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真・らぶ・TRY・あんぐる 最終回
しおりを挟むそして、愛を交わしあったその後に、佑を挟んだ留美と由香。
隙間を詰めた小の字のようなポジションで休んでいたが、ふと佑は
「あ」
と、避妊していないのを思い出して青くなった。
優しいのか心配性なのかそれともその両方か、つくづく一般的ではない。
彼の身体がこわばるのを感じた留美は、ひょっと顔を見た。 そして佑の顔色から何事かを察し
「佑? 念のため言うけど」
クス、と苦笑して
「あたしもユカも安全日だからね」
そう告げる。
「じゃなかったら、いくらなんでもしないわよ、こんな大胆なこと」
くすっ、と小さく笑う由香。
留美も同じように笑い、首を傾げながら
「ね? あたしたちって自分を大事にしてるでしょ?」
頷くしかない佑だった。
「う、うん、そうだね。 ……でも、大丈夫だった? ふたりとも……」
自分たちを心配してくれる佑に、急に愛しさが込み上げてくるのを感じ
「佑、好き。 ふれあってみてもっと好きになったわ……」
あ、もちろん留美もよ?と続ける由香。
「ん、わかってるよ、ユカ。 佑、ちょっと痛かった……」
微苦笑して続ける留美。
「だいぶ……かな……」
照れ笑いをして更に
「佑のって……なんだモン。 こわれちゃうかと」
「うん、あたしも思った」
口々にそんなことを言われ、真っ赤になる。
それでも
「ふたりとも、好きだよ、愛してる」
しっかりとそう言えるくらいには成長した佑であった。
更に素裸の二人を両腕で抱えるように抱きすくめる。
「佑、嬉しい……」
「ほんとにうれしいよ、佑……」
ふたりは顔を、厚いとは言い難い佑の胸に埋めていった。
くすぐったがりの彼は今、幸せとこそばゆさを同時に感じていた。
さて――
由香と留美とのおかげで気持ちの整理のついた佑は、逆に浅間浩と井沢正に感謝したい気持ちになっていた。
最愛の由香と曲がりなりにも結ばれたのだ。
そういうことを思うあたりはやはり『乙女』であるが、ともあれ彼は有頂天でこの世の春を満喫している心地だった。
ところで今、季節はすでに夏になっているのだが。
そしてその次の日、佑が報告と例の検査の確認かたがた部室へ行くと、
「やあ育嶋くん」
なぜか会長の浅間浩が、チェシャ猫もかくやといわんばかりの笑い顔で出迎えてくれた。
いつもは出迎えなどしたことがないのに……と怪訝に思ったが
「会長の言う通りでした。 男は責任を持たなきゃだめですね」
そう言って深々と礼をする。
佑の、うってかわって自信にあふれたその態度にいささか鼻白みつつも
「いっち」
正の愛称を言おうとして横目でにらまれた浩。
「井沢副会長がお待ちかねだよ?」
慌てて訂正しながら紹介でもするように、また何かを悠然とつくっているとおぼしき正を手で示す。
佑は軽く会釈をして浩の前を通り過ぎた。
そして正の前に立つ。
「ああ、育嶋。 待ってたんだ。 媚薬のことで判明したことがある」
「ああ、それならもう大丈夫です。 話は決」
そこまで言ったとき井沢副会長が遮った。
「ところが……だ。 残念ながら」
少しも残念そうに見えない楽しそうな目つきと声で
「ちっとも決着などしていないぞ」
そう宣告する。
「は?」
一瞬、正が何を言ったのかわからなくなる佑。
「君の言いたい事ぐらいわからない私ではない」
泰然として自信たっぷりに軽く微笑し、決定的な告知をする。
「水瀬くんに作用していたわけではないのだよ、君のフェロモンは」
「はい?」
完全に想像の範疇を超えた内容に無意識に語尾を上げて聞き返す佑。
「つまりだな」
佑たちS・C部員にとっては曲がりなりにも理解できるが、一般人にはわけのわからない専門用語に彩られた正の説明を、事細かに記すのもはばかられる。
よって、割愛するのをご容赦いただきたい。
要するに結論だけを述べると
「……など、いくつかの反応調査の結果、間違いなく陰性だったのだ。 彼女の体質ではな」
正の向こうに大きくなったチェシャ猫笑いを顔に浮かべた浩が見える。
今更ながら、佑は浩の笑いの意味を理解した。
「故に、彼女がその相手では有り得ない」
「有り得ない……って、じゃあ彼女のあの態度は?」
「うむ、すさまじく信じ難いことではあるが、告白がたまたま時期的に偶然だっただけで、彼女は前から君のことが好きだったのだろう」
そう言われ
「ええっと……」
と佑は考えだした。 そして
「ち、ちょっと待っててください!」
そう言い置いて部室を飛び出し、確認のため、大急ぎで留美の元へと舞い戻った。
幸運なことに、由香は野暮用で席を外していた。
「ね……ねえ、留美?」
「ん?」
少し上目遣いで佑を見る留美。
「こんな事訊くの、ちょっと変かもしれないんだけど……」
「なあに? あたしと佑の仲なんだから、なんでも訊いて?」
屈託のない留美の微笑みにちょっと言いよどみ、それでもなんとか
「留美が僕を好きだ……って思ったのって……いつ?」
「え? ……うーん……そうだなあ……」
留美は考えこんだ。
3分を超えて、まだ返事が返ってこないのに焦れた佑は、からめ手から攻めることにした。 つまり
「じゃ、じゃあさ? 由香に僕のことを調査するようにお願いしたのって……いつ?」
というふうに質問を変えたのである。
「あ、それはね」
そこで留美が告げたのは、佑が例の惚れ薬を飲んでしまった日から数え、5日ほど前の日付だった。
「え? そ、それって確か?」
「うん」
ニコニコしながらうなずき
「だって、ユカからの報告書に書いてあったから。 それでしっかり覚えてるんだよ?」
とこれまた上目遣いで愛する恋人を見つめた。
この場合はもちろん佑のことである。
「あ、そうなの。 ……ありがとう」
「どういたしまして」
そして、キュッと抱きついていく。
体格に比して豊かな胸が彼の腕に押しつけられたが、その感触を楽しむどころでもなければ、驚いている余裕もない佑。
つまり、留美が佑を好きになったのは、彼が惚れ薬を呑む前の時期なのだ。
「ということは……」
そう。
井沢正の調剤した惚れ薬による効果は留美に対するものではない。
正の言うとおり『水瀬留美に作用していたわけではない』のである。
意気消沈した佑は、トボトボと部室に戻った。
よく考えたら、留美が好きになったのは佑自身に間違いないのだ。
惚れ薬の強制力によるものではないのだから、彼が意気消沈することもない。
が、その嬉しさよりも驚きが先に立って、喜びに浸る心境ではなかったのである。
「どうだったかね?」
「……先輩の仰るとおりでした……」
だろう?という顔つきで
「私としても、まことにもって信じ難い程の驚天倒地、晴天のドキドキ、冬季の浮木、うどんの華のことだが、田で喰う虫も時々というからな」
念のため申し添える。
正しくは 驚天動地・晴天の霹靂・盲亀の浮木・うどんげの花・蓼喰う虫も好きずき である。
正もキチンと覚えていないのなら余計な形容をしなければいいのだが、彼は隠れ見栄っぱりなのであった。
「そりゃないでしょう、先輩?」
殺気のこもった佑の視線と声に
「ん?」
と振り返った正は、ニヤリと片方の唇の端を上げるデビルスマイルを浮かべ
「そりゃないでしょうとは一体どういう意味かね?」
と尋ね返す。
「まことにもって信じ難いと言ったことに対してかね? それとも、決着していないということに対してかね?」
「両方ですっ!」
今までの彼からは信じられない強気の発言。
男は女によって変わるものである……良くも、そして悪くも。
「では、こちらも両方一度に答えよう」
その言い方を聞いて嫌な予感に襲われる佑。
そして必然的にその予感は的中した。
「しかたなかろう」
あっさりと片づけられ、更に
「そして、まだ薬のことは解決していない。 報告は怠らないようにな」
「そ」
一瞬絶句した後
「そぉんなぁ」
だんだんと小さくなっていく声。
幸福の絶頂から突き落とされたのだから無理もない。
(ま、またあんなことが? いや、由香や留美がいるんだからもっとややこしいことに?)
絶望のどん底にたたき落とされたような、いや実際そうなのだが……悲痛な顔をしている佑に背を向けたまま
「大丈夫大丈夫。 女の子で水瀬くん並みか、それ以上のバイタリティや性格を持っている娘なんてそうはいないだろう。 確率的にいって滅多に当たるもんではない」
他の事をやりながら、なおかつ一本調子で棒読みのように言われても、とても信じることはできない。
「心配はまず要らんよ」
この保証は、それこそまず間違いなく『安請け合い』という奴で、まるで信用が置けないと悟った佑は、深くため息をついた。
その途端、膝から落ちるように座り込んでしまう。 足元が崩れていくような精神的ショックのためである。
かくて、精神的解放のちょうど逆の現象、いわば負のカタルシスが佑の精神を冒していった。
彼は元どおりの……ひょっとすると、更に自信を喪失した内向的で消極的な弱気少年に戻ってしまったのである。
それでも、留美も由香も彼を見放しはしなかったし、愛してくれていた。
それだけでも佑は幸運だったのだろう。
もちろん、佑の内的変化に気づいていなかった、という可能性もある。
そしてその後、念のために佑は由香にお願いして彼女の髪を一房貰い、必死で神に祈りながら検査に出した。
しかし結果は
「問答模様 間違いなく陰性」
という無惨なものだった。
例の正の『自信たっぷり国語的間違い』の訂正をしておくと、正しくは『問答無用』である、念のため。
その最後通告に、佑は落ち込み、がっくりとし、またも恋人のふたりを心配させたのだった。
「だ、大丈夫?」
「すごく顔、青いわよ? 留美が心配するくらい」
「ユカだって心配してるから、ね? 佑……」
力なく
「う、うん……ありがとう……」
ここでせめて『愛してるよ』くらい言えたらいいのだが、残念ながら今の佑には荷が重かった。
ともあれ、恋人ふたりがついていてくれたため、更に佑は周りの男子から反感を買う事になるのだが……。
彼が不幸なのか幸福なのか、もはや誰にも分からない。
『精神的鋭さ』というものから、かなりの縁遠さを誇る佑は、自分を見つめる視線にまだ気づいてはいない。
そして、その視線の主が佑に接触してきたとき、新たな物語がはじまる。
だが、それはまだ先の話である。
おしまい (&『真らぶ・CAL・てっと』に続く)
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