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そのにじゅうなな

ラスは刺激的なバスタイムを堪能してみたい

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 晩ご飯やバスタイムも終わり、ゆったりとしたリラックス時間を過ごしていたリシェは同じようにバスタイムをちょうど終わらせて来たラスにつつつと近付かれる。
 熱い湯を浴びてきた為に、彼の頬はほんのり赤く火照っていた。
「先輩先輩」
「ん?」
 リシェはゲーム内でまた赤フンとチャットをしている。
「俺、思ったんですよ。風呂に入ってる時」
 不意にチャットをする手を止め、ラスに目を向けた。
「何だ?」
「先輩と一緒にお風呂に入ってみたい!!」
 はっきりと願望を言い放つ。リシェは怪訝な顔をラスに向けると、これもまたはっきりと「嫌だ」と突き放した。
「だ、だって寮の大浴場ですら一緒に行きたがらないじゃないですかあ」
「それは…」
 リシェはなるべくラスを避けるようにして大浴場を利用していた。理由は自分でもよく分からないが、多分ラスが明らかな変態だからであろう。
 しかも可能な限り、人があまり居ない時間帯を選んで使うようにしていた。あまり他人が多いと窮屈な気がしてくるのだ。
「ひょっとして警戒してるんですかぁ?」
「してないよ」
 本当はめちゃくちゃしている。
「じゃあ理由なんて無いですよね、先輩」
「え…」
 ラスは雑誌の記事の一部をリシェに開いて眼前に見せてきた。若者向けの雑誌の記事には入浴剤関連の内容が載せられている。
 ゲーム機を床に置き、その雑誌を受け取った。
「おすすめ入浴剤」
 ラスはそうです!と鼻息荒くしながら返す。
「気分と状況によってお勧めしている入浴剤の話ですよ!一応部屋にもあるじゃないですか。折角あるのにあまり使わないのは勿体無い。だから楽しめるようなのがあれば先輩だって俺とバスタイムしてくれるかなあって」
 疲労回復やリラックスしたい時、様々な状況下に置かれた場合に合った入浴剤が事細かに区分され、紹介されていた。へえ…と興味ありそうにリシェは見回す。
「色々あるんだな」
「でしょう?」
 ラスは鼻を膨らませる。
 こういう事からリシェと一緒に楽しめる方法を提供していかなければ、お互いの仲も進展しないのだ。
 しかも浴室で楽しめるとなれば、更なる楽しみも増えてくるかもしれないという訳で。お互い一糸纏わぬ姿で、浴槽の中でいちゃいちゃいちゃいちゃと出来るかもしれないのだ。
 それはもう夜が明けるまで。
 あんな事やそんな事を妄想し、うふふと笑いが漏れ出すのを押さえながらラスはリシェを見ていた。
「柑橘系の香り…いいな。ラズベリーとかもいい」
「あとマッサージオイル配合の入浴剤とかもあるんですよ。お互いマッサージとか良くないですか?」
「何を考えているんだお前は」
 不審そうにラスを見ながらリシェは眉をひそめた。
「俺は先輩と一緒に風呂に入りたいだけなんですよ。ほら、この入浴剤なんてローションになるらしいんですよ!これ、凄くないですか?!」
 リシェには彼の言葉が風呂でいやらしい事がしたいと言っているようにしか聞こえなかった。無言で雑誌を押し戻す。
「先輩っ」
「俺はお前と一緒に入りたくないんだよ」
「何で!?」
「言葉の裏が分かるから。さっきからニヤニヤしてるし」
 ラスは自分の頰を両手で覆う。
「そ、そんな事無いですよっ!先輩と一緒にお風呂に純粋に入りたいだけで!!先輩とお風呂場エッチなんて事は全然全く!!考えてもいなっ」
 考えてるじゃないか、と呆れた。
「先輩ぃいい!!」
「うるさいな」
「ローション入りの入浴剤、ネット注文しちゃったんですよぉ!!!!!」
 知るか。リシェは反射的に呟く。
 ラスが悲痛な叫びを上げるが、リシェはゲーム機を手にしながら一人で勝手に入ってろとつれない返事をしていた。
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