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真・らぶ・TRY・あんぐる 三十五
しおりを挟む十五分くらい舞い上がっていた由香の心を、ふと佑のことがよぎった。
(佑くん、ケガの調子どうだろう……お見舞いに行った方がいいよね?)
自分で自分に尋ね、一人でうなずいた由香は、佑のお見舞いに行くことにした。
留美を誘おうかとも思ったが、なにか用事があるらしかった彼女は、とっくの昔に下校していた。
舞い上がっていた由香には
「じゃ、あたし、もう行くね?」
と留美が声をかけたのも耳に入っていなかったのである。
育嶋家に到着しチャイムを押すと、冴英が玄関に出てきた。
「あれ? 由香お姉さん……よね? どうしたの?」
戸惑いを感じつつ
「えーと、その、お母さんはいらっしゃるかな?」
「今、パパと一緒に買い物。 あたしは留守番よ。 いつもならついてくんだけど、今回はお兄ちゃんがケガして寝てるから、用心のため留守番してるの」
冴英が大人ぶりたがっているのは由香にも感じ取れた。
昨日は『美人で可愛いけどとんでもない妹』という印象が強かった。
しかし、あらためて見ると、けっこう健気で愛らしく、微笑ましく感じる。
「入って待ってて?」
由香を家に招き入れる冴英。
どうやら、一人で退屈していたらしい。
お茶を用意しながら
「別に本当にママやパパに用があるんでもないんじゃない? お兄ちゃんに、ってことはないか。 それじゃ留美お姉さん?」
と尋ねる冴英。
「え?」
「留美お姉さんもまだ戻ってないけど」
佑ならともかく、なぜ留美を訪ねてここ育嶋家へ来た、などと思うのだろうか?
由香が不審に思っていると
「ただいま」
という声がした。 そして覚えのある気配が居間へとやってくる。
「え? 留美?」
「え、あ、ユカちゃん」
不意打ちに頬を赤らめる留美。
「お帰りなさい、留美お姉さん」
擦り寄っていって、恒例のハグをする冴英。
「『ただいま』? 『お帰りなさい』? どういうこと留美!?」
おおよその見当はついているらしく、顔色が変わっている。
「お、落ち着いてよユカちゃん」
「そうよ! 留美お姉さんがウチに住んでるのが何かおかしいの!?」
口を滑らせた、という意識は多分本人にはないだろうが、それだけになおタチが悪い。 留美は思わず右の掌で額をおさえた。 もちろん自分のをである。
「留美、あんた今、佑くんちに住んでんのお?」
つい興奮して語尾があがる。
その興奮の原因である嫉妬心が、佑へのものなのか、それとも留美へ向かうものか自分でもよくわからない由香であった。
「う、うん……そう」
悪戯の現場を見つけられた子供のようにかしこまって留美が答えた。
そんな留美とは対極に由香が声を荒げる。
「一体いつからよ!?」
ここに世話になりはじめた日付を告げると
「そんなに前から……それじゃあ、もしかして昨日あたしのところからまたここに戻ってきたってこと?」
「ん、そう」
「『そう』じゃないでしょ! いったいどういうことなのよ!」
「留美お姉さんをいじめないで!」
冴英が二人の間に割って入る。
「冴英ちゃん」
「妹さんはこの際黙っててね。 オトナの話なんだから」
この言葉に冴英はカチーンときた。
「なによ! あたしだってもうオトナよ!」
血相を変えた冴英を、
「冴英ちゃん」
と留美が押しとどめる。
「ユカちゃんはあたしを心配してくれて、それで興奮しているだけなの。 冴英ちゃんがキライなんでもバカにしてるんでもないわ、ね? ケンカしないで?」
顔を上げて由香に向かい
「あたしがここでお世話になっている理由を聞きたいんでしょ? 落ち着いて。 今話すから、冴英ちゃんとケンカしないで、ね?」
そして冴英と由香の顔を交互にみやり
「ね、仲直りして? 二人ともあたしにとって大切な人なんだから……」
留美に言われて二人はあっさり仲直りした。
「ごめんね、冴英ちゃん。 ちょっと言い過ぎた」
由香が謝ると、冴英はかぶりを振って
「ううん、あたしの方こそ年下なのに生意気いっちゃったから」
だが、まだ由香が女の子だからいいようなものの、万一男だったら事態はどうなっていたか考えると恐ろしい。
まあ男だったら、そもそもこんな事態にはならないだろう。
ともあれ騒ぎはおさまり、なんとか一応小康状態を保っていた。
「なるほど、留美のお父さんがねー。 それでお母さんに薦められて佑くんの家に厄介になってるワケか……」
「そう、わかってもらえた?」
「理解はしたわ」
「ユカちゃん」
留美の顔が明るくなる。
「いまいち納得はしてないけどね」
由香が渋い顔で言っても、返って留美は嬉しそうに笑っていた。
「しかし、昨日の佑くんの顔が青かったのって寝不足のせいね」
不良の襲撃があったからかと思ってた、と、これは内心思うだけに留める。
「で、あたしは、佑くんのことが心配になって来てみたら、こんな衝撃のスクープを目にしちゃったんだけど」
ちろり、と留美にむかって一瞥をくれる。
「というわけで佑くんはどんな様子?」
冴英に向かってたずねる。 先ほどあわや一触即発だったとは思えない態度で
「お兄ちゃんならさっきみた時は眠ってたよ。 寝る子は育つっていうらしいけど、今さら育つかな、お兄ちゃんが?」
相も変わらず容赦のない発言である。
「冴英ちゃん? あんまりお兄さんのこと、悪く言うもんじゃないわよ?」
佑をおもんぱかってたしなめる由香。 だが返ってきたのは
「だって、お兄ちゃんだもん」
の○太のくせに生意気だ、というのと同列の『超論理』であった。
「でも、お兄ちゃんのこと気にしてくれるなんて、二人目だなそんな珍しい女の人って」
優しい、ではなく珍しい、という表現がまたなんとも。
「あたし、なんだか由香お姉さんも好きになっちゃったな」
全然てらいのない発言に、そういう免疫がない由香は赤面した。
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