らぶ・TEA・ぱーてぃー

倉智せーぢ

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らぶ・TEA・ぱーてぃー その四 改訂版

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美久が包みをテーブルの上に置いた。
そして、道具の袋も置くと、包みの方を開き、大きなスポンジケーキ風のものをテーブルに乗せた。
プ~ンと柑橘系のよい香りがして、縁は
(美味しそうね……でも、美久さんのお手製にしちゃちょっと地味かな?)
と首を傾げた。
が、留美も佑もそんな感想を抱けるほど美久のことを知らない。 ただ
(美味しそう……)
と思っただけである。

次に美久は、前に置いたボゥルにヘラを差し込んで純白のクリームをすくい取り、スポンジケーキに塗りはじめたのだった。
美久は事前にホイップしておいた生クリームで、ケーキをデコレーションしはじめたのだった。
「わあ!」
留美が歓声を上げる。
ほんの数秒で、今までザラザラだった表面がすべて白くなめらかになり、ウエディングケーキのようになったのだ。
細かいデコレーションなしで小さめの……ではあったが、その大きさは一般的なホールケーキより一回りほど大きかった。 本職もびっくりする腕前と言っていいだろう。
まるで魔法のように、見応えのある鮮やかな手つき。 まるで舞いでも舞っているかのようだ。

無地のデコレーションだったが、それが終わるのがあと少し遅かったら拍手が起きていたに違いない。
「すごいすごい!」
それでも留美は拍手をしたし、佑もしかけた。

が、美久の美技びぎは、実はそこから始まったのだった。

クリームを流しこんだしぼり袋をとりあげる美久。
今度は、本格的なデコレーションである。
「あ!」
その口金が華麗に滑り、小ウェディングケーキ(仮)の上に優美なシュプールを描いていく。
それは、凹凸を為して光と影の芸術品を生み出していった。
「ふう……」
フィニュッシュを決めたらしく、ふとため息のようなものを軽くついてから、ほとんど空になった袋を器用にたたみ、両手でかんづめのチェリーを器用に並べ終わった。
そのとき、拍手が鳴り響いた。
あまりの華麗さに感動した留美が手をたたきだし、佑がそれに続き、少し遅れて縁と御世もあとに続いたのであった。
「あ」
とたんに美久は顔を真っ赤にした。
「あ、あたし……」
火照った頬に掌をあてて可愛らしくもじもじとしながら
「一度、やってみたくて……で、でも似合わなかったかな……ごめんなさい」
ごめんなさいと言われてもみんなは困るだろう。
何をやってみたかったかもよくわからない。
一同が?の顔になる中、御世はあいかわらず無邪気な顔でニコニコしている。
(もしかして引きつってるんじゃないでしょうね?)
とか縁は思わないが、あまりの反応のなさに腹は立ってくる。
しかしこんな席である。
女主人ホステスである御世に食ってかかるわけにも行かない。
「えーと、何がやってみたかったんですか? 美久さん」
と縁が尋ねると、もじもじしながら美久は
「お客さまが席に着いているときに、デザートの仕上げをするのってちょっと憧れてて」
「はー、なるほど」
どうしてそこに憧れるのか?という疑問は残るが、一応の合点はいった。
だが、感動は収まらない。
特に、留美は感動のあまり、大きい瞳を輝かせ目を潤ませ、手を合わせて指を組み、憧れと尊敬の目差しで美久を見つめている。
ほとんど神さまに祈る格好だな、と縁は感心してしまった。
(留美ちゃんて、可愛い子だけど素直で……ちょっと子供っぽいんだな)
微笑ましくなったが、御世も似たような子供っぽさをもつ存在であるのを忘れている。
もっとも、それだから親友になっているのである。
ちなみに、それを忘れてしまうのは御世が多少超絶的な趣味というか行動というか……なのだ。

上桐御世はマッドサイエンティストなのである。
自分でメカや電子機器も作ったりするので、更にエンジニアとテクノロジストと付くがまあそれはそれとして。
マッドサイエンティストというのは……ご存じの方も多いと思うが、今の時代の科学技術からかけ離れて進んだ科学技術で人を驚かす……だけではなく、世界征服とかその他色々なことをして世間を騒がす人々の総称である。
わかりやすい表現だと『キチ○イ科学者』だが、別に気が狂っているわけではない。 ただ、一般の人とは感覚も頭脳もかけ離れているのである。
御世もその例に漏れず、とんでもない発明をして縁を慌てさせた事は一度や二度ではないのだった。
密かに彼女の事を
伯乃区かみのくのド○えもん(怖)』と呼んでいる縁としては、心配と事態の収拾に明け暮れているのだ。
少なくとも、そういう気分なのである。
かりにも親友をそう呼ぶ彼女もけっこういい性格をしているが、『御世に比べればまともである』と縁本人は思っている。
実を申せば、留美は御世のその『まともではない部分』を知っていて、それで憧れているのだ。
別に、留美自身がマッドサイエンティストになりたがっている、というわけではない。
頭の良い、キレイなお姉さまに純粋に憧れているのだった。
それを多少知っている縁は、色んな意味で気が気ではないのである。
だから縁にとってこのパーティーは、『テクノロジー・エンジニア・アセスメント』の頭文字をとった『TEA』パーティーであったのである。
日本語で言うと『技術工学の評価』となる。
(もう……あんまりとんでもないことしないでよね……)
と内心ヒヤヒヤで、胃薬が手放せないのであった。
どういう『とんでもないこと』かは、おいおいわかると思う。

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