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真・らぶ・TRY・あんぐる 四十六
しおりを挟むごくり、と生唾を飲み込んで佑は続ける。
「僕は、無責任だと思われるかもしれないけど、でも由香ちゃんが好きだ」
どうしてここで『無責任』という単語が出てくるのか、二人にはちんぷんかんぷんだ。
S・C会長浅間浩の大ウソ説教に由来するのはご承知の通りであるが、留美も由香もそんなことは知らない。
彼女たちは浩と面識がまるでないのである。
もっとも、面識があったところで、佑が話さないかぎり知らないのは変わらないだろう。
「だけど、留美ちゃんもキライじゃない……好きだ。 本当だよ?」
誰も嘘だなどと言っていない。 心に疾しいことがある証拠であろうが二人ともそんなことには気づかなかった。 佑からこんな『愛の囁き』が出るのは新鮮なせいもある。
「留美ちゃんも、いて、欲しい。 不誠実で不実な奴だと、思われるかも、しれないけど、正直な、心境は、由香ちゃん留美ちゃん、二人とも好き、だよ」
たどたどしくはあったが、誠実な、想いのこもったその台詞を聞いて、留美はニッコリした。
その瞳は涙で潤んでいる。 由香も同様だった。
確かに『二股なのに何が誠実か!』という異見もあるだろうが、当事者である留美がそう思ってしまったのだから部外者にはどうしようもない。
二人が自分の想いを吐露してくれたことに満足した留美は膝を進め、佑の背に右腕をそして由香の背に左腕を回して抱きしめる。
「ありがとね、ユカちゃん、ホントにありがと。 あたしを好きになってくれて」
そう由香の耳に囁き
「ユカちゃんの気持ちに応えるね」
由香の涼しい目の奥を覗きこむように凝視したかと思うと輝くような笑みを見せ、今度は佑に向かって
「佑クン、大好きよ。 あなたがいたから、あたしはこの世に生まれてきたんだよ、きっと……」
と相手が感涙にむせびそうなことばを、羞じらってうつむき加減になりながら伝える。
留美の髪からのフローラルな香りと、横にいる由香のうなじからだろう石鹸の香りが佑の鼻孔をくすぐった。
彼は今までそんな匂いを感じたことはなかった。 そういうことに気づく余裕がまるでなかったからである。
留美が腕を解いて体を離すと、真顔になった由香は両手で留美の肩をつかみ、じっと見つめて
「ちょっと待って留美」
「どうしたの、ユカちゃん?」
羞じらいながらも嬉しそうにしている、そんな留美とは対照的に
「わかったわ。 留美の気持ち、佑くんの気持ち、そして自分の気持ちが」
真面目な顔で呟くように言う。
「でも、それじゃあどうするの?」
「どうするのって?」
「決まってるじゃない!」
のれんに腕押し状態の留美の反応に少しばかりカッカとしている由香。 声の調子も荒っぽくなる。
「留美はあたしを選んでくれるの? それとも佑くんを?」
由香の核心をつく問いに留美はあっけらかんと
「両方だよ?」
「え? それって」
思ってもいなかった答えに由香の勢いが止まる。
「あたし、佑クンもユカちゃんも失いたくないもの」
きっと欲張りなんだね、と自嘲するように口の中で呟いて
「だからね」
留美は先ほど佑に言ったのとほとんど同じことを由香に対しても繰り返した。
その一般常識を越えた論理に再び混乱を来すかと思いきや、由香はあっさりと
「それもそうね」
と納得してしまった。
これにはかえって留美の方がちょっと驚いた。
反駁されるかと少し心配していたのだが、拍子抜けの結果となったのだった。
(ユカちゃんて、ちょっと変わってる)
自分のことを棚に上げてよく言う。
でも、こうも思った。
(やっぱりユカちゃんは、あたしの好きなユカちゃんだな)
と。
「留美」
愛する相手の顔を、熱のこもったまなざしでじっと見つめて
「あたしにもありがとうって言わせて。 そして、好きも」
抱きしめんばかりに接近し更に言葉をつぐ。
「大好き。 愛してるわ。 誰にもこの想いは止められない! あたし自身にも」
いつもはクールめの由香の熱意のこもったセリフに留美は動悸が早くなるのを感じていた。 合せて顔も火照ってくる。
「そうよ。 留美と」
佑の方に流し目をくれて
「ううん! 佑くんとも……ふれあいたい」
女の子二人がこんなに真諮に熱い想いを打ち明けあい、互いに愛を囁いているというのに、いまだ佑だけが呆けていたというのは極めて遺憾なことだ。
それに、そこまで言われて黙っていたらどう考えても佑は人間ではない。 草の擬人化みたいなものである。
「由香ちゃん、大好きだよ! 僕、何がなんでも君が好きだよ。 例え全世界を敵に回してしまったとしても」
今度は留美に向かい
「留美ちゃん、ありがとう。 本当に君が好きだよ、留美ちゃん……」
佑にしては上出来だというべきだろう。
どうやらすっかり媚薬のことを忘れ去っているらしいのだが、これだけたてつづけて精神的ショックに見舞われては当然かもしれない。
だが、留美は佑の由香に対する言葉が『大好き』で、自分に対するそれが『好き』以上ではないことを気づいていた。
しかし、気づかないふりをしてあえてとがめだてせずにいた。
余計なチャチャをいれたくない場面だったし、彼女にとって『愛する』というのはそういうことだったからである。
それに……それでも、佑の口から愛の言葉を聞いた彼女は、夢見心地だったのだ。
そうこうしているうち、胸の奥の熱さがどんどん昂ぶるのを堪え切れなくなった留美は、改まって佑に向かったかと思うと
「佑クン……『佑』って呼んでもいい?」
顔を真っ赤にしてうつむいてそう尋ねる。 佑は軽くうなづき、優しく囁いた。
「うん、いいよ。 留美ちゃん」
「やだ佑、『留美』って呼んで」
つくづく留美は切替えが早かった。
「うん、わかった。 る」
そこで途切れた。 頭を掻きつつ続ける。
「あらたまると言い難いな」
意識し過ぎるとそうなるものだ。 が、何とか
「る、留美!」
叫ぶように呼ぶ。
「なあに、佑?」
とてもチャーミングに微笑む留美に
「い、今まで、つれなくしてて、ごめん! 謝るよ」
そういって頭を深々と下げた。 急に、今までの自分の態度が酷い事のように思えだしたのだ。
「その、許して、くれるかな?」
自信ができたのか、はたまたとうとうキレたのか、そこのとこはよく分からないのだが。
ともあれ佑のその熱い台詞と熱い眼差しに、留美はうるうる感動していた。
もっとも、留美は今まで『つれなく』されていたとはまるっきり感じていなかったが。
「うん、これからもっと優しくしてくれるんだよね? それなら許したげる」
黒めがちの綺麗な瞳を潤ませて恋人に囁いていく。 その顔は感激に輝いていた。
「好きよ、佑」
「僕もだよ」
「佑……」
そのまま顔を近づけようとしたとき、由香が苦笑しながら、
「ちょっとちょっと。 二人だけの世界に入らないでよ」
「あ……ごめん由香ちゃん」
「あはは……ごめんね。 ね、ユカちゃん」
「何よ二人とも。 二人は『佑』と『留美』で、あたしは『由香ちゃん』なの?」
ちょっとすねたようにそう言う由香。
「あたしたち、こんな関係になっちゃったんだからあたしだけ仲間外れってこたないでしょう?」
「いやその」
頭を掻きながら
「別に仲間外れにしたつもりはないんだけど」
佑は照れたようにそう告げる。 いや、まあその、照れているのだが。
「気に触った? 由香ち、あっと、由香」
「ごめんねユカちゃ、っと、ユカ」
あわててそういう二人を見て、由香はくすっと笑って、
「冗談よ、佑、留美。 安心して? 二人とも大ぁい好きよ」
そう告げ、さっき留美がしていたように二人を抱きしめる。
「でも、今からは『由香』でね?」
「うん、由香」
「そうね、ユカ」
そう呼びながら二人は頷いた。
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