らぶ・TEA・ぱーてぃー

倉智せーぢ

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らぶ・TEA・ぱーてぃー その二 改訂版

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そんなこんなで約束の当日。
美久は早起きしようと思っていたが、前日あいにくの仕事の山で(割合と珍しいことである)、就寝したのは午前三時。
もれなく寝坊して、起きられたのは、なんと午前九時も回って十時近く。
そして、かけ忘れた目覚ましを見て飛び起きた美久が、次に目にしたのは、
『仕事に行ってきます。 今回は一人で大丈夫だから。 遅くまでこき使ってごめん。 様介』
と、使い終わった書類の裏に、マジックで書かれた置き手紙だった。
「デュアンさん、ごめんなさあい!」
とパジャマのまま身を揉みながら、もう事務所に姿のない様介に謝る美久であった。
ややあって気を取り直した美久は、顔を洗って、昼食を作り始めた。
無論、様介の為、である。
食べてはもらえぬ昼食を作り終えると(註・オムライスであった)、美久は次に朝食を手早く終わらせ、掃除・洗濯をはじめた。
そのため、彼女はすっかり、す~っかり約束を忘れていた。
かなり珍しいことであった。


仕事に出かけた様介は、午前十一時くらいに朝昼食を兼ねてコンビニのおにぎりを食べた。
世間では絶賛されているソレは、美久の作った特製お弁当を食べ付けている様介にとって、もちろん、かなり味気なかった。

そして、十二時半。
電話の呼び出し音が鳴り、慌てて事務所の電話を取った美久。
「はい! 厄介事相談所で……あ、デュアンさん!」
ごめんなさいごめんなさいと電話口で平謝りの美久に驚きつつも
「いや、いいんだけど……帰りは夕方になりそうなんだ。 それより、今日約束があったんじゃなかった? 留守電入れとこうと思ってたんだけど、君がいたんでびっくり……」
それ以上を美久は聞いていなかった。
「タイムリミットまで、あと1時間半!!」
なのである。
「ごめんデュアンさんありがとデュアンさんご飯つくっとくからお仕事気をつけて!」
それじゃっ!と電話を切ると、あとの行動は猛スピード!であった。
まずは買い出しに出かけた美久。
お茶会に、無事間に合うであろうか?


お話しかわって、こちらは佑と留美。
只今時間は午後一時五十五分くらい。
佑と腕を組んでやってきた留美は大いに楽しそうだ。
「えへへ」
いわゆる『によによ笑い』が止まらない留美。
それはそうだろう。
憧れのお姉さまとお茶会なのである。
それに、佑のようにおそれ入るようなこともない。
佑や由香、治のところとは違い、両親達も堂々とした様子だったからである。
留美の母・留加は実のところ、なんと旧家の出なので驚きはしなかったのは納得であるが、恒太郎の方は割と硬派な理由で平静だったのである。
曰く
「VIPも一般市民も守るのが自衛隊だ」
だそうである。
流石に一癖も二癖もある部下達に慕われているだけのコトはあるのであった。
ただの極道映画好きオッサンではない。
筋は通すオトコなのである。
ま、そうでもなかったら、留加はお嫁に来ず、従って留美もこの世に生を受けない。
この話の成立も、たいへん危うかったのである。
めでたしめでたし……で、話は更につづく。


「まあ! いらっしゃい」
芝居気たっぷり、と縁が心の中で評したのもむべなるかな。
わざわざ留美と初めて会った時のドレスを着て、姉・陽史ひふみの仕草を真似して、そして御世は留美を出迎えたのである。
いつもは実験と機械の組み立てなどのためにかなりラフな格好なのだが、
「お茶会なので頑張っちゃった」
のハート付きセリフが聞こえそうな服装および雰囲気に、縁は頭痛を感じ、額を押さえていた。
が、留美は縁のそんな苦悩は知らない。
佑はもっと知らないが、緊張でガチガチだった彼は、御世の美しい装いでリラックスした。
何が幸いするかわからないものである。
「あ、あの、お招きいただいて光栄です……」
といって頭を下げる佑。
多少どもるが、セリフが全然震えていない。
現金なものである。
でも、自己紹介を忘れている。
「んーん、気になさらないで?」
妙にしゃっちょこ張った御世の言いかたに縁はぷっと吹きだしたが、もちろんお客の2人にはさとられないように後ろを向いた。
御世のきれいな白い生成りのドレスは微妙に似合っていないし、陽史のマネをしているのが見え見えである。
しかし留美は、まだ陽史と面識がないため、御世が姉の真似をしていることなどわからない。
留美にとっての御世は『やさしいきれいなおねえさま』なのだが、縁にとっては『これが吹き出さずにいられようか』という心境なのである。
留美は小声で
「ね? お姉さまって素敵でしょ?」
と囁いたが、佑はそれが右の耳から入って左の耳に抜けていったようにボーッとなっていた。
「こんにちはお姉さま。 今日はおせわになります。 ほんと、きれい……」
御世は一瞬きょとん、としたがピン!と気づいたように
「あ、このガーデンね? お姉ちゃ……いや、んーと……お姉さまの丹精込めた庭園で……なんだっけ?」
縁に尋ねたが、知らんぷりされた。
留美はかぶりを振り
「いえ、違いますよ。 ……お姉さまが、です」
にこっと輝くように微笑む。
「え、あたし? ……や、や、や、やだー!」
と、ついつい地を出し、赤くなった御世に縁は
(崩れすぎだ、崩れすぎ!)
と、心の中でツッコんでいたのであった。
(あんた、そんなんじゃゲンメツされちゃうよ! 陽史さんがいなくて正解かな……まったくのところ)
なんだかんだで結局は御世のことが心配な縁は、留美が憧れの対象を変えてしまう心配をしていた。
しかし、その思いをよそに御世は『そんなことは気にならないモード』に入っていた。
ちなみに、モード名称は縁の命名・提供である。
そして、庭園の方は通称『陽史の庭』であった。
御世が言いそびれた全文を、陽史風に言うとこうだ。
「お姉さま・陽史の丹精込めた庭園。 通称『陽史の庭』ですの」

ところで、佑が正気であったなら気づいたかもしれない……妙なことがあった。
それは、ここ上桐邸の規模である。
驚くなかれ。
一般の建売住宅2~3件分……といった程度の敷地面積だったのだ。
世界にまたがる大規模企業の総帥の家としては、常軌を逸している狭さ、小ささ、こじんまりさ、と言えよう。
もっとも、佑は未だ正気では無いので気づくどころではない。
そのうちに、ガーデン奥に設置された本日のお茶会……いや、ティーパーティーのテーブルへ案内された留美と佑は、隣同士の席に着いた。
ちなみに、御世は留美の隣に当たる位置。 縁は留美の対面に腰を下ろしたのである。

「今日、陽史さんは?」
席についた縁がそう尋ねると、御世は
「お姉ちゃんは、神佳さんとデートだって」
微笑みつつそう告げて、お兄ちゃんも真姫ちゃんとデート、と付け加える。
「だから、今日はご一緒出来ないけど、代わりにこれをって」
サッ、と覆いをのけてウェッジウッドの一揃いを留美に示す御世。
さすがに豪華だ。
「わあ!」
と留美が感嘆の声を上げ、佑が顔をこわばらせて立ち上がる。
そして
「う~っ……」
と縁がうなった。
「う、うぇっじうっど……」
目の前に並ぶ茶器を見て、たらりと冷や汗をたらした縁は、小声かつ引きつった笑みで
「おーまい がー!!」
と呟いた。
さいわい、誰にも聞こえなかったようだ。
(高校生相手のもてなしに、高価すぎやしないか、これ?)
じつに、まったく、まことにもってその通りだろう。
それは大学生相手だとて一緒だが、なんにしろ、ヒビでも入ったら弁償に何年もかかってしまいかねない高価さだ。
おまけに、縁には
(『御世の大事なお客さまですものね? お姉さまのとっておきの茶器、使ってちょうだいな?』
『わぁい! お姉ちゃんありがとう!』)
という経緯いきさつが、目に見えるように想像出来た。
(……気をつけてね、も、大事に使って、もナシ……とか、陽史さん大人物……)
呆然とする縁なのだが、ここくらいの大富豪になるとそういう金銭感覚なのだろう、と納得しそうになり、慌てて頭を振って目を見開いた。
「た、たしか……」
見せてもらったわけではないが、確か陽史の趣味のコレクションは茶器だ。
情報屋のような仕事をしている縁の実弟が言っていたのだからまず間違いないだろう。
(と、すると……)
縁はそれ以上考えないことにした。
考えてもどうにもならない。
少なくとも自分は、出来うる限り丁寧に扱うしかない、と改めてほぞを固めたのであった。

ともあれ――
高級茶器を名代みょうだいに、とは陽史らしいが、縁としては心臓と胃に悪くって仕方がない。
高校生2人はよくわかってなさそうだし、御世本人はまったく気にもとめてないしで、やるせない気持ちになる縁であった。
『ティーパーティー』でやるせない気持ちになっているのはなんかおかしい、と思うのだが、この親友はいつもこうなのだ。
(あたし、もしかして名前が悪かったのかな……)
とうずくまりたい気分になる縁だが、大体すぐ立ち直る。
根が前向きにできているのである。
……もっとも、御世と付き合っていると、大体の場合、落ち込んでいるのを許してくれない状況になってしまうのだが。
ため息をつき
宿命さだめじゃ……)
と心の中で古いギャグをとばすと、縁はふと
「ん……?」
と時計を見た。
2時7分を示している。
「遅いな……」
何がか、というと、美久が到着するのがである。

これが御世の場合なら解るのだ。
失礼な感想だが仕方ない。
御世は、変わっているがお嬢様育ちではあり、よく言えば鷹揚、わるく言えばちゃらんぽらん……と縁は評している。
飽くまでも『縁は』であり、世間的にはそれほど厳しい評価ではない。
それが縁本人には不満である。
(世の中間違ってる……誠に遺憾よねえ……)
とぼやくことしきりなのだ。
しかし、美久がこんなに遅れたことは、いまだかってなかった。
とはいっても、美久も人間であるし、遅刻することもあるだろう……と考えた縁は念の為、美久に連絡を取ってみた。
すると、大慌ての様子が伝わってきたのだ。
「もしもし……え、美久さん今出るとこ?」
通話を終えて腕を組み、首を傾げる縁。
「美久さんが寝坊ねえ……御世ちゃんなら日常茶飯事だけど」
ものすごく失礼な感想だが、親友ということで遠慮がないのだろう。
その親友の姿が今は見えない。
「あれ?」
辺りを見回してみたがやはりいない。
「ねえ、留美ちゃんたち、御世ちゃんどこに行ったか、知ってる?」
と留美に尋ねたが
「いいえ?」
と首を振られた。
佑も同様に首を振った。
「どこ行ったんだろ、お客ほっといて?」
2人に聞こえないよう聞こえないよう独りごちると
叱責の声が遠くから、と言っても100メートルくらい先から聞こえた。
御世相手のものだ。
「おじょーさまっ! あぶのうございますから、お湯を使う時は私にお申し付け下さいませったらっ!!」
どうやら、お湯を沸かすのによそ見でもしてたのだろう。
マネしてはいけない、念のため。

育嶋佑にとっては、美久の到着が遅れたのは幸いなことだった。
……といっても佑が美久を嫌いなのではない。
嫌うも何も、そもそも佑は彼女と面識がない。
そして、いみじくも彼女の親友・森小由美が
「美久を嫌いになれる人なんかいない!」
と豪語したとおり、彼女は誰からも好かれるのだ。
当然、御世も、その親友の縁も例にもれなかった。
なんせ今までに縁と美久は5回しか会っていないのだ。
美久の人なつっこさ……いや、被・人なつっこさは群を抜いていると言えよう。

で、何が幸いだったのかというと、留美は『お姉さま』上桐御世と話し込み、佑の方は一息ついて周りを見回す余裕ができたからである。
母から聞いた話の内容と、よく手入れされたこの庭園とが相まって彼を萎縮させていたのだった。
しかし、不思議なものでその庭園がまた彼をおだやかな気持ちにさせていったのだから世の中は面白い。
(落ち着いた庭ってやつなのかな……いい感じだな)
造園の素養はない佑だが、さすがは御世が慕う姉・陽史の趣味は流石なのだった。


その頃、その美久は、多少のハプニングに遭遇しつつも、スイーツを完成させて従姉妹の家へと向かうところだった。
とはいってもスムーズに事が進んだわけではない。
戸締まりをすると、背後から声がかかったのだ。
「美久さん、こんにちは! どこか行くんですか?」
声をかけたのは、白鳥美奈。
そのときの美久の出立《いでたち》は、背中にリュック、左に道具類を入れた手さげ。 右にはと言うとラッピングしたスイーツ。
服装はサマーセーターに、きわめつけなんとオーバーオール。 だぶだぶのスタイルなので、その姿が美久だとよく分かったものである。
さすがは、『美久のファン』と自認する美奈であった。
但し、本人には『ファン』などと言ったことはない。 従って、美久は美奈のことを『友人』と思っている。
「っしょっ、と。 あ、美奈ちゃんごめんなさい、ちょっとコレ、持っててくれる?」
いくら服装がヘンでも、日頃から憧れている愛しの先輩・素敵なお姉さま・美久さんの言うことだから、美奈はすっ、と綺麗な両手を出してラッピングを受け取った。
「あら?」
思ったより軽いが妙にずっしりしている。 つまり、密度が高く感じられる。
「何作ったんですか? この香りだと……」
「フルーツケーキ。 密度の濃い……トライフル……ううん、パウンドケーキ系になるのかな?」
香りを逃さない為か、はたまた温度を下げない為か、話しながらコックの帽子をそのケーキにかぶせる美久。
「えーと、なんだっけ?」
作業を終えて美奈に向き直り、ケーキを受け取りながらすごい格好で尋ねる美久。
「え。 あ、どこか行くんですよね?」
「あ、うん、ちょっとイトコのとこへね」
お茶会に呼ばれてて、と続け
「あ、良かったら美奈ちゃんもどぉ?」
あっけらかんと誘った。
「んーと」
美奈としては、美久からの誘いは大いに嬉しいのだが、それにほいほい乗るというのも図々しい気がした。
「あ、あはは、今回はやめときますね。 お茶会に出るような服じゃないですし」
「そう? でも、あたしなんかこうよ? まあ一応、リュックには着替えが入ってるけど」
えへ、と舌を出す美久。
その愛らしさに思わず抱きしめたくなった美奈だが、流石に自制心が働いて、抱きしめること及び美久のイトコを訪問するのは控えることにした。
「また今度。 今度誘って下さいね」
唇の端を多少引きつらせながらも微笑みつつ、軽く会釈をして辞退した彼女は、自分も、えへ、と可愛い舌をちろっと出したのだった。

そして美奈は小走りに去って行く美久の背中のリュックを眺めながら
「くぅ~」
と軽く唇を噛んで悔しがっていたが、ふと立ち直り
「よし、気を取り直して翔でも誘おうかな。 最近冷たくしてたかもだし」
と、その腰の下辺りまでの、よく似合っている長く美しい髪をたなびかせてきびすを返した。
「今まで美久さんとタイミング合ってたんだけどな……なんか寂しい」
などと、タイミングの悪さにぶちぶち言いながら、『翔でも』と、『でも』扱いした恋人・鷹野翔の部屋へと急ぐのであった。
ほとんど名ばかりな扱いの彼・翔はある意味哀れである。
が、大部分は彼自身の行動が原因なので同情はできないし、しなくても構わない。
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