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真・らぶ・TRY・あんぐる 十一
しおりを挟む「そっ……その……びびやくって…………いいうのは」
どもっているように聞こえるが、それは佑が震えているためである。
「怪しげな広告に載ってるような……?」
「……仮にもだ」
憮然、とした表情であとを続ける。
「この私がそんなものに興味を持ったり、ましてや調合するなどと思っているのかね? それにいくら会長が物好きとて」
浩も相当なことを言われている。
言われて当然ではあるが、今はすぐ横にいるにもかかわらずである。
「君の悶える姿を見て喜ぶほどではないと思うが?」
正の言葉の合間に、『媚薬』のもうひとつの意味を思い出した佑は
「ま、まさか……」
がたがた震え、完全に蒼白となった口でようやく
「ほ、惚れ薬……?」
「うむ、それだ。 まさか、というのにはいまいち納得がいかないが、な」
よく考えたら、
「じゃあそういう方向には興味を持ってたんじゃないですか!」
……と追求をしてしかるべきだが、いろんな事情で、とてもとても、とてもとても×一〇そんな勇気はない。
「いやー、こーもまともにひっかかってくれるとぼくもうれしいねー。 いやー、ほんとはね飲む前に気づくかなーと思ったんだけどねー。 よーっぽどのどが渇いてたんだねー。 あっはっはっはっはっ。 一気に飲んじゃったもんねー」
正が浩とは対照的な口調で重々しくいう。
「しかたないな。 もっぺんやりなおすか……」
「もっぺんやりなおすかじゃなくて……僕はどうなるんですか……?」
テーブルに向かった正は佑の方へ振り向きもせず、
「心配いらん。 あれは未完成だった」
一瞬沈黙し、そして恐る恐る尋ねる佑。
「……本、当に?」
「ああ、あと加える筈の成分は鉄と……………そうか、麦茶の缶にはふくまれていたな。 じゃ完成しているか……」
「じゃ完成しているか……じゃありませんよ! 僕はどうなるんですっ! 誰かに惚れちゃうんですかっ!?」
正の冷静さとは全く対照的に佑が、大慌ての形相で正に詰めよる。
諸悪の根源であるところの浩は既に、「全ては終わった」とゆーよーな涼しい顔をして本を読んでいる。 どうやら、まったく罪悪感というものを感じてないらしい。
正はめんどくさそうに
「そうじゃない。 女の子、それも特定の女の子に作用する体臭が君から発する……発しているはずだ」
再調剤の手を休めずに続ける。
「その女の子がだれだかはわからん。 肝心の作用を特定する為のパラメータである成分の量が不明だからだ。 だが、君がその女の子に出会う確率は、計算上では一千万分の一だ」
「一千……万分……の一?」
余談だが、一般の人は
『計算上は何パーセント』
とか
『確率では……%』
とかいう言葉に幻惑されるが、確率が低いと言うことは、
『滅多に起きない』
ということであって、
『絶対に起きない』
ということではない。
絶対に起きないと思っても、強ち間違いではない……とは言えるが。
例を言えば、天気情報の場合。
『明日の降水確率は一〇%でしょう』といったとき、世間の人々は『降らない』と思うが、それは間違いである。
正確には、同じ条件の日が一〇日あった場合9日降らずに1日降る……というのが
『降水確率一〇%』
なのである。
もっと正確には、四捨五入とかの要素が加わるのだが、概ねそんなものなのだ。
だから、もし『降水確率一〇%』と言われた日に雨が降っても、
「あ、たまたま十分の一の確率に当たっちゃったんですね」
と言われれば返す言葉がないのだ。
ある条件において、起きにくいかもしれないが、起きないわけではない……というのが
『確率では……%』
の正体なのであった。
「だが、まあそれも人生だろう。 うまくいけば恋人ができるのだからな」
なおも追い打つ正。
「その恋人の容姿、性格はともかくとして……つくしてくれることだけは間違いないぞ」
「そんな無茶な! 僕は……好きな人がいるんですよ!」
普通なら照れてこんなことが言える佑ではないのだが、よっぽど逆上しているらしい。
「それでは、せいせいその娘がその薬のターゲットになることを祈りたまえ」
ちなみに、『せいぜい』が正しい。
「薬の、薬の作用を打ち消すことはできないんですか!?」
「まず無理だろう」
「何故?」
「正確な成分の割り合いが分からないのでは手探り状態で調剤する他はない」
相変わらず手は止めていない。 ここまでくると佑も感服するしかない。
ただ、今はそんな心の余裕がないのである。
「下手に調剤したものを飲んで命取りになった日にはたまったものじゃなかろう?」
「そ……それは僕だってそんな危ない橋を渡りたくなんかないですけど……」
「私も好んで可愛い後輩を危ない目にはあわせたくない」
そう言う正のその目が嘘だと語っている。 単に面倒くさいのだろう。
「それに、そんなに心配することはなかろうさ。 なにしろ一千万分の1なのだからな」
この言葉の欺瞞については、『余談』を参照のこと。
「そ……そんなあ……」
……とまあ、以上のような顛末であった。
佑の災難が誰のせいかは一目瞭然だろう。
実行犯は会長の浅間浩だが、原因となったのは副会長の井沢正であるのは言うまでもない。
つまり、二人の共同責任なのであって、佑は完全に被害者である。
そして正は佑に完全に興味を無くしたように浩の方へ向き直ると、銀ブチの眼鏡をすり上げながら
「あ、それと会長」
「ん?」
「『いっちゃん』はやめて下さい」
「え、気に入らなかった? そっかー、『いっちゃん』って言っちゃまずかったか。 じゃもう『いっちゃん』はやめにするよ。 『いっちゃん』はよしとくね。 もう『いっちゃん』なんて言ったりしないから」
いいほど言っている。
「会長?」
「ん?」
「もう一度言います。 いっちゃんと呼ぶのはやめて下さい」
殺気の塊が会長に向けて発された。
さすがにそれを無視するほど、浅間浩も命知らずではなかった。
「わ、わかった……もう言わない」
ともあれ、
この秘密を知っているのは当事者である佑本人と、原因である井沢正、そして両者の橋渡しをした(物凄く迷惑な橋渡しだが)浅間浩だけであった。
いろんな意味で、こんなことを宣伝するわけにはいかない。
いくわけがない。
親友にすら話すわけにはいかないのだから。
……というわけで、佑は悩んでいたのである。
彼以外の2名は悩んでいなかった。
井沢正はこの程度のこと(!)で罪悪感など感じる性格ではなかったし、そもそも罪悪感を覚えるような状況でもない。
会長の浅間浩にいたっては次の日にはほとんど忘れさり、佑が抗議するまで、これっぽっちも思い出さなかったのであった。
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