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そのきゅうじゅう
おまわりさんこの人です
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長期休暇だというのに、会いたくもない相手に会ってしまうなどとは何と不運な事だろうか。目の前に居る人物を見ながらオーギュスティンは思っていた。
フォークに巻き付かれるパスタの麺を黙って眺める。
綺麗に食べるあたり、相手の育ちの良さを感じさせられるものの、口から出てくる言葉の羅列は聞くに耐えない内容だった。
「はぁ…リシェといちゃいちゃしたい。したくて堪らない」
「人をここに引っ張っておいて話したい事はそれですか」
うんざりしてくる。
自分が使う物で足りないものを買いに街に出てきたが、偶然ロシュとばったり遭遇してしまい食事に付き合わされてしまった。
散々嫌ですお断りです絶対嫌だと拒否したのだが、相手はとにかく強引だった。嫌だと言っているのに無理に腕を取って引っ張っていくので、まるで宇宙人と会話をしている感覚に陥る。
そして聞く話がこれ。
「ほら、お昼何も食べてないかと思って。あなたはお水でいいんですか?何も注文してないじゃないですか…」
お行儀良い食べ方をしながら、ロシュは水一杯だけのオーギュスティンに問う。そんなに空腹ではなかったので、今はいらないですとだけ返した。
そうですか…と返しながら、ぐるぐると麺を絡ませる。
「私、帰ってもいいですか」
居る理由がまるで見つからない。オーギュスティンは延々と同じような話ばかりしているロシュに言った。早く全て買い物を済ませて家に戻りたかった。
ここでロシュのつまらない話を聞く時間ですら勿体無いのだ。
「ええ」
それなのに彼は嫌がる素振りを見せる。
「話くらい聞いてくれたっていいじゃないですか…」
「聞きたくもない話を聞かされる身にもなってくださいよ」
「そんな。私がいかに彼を大切に思っているのか分かって欲しいんですよ、担任教師のあなたにぜひ」
「担任教師だからこそ聞きたくもないんですけど…内容によっては警察に突き出してもいいでしょうか。それならお聞きしますよ」
ひたすら警戒をし続けるオーギュスティンに、ロシュはまるで犯罪者の扱いじゃないですかと困惑する。自分はとにかくリシェに並々ならぬ愛情を抱いているのだと知って欲しいだけなのだ。
元の世界の記憶をオーギュスティンも持っていれば、協力してくれるのではないだろうかと淡い期待を持っていたが、どうやら望み薄らしい。
元の世界の記憶があるのは、現段階ではラスと自分のみ。
ロシュはふう、と一息つく。
「とにかくどうしても私はあの子が欲しいんです」
「そんな事知りませんよ。あなたがリシェの事を言うたびに余計彼を守らなければならないと思ってしまいます。何考えてるんです、ド変態が」
ロシュの思惑を完全に無視して本当に通報してやろうかと思えてくる。毒を吐きながらオーギュスティンはロシュに冷たく突き放した。だが諦めの悪いロシュは神妙な面持ちで思っている事を担任である相手に訴えてきた。
「恋です」
「あ?」
我ながら酷い返事の仕方だと思ったが、丁寧に返す気にもなれなかった。
「恋だと思うんです」
「………」
ならそうだと言え。
それでも嫌そうにオーギュスティンは冷たい目線を向ける。
「通報していいですか?」
「どどど、どうして」
「あなたの頭がおかしいから言ってるんです。それを私に相談して協力するとでも?」
しかも出だしがリシェといちゃいちゃしたくて堪らない、となればやはり通報してあげた方がいいのではないだとうか。
彼の為にも、リシェの為にも。
ロシュは困惑した様子でそんな事言わないで下さいよと弱る。
黙っているととにかく美形で人気があるのも理解出来るのに、彼はどうしていつも残念なのだろうか。
対する自分はこの外見のせいで怖いと言われがちなのに。
僻みもあってか、更に憎たらしくなってくる。
「ワンチャンあるかと思って」
「ありません」
「そこを何とか」
「嫌ですよ」
オーギュスティンは椅子から立ち上がると、「もういいでしょう」とロシュに告げる。もう何も言う事は無い。会話をすれば同じ事しか言わない彼にうんざりしながら帰りますからと断りを入れた。
諦めきれないのか、ロシュは待って下さいよぉと悲しそうにオーギュスティンを見上げた。まだ注文したパスタは残っている。
「私はまだ話したい事があるんですけど」
「どうせ同じようにリシェの事でしょうが。私はあの子を守る義務があるのでね、犯罪者の片棒を担ぐ訳にもいきませんから」
「犯罪だなんてそんな!恋愛相談じゃいけませんか」
「ダメです」
「あなたが応じてくれないならうっかりあの子を襲うかもしれません!」
しつこいな、と思わずにはいられない。しかも危険な発言をしている。急激にオーギュスティンは冷静になった。
「本当にどうしようもない人だ」
それでは失礼しますねと一言言うと、彼をそのまま残してレストランからさっさと退散する。こんなおかしげな会話をする相手と同類だと思われたくない。
「何で帰るんですか!」
「あんたと同じ空気を吸いたくないからですよ」
ありがとうございました、と店員の声を聞きながら、おもむろに自分の電話を手にするとある番号に連絡を始める。
「…はい。はい。ではお願いしますね」
一通り用件を済ませた後、爽やかな気分でその場から離れた。
残りの買い物をしている最中、パトカーが数台横を通過する。
オーギュスティンはちらりと車が進行していった方向を見届けた後、何食わぬ顔で再びショッピングを再開した。
フォークに巻き付かれるパスタの麺を黙って眺める。
綺麗に食べるあたり、相手の育ちの良さを感じさせられるものの、口から出てくる言葉の羅列は聞くに耐えない内容だった。
「はぁ…リシェといちゃいちゃしたい。したくて堪らない」
「人をここに引っ張っておいて話したい事はそれですか」
うんざりしてくる。
自分が使う物で足りないものを買いに街に出てきたが、偶然ロシュとばったり遭遇してしまい食事に付き合わされてしまった。
散々嫌ですお断りです絶対嫌だと拒否したのだが、相手はとにかく強引だった。嫌だと言っているのに無理に腕を取って引っ張っていくので、まるで宇宙人と会話をしている感覚に陥る。
そして聞く話がこれ。
「ほら、お昼何も食べてないかと思って。あなたはお水でいいんですか?何も注文してないじゃないですか…」
お行儀良い食べ方をしながら、ロシュは水一杯だけのオーギュスティンに問う。そんなに空腹ではなかったので、今はいらないですとだけ返した。
そうですか…と返しながら、ぐるぐると麺を絡ませる。
「私、帰ってもいいですか」
居る理由がまるで見つからない。オーギュスティンは延々と同じような話ばかりしているロシュに言った。早く全て買い物を済ませて家に戻りたかった。
ここでロシュのつまらない話を聞く時間ですら勿体無いのだ。
「ええ」
それなのに彼は嫌がる素振りを見せる。
「話くらい聞いてくれたっていいじゃないですか…」
「聞きたくもない話を聞かされる身にもなってくださいよ」
「そんな。私がいかに彼を大切に思っているのか分かって欲しいんですよ、担任教師のあなたにぜひ」
「担任教師だからこそ聞きたくもないんですけど…内容によっては警察に突き出してもいいでしょうか。それならお聞きしますよ」
ひたすら警戒をし続けるオーギュスティンに、ロシュはまるで犯罪者の扱いじゃないですかと困惑する。自分はとにかくリシェに並々ならぬ愛情を抱いているのだと知って欲しいだけなのだ。
元の世界の記憶をオーギュスティンも持っていれば、協力してくれるのではないだろうかと淡い期待を持っていたが、どうやら望み薄らしい。
元の世界の記憶があるのは、現段階ではラスと自分のみ。
ロシュはふう、と一息つく。
「とにかくどうしても私はあの子が欲しいんです」
「そんな事知りませんよ。あなたがリシェの事を言うたびに余計彼を守らなければならないと思ってしまいます。何考えてるんです、ド変態が」
ロシュの思惑を完全に無視して本当に通報してやろうかと思えてくる。毒を吐きながらオーギュスティンはロシュに冷たく突き放した。だが諦めの悪いロシュは神妙な面持ちで思っている事を担任である相手に訴えてきた。
「恋です」
「あ?」
我ながら酷い返事の仕方だと思ったが、丁寧に返す気にもなれなかった。
「恋だと思うんです」
「………」
ならそうだと言え。
それでも嫌そうにオーギュスティンは冷たい目線を向ける。
「通報していいですか?」
「どどど、どうして」
「あなたの頭がおかしいから言ってるんです。それを私に相談して協力するとでも?」
しかも出だしがリシェといちゃいちゃしたくて堪らない、となればやはり通報してあげた方がいいのではないだとうか。
彼の為にも、リシェの為にも。
ロシュは困惑した様子でそんな事言わないで下さいよと弱る。
黙っているととにかく美形で人気があるのも理解出来るのに、彼はどうしていつも残念なのだろうか。
対する自分はこの外見のせいで怖いと言われがちなのに。
僻みもあってか、更に憎たらしくなってくる。
「ワンチャンあるかと思って」
「ありません」
「そこを何とか」
「嫌ですよ」
オーギュスティンは椅子から立ち上がると、「もういいでしょう」とロシュに告げる。もう何も言う事は無い。会話をすれば同じ事しか言わない彼にうんざりしながら帰りますからと断りを入れた。
諦めきれないのか、ロシュは待って下さいよぉと悲しそうにオーギュスティンを見上げた。まだ注文したパスタは残っている。
「私はまだ話したい事があるんですけど」
「どうせ同じようにリシェの事でしょうが。私はあの子を守る義務があるのでね、犯罪者の片棒を担ぐ訳にもいきませんから」
「犯罪だなんてそんな!恋愛相談じゃいけませんか」
「ダメです」
「あなたが応じてくれないならうっかりあの子を襲うかもしれません!」
しつこいな、と思わずにはいられない。しかも危険な発言をしている。急激にオーギュスティンは冷静になった。
「本当にどうしようもない人だ」
それでは失礼しますねと一言言うと、彼をそのまま残してレストランからさっさと退散する。こんなおかしげな会話をする相手と同類だと思われたくない。
「何で帰るんですか!」
「あんたと同じ空気を吸いたくないからですよ」
ありがとうございました、と店員の声を聞きながら、おもむろに自分の電話を手にするとある番号に連絡を始める。
「…はい。はい。ではお願いしますね」
一通り用件を済ませた後、爽やかな気分でその場から離れた。
残りの買い物をしている最中、パトカーが数台横を通過する。
オーギュスティンはちらりと車が進行していった方向を見届けた後、何食わぬ顔で再びショッピングを再開した。
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