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第2章
第15話 そこはやっぱりプロでしょう~
しおりを挟む真琴が鉱山豚の串焼きに、猛烈な勢いで食の改善を求めていたが、それは氷山の一角に過ぎなかった。
ハルフルの街に立ち並ぶ、飲食系の店で売られている食べ物のほとんどが、不味いのだ、激マズなのだ。
真琴は露店で売っていた、リンゴに似た果実をシャリシャリと頬張りながら、ブツブツ文句を言っていた。
「真琴、 いい加減機嫌直せよ。口直しに日本産串焼きでも食べようぜ。
桜、串焼きあったよな? 俺はネギまにするか。桜はどうする? 」
「私は先程の衝撃が抜けきっておりませんので、
真琴様と同じく果物で結構です。真琴様? 何か召し上がりますか? 」
『…… それってどこの串焼きだっけ? 』
「確か駅前にあったやきとり〇吉じゃなかったか?
よく俺のオヤジが一杯飲んでくる居酒屋の焼き鳥だな」
『んじゃ、目一杯たれのかかった豚バラと辛さが癖になる辛トンを
10本ずつ頂戴。飲み物はコークでね』
少し機嫌が直った真琴は、桜に用意してもらった焼き鳥を屋台裏の空きスペースを借り、
いつもの簡易テーブルセットで美味しそうに食べ始めた。
(((((じゅるじゅる。じゅるる。タラーリ、ごっくん)))))
真琴達が焼き鳥や豚串をそれぞれモグモグと食べていると、絡み付くような視線をあちらこちらから感じ始めていた。その視線を受け止め見渡しながら、真琴は何故か安堵していた。
『…… ん? 食べる? 』
(((((コクコク)))))
大きく頷く街の住人ら数人を手招きして、真琴は桜に用意して貰った焼き鳥を手渡してやった。
(((((うめぇー! なんだこれはぁー! )))))
『オゥ、良かったよ~ 味覚は正常だね』
「「??? 」」
『ああ、二人には何のことか分かんないよね。
あんなにゲロ不味い食べ物を普通に食べてるからさ、
この街の住人全て味覚障害でもあるかと思ったんだよ』
真琴は二人にこの星が、宇宙で初めて生命を創り出した原始の星だから、種族そのものが未だ進化手前の存在ではないかと、少々危ぶんでいたことを話して聞かせた。
「なるほどな、言われてみれば有りえなくないな」
「そうですね。云わばこの星は地球人の祖先もいる星、
生物としては完成されていても文明としては、
発展していないように見えます」
『でしょう? やっぱり桜は俺が言いたいこと分かるね。
この星はさ、今後も生まれる星の生物実験場や倉庫で、
文化文明は二の次三の次、食なんて生きるのに不都合がなければ、
全然発展させる必要が無いくらいだと思うんだよ』
そんな珍しくも真面目に聞こえるやり取りをしつつ、三人は手を止めずに完食していた。
消えて無くなった焼き鳥の串を、遠巻きに悲しく見つめる街の住民は、何故か三人から視線を外す事が出来なくなっていた。
『げに恐ろしきは、食なり』
「いや、食じゃねーよ。"人"ね? 使い方も違うぞ』
『分かってんよ! なんとなくだよ! 桜~~ 』
「はい真琴様、この場を和ませるテクですね 」
『…… ああ、まあ、そうね』
そんなやり取りをしながら始まるのは、
《五感を呼び起せ"ハルフルの街"食への飽くなき挑戦》と、
銘打った真琴が始める改革だった。
手始めに行ったのが、日本からスキル"お取り寄せ"でその道のプロを呼び出した。
仕事中だったのか、焼き鳥のいい匂いをさせながらねじり鉢巻きをしたお兄ちゃんが、
目の前の現状にあたふたしていたが、そこは奏多と桜に丸投げしていた。
『お兄さん落ち着いた? 大丈夫だよー食の改革を手伝ってくれれば、直ぐに帰れるから』
ともかく何故呼び出されたのか、焼き鳥屋店長に例のブツを食べて貰うことにした。
《っうぐぅ、これは酷い味だな、バツゲームかこれは》
『でしょう? 街の人たちが哀れ過ぎてお兄さんに来てもらったんだ。
必要なモノは何でも用意するよ』
真琴は自身の食と観光を充実させる為に、思ってもいない事を並べ立て、
焼き鳥屋店長の感動を誘い、《五感を呼び起せ"ハルフルの街"食への飽くなき挑戦》の、
異世界スタッフ責任者を店長に任命していた。
更に店長から、指名で呼び出された日本の店のスタッフ3人と、
何故か市販のたれを作っている会社の社員数人とフード研究者も数人呼び出され、
地球からの総勢十名による、食の大改善プロジェクトがここに始まった。
ここからいよいよ、真琴が中心となった一大プロジェクトが始まると思ったが、やはりそこは真琴である、異世界に呼び出されたばかりの店長にオール丸投げしていた。
店長に自分たちとの専用回線通信機を渡し、空いている土地に日本産大型プレハブ住宅を取り寄せ、プロジェクトスタッフの宿舎とした。
彼らの身の回りの世話は、真琴から貰った串焼きの虜になった住民が中心になり、取り計らってくれることになっていた。
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