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そのごじゅうご
『従者』としての因果
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朝早くから仕事を始めていた学園の庭師を見つけ、アストレーゼン学園内の数少ない女性教師であるディータは「ファブロスさぁああん♡」と声掛けて作業中のファブロスに向かって近付いてきた。
校門の前で庭木に水を放水していた用務員のファブロスは、駆け寄ってくる女性教師をちらりと見ると至って普通の面持ちで「何かあったか」と問う。
「もう、普通はおはようございますとかじゃないんですかぁ?」
ザバザバと散水を続ける彼はそういえばそうだなと返した。
「今日も朝から真面目なんですね♡」
分かりやすいその口調は、同性には間違いなく反感を喰う態度だが、異性にはやけに食い付きが良い。本人も自覚しているらしく、そう振る舞えばどうにかなるのだろうといういやらしい感情も持ち合わせていた。
結果、外部からは清楚な外見も手伝い異性をころっと転がしてしまう男殺しの異名も与えられる始末。
しかしファブロスは何の感情も湧かないらしく、あっさりと「仕事だからやっているだけだ」と突き放していた。
ディータは突き放されると余計燃えるタイプらしく、可愛らしい笑顔を向ける。
「熱心な人って私好きだなぁ」
「………」
一方でファブロスは散水を続けながら、彼女は一体何を言いたくてこの場に居るのだろうと考えていた。
女の気持ちはさっぱり分からない。
「どうかしましたぁ?」
内心困惑するファブロスを知ってか知らずか、ディータは上目遣いで問いかける。彼女は完全に自分の武器を熟知していて、これでもかと言わんばかりに魅力を放り投げてきた。
完全に合コンで獲物を狙うハンターの如く。
「いや、何でもない。…校舎に行かなくてもいいのか」
「ん?まだ時間はありますよぉ。だからこうして寄り道してるんじゃないですかぁ」
くすくすと笑い、ディータはファブロスに徐々に寄ってきた。
彼の精悍な顔つきや浅黒く、そしてたくましい肉体がディータにはドストライクのようで、時折見かける度に話しかけては自分をアピールしているのだ。
だが彼はなかなか鈍いのか、全く変化が無い。
それでもこれまで歴戦の猛者らしく、狙った男性をゲットしてきたディータはめげたりはしない。一日、一秒でも早くこの『どちゃくそワイルド系イケメン』のカテゴリー内のトップに君臨するレベルのファブロスを自分の彼氏にしたいのだった。
その為なら何だってしてやるんだから、とか弾けた事を考える。
「あのぅ、ファブロスさんは恋人とか居るんですかぁ?」
試合開始からいきなり豪速球を投げつけるように聞きたい事を問いかけてみる。
ファブロスは相変わらず彼女を無視するように水撒きをしながら、眉間に皺を寄せて「何?」と渋みのある表情で聞き返す。
さらりとした銀色に輝く髪が彼の魅力を増していて、ディータはついきゅんと胸が甘く締め付けられてしまった。
「もう、聞いて無かったんですかっ?彼女とか居るのかなあって」
「………」
蛇口を一旦止め、ファブロスは「居ないけども…」と彼女の質問に答える。
その瞬間、ディータは心の中で「よっしゃあああっ!!」とガッツポーズをしていた。
…なら余計な邪魔者は居ないって事だよね!?めちゃくちゃラッキーじゃないの!!こいつ絶対獲る!!
そんな事を考えながら、ディータは可愛らしく「でもぉ」とやや体をくねらせる。
「ファブロスさん、モテるんじゃないかって心配だなぁ…♡」
「………」
首に掛けていたタオルで顔に付いた水滴を拭き取り、ファブロスは怪訝そうにディータを見下ろすと、あっさりした様子で言った。
「ここは男子校だぞ」
「…んふふふふ」
愛想笑いをしながら、ディータは違げぇんだよと突っ込む。
だれが生徒の話をしてるんだよ、と。
「女の先生とか居るじゃないですかぁ…」
「ああ」
しかし彼はあまり興味が無いらしい。
「別にあまり話はしないからな」
「えぇ…?そうなんですかぁ?ファブロスさん絶対モテるから誰かに言い寄られているんじゃないかってぇ…」
それが本当ならば完全に手中に収められる。
理想的な彼氏ゲットの道が開かれる!と小躍りしていると、目の前のファブロスが急な動きを見せた。
「!?」
ディータは驚き身構える。まさかいきなり抱きついてきたりとか…!?的な展開を少しばかり期待してしまった。
だが、それは全くの間違い。
「オーギュスティン!!」
先程までの連れない態度はどこへ行ったのか。彼はそう叫ぶと、真っ先に走り出して行く。
ええ?!とディータは彼の背中を見送る形になった。
「…ああ、おはようございます、ファブロス君」
その先に居たのは数学教師のオーギュスティン。彼もまた近付き難い雰囲気を持つ細身のイケメン教師だ。しかしディータのタイプではない。
そんなもやしのようなオーギュスティンに、ファブロスは真っ先に自ら話をしに走り出すとか。
「昨日あげた晩ご飯のおかず、しっかり食べたか?味は問題無いか?悪い所があったら遠慮無く言ってくれ」
「あ、ありがとうございます。凄く美味しかったですよ。味付けもちょうど良くて」
「本当か!?問題があったらちゃんと言って欲しい、次に役立ててみせる」
今までの塩対応は何だったのか、彼はやたら饒舌にオーギュスティンに話しかけていた。あんた無口キャラじゃないのかと思わずにはいられないレベル。
…嘘でしょ…!?この私との態度の差は一体何?!
ディータは口をあんぐり開きながらショックを受ける。
「ちゃんと栄養を取らなければ駄目だ。お前はただでさえ細いのだからなオーギュスティン」
「しっかり頂いてますから…ご心配無く」
「苦手な物は無いか?上手くごまかしながら摂れるように工夫しよう」
何これ?
彼らの会話を聞きながら、ディータは頭が混乱する。
この可愛い私を差し置いて別の人間に目を向けるなんてありえない。何なのあいつ男色なの!?
仲良く話している二人を見ながら、彼女は自分の女性としてのプライドが崩れそうなのをどうにか押さえつける事で精一杯だった。
校門の前で庭木に水を放水していた用務員のファブロスは、駆け寄ってくる女性教師をちらりと見ると至って普通の面持ちで「何かあったか」と問う。
「もう、普通はおはようございますとかじゃないんですかぁ?」
ザバザバと散水を続ける彼はそういえばそうだなと返した。
「今日も朝から真面目なんですね♡」
分かりやすいその口調は、同性には間違いなく反感を喰う態度だが、異性にはやけに食い付きが良い。本人も自覚しているらしく、そう振る舞えばどうにかなるのだろうといういやらしい感情も持ち合わせていた。
結果、外部からは清楚な外見も手伝い異性をころっと転がしてしまう男殺しの異名も与えられる始末。
しかしファブロスは何の感情も湧かないらしく、あっさりと「仕事だからやっているだけだ」と突き放していた。
ディータは突き放されると余計燃えるタイプらしく、可愛らしい笑顔を向ける。
「熱心な人って私好きだなぁ」
「………」
一方でファブロスは散水を続けながら、彼女は一体何を言いたくてこの場に居るのだろうと考えていた。
女の気持ちはさっぱり分からない。
「どうかしましたぁ?」
内心困惑するファブロスを知ってか知らずか、ディータは上目遣いで問いかける。彼女は完全に自分の武器を熟知していて、これでもかと言わんばかりに魅力を放り投げてきた。
完全に合コンで獲物を狙うハンターの如く。
「いや、何でもない。…校舎に行かなくてもいいのか」
「ん?まだ時間はありますよぉ。だからこうして寄り道してるんじゃないですかぁ」
くすくすと笑い、ディータはファブロスに徐々に寄ってきた。
彼の精悍な顔つきや浅黒く、そしてたくましい肉体がディータにはドストライクのようで、時折見かける度に話しかけては自分をアピールしているのだ。
だが彼はなかなか鈍いのか、全く変化が無い。
それでもこれまで歴戦の猛者らしく、狙った男性をゲットしてきたディータはめげたりはしない。一日、一秒でも早くこの『どちゃくそワイルド系イケメン』のカテゴリー内のトップに君臨するレベルのファブロスを自分の彼氏にしたいのだった。
その為なら何だってしてやるんだから、とか弾けた事を考える。
「あのぅ、ファブロスさんは恋人とか居るんですかぁ?」
試合開始からいきなり豪速球を投げつけるように聞きたい事を問いかけてみる。
ファブロスは相変わらず彼女を無視するように水撒きをしながら、眉間に皺を寄せて「何?」と渋みのある表情で聞き返す。
さらりとした銀色に輝く髪が彼の魅力を増していて、ディータはついきゅんと胸が甘く締め付けられてしまった。
「もう、聞いて無かったんですかっ?彼女とか居るのかなあって」
「………」
蛇口を一旦止め、ファブロスは「居ないけども…」と彼女の質問に答える。
その瞬間、ディータは心の中で「よっしゃあああっ!!」とガッツポーズをしていた。
…なら余計な邪魔者は居ないって事だよね!?めちゃくちゃラッキーじゃないの!!こいつ絶対獲る!!
そんな事を考えながら、ディータは可愛らしく「でもぉ」とやや体をくねらせる。
「ファブロスさん、モテるんじゃないかって心配だなぁ…♡」
「………」
首に掛けていたタオルで顔に付いた水滴を拭き取り、ファブロスは怪訝そうにディータを見下ろすと、あっさりした様子で言った。
「ここは男子校だぞ」
「…んふふふふ」
愛想笑いをしながら、ディータは違げぇんだよと突っ込む。
だれが生徒の話をしてるんだよ、と。
「女の先生とか居るじゃないですかぁ…」
「ああ」
しかし彼はあまり興味が無いらしい。
「別にあまり話はしないからな」
「えぇ…?そうなんですかぁ?ファブロスさん絶対モテるから誰かに言い寄られているんじゃないかってぇ…」
それが本当ならば完全に手中に収められる。
理想的な彼氏ゲットの道が開かれる!と小躍りしていると、目の前のファブロスが急な動きを見せた。
「!?」
ディータは驚き身構える。まさかいきなり抱きついてきたりとか…!?的な展開を少しばかり期待してしまった。
だが、それは全くの間違い。
「オーギュスティン!!」
先程までの連れない態度はどこへ行ったのか。彼はそう叫ぶと、真っ先に走り出して行く。
ええ?!とディータは彼の背中を見送る形になった。
「…ああ、おはようございます、ファブロス君」
その先に居たのは数学教師のオーギュスティン。彼もまた近付き難い雰囲気を持つ細身のイケメン教師だ。しかしディータのタイプではない。
そんなもやしのようなオーギュスティンに、ファブロスは真っ先に自ら話をしに走り出すとか。
「昨日あげた晩ご飯のおかず、しっかり食べたか?味は問題無いか?悪い所があったら遠慮無く言ってくれ」
「あ、ありがとうございます。凄く美味しかったですよ。味付けもちょうど良くて」
「本当か!?問題があったらちゃんと言って欲しい、次に役立ててみせる」
今までの塩対応は何だったのか、彼はやたら饒舌にオーギュスティンに話しかけていた。あんた無口キャラじゃないのかと思わずにはいられないレベル。
…嘘でしょ…!?この私との態度の差は一体何?!
ディータは口をあんぐり開きながらショックを受ける。
「ちゃんと栄養を取らなければ駄目だ。お前はただでさえ細いのだからなオーギュスティン」
「しっかり頂いてますから…ご心配無く」
「苦手な物は無いか?上手くごまかしながら摂れるように工夫しよう」
何これ?
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