3 / 6
らぶ・TEA・ぱーてぃー その三 改訂版
しおりを挟むさて、こちらは『陽史のお庭』
すなわち、ティーパーティ会場である。
育嶋佑は、いつもの通り、『女難』に遭っていた。
「ね、留美ちゃん? 佑くんてどんな男の子?」
縁が興味深そうに尋ねる。
「え? 佑ですか? 佑は……」
その後に続くノロケにいたたまれない佑である。
(女の子……いや女の人って、どうして他人の色恋沙汰が好きなのかなあ……)
と溜息をつかんばかりだ。
それで済めばまだよかったのだが……。
「じゃあ、今度は」
留美の惚気話にアテられもせず、というより興味倍増の様子の縁は、矛先を佑へと向けた。
「佑くんに聞いちゃおか?」
「はい!」
佑の気も知らず……というより知らなくて当たり前だが、留美が元気よく応える。
「い、いや、ぼ、僕は……」
「まあまあ、いいじゃない? お姉さんに訊かせてよ、二人の、仲のいいハ・ナ・シ」
そのとき、佑は閉口して、辟易として、弱り果てていた。
もともとそういうことを声高らかに喧伝したくないのが年頃の男子というものだが(もちろん例外はある)、それでなくても自分たちの恋愛交際形態が一般的にいえない以上、佑の口が重くなるのも致し方ない。
かといって、だんまりを決め込むのも問題がある。
今回招待されたのは留美であり、自分は付き添いにすぎないから……と逃げられる状況でもない。
ほとほと困り果てていた時に、救いの手が差し伸べられたのである。
「ご、ごめんなさい! 遅れちゃって……」
「あー美久ちゃん! いらっしゃい!」
という、御世の歓迎の声に続いて、縁の声。
「あ、美久さん? 待ってたのよ!」
うって変わった縁の態度で、もはや佑のことは目に入っていない。
(た、助かった……)
明らかにホッとした佑を見て、留美は可愛らしく微笑んだ。
「よかったね、佑?」
という、留美の心の声が聞こえた気がしたくらいだった。
かくて、佑も聖美久のファンの一人となったのであるが……。
経緯から言って、一般的な思慕や憧憬や恋情とはまるでほとんど関係がない、というのはご理解いただけると思う。
だが、美久にとっても、留美にとっても、もちろん佑自身にも、その方が有り難いだろう。
そして、本格的に佑が……いや、佑と留美が美久のファンになったのはこの後のことだったのだ。
美久が到着するまで手持ち無沙汰だった縁。
それ故に、若い二人の恋愛模様を詮索していたわけだが、そんなことは今は気にならないくらい気分が高揚していた。
なんせ、美久は料理上手である。
その評価は……例えば『三つ星』が最高だとすると
「文句無しに五つ星!」
と声を大にして主張したいくらいのものだ、と専らのウワサである。
しかも、それは評判倒れではないのは、縁自身がよく知っている。
生き別れの……と言うのもおかしいが、ハタチを超えても会うことがなかった、いとこ同士の御世と美久。
なぜそんなことになっていたのか、それは今回述べないが、別に好悪でそんなことになっていたわけではない。
従って、お互いの存在を知ってからは、交流が一気に深まり、親密になったのである。
で、その親愛の情をあらわすのに、美久は何度となく『差し入れ』をしてくれたのだった。
『差し入れ』
言うまでもなく、美久お手製の料理である。
御世の好みもあり、多くはスイーツに属するものだったので、縁は最初のうち敬遠していたが、何の気なしにひょいと口に入れて
「なにこれ!?」
となった。
自分の味覚が大変化したのかと思ったのである。
辛党なのが甘党にドンデンがきたのか?と考えたのだ。
しかし、すぐにそうではないことがわかった。
その時に飲んだハーブティーが、いつもと同じ味だったからだ。
そして次の機会が1週間後にやってきたが、それですっかり美久のファンになってしまった縁なのである。
ちなみに、美久お手製のスイーツ以外は
「甘ったるくて食べらんない……」
なのだった。
なんせ、紅茶にも砂糖を含む甘味料を滅多に入れないのだから。
ところで、やっと到着した『お手製のスペシャルスイーツの包み』を携えた美久の出で立ちはというと
「ご、ごめんなさいね、こんな格好で」
オーバーオールにリュックを背負い、肩には道具袋をかけ、何か紙袋を逆さにしてボゥルに被せて捧げ持っていた……という格好であった。
つまり、さっきと同じ服装である。
「お店が混んでて」
荷物を下ろしながら謝ろうとする美久。
「いやそれより、すぐ用意するから!」
すっかり謝り癖が付いている美久は、何とか荒い呼吸を制して
「ちょっと待っててね?」
と物陰へ駆け込んだ。
美久の身のこなしとか、その他いろいろにびっくりした留美は、目をぱちくりさせて御世に尋ねた。
「お姉さま、今のが?」
「う、うん、いとこの美久ちゃんだけど……なんだろあの荷物?」
流石の御世もびっくりして、心配そうに美久が消えた物陰をみつめる。
佑はおずおずと、美久が置いていったテーブルの上の荷物を見やって指摘した。
「たぶん、これがスイーツなんじゃないかと」
おそるおそる指さすボゥル。
たしかにそれっっぽい。
「じゃあ、こっちは何なのかな?」
留美が無邪気にコックの帽子みたいな包みを指さし、一同は首をひねった。
「さあ……?」
疑問を山積みといった状況で、どうしていいやら当惑中の面々だった。
「お待たせ! さあみんな、座ってね?」
との美久の声を聞いて振り向くと、彼女はエプロンドレス……ではなくパティシェの服装に身を包んでいた。
サイズが合っていなくてだぼっ、としているのが、なんとなく微笑ましさを感じさせる。
「パティシェールの服じゃなくてパティシェ服?」
と縁が疑問を呈する。
「あ、これは」
美久の解説によると、彼女は半年くらい前の依頼でたまたま報酬代わりにパティシェ服を貰ったのだそうな。
お菓子屋での試食、及びそれに連なる殺人事件を解決した時のことだという。
今回の話に関係ないので言及は避けるが、そのうち折を見てご覧にいれよう。
しかし、基本、美久の職業を知らない留美と佑にはなんのことだか解らなかった。
「報酬代わりに貰ったの」
と言われても、今の美久の姿から殺人事件の解決をした探偵を想像するのは、あまりに難しすぎた。
相当にギャップが大きかったのである。
本人に言わせると
「ううん、彼が解決したの、あ、あたしなんて少し口を挟んだだけで」
なのらしい。
しかし、縁は美久が大部分の推理をしたのだろう、と睨んでいる。
御世は特に何も考えていなかった。
理系実技まっしぐら!なのである。 推理小説はあまり読まないのだ。
したがって推理の習慣がない。
読むとしたらSF、しかもマッドサイエンスものが多い。
参考にする為なのだ。
怖い話であった。
特に、縁にとっては。
0
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる