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🌈2nd time 開花予報、のち
初めての懐かしさ
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「帰ろっか」
花火の音が止んでしばらくした頃、先に立ち上がってそう言ったのは結乃だった。
「うん」
後ろ髪を引かれる思いで、大和も腰を上げる。
ふたり並んで歩きだすと、ふいに自分より一回りほど小さな手が、自分のそれに触れた。
当たってしまっただけかと、特に気にせず流そうと思ったら――また触れた。
――もしかして、そういうことですか……?
と目で問うと、彼女は照れくさそうにうなずく。
……うろたえながらも、要望に応えるべく、ぎこちない動きでその手を取り、包み込むようにして握った。
これは練習だ。そう、練習なのだ。
「緊張しすぎだよ」
微笑交じりの指摘にますますかたくなり、ロボットのような足取りで、一歩ずつ、一歩ずつ前へ進む。
おかしいな。一応、何度か恋人つなぎを経験した身なのだけれど。
そう思ったとき、千夏からもらった手紙に書かれていた、辛辣な意見がぱっとよみがえってきた。
頼りがいがないって、こういうところだろうか。
さっきだって、事の流れとはいえ、一番大切な言葉を伝えられないまま終わってしまった。なんて情けないんだろう。
自分自身に落胆していると、
「あっ、後ろ」
結乃が唐突に呟いて、後ろを振り返る。
大和も反射的に同じ動きをするが、誰も、見当たらない。
「ちょっ、え? 何なに、何なの? やめてよ、急に」
明らかにおびえた大和をもてあそぶように、結乃は、
「私さぁ、強いんだよね。れ、い、か、ん」
と、自分の頭の右端あたりを人差し指でつついた。
「ほっ、本気で言ってる……?」
大和の声が震え始めても、「嘘ついてどうするの?」なんてあっけらかんとしている。
「大丈夫だって。悪霊じゃないから。髪の毛ふたつ結びにしたちいさい女の子。もう私の声にびっくりしてどっか行っちゃった」
具体的な説明にいっそう怖くなりながらも、
「いつから見えるの?」
好奇心が先立って質問を重ねた。いや、「冗談でした」の一言がほしかっただけかもしれない。
「うーん、物心ついたときには見えてたかなぁ。最初はみんな見えるもんだと思ってたくらいだから」
「マジか……」
動揺するあまり、言葉を選べなくなる。
「幽霊っていうと、みんな無条件に怖がるけど、全部が取り憑いたり、悪いことしたりするわけじゃないんだよ? っていうかむしろ、そっちのほうが少ないんじゃないかな?」
幽霊についてこんなに熱く語るところからしても、どうやら本当に「見える」ようだ。
「じゃあ……」
何の気なしに呟くと、結乃は瞬間的に察したらしく、少し驚いた様子でこちらを振り向いた。
けれど、すぐにそれを微笑みに変え、「うん。まあ、そういうことになるだろうね」と答える。
「あのときは、大和――も見えたんだよね?怖くなかったでしょ?」
あ、今「くん」って言いかけてこらえた。
小さくても確かな変化に喜びを噛みしめながら、うなずく。
間違っても怖くはなかった。恥ずかしげもなく、天使だなんて思ったくらいだ。
「何もおびえることなんてないんだけどね。いつかみんながいく場所に、ちょっとした事情でいきそびれちゃっただけなんだから」
結乃の言葉に、大和はくいと首を持ち上げ、夜空を見つめる。つないだ手のやわらかさにも、だいぶ慣れてきた。
「みんながいく場所……」
ぽつりとこぼして、思う。
自分の目の前に、あんな姿で現れたということは、栞奈も、いけなかったのか。嘘か本当か分からないけれど、この空の上にあるという世界に。
夜がその濃さを深めたからか、先ほどまで何もなかったはずの群青には、点々と星がきらめいていた。
自分たちの家が並ぶ敷地へと足を踏み入れたとき、ある違和感を覚えた。
暗闇の中に、丸い光がふたつ、浮いている。
あれは……
思考の隅をつついた答えは、「あっ!」という結乃の叫び声に消えていった。
「もー、またなの? ソルト」
手をつないだまま、半ば結乃に引きずられるようにして、光のほうへ向かう。
ソルト? あぁ、たしか朝比奈家で飼っている猫が、そんなちょっと変わった名前だったか。そういえばさっき、電話でも「ソルトにフラれた」とか言ってたっけ?
距離が縮まるにつれ、ぼんやりとうごめいていた影が、徐々に輪郭を帯びていく。
はっきりとその実体を確認できる位置までくると、結乃は軽く息を切らしながら、足を止めた。
「よかった……道路、出てなくて……」
呼吸を整えながらそう言う彼女の足に、ソルトは許しを請うようにすり寄ってくる。
「甘えたってダメなの。もう」
彼女は幼い子供を叱るような口調で言うと、ようやくつないでいた手を離し、小さくて真っ白な体をひょいと抱き上げた。
と、闇に浮かんだ蒼い瞳がこちらを見つめ、
「――」
か細い声でひと鳴きする。シルクのように艶やかな白い毛は、対照的な夜の闇によく目立った。
「最近、脱走するようになっちゃってさ。困るんだよねぇ」
苦笑交じりで言う結乃の表情は、呆れ果てたようだけれど、どこか幸せそうにも見える。
ねぇ、どこから出たの? 私、勝手口の鍵ちゃんと閉めたよね? まさか自分で開けた?
胸に抱いたソルトと目を合わせ、問いかける結乃。
まるで人と猫とが会話しているようなその姿は、初めて見る光景なのに、ひどく懐かしい気がして、笑みがこぼれた。
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