異世界学園の中の変な仲間たち2

へすこ(ひしご)

文字の大きさ
69 / 101
そのろくじゅうはち

近付く距離と盗み聞き

しおりを挟む
 美味しいハーブティーを買った。
 リシェは帰宅後、私用で街に出て買い物ついでに立ち寄ったお茶の専門店で、気に入った茶葉を購入して楽しみにしながら帰宅し、やるべき事を全て終わらせてから飲もうと決めていたのだった。
 最初煮出しし、時間を置いてから氷入りの小さなコップに少しずつ注ぎ入れていく。氷が溶けるまでかき混ぜ、冷たいハーブティーの出来上がり。
 爽やかな香りに包まれていると、日頃のストレスから解放されていきそうな気がする。
 こんなリラックスの仕方も良さそうだなと思っていると、大浴場で湯に浸かっていたラスが部屋に戻って来た。
「先輩」
「ん」
「あれ…何の匂いですか?」
 リシェはお茶が良い具合に混じり合うのを待ちながら「茶を飲もうとしていたんだ」と言った。
「へえ…」
「お前も飲むか?」
「はい!」
 リシェが自分の為にお茶を入れてくれる事自体が嬉しい。
 ラスはわくわくしながらリシェの勉強机の側に自分の椅子を寄せ、彼が手慣れた様子でお茶を用意するのを見守る。爽やかな香りが室内に充満してきて、その度にラスも幸せな気持ちになっていく。
 今自分はめちゃくちゃ蕩けそうな顔をしているに違いない。
 小さなグラスの中で薄緑色のお茶がゆっくり氷に溶かされていく。
「リラックス出来そうですね」
「ああ。日頃のストレスが発散出来るかと思ってな」
 リシェは冷たくなったお茶を一口飲んだ。
「先輩…日頃のストレスって…」
 そんなに毎日ストレスが溜まっているのだろうか。
 ラスの指摘を受け、リシェは真顔で「ああ」と返した。
「溜まっている」
 そこで基本的におめでたい脳の持ち主であるラス、顔をかあっと赤くしてしまった。熱い頰を押さえ、「せ、先輩ったら!!」と勝手に悶え始める。
 リシェは眉間に軽く皺を寄せた。
「?」
「そんな、溜まってるだなんて!もう嫌だなあ、そんなにはっきり言われてしまうと俺もどうしたらいいのか」
「………」
 何を言ってるんだ?とリシェは冷静に問う。一方的に勘違いをして勝手に悶えないで欲しい。
「先輩、その時は俺に遠慮しなくてもいいんですよ…一応ここは学生寮だしっ、あまり激しい事は出来ないけどっ!はぁああ、いよいよ先輩と一緒になれる時がくるだなんて」
 リシェはみるみる嫌そうな表情をする。
「何を想像してるか分からないけど、俺がストレス溜まるのはお前のそういう所も含まれてるんだぞ」
「へ…!?」
 不機嫌そうなリシェに気付き、ラスは焦り出した。
「せ、先輩?俺?」
 戸惑うラスを見上げながら、リシェは無言で冷たくなったグラスを彼の胸元に突き出した。
「勝手に変な妄想をするな」
 氷が沢山入ったグラスは、水滴を放出しながらじわじわと冷たさを増していく。
「お、俺…その、迷惑でした?」
 唯一絶対的な好意を持つリシェに嫌われたくないラスは、恐る恐るリシェに聞いた。自分の存在がリシェにマイナスになるなど、考えたくもない。
 嫌がられているのかと怖くなってきた。
「俺、先輩しか見えてないからつい」
 リシェはふいっとラスから顔を背けて自分のグラスの中を混ぜ始めた。カラカラと氷とグラスがぶつかって、気持ちの良い音が鳴る。
「先輩ったら!何か言って下さい!」
「………」
 無言を決め込むリシェ。無言になればなる程、ラスの気持ちも不安になる。
「うう…先輩、俺が嫌いなんですかぁ…」
 ぐぐ、と目を閉じながら彼は嘆いた。
「こんなに大好きなのに…先輩ぃい…!」
 リシェは深い溜息を吐いた。なんだこいつ、と心底思いながら実質自分の先輩である同居人を再び見上げる。
「勝手に人の気持ちを決めつけるな」
 たまにどちらが年上なのか分からなくなる。
「俺はお前の無駄に変な方向に早とちりするのが苦手なだけだ。嫌いだなんて一言も言ってないのに」
 まるで駄々っ子のような性格だ。自分の感情に素直過ぎて、相手をしている方は疲れてしまうだろう。なのに何故かリシェは放っておけなかった。
 理由は分からない。
「………」
「早く飲め」
 気付けば半泣きになるラスに、リシェは「本当にお前は面倒な奴だな」と呆れてしまった。
「だっ…て、先輩に嫌われたかもしれないって思ったから」
 これ程までに単純な人間を見た事が無い。
「俺、先輩に嫌われたくない…凄く好きなんだもん…ううう」
「あぁ、もう…面倒臭い奴だなお前は!」
 リシェもリシェで、ラスの悲しげな表情を見るのは何とも言えない気分になってしまう。何故こんなに気分がざわついてしまうのか自分でもよく分からなかった。
 グラスを机に置き、悲壮感たっぷりのラスにぐぐっと近付く。
「……っうう」
 近付いたのはいいが、この先どうしたら良いのか分からなくなってきた。全身が固まり、緊張してしまう。
 ラスはきょとんとした様子で目の前のリシェを見た。
「先輩?どうしたんです?」
 リシェはうぬぬと呻きながらラスの眼前まで顔を近付けると、恥ずかしくなったのか少し目を逸らした。
 何をしようとしているのか。彼を慰めようとして動いてしまったのだろうか。混乱する中、リシェはラスの腕の中にすっぽり収まっていた。
「…だ、ダメだ!やっぱり俺にはこういうの向いてない!」
 リシェはラスに抱き締められながら首を振ると、彼から逃れようと身動ぎする。自分から動いたくせに怖気付くという情けない構図になり、恥ずかしさで顔を真っ赤にした。
 一方のラスはしっかりとリシェを抱き締め、ここぞとばかりに突いてくる。
「ここまで頑張ってくれたのにやめちゃうの、先輩?じゃあ俺に任せてくれますか?」
「嫌だ!!やっぱり止めだ、止め!!離せ!」
 ぐねぐねと身悶えするリシェを押さえながら、ラスは「駄目」と優しく頬擦りする。大変可愛く見えたようだ。
 今度はリシェが泣きそうになる。
「馬鹿馬鹿、やめろ!離せ、少し甘くしたらこれだ!」
「先輩だって自分から仕掛けてきたくせに。ここまできて止めちゃうだなんて勿体無いじゃないですか!」
 ラスの指先はリシェの顎を捕らえると、ゆっくりと自分に向けさせる。弱まる彼の唇に近付けていき、満更でも無いくせにと軽く嫌味を言いながら奪おうとした。
 きゅう、と目を閉じるリシェ。
 すると遠くからドスドスと激しい足音が聞こえてきた。まさか、と二人は嫌な予感に神経を尖らせる。
「…だから!!盗み聞きしてる立場にもなれって言ってるでしょ!?何いちゃついてるのさ!!!」
 激しく扉が開かれ、スティレンが入ってきた。
 うわああ!とリシェはラスを突き飛ばすと、その拍子でごろごろと床に転げ落ちていった。
「せ、先輩…!!」
 折角のチャンスが無くなり、ラスはガッカリすると同時に、あまりのリシェの転がりっぷりについ心配になる。
「ふん、残念だねラス!俺の監視下に置かれてるうちは、リシェに手出しなんてさせやしないよ!」
 相変わらずめちゃくちゃな事を言う。
 リシェは激しく高鳴る胸を押さえ、泣きそうになりながらスティレンを見上げると「お前も勝手に盗み聞きしてその都度部屋に入って来るな!!」と怒鳴っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

処理中です...