TRE~宝を奪われた専門職達の復讐物語~

ニコニコ大元帥

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第一章 第十五話~潜入~

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「ん? お! 帰ってきたか!」
「任務は完了したみたいだな。だがこんな時間まで何してたんだ?」

 遂に……僕らは街のど真ん中に建つ目的地の王宮に到着した。
凄い大きな王宮だ。いや、大きさだけじゃない。建物全体に施された彫刻は人目に付きにくい支柱にまで及び、街の惨状など感じさせない程豪華な王宮だ。僕の居た世界で言うとヴェルサイユ宮殿が近いかもしれない。
 王宮の入り口には五名ほどの憲兵が立っており、僕らが最初に直面する第一関門がここだ。

「………………」
「あ~……答えるのめんどくせぇ……」
「ちっ! 相変わらず無口な女と面倒くさがりな奴だぜ!」
「おいやめとけ。こいつらTREだぞ? 下手したら殺されちまう……」
「わかってるよ! おら! さっさと入りな!」
「はぁ……連れてくのめんどくさいけど、仕方ないなぁ……」

 旋笑は黙って無表情でいるだけでごまかせるが、音破は口調や歩き方などを変えないと見破られてしまう。更にその動きは本来の自分の性格とは全く逆のものだから、バレないかと内心ヒヤヒヤだ……というのは先程までの事で、音破は洗脳されているのではないか? と思ってしまう程、動きも口調も接し方も完璧に演技しきっている。暗殺術には一般人に成りすますというスキルも必要だからかな? いや、音破は暗殺術を使わないはず……だとしたら武術家はみんな演技上手なのか……?

「………………」
「いでででで! わ、分かった! 進む! 進みます!」

 そんな考えをして立ち止まっている僕は、旋笑に耳を引っ張られて歩かされた。そうだ。今は僕も囚われた男を演じなければ。
 豪華絢爛な内装の王宮を進む僕ら一行。道行く憲兵や警備兵達はちらちらと僕らの方を見てくるが、特に怪しんでいる様子もない。と、いう事は僕らの拘束や旋笑達の演技はバレていない証拠だ。

「おい」
「「「!!」」」

 不意に背後から声を掛けられて振り返ってみると、憲兵二人が僕らの方に近づいて来た。ま、まさか見破られたのか? 立ち止まった僕らは、こちらから変な行動は起こさずに向こうの出方を待った。すると、憲兵はグアリーレさんの前で立ち止まり、品定めをするように体や顔を見始める。

「へ! 中々の上玉だな!」
「このまま殺すのには勿体ないぜ!」
「なぁ……俺らにくれよ」
「へへへ! たっぷり可愛がってやるぜ!」

 憲兵はグアリーレさんの体目当てで僕らに話しかけてきたらしく、下卑た目を向けている上に、邪な考えを提案してくる。こ、こいつら……もしかして今までにもこんなことをして来たのか……!

「おめぇら……俺の妹に手を出したらぶっ殺すぞ」
「は! 囚われの身で何ができるんだよ!」
「やれるもんならやってみろよ!」
「いい度胸だな……」

 憲兵はラージオさんの脅しにも大した反応を見せずにグアリーレさんに手を伸ばし始めた。 ま、まずい! ラージオさんが暴れ出してしまう……! その時、旋笑と音破が動いた。

「…………っ!」
「が!?」

 旋笑はウエストポーチからナイフを取り出してラージオさんの背後に回り、首元に刃を押し当てて黙らせる。音破は憲兵の腕を掴むと顔に当て身を繰りだして、よろめいたところを足払い。掴んでいた手を背中に回し、後頭部を掴んで地面に叩きつけ、憲兵をねじ伏せた。

「な、何をする!」
「こいつらは俺達の得物だ……それに真王様には戦力として迎えたいからなるべく無傷で連れてこいと言われている……」
「………………」
「めんどくせぇけど……手ぇ出すなら阻止させてもらうぜぇ……」
「……ちっ! わかったよ!」
「覚えておけよ!」
「覚えんのもめんどくぇ……あとそこの髭のオッサン。変な事はすんなよ……めんどくせぇから……」
「ぬ……! わ、分かったよ!」

 旋笑はラージオさんの首元からナイフを離して腰のポーチに収めた。そして今回のMVPは音破だ。相手を最小限のダメージで制圧しつつ、違和感のない理由を述べ、さりげなくラージオさんにも釘をさす……やはり場数も違うし、実践慣れをしているなぁ……。音破は体をくねらせながら歩き始め、僕らの方に近寄ると何かを耳打ちしてくる。

「……皆さんお辛いでしょうし、怒るのもわかりますが、変な気は起こさないようにしてくださいよ」
「……す、すまん……」

 音破はラージオさんの肩を叩きながら言葉を続ける。

「……その代り俺が意地でも対処しますんでご安心を」

 音破は僕らにしか見えないように親指を立てる。すると今度は僕の肩を旋笑が突き、自分もいるよと言った自信に満ち溢れた表情を浮かべながら小さく頷いた。

「……ありがとう……信用するよ」
「……おう! 任せ……ろ」

 音破の声のトーンが下がった。銅像のように体を硬直させ、僕の背後を凝視する。うん? 僕の後ろに誰かいるのかな? 僕は振り返り後方を確認してみる。
「ご苦労であったな」
「へい……」
「優秀なのは認めるが、怠け過ぎは感心せんな」

 後ろにいた人物は頬骨が浮き出ているほど痩せこけた顔立ちに、高そうな服を着てはいるが、完全に服に着られているような、服に負けてしまっている身だしなみをしている男性だった。かけている眼鏡を少し上げなおしながらこちらを見つめ、音破に話しかけているが、一体何位者だ?

「だれだ? と言った表情だな。という事は全員この街の住人ではないのか。まぁ今後私の部下になるかもしれないから名乗っておこうか。私の名前は社尽しゃじん。この街の王を務めている」
「「「!!」」」

 この街の王!? なんてこった。いきなりトップのお出ましか……。それにしてもこの王は何というか王たる風格が無いな……。何というか、一般のサラリーマンが仮装で王の恰好をしているみたいな印象を受ける。

「そこの女」
「………………」
「お前は今回いい功績を起こせていなかったようだな。そのような働きでは今後苦労するぞ。まぁ私も昔は必死に働いても評価されなかったんだがな」

 必死に働いたけど評価されなかった? という事はこの人は根っからの王様ではなく、一般市民から王に成り上がった人なのかな? そんな事があり得るのだろうか?

「まぁいいさ。真王様がお待ちだ。ついてこい」

 そう言うと社尽王は音破ついてこいと言ったジェスチャーをした後、歩き出した。僕らを真王のいる玉座に連れて行くためだろう。けど……

「……心の準備が……」

 今になって緊張がぶり返して来た。真王達の居る玉座にはもう少し迷う事になって、もっと後に行くことになるだろうとか、そんな淡い期待というか、勝手な予想をしていたんだけど、社尽王の登場で一気に流れが変わってしまった。
 確かに怪しまれずに真王の場所まで行けるかもしれない。最も効率よく最短で行けるかもしれない。けど、もう引き返すことも、休憩も無い。着いた先に待つのは命の取り合い、奪い合いのある空間だ。そう考えると足は震え、生唾を飲む回数も増え、汗も噴き出て、視界もブレて見えてくる。
 そんな事を考えているうちにもう目的の玉座の部屋の前に着いてしまった。なんてこった。こんな大きな宮殿のはずなのに、まるで自宅の寝室からトイレに向かうみたいな感覚の距離感に感じてしまった。社尽王は入り口の憲兵に何かを告げると、憲兵は重厚な扉を開けて中に入っていった。恐らくは僕らが来たことを真王に伝えに行ったためだろう。

「はぁ……! はぁ……!」

 過呼吸気味に息を吸い、噴き出した汗を吸って服はびしょびしょになって重くなっていた。口の中は乾き、額はヒリヒリして立っているのも辛い。

「………………」

 それに気が付いた旋笑が僕の袖を引いてくるが正直な話全く効果が無い。正直もう立ってられない。胃液が込み上げ、意識を失いかける。

「……奏虎さん……」

 その時、グアリーレさんが僕に密着してきた。柔らかい温もりが僕に寄りかかって……そして――

「――――――」

 鼻歌が聴こえてきた。この曲は……わからないや。この世界特有の曲なのだろう。けど、元居た世界の曲で例えるのならそうだな……プッチーニ作曲のオペラ『ラ・ボエーム』の第二幕、クリスマスシーンで流れたムゼッタの『私が街を歩けば』に近いかな。

「……グアリーレさん?」

 その歌声を聴いていると強ばっていた体の硬直が解け、視界も元に戻り、緊張もほぐれてきた。ふとグアリーレさんに目をやると、その体からは微弱だけど白い光を放っており、能力を用いて歌っているのが分かった。

「……落ち着きましたか?」
「……は、はい。ありがとうございます」

 確かに助かったけど、なんでそんな危険な行為を? もしかしたらバレてしまう可能性だってあったのに……

「……大丈夫ですよ」
「……え?」
「……たとえ奏虎さんが大けがを負っても私が癒します。だから安心してください」

 耳元で優しく問いかけるその声は少し震えていた。いや、声だけじゃない。密着しているからこそわかるけど、グアリーレさんの体は小刻みに震えている。

「……俺もいるぜ。約束しただろ? お前の事は守るってな」

 ラージオさんは声や体こそ震えていなかったが、下瞼がぴくぴくと痙攣している。あの超攻撃的能力を保有していて、精神も図太いと思っていたラージオさんまでも……

「……そうか……そうですよね」

 何を勘違いしていたのだろうか。この場で怖いと思っていたのは僕だけじゃなかったんだ。みんなTREだけど、みんな僕と同じ心臓一個の人間なんだ。いくら能力を持っていたって怖いものは怖い。それなのにみんな僕の事を気遣ってくれている。逆に僕はみんなに何も気遣ってあげられていない。

「……すみません。皆さん。もう大丈夫です」
「……お。そうか?」
「……はい。囮や壁くらいにしか何ませんけど、一緒に乗り切りましょう」
「……へへへ! よろしく頼むぜ!」

 そうして互いを鼓舞し、慰め合い終わる頃、目の前の大きな扉がゆっくりと開いた。
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