起してしまったアスファルトで半分しか見えないが、弥継はにこにこ笑っていて遊んでいるかのようでもある。
「んだよ……あいつ、余裕かよ……」
こちらはぼろぼろである。時香が吹き飛んだ方を見ると、完全にノックダウンしたらしくぴくりとも動かないまま横たわっていた。
「……死んで――る? 死んでねえよな?」
まさかと背中がぞぞりと凍る。正当防衛――この単語がやや不安を紛らわせてくれたがただの未成年にはこの状況は重かった。
そうしているうちに向こう側も静かになっていた。
「やあ、お役目終了かな」
ぬっと上から視界に割り込む弥継。手を差し出して来たので、彼の手を取り上半身を起こす。
「全部まぐれだし、こういうのはもう勘弁してほしい」
「ははっ、まぐれであそこまでぼこぼこにするのってミラクルだよね」
「集拾完了しました」
楽しげに笑う弥継の背後で榛原が完了を知らせてきた。
「じゃあ、行こうか」
「行くってどこへ」
「君が、いや、君にしか出来ないことをしにいくんだよ」
「…………、」
「君を、君の意識をブリングで連れていく。そこでやるべき事をやるんだ」
本意は見えない。でも、ここで諦めたら先はない。そう感じた。
「わかった」
逸朗が頷く。弥継は彼の返事に微笑み返した。
「でも何をすればいいのか、」
「原因になった世界系線を探す。そうだね、うん。でも特別な事はしないでもいいんだよ」
「それってどういう意味だよ」
「まあ、わかるよ、そのうちに。さあ、榛原のブリングキューブに手を置いて」
曖昧な返事をする弥継に首を傾げながらも彼に従う。
「いいかい、次の世界系線では何もしなくていい。迎えにいくからね。連絡が来るまで何もしなくていい」
「…………?」
やるべき事があると言ったのに、しなくていいとはどう言うことなのか、またも首を傾げる逸朗。
「榛原、ブリングアポイントメント」
「ブリングアポイントメント、認識しました。エージェント、Yatsugi Sanaki 認証完了。ブリングを開始します」
弥継の呼びかけに呼応して、高速で数字とアルファベットが呟かれる。
――明転。
非常灯とナースステーションの明かりだけが照らし、薄暗い廊下はさらにその暗さを際だたされている。
暗い廊下に、小さな嗚咽が微かに聞こえる。
慌ただしくナースステーションと救急救命室を行き来する看護士。通常とは違う数名の雰囲気に看護士の一人がちらりと目を遣るが、ぱたぱたと行くべき所へ行く。
――頭部打撲、脳内出血、後部腰部刺傷、腹部刺傷。
切れ味の悪いペーパーナイフで刺された為、傷口が裂傷に近く止血に手間取り脳内出血の手術までまだ踏み切れていない。
席田橋と咲津港駅の中間にある、平城崎市立みなと病院の廊下で数名の男女が黙りこんで待合いのベンチに座り込んでいる。弓削家、巳津子と成壱。真央家、由紀夫と早実。
真央聡美はここにいない。逸朗が気を失った直後に取り押さえられ、彼を救急搬送した後警察に身柄を拘束された。
「……なんで、こんなことになったんだ」
逸朗の父、成壱がぼそりと言った。
「そんなの、こっちが聞きたいですよ!」
「姉さん、どうなるの? ああぁ」
「うるさい、私だって混乱している」
いらだちを隠せない由紀夫。
「私の配偶者は犯罪者になったんだぞ! めちゃくちゃだ! 何もかもめちゃくちゃだ!」
苛立ち落ち着かせようと数歩歩いて座り、また黙り込む。
重い空気がたれ込む。そんな折りに、成壱が切り出すように言い始めた。
「……そもそもだよ、そこのやつがうちの逸朗をたぶらかしたんだよな?」
言い争いには入り込まずひっそりと嗚咽をもらしていた早実がひくりと怯えて震える。
「逸朗はあんなだいたんな事をやるやつじゃない。最近おかしいと思ってたんだ……おまえがたぶらかしたんだろ」
「そうよ、そうだわ。姉さんだって、あなたの事嫌いって言ってたもの」
非難の矢が向けられていく。巳津子までも加わり、意地悪く早実をにらみつける。そして、うすうすわかってはいたものの知りたくもなかった事まで知らされてしまい、早実の胸はばりばりと音を立てて引き裂かれていく。
「親戚だから甘い目で見てたけどな、ほんとは冗談じゃないって思ってたんだ。ほら見ろ、あんたのせいで逸朗はぼろぼろだ! 逸朗が死んだらどうしてくれるんだ?」
「そうよ、あの子はいつも千夜子(ちやこ)の面倒見てくれてたのよ! いなくなったら誰が毎日の様に見てくれるっていうの?」
――いつくが、死ぬ?
手足から冷たい感触が走っていく。喪失への恐怖。急激に落下する際に感じる感覚に似た冷たい感覚。
「逸朗が死んだら、おまえのせいだ」
――私の、せい?
ぐらぐらと言葉が反芻して響く。
――いつくが死ぬ。私のせいで死ぬ? 私のせいで……?
手と体ががたがたと震える。言葉がコピーされ無理矢理頭に詰め込まれるような錯覚が更に早実を追い込んでいく。
対応に当たっていた救命士が弓削家の両親を呼びにきたので、そのまま二人は救命士の言われるままに立ち去った。つられるように早実の父、由紀夫が立ち上がった。
「……おまえはもう娘でもなんでもない。これで好きに出ていけ。のたれ死のうが、知ったことか」
はらりはらりと紙切れが落ちる。
「ま、まって……」
椅子から立ち上がり、父の背を見つめても彼は振り返りもしない。そのまま崩れ落ちる早実。
「……う、ああぁ……」
ぼたりぼたりと床に落ちた数枚の一万円紙幣の上に涙が落ちる。
かつんかつんと父親の靴の音が遠のいていく。
「ああ、……あああぁぁぁ……あああぁあぁぁぁぁ!!」
呻く様な嗚咽が、やがて絶望が吹き出すように叫びに変わった。
――すべてを失った。
喪失感にただ泣き声をあげる。
――無力で、無知で、無鉄砲だった。
やがて疲れきり、泣くのを辞めた彼女の背に『死』の陰がすり寄ろうとしていた。ふと、父親が去った方向と逆の方向から、革靴の堅い足音が近づくのに気付いた。
老いてもおらず、かといえど若々しくもなく。外国製とおぼしきスーツをかっちりと着こなし、日本人特有の黒髪もふわりとしたままきっちりとまとめている。かつりかつり、上品な革靴の音がゆっくりこちらへ近付いて来る。
「これほどの絶望をかつて見たことがあるだろうか。否、私の知る所では見たことがない」
薄暗い廊下を、ゆっくりと歩き早実の面前で男性は足を止めた。
「稚拙な、逃避行の末のこの結末は万人が悲劇と認める事だろう。故に、少女は絶望する」
「…………」
ただ黙してこの滑らかに語られる演説を見つめる。
「轗軻不遇にして、世に受け入れられず己の無力さに涙するか。それを肯定し“傀儡のように黙していれば”――そう後悔するのかもしれない。もの言わぬ石ならば――彼が気にも留めぬ石ならばこの結末は来なかった」
「……うるさい」
「私はただ手を貸そう。その絶望から抜け出す意志があるならば」
「…………」
感情の見えない男の言動。何を言っているのだろうか。
「もの言わぬ石になるか。それとも鳥に変容し、大きな翼を広げ、望む未来へ羽ばたくか」
再び、早実の心に何かがこみ上げ始める。
「苦しみのない未来を欲するか。この悲劇を嘆き、変えたいと願うか」
嗚咽で呼吸が詰まる。
「私は……ッ」
「さあ、手を」
いつの間にか男の手には白い立方体があった。
「私は、こんな未来欲しくなかった!!」
救いを求めるように手を伸ばす。
――白転。
――――――――――――――――――――…………
――――――――――……
――――何も、起きないね」
「そうだな。帰ろうか」
「うん、帰ろう……―――――――――――――
―――――ー……――――――――――――――…………
――――――――――――……
「あのさ、俺家を出ようと思ってんだ」
「…………」
「その、さーちゃも一緒に出よう。あの家にずっといたらダメになっちまう」
「……いいよ」
「……そっか、うん。俺バイト頑張るよ!」
「なんか、かけおちみたい」
「そうだな、みたいだな――――――――――――――――――…………
――――――――――――……
――――――――……
――――――……――――――…………
――――…………迎えにいくよ』
『分かった』
――――――――――――――――――――…………
――――…………
――――――――どこに行くんだ」
早実が振り返った。いつもなら夜中に帰ってくる由紀夫が、リビングで玄関の物音を聞きつけて早実を呼び止めた。
「コンビニ」
「そんな大きな鞄持ってか?」
何も言わず、視線を逸らす。
「だいたいおまえ、最近成績が悪すぎる。学業をおろそかにする事は愚かな事だ」
――何も、知らない癖に。
「なんだその目は。父親に対する態度じゃないだろう」
――何が父親なの。
「こんな時間に出歩くなんて私は許さん」
無視してドアノブに手をかけたが、引き離そうと由紀夫に腕を掴まれる。
「離して……!」
「いつからおまえはそんな不良娘になった? 学校もろくに行ってない、勝手にバイトはする、そのうえ暗くなってから出かける、そんな娘に育てるつもりなどなかった!」
「何もしてないくせに!」
振りほどきたくても、早実の力では男の力には勝てない。
「私、もう嫌なの……!」
「何が嫌だっていうんだ……!」
「なにやってるの?」
リビングにいた聡美(さとみ)が騒ぎを聞きつけて、玄関の方をのぞく様にリビングのドアからのぞき込む様に見ている。
「お父さんになにするの!」
揉み合い争う二人の様子に驚き、聡美は血相を変えて早実に掴みかかった。
「やめて、離して……!」
三つ巴で争ううちに腕がドアノブに当たりがちゃりとドアが開き、反動で外によろけ出てしまった。
「……!? さーちゃ?!」
「いつく!」
ドアの向こうに、すでに待っていた逸朗がいる。
手を伸ばすが両親に引っ張られ家の中に引き込まれてしまう。閉められる前に無理矢理足を差し込み強引にドアを開ける。
「早実を離せ!」
「おまえの指図は受けん! おまえだろう、早実をたぶらかしたのは! 従兄のくせに汚らわしい!」
「そんなんじゃねえよ! おまえらはさーちゃの事なんもわかってねえじゃねえか!」
あまりにも酷い言いぐさに腹が立ち、拳で殴り飛ばしてしまった。やりすぎたか? と少し焦ったが、殴られた由紀夫が早実の腕を離したのでその隙に早実の腕を掴んでこの場を離れようとした。
「早実が、いなくなったら、私は、私は……!!」
後ろからの声に振り向く。思い詰めた様な、追いつめられたともいえる形相の聡美が手に何か持って震えている。
「ああああああああああああぁぁぁッ!」
ぎらりと光る物が何か気づいた瞬間に早実の手を離しかわす。
「やめろ!」
室内の狭い廊下ではかわすにもスペースが足りない。やみくもに振り回されるナイフを避けるにもどんどん余裕が奪われていく。
「聡美、やめろ!」
叫ぶも怯えて動けない彼にも何も出来ない。
「私から、取るな、お父さんを、取るなあッ!」
支離滅裂な言葉と共に、家具に足を取られてよろけた逸朗にナイフが振りおろされる。
――いつくが、死ぬ。
ふいに、そばで怯えていた早実の脳裏に何かが掠めた。――そして立ち上がり、
「――お願い、やめて」
逸朗の視界を早実の背が塞いだ。
力無くどさりと早実が崩れ落ちる。
「え……うそ、だろ。……さーちゃ? さーちゃ。おい、なん、なんだよ、ねえ、意味分かんねえ、なんだよこれ!! 何なんだよこれはッ!」
揺すっても起きない。抱きかかえても反応もない。胸部から溢れる物がなんなのか理解を拒む。赤く染まっていく手が、震えている。
「きゅ、救急車、呼ばないと!! くそ!!」
我に返った由紀夫が慌てながらも立ち上がり、聡美からナイフをもぎり取りばたばたとリビングへ駆け込んでいく。
「早実、早実、なんで、やめてよ、俺こんなの嫌なんだ……なんで、意味わかんねえよ、早実、早実あああぁぁッ!」
涙で視界がぐらぐら揺れる。髪を撫でても、頬を撫でても何にも返してくれない。
「俺は、おまえを助けたかったんだ、こんなこと望んでなかったんだ」
呆然と立ち尽くす聡美、生の気配が遠のいていく早実、余裕をなくしながらも救急車の手配をする真央由紀夫。その中で、弓削逸朗は叫ぶように彼女の名を叫び泣き続けた。
――咲津港駅の近く、平城崎市立みなと病院に運ばれ、まもなくして真央早実の死亡が確認された。
彼女の血で赤く染まった手にぼたりぼたりと涙が落ちる。待合室の椅子に座り込み、手をじっと見つめ嗚咽をこらえる事もできない。自分の手を染めているのは彼女の血液だというのに、頭は一向に受け入れようとはしてくれない。
――どうして。
反芻する言葉。
――なぜ、早実が。
ぐるぐる回る思考。
泣くのを辞めたい。でも涙は言うことを聞かない。
そうしているうちに、苛立ちを隠せなくなった真央由紀夫が彼の胸ぐらをひっつかみ無理矢理顔を上げさせた。
「どうしてくれるんだ、おまえのせいで何もかも失った!!」
薄暗い、逸朗と由紀夫の二人しかいない廊下に怒声が響く。
「母さんは犯罪者になった、早実は死んだ! 私に残ったのは何もない! 犯罪者の配偶者と知るものがいる職場に居られるわけがない!」
何の抵抗もせず、絶望にまみれた瞳で逸朗は彼を見返す。
「おまえがすべてを奪ったんだ! 貴様が、私のすべてを奪ったんだ! 一層の事、おまえが犯罪者になって死んでいればよかったんだ!」
由紀夫は手を離し、吐き捨てるように言って去った。
――そうだよな。
力無くだらりと腕を下げ、床に膝を付け天井を仰いで弓削逸朗はぽつりと思った。
――そうしよう。
そして、彼はよろりと立ち上がった。ぼろりぼろりと涙が落ちる。
――短かった。十七年は。
血だらけのシャツも気にせず、よろよろりと歩く。
「弓削逸朗、ですか」
ふいに声がかけられた。
「データの異常ポイントが確定されました。情報の是正が必要となります。スクリプト開始まで百八十分四十秒です。弓削逸朗に、データ是正移行作業の協力と同伴を願い出ます」
機械的に発せられた言語に戸惑いしか感じない。そもそもこの人物は誰なんだろうか。
肩口までのボブカットの髪を一部後ろで留めハーフアップにし、どこにでも売っていそうな白くふんわりしたケミカル繊維の長い袖のブラウス、ボックスに近いタイトな黒っぽい膝丈のスカートを履いている。何も言わずに街に立っていたら、誰しもが『OLである』と認識する姿である。
「誰なんだ」
ぼろぼろの精神ながら、自分の名前を知るこの女性に当然の疑問をぶつける。
「私の名称は、『榛原朱鷺子』です。残り三十秒でここでの実行内容が保証されます。移動を願い出ます」
何を言っているのか、まるでパソコンと喋っているようだ。
「時間がありません。強制執行します」
というと逸朗の返答を待たず、腕を掴んで歩き始める。
「データの強制ブリングが実行されています。拡張コピーが実行される前に予定スクリプトを実行します」
「は、はああ? なんだ、ブリング?」
立ち止まろうとしたものの、意外にも力が強かったためよろけそうになる。諦めて相手に歩幅を合わせ歩く。
「おかしなバイト、というワードを提示します。この言葉の意味を理解していると確定した場合、弓削逸朗には同伴の義務が発生します」
「……バイト?」
栗原(くりはら)時香(いつか)から申し出されたあのアルバイトを思い出す。あれのことなんだろうか。
「その表情を、理解したと見なします。あの”アルバイト”はブリング用データの収集行動です」
表情の動きもなく機械の様にそういうとドアを開け、外に出た。
理解が全く追いついていない。
――ブリング? データ? なんだそれ。
「港側のポイントに移動します」
またも返事を待たず、歩き出す。
ほどなくして、”ポイント”らしき場所に到着したらしく、立ち止まった所でようやく腕を離して貰えた。河口が近くにあり、やや複雑に入り組んでいて小さい漁船用の造船所も河口に沿っていくつかあった。
「やあ、君は弓削逸朗くんだね」
その造船所の、鉄骨で出来たリフトをぼんやり見ていた少年とおぼしき人物が振り向くなりそう言った。
おしゃれ、とは言い難い東南アジアに売っていそうな淡いブルーのラフなコットンシャツ、シンプルな飾りで緩く留められたループタイ、紺色のハーフ丈のカーゴパンツ、荒い素材の白いサボシューズ。見た目からして十五、六ほどだろうか。ほとんど金髪の髪が、ショートヘアでふわりと纏められている。ふわふわとした柔らかい面立ちでどことなく育ちがよさそうで、なおかつ何かを悟っていそうでもある。
「なんで俺の名前、知ってんだ」
「そりゃあねえ、ずっと捜してたから」
「なんで俺を捜してんだよ」
そういうと少年は、こめかみに人差し指をとんとんと当て、
「榛原、この子にちゃんと説明した? 来るとき混乱しないように時間までにある程度は説明しておいてって僕言ったよね?」
「はい。簡潔にですが、説明しました」
「……君の『簡潔』は何も知らない人物に説明するには、説明が足りないよ」
「……説明の為の『説明』を省略したということですか」
「そうだけど、……まあ、君だから仕方ないか。僕が説明するよ。時間がないから移動しながらになるけどいいかな」
事態が飲み込めないまま進行していく事に不安を覚える逸朗を察し、少年は微笑んだ。
「よく分からないことに巻き込まれそうって顔してるね。大丈夫、君はとっくに巻き込まれてるからさ」
黙して俯く逸朗。
「……気持ちはわからなくもない。今動くことはたぶん君の負担になるだろうね。でも、君がちゃんと今動けば、やるべきことをやれば、真央早実が死んでいないという本来のデータへ修正出来るとすれば? 君はどうする?」
逸朗が顔を上げる。
「真央早実は死ぬはずではなかった。この今ある現象はあるべきではない現象なんだ」
「……あいつ、死なないのか?」
こみあげる涙で声が震える。
「そうだよ」
「でも、死んだ、あいつは死んだ」
「でも、それはあるべき事ではない。僕たちはそれを修正できるんだ」
逸朗は涙を拭いた。
「一緒に来るかい?」
うないづいた逸朗を見て少年は微笑んだ。
「まだわけわかんねえけど」
「そうだね。説明しなきゃね。あ、そうだった。名前言ってなかったね。僕は鐸鳴(さなき)弥継(やつぎ)。難しすぎてちゃんと読んで貰えないような字で書くよ」
少し困ったような顔で笑う。
彼は、言いながら逸朗をうながすように駅に向かって歩き始めた。
朱鷺子を含めた一行は、港駅まで戻りそこからほぼ終電に近い電車に乗った。客はほとんどおらず、三人が乗り込んだ車両には彼ら以外には誰も乗っていなかった。
「どこから説明しようかな。そう、そうだね」
座席に座るなり、弥継がそう切り出しポケットからメモとペンを取りだした。
「まず、世界系線の説明が必要だね。世界系線というのは、いわゆる時間軸に依存した時空線、まあ、言ってしまえば世界線だね。この世界系線の線、セクションラインというのは無数に、平行に直進していて交わる事もない。一切の干渉を受けられないようになっているんだ」
顔をしかめる逸朗をよそに、メモに線をすらすらと何本か書き込む。
「これを干渉、あるいは、うーん、バグのように差し込む事ができるのがブリング。これは高次次元式を多重に構築した事により可能になったんだ。――これを君は見たことがあるはずだよ」
そういって弥継はポケットから何かを取りだした。
「これ……」
「そう、これはブリングキューブ。データ収集専用のものもあるけど、これは僕専用のブリングキューブだよ」
白、あるいは完全燃焼した灰の様な白さの、硬質であり光沢のないおかしな物体――見たことのあるあの立方体によく似ていた。幾何学的な筋がこちらの方が色濃く出ている。
「この中に多重高次元体を構築し、閉じこめてある。これがね、こんな風にセクションラインを飛び越えてナイフみたいに傷を付けるんだ。そしてこじ開けた穴に別の世界系線のデータをブリング、移行すると……ってわかりにくいかな」
逸朗の眉間の皺が深くなっているのに気づき、苦笑いを浮かべ弥継は別の絵を描き始めた。
「もっとわかりやすく説明しようか。たとえると、セクションは蓋をしたジュースみたいなもの。これが並んでいても何も起きない。だけどね、この蓋に穴を少し開けて漏斗みたいな物を差し込む、そして片方のコップの蓋にストローをさして漏斗へ傾けて蓋を押してみる。どうなるかな?」
「ストローのあるほうからジュースが出てきて漏斗に落ちてコップに入る……?」
「そうそう、正解。漏斗がブリングキューブ、ストローがデータ収集キューブなんだよ。これ自体をデータ移行、ブリングって呼ぶんだ」
逸朗の眉間の皺がゆるみ、少し表情が明るくなったのを見て弥継は、
「君ってわかりやすいね。僕、そういうの好きだよ」
にっこり微笑んだ。
「てか、どこまで行くんだ? 俺、何したらいい?」
「うん。行き先はね、堰島駅だよ。君が何をすべきかの前に、君が置かれている状況を理解して置いて欲しい」
逸朗がその言葉にうなづく。
「いいかい、君たちの状況は非常に複雑で修正には時間がかかる。弓削くん、真央早実の二人に起きているのは、完全なブリングではなくデータのコピーの挿入なんだ。しかも、君たちの周囲だけに限定されている。君たちがデータ収集中に行動しなかったその先は、この世界系線には存在していない」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、それって、世界が俺がいた場所以外無いってことだよな?」
「そうだよ」
「でも、テレビはちゃんと映るし電車の向こうの駅からは人だって」
「そうだね」
あまりにも衝撃的な”事実”に動揺する逸朗をたしなめるようにうなづく彼は、柔らかい表情のままじっと逸朗を見つめる。
「それはね、その先の存在空間は正常な世界系線に依存しているからだよ」
そういって線をまたメモに書き込み、階段のように下へ下へ次々と書き込んでいく。
「データの強制的なコピーによって、他のセクションに矛盾を起こし、自然収束するためにパラドクス的な世界系線の断裂が起きる。そして存在しない世界系線が新たに分岐する。その世界系線は元から矛盾を持っていて更に分岐していく。そしてまたほぼ自動的に次の世界系線へと浸食していく」
話している間にもどんどん階段状の分岐が書き込まれていく。真っ黒になるんじゃないかと、恐怖すら感じ始めていた。
「じゃ、じゃあ、俺、今どのへんにいるの?」
「……さあ」
怯えながら聞いたが、弥継は表情を変えずにそう答えた。
「末端かもしれないし、改変拡張された分岐の途中かもしれないし。僕らは世界系線の異常な浸食を追って調査してここにいるからね。間に合ったのがこの世界系線の君というだけなのかもしれない」
電車が秦市駅に到着し、ゆっくりと立ち上がった。
「さあ、乗り換えだね。いこう」
「あ、ああ」
席田橋から秦市の間は市営線なので京逢線である堰島に行くには乗り換えが必要になる。迷うこともなく徒歩で移動し、すみやかに乗り換える。
乗り換えまでの経路の間、逸朗が弥継に尋ねた。
「あいつら、どうして俺たちをこんな目に遭わせるんだ? 利用、されてるんだよなこれって」
「……そうだね。思いっきり利用されてるね。それはね」
俯きながら、そっと言葉を発するとポケットからブリングキューブを取りだし、続けた。
「これは未完成なんだ。完全ではない。動作もする、問題もさほどない。でもね、これを作った人の理論はもっと先をいってたんだ。そう、世界系線をまるごと作り変えられるほど、言い換えれば『世界』そのものを書き換えられるほどのものだった」
彼はそこで一度立ち止まった。
「それは、ハイパーアルティレイトキューブ、通称ハイパーキューブって呼ばれているんだ」
「それがあいつらの目的?」
逸朗が息を呑んで聞き返す。
「そう。このキューブを作った人はね、ここまで来て作るのをやめたんだ。僕はそれを賢明な判断だと評するよ」
再び歩きだし、こう続けた。
「これを開発させようとやっきになっているのが彼ら。頭脳派とも言われているね」
「頭よさそうな呼び方だな」
「まあ、そういう感じより単純に頭と金で人を動かしている節があるからってのもあるかな」
「嫌な感じだな……」
「君の感覚ってくすぐったいね」
逸朗の反応に弥継は微笑まし気に言ったが彼は首を傾げて、
「なんで?」
「なんでもないよ」
そんな反応にも弥継は微笑んで、嬉しそうに先陣を切って歩いていった。
そうこうしているうちに京逢電改札に到着し乗り換える。秦市も堰島も鈍行しか止まらない。乗っている電車も終電まであと数本というところだった。平日の夜の鈍行ともあって、客はほとんどいなかった。
「っていたのかよ」
「いましたが」
存在を完全に忘れていた、榛原が表情を変えずに答えた。手をきっちり揃えて姿勢良く座席に座っている。
「まあ、気にしないでよ。いつもこうだから」
慣れているらしく、ふわふわとした半端な笑みで弥継は言う。
「それより、到着する前にこれを渡しておくよ」
そういってポケットをまた漁ると、一辺が三センチほどの小さい黒っぽい立方体を数個取りだして逸朗に手渡した。
「これはね、ムーブキューブって言ってあちこちから採取した災害のエネルギーデータが入っている。それを持っている状態で解除コードを言うとエネルギーデータが解放される。これが解除コード。今言わないでね、死にたくはないから」
にっこり笑って紙切れを一枚渡した。解除コードは英語で書かれているようだ。
「……? ディ、ディス、」
「――ッ?!」
そのつぶやきに烈火のごとく、制止の手を逸朗に差し向けたが、
「……ちゅー? ぶ?」
「……正しく読んでいたら僕ら電車内で大変な目に遭ってたよ、弓削くん」
「え? ……すまん」
苦笑いの弥継の言葉に逸朗は疑問を抱きながらも危ないことをしたようだと思い謝罪した。
「……カナを振るけど、必要な時以外には絶対声に出さないこと。非常に精密にコードを聞き取るから、このキューブは」
「わかった」
逸朗の手のひらを台にして弥継がペンで読みを書き込んでいく。
「なあ、こんなの必要になるってどういうことなんだ」
「必要だからだよ」
「…………防衛?」
「防衛でどうにかなる状況じゃないよ。これは攻撃用だよ」
特別でも何でもないのかそっけなくいう弥継。
やや首を傾け手のひらに乗っているキューブを眺め逸朗は呟く。
「物騒だな……」
くすりと弥継が笑う。そのうちに電車は堰島駅に到着していた。
弥継に促され、下車する。そのまま改札を出て駅前の小さなロータリー広場に出る。そこから少し歩いて駅の西側、大きな楠(くすのき)がある神社の前まで行く。
この楠の木は、高架駅の真ん中を貫くように佇んでいて電車を降りてすぐからでも目にすることが出来る。この樹自体が主神であり、堰島の大楠(おおくす)として奉っている神社の前で三人立ち止まる。
「榛原、オーダー、ブリングオペレート、スタンバイ」
「はい、ブリングスタンバイ――了承しました。データの集拾を開始します」
「弓削くんー、キューブ持って警戒しててね」
「へ? あ、ああ、はい?」
キューブを手のひらに乗せ、榛原がなにやら機械的に難解な言葉を高速で発しているのを唖然として見ていた逸朗が振り返り、更に戸惑いを見せる。
「まあ、普通に追いかけてくるよね」
なんだ? と弥継の視線を追うとその先には逸朗の知らぬ女が一人立っていた。駅の下をくぐる川の側、橋の向こうから誰かがこっちを見ているようだった。
つかつかと女性らしいハイヒールの音と共にこちらに近づいてくる。
「あっちにいないからおかしいとは思っていたけどね、まさかあんたたちが来るとは」
「まあ、ひさしぶりではあるかな。そっちはどうか知らないけど」
「あんたの仏面顔なんてみたくないわよ」
お互い知り合いのようだ。女はヒールの高いハイヒールに、ぴったりとしたスーツスカート、七分丈のぱりっとした袖と襟のシャツを着ている。秋である今、夜更けには肌寒い格好ではある。いらいらしているのか、腰に手を当て片方の手でぱっつりと短く揃えた髪をかき上げてヒールをかつかつ鳴らしながら弥継を睨んでいる。
「そ、れ、に! なんであの女がいるわけ?! もう最悪!」
「そう言われても、今組んでるの彼女だから」
女は榛原朱鷺子を指さし、弥継を見たときより一層険悪な面相で弥継に詰め寄った。高速でぶつぶつと難解な言語――実行コードを発していた榛原が首少し傾けこちらを見た。
「データ集拾一時停止。――こんにちわ、年増の田中真鞠子さん。コード展開再開――」
「きいぃぃぃぃぃーーーッ!! なんなのよあんた!!」
無表情で言うだけ言ってブチ切れる女――田中真鞠子を完全に無視して再び実行コードを高速で呟き出す榛原。
「ほんとむかつく! あんたになんか言われたくないわよ! ていうか年そんなに変わらないでしょ?!」
「口喧嘩なら集拾防いでからにしてくださいよ」
きいきい噛みつく田中真鞠子の後ろ、橋の向こう側から少女が一人歩いてきていた。その少女が、栗原時香であることに逸朗は驚き、同時に納得した。
――利用されていた。その事実は今はっきりと彼の中で明確になった。
「弓削くん、榛原の周り三メートルの中にあいつらを近づけないで」
「お、おう、わかった」
すっと寄って逸朗に耳打ちし、地面を蹴るように飛び出し時香の方へぐっと距離を詰める。
「セクションNo.58965、カテゴリQ、時系座標A4679F0、コタキナバル沖――」
呟いて即座にムーブキューブを時香の足下に投げつける。
「disturb(ディスターブ)」
キューブの着地と同時に解除コードを言い放つ。コンマ一秒の解除コードの認証の直後、キューブからエネルギーが解放され地面が、巨大なおもりでも落としたかのようにべこりとへこむ。
「チッ……!」
寸前で時香が飛び退く。
「相変わらず乱暴だわ、武闘派は」
「君がそれを言うの? そもそもそれは勝手にそっちがそう呼んでるだけでしょ? 僕らは君らのやっていることが気に食わないから殴り飛ばしてるだけ」
臨戦態勢に入った真鞠子が弥継を睨む。弥継は怯むこともなくむしろ軽くバカにしたように笑う。
「なあ、なあ弥継、さっきの爆弾なのか?」
「似てるけど違うよ。ほんと君のその感覚、くすぐったくなるね」
小声で耳打ちしてきた逸朗ににこにこしながら答える弥継。
「君のはテンペスト、風害だね。さっきのは別に言わなくていいよ。僕の趣味だから」
言ってまた新たにムーブキューブを真鞠子と時香の足下に投げつける。
「カテゴリQ、disturb」
「それを乱暴な暴力っていうのよ!」
真鞠子が叫びながら飛び退き解放エネルギーから逃れる。
「そうかな、なら君らは性格悪い頭脳派だね!」
間髪入れず、キューブを投げつける。
「弓削くんも加勢してよー」
「あ、そっか。わかった! えっとー、disturb!」
呆けて見ていたが、加勢しようと逸朗も解除コードを呟くが、
「うおわあああああぁぁッ?!」
キューブを握りしめたまま解放した為に風が拳の隙間から吹き出し腕に引っ張り回されるように走り出してしまった。
「……こいつはすげえな」
風が止み、キューブを握りしめたまま未知の機器の機能の用途と使い方を得て高揚した逸朗がにやりと笑った。
「愉快だね」
茶化すように田中真鞠子の応戦の相手をしていた弥継が横目で彼の様子を確認しぼそりと言ってふっと笑う。
「集拾完了まであと三百六十秒。バグレポートはありません」
「いかせるかですよッ! 座標コードx376930、y27364、z000234、エクステンドコード01009723、移動座標コードy000072、ムーブ」
榛原の機械的な報告を耳にした時香が、近くにあった細い街頭の柱に手をかざしそう叫んだ。ばぎり、と不自然な音を立てて五十センチほどの長さでちぎれるように、独りでに移動し時香の手に収まった。ちぎれた街頭の上部分が派手な音を立てて落下する。時香は落下音も待たず、鈍器と化した街頭の支柱パイプを振りかぶる。決死と言わんばかりに逸朗に走り寄り、その勢いのまま右手を払うように逸朗の顔をめがけて鉄パイプを振り回す。
「うわあぶッ」
ぎりぎりでかわし、よろけながらもなんとかバランスを取り距離を取る。
「止められては困るんですよ! 行かせるわけにはいかない」
相手は攻撃する事になれているわけではないようだ。やみくもに振り回しているのがよくわかる。
――むちゃくちゃだし読めないけど、早くはない!
休みなく振り回される鉄パイプをぎりぎり、バランスを崩しそうになりながらも避ける。
「キリ無えよ!」
だんだんと疲れと苛立ちが見え始めた逸朗が痺れをきらしたように、彼自身も闇雲に拳をふりかぶり、
「disturb!」
叫び、ほとんどまぐれで時香が振り降ろした鉄パイプに衝突し鉄パイプもろとも彼女までも吹き飛ばす。
「……?! い、ぐ……あッ!」
なんとか身を屈めバランスを取って姿勢をすぐ立て直せたが、風の勢いで腕が引っ張られ肩に痛みが走った。肩に手を当て、逸朗を睨みつけた。
「え、や、やりすぎた?」
一方、なぜか戸惑う逸朗。それもそうだ、彼は喧嘩は売られてもやりかえしたことなどない。いじめとして一方的に攻撃されていただけの、それも普通の十七歳である。その反応すらも腹立たしいのか、時香は一層険しく彼を睨みつける。
「あんた、敵に情けでもかけるつもりなんですか?」
「……いや、なんつうか」
「反吐が出るんですよ!!」
それこそ苦虫を噛んで吐き捨てるような険相で彼女は叫び、足下のアスファルトに手を着けた。
「座標コードx576498、y847399、z0、エクステンドコード1037850、移動座標コードz07843、ムーブ!!」
時香が叫ぶ。ごぎりがらりと足下からおかしな音が聞こえだした。
あまりにも不自然すぎる音に、何が起きたのか理解するのに一歩遅れる逸朗。
――地面が、めくれた?!
時香の足下から数センチ先から逸朗が立っている方向に向けて、あたりの地面が数十メートルほど先までアスファルトもろともめくれあがり、急激な坂になって逸朗を翻弄しようとした。その坂はほとんど直角になり、逸朗は重力のまま落下していく。
「お、落ち――……くそッ!」
このままではかなりの勢いで地面に着地、叩きつけられてしまう。寸前でキューブを持っていた右の拳をぐっと握り、下の方へ向けて着地点につくかいなかで逸朗は叫んだ。
「disturb!」
風の圧力が薄く壁となり拳を保護した上落下せず、それどころか風圧が彼を押し上げ身体を横回転しながら浮き上がらせる。
「うわっ、ッんだくそ!!」
空中でややじたばたしながらも無理矢理体制を取り、回転の勢いを崩さず岩壁となったアスファルトに拳を突きつけ、
「dis……turb!」
解除コードを叫び、叩き込む。
風圧がアスファルトを砕き、へし折るように吹き飛ばしながら再び解除コードを叫ぶ。
キューブを軽く握り直し、風が自分の身体の後ろへいくように微妙な調整を瞬時に行いアスファルトを砕き突き抜けた後も勢いを止めず、更に加速し前へ飛び出す。
「うおおおおおおおおおおおあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
着地への恐怖から自分を引き剥がすかの如く咆哮する。
「……?!」
アスファルトを砕き、突き破ってそしてなおも空中を突き抜けてくる少年に戦慄にも近い驚きを見せる時香。
「先に謝る!!」
着地寸前に叫ぶ。着地、というより風をまとったまま拳で時香の頬をぶん殴る。
「――ごブッ!」
時香を踏み台に勢いを無理矢理削いだが余った落下の勢いで受け身も何も取れず、地べたに叩きつけられごろごろと転がる。
「いてえ……」
でたらめに破壊された地面の、アスファルトの瓦礫がごろごろ転がる中着地し、身体中からくる痛みに呻きながら動けず仰向けに寝転がる。
見える範囲、目を向けると神社より数メートル先で爆弾でも使用しているのかと疑いたくなるような音を立てて弥継と真鞠子がやりあっていた。どうも弥継の方が優勢らしく、田中真鞠子は何か叫んでいるだけで彼を追い込む事も出来ていないようだった。
隆起してしまったアスファルトで半分しか見えないが、弥継はにこにこ笑っていて遊んでいるかのようでもある。
「んだよ……あいつ、余裕かよ……」
こちらはぼろぼろである。時香が吹き飛んだ方を見ると、完全にノックダウンしたらしくぴくりとも動かないまま横たわっていた。
「……死んで――る? 死んでねえよな?」
まさかと背中がぞぞりと凍る。正当防衛――この単語がやや不安を紛らわせてくれたがただの未成年にはこの状況は重かった。
そうしているうちに向こう側も静かになっていた。
「やあ、お役目終了かな」
ぬっと上から視界に割り込む弥継。手を差し出して来たので、彼の手を取り上半身を起こす。
「全部まぐれだし、こういうのはもう勘弁してほしい」
「ははっ、まぐれであそこまでぼこぼこにするのってミラクルだよね」
「集拾完了しました」
楽しげに笑う弥継の背後で榛原が完了を知らせてきた。
「じゃあ、行こうか」
「行くってどこへ」
「君が、いや、君にしか出来ないことをしにいくんだよ」
「…………、」
「君を、君の意識をブリングで連れていく。そこでやるべき事をやるんだ」
本意は見えない。でも、ここで諦めたら先はない。そう感じた。
「わかった」
逸朗が頷く。弥継は彼の返事に微笑み返した。
「でも何をすればいいのか、」
「原因になった世界系線を探す。そうだね、うん。でも特別な事はしないでもいいんだよ」
「それってどういう意味だよ」
「まあ、わかるよ、そのうちに。さあ、榛原のブリングキューブに手を置いて」
曖昧な返事をする弥継に首を傾げながらも彼に従う。
「いいかい、次の世界系線では何もしなくていい。迎えにいくからね。連絡が来るまで何もしなくていい」
「…………?」
やるべき事があると言ったのに、しなくていいとはどう言うことなのか、またも首を傾げる逸朗。
「榛原、ブリングアポイントメント」
「ブリングアポイントメント、認識しました。エージェント、Yatsugi Sanaki 認証完了。ブリングを開始します」
弥継の呼びかけに呼応して、高速で数字とアルファベットが呟かれる。
――明転。
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