異世界学園の中の変な仲間たち2

へすこ(ひしご)

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そのななじゅうきゅう

夢の中の虫退治

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 うう、とラスは眠りながら呻き声を上げる。
 リシェは本を読んでいた手を止めて、やけに苦しそうだと彼のベッドの近くに近付いた。
 …変な夢でも見ているのだろうか。

 そこは見た事がある景色だ。
 むさ苦しい男達の掛け声、砂埃に汚れた建物。自分の姿は、記憶に残っている黒い剣士としての制服。
 …自分は『戻った』のだろうか。あのままでも良かったのに。
 改めて自分の姿を確認すると、やはり元の世界の自分だ。あの平和な学生の格好では無い。
「何をしているんだ、ラス」
 ひょっこりとこちらを覗き込むようにして声をかけてくるのは、元の世界のリシェ。凛としていて、どこか大人びている性格の彼は自分を見上げながら不思議そうな顔をしている。
 ラスはハッと我に返り、反射的に彼を抱きしめたくなる衝動を抑えてしまった。
 こちらのリシェも大変良い。華奢な体にかっちりした剣士用の服なんて、たまらなく欲をそそる。
「んんんんんっ」
 我慢を口に出しながら、首をぶるぶると振った。
「変な奴だな。今日は害虫駆除の任務だ。虫嫌いのヴェスカがうるさいが我慢しなきゃな」
「あっ…そ、そうですね。任務…任務かあ」
 やる気の無い言葉を聞くと、リシェは眉を軽く寄せる。
「何か不満があるのか?」
「いや、無いですよ。先輩と一緒なら何も不満は無いですし」
 向こう側のリシェに慣れてしまった為か、本来の彼とのやり取りが変に難しく感じてしまった。
 真面目、堅物、その可愛らしい外見に似合わずストイックな性格。対して向こう側では悲観的で泣きやすく、そして怒りっぽい。現状のラスが抱く違和感はそこからなのだろう。
 同じ顔で性格が違うのだ。
 こちらもいいけれど、慣れてしまった分たまに見せる甘い部分のリシェが恋しいなあ、と思いながら彼に着いて歩く。
 害虫駆除の任務の準備をする仲間達と合流し、馴染み深い大聖堂内の虫退治をしようとすると、不意に「こんにちは」と優しい声が聞こえてきた。
 その声を聞くと同時に、周囲の者達はどよめき姿勢を改める。
「ロシュ様!」
 リシェの嬉しそうな声が聞こえた。
「ふふ、お疲れ様です」
 人々を惹きつけてくる笑みを浮かべながら、華やかな司祭ロシュはこちらに近付いてきた。
 リシェの下着を要求したり、裸を見せろと吹き矢を飛ばしたりするような頭のおかしい保健医と同一人物だとは思えない姿。
 こちらのロシュはとにかく何の欠点も見つからない完璧過ぎる人物だった。
「お掃除の任務ですか?」
「はい、ロシュ様」
 リシェは質問を受け、嬉しそうに答えていた。
 そうなのですね…と彼はほんわかした様子で別の剣士から虫取り網を借りると、ちょうど散歩をしていた所なんですよと微笑む。
「私もお手伝いしましょう」
 ロシュ直々の申し出を、リシェは驚き「そんな、ロシュ様」と止めようとしていた。
 流石に彼の手を煩わせてはいけないと思ったのだろう。
「手が汚れます、俺達の仕事ですから」
「いいえリシェ。これはぜひ私にやらせて欲しいのです…よっ!!」
 虫取り網を手にしたロシュは、その掛け声と同時に網を振り下ろしてくる。ラスは「えっ!?」と目を丸くした。
 網を下ろした方向は、明らかに自分目掛けて下ろしたのだから。
 その瞬間、ラスの眼前の世界が暗転する。
 頭の中でロシュの声が響き渡っていた。
「…リシェにくっつく悪い虫さんは、ちゃんと取らなければいけませんからねぇ」
 くすくすと笑い、嫌味を含む彼に、ラスは怒りを込めて叫ぶ。
 真っ暗に染まる世界の中で。

「…この変態司祭!俺は虫じゃない!!!」
「うわあぁああああ!!な、何!?」
 ガバッと身を起こすと同時に、近くで様子を見ていたリシェの悲鳴が上がる。びくびくと怯えた様子で彼は尻餅をついていた。
 ラスは呼吸を荒げながら改めて周りを見る。
「何だよ…うなされてるから変だと思ったのに」
 自分のベッドのすぐ下で、リシェが困惑しながらこちらを見ている。ラスは思わず自分の周囲を確認した。
 どうやら夢だったらしい。
「せ、先輩」
「………?」
 リシェは不思議そうな表情でラスを見上げた。ベッドから降り、がばりと彼を抱き締める。
「先輩、先輩っ、先輩ぃいい!!良かった、俺の先輩だ!!」
 向こうのリシェも良いが、やはり今の自分には目の前に居るリシェがいい。
 向こう側はどうしても一方通行になってしまう。だからその分寂しく感じる。ぐにぐにと頬擦りをしながら、ラスはリシェの感触を確かめていた。
「何だお前!!くっつくな!!」
 意味も分からず勝手に叫ばれ、挙句にはしつこい位に抱き締められているリシェは、抱き締めてくる腕の力に「中身が出る!」と意味不明に怒鳴る。それでもラスは抱き締めるのをやめない。
 ラスからの求愛から逃れようともがき、邪魔だと彼の頭を拳で殴りつけていた。
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