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第2話:蒸発
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アレルが家を出て行ってしまったらしい。
私は朝食の席でお父さんから聞かされて、そのことを知った。
昨日は部屋に閉じこもっていたから、あれっきりアレルとは一言も言葉を交わしていない。
「……一言くらい声を掛けてくれてもいいじゃない」
きっとアレルは昨日のことを気にしているのだろう。昨日の彼はどこかおかしかった。みんなの期待を背負っていたのに、裏切ってしまったと思い込んでいた。
それが重荷になって、私に酷いことを言ってしまったのだと思う。……でも、本当にそれだけだったのかしら。
頭の片隅にでも思っていなければ言葉が出てこないとすれば、少なからずアレルは私のことを家族だと思っていなかったのかもしれない。
だから別れも告げずに出ていったのだとしたら……それはとても悲しいけれど、仕方のないこと。
「……アレルの口から本心を聞きたい」
そう思うと、いてもたってもいられなくなった。
今朝出発したのなら、まだ遠くには行っていないはず。今から追いかければ間に合うかも。
私は急いで玄関に行って靴を履き、外に駆け出した。
空はカラっと晴れていて気持ちがいい。アレルのことがなければピクニックでもしたいくらいの天気だ。
「ここから村を出るとすると、まずは近くの村にいくはず。……なら、森の方ね」
私はアレルが森の方に行ったと推理して、足を進めようとする。
でも、前に進むことができなかった。
後ろから手を引かれている。私は驚いて後ろを振り返った。
「お父さん……!? わ、私は別にアレルのことを追いかけようとか、アレルの口から直接本心を聞きたいとか、そういうこと考えてないから! 大丈夫! リラックスして~はぁ」
私何言ってるの!? 自分から全部バラしてどうするのよ! 馬鹿なの!?
「リアの方こそ少し落ち着け。お前がアレルのことを追いかけようとするのはわかっていた。だからここでずっと待っていた」
「……全部バレバレってことね」
「リアがアレルのことを気にしているのはわかるし、追いかけることを止めることはせん。……十五歳になってスキルを授けられたら、その時に改めて村を出てもいい。だけど、今すぐに森へ入るのは無謀だよ」
「……ごめんなさい」
ぐうの音も出ない。森の中には危険な魔物がたくさんいる。戦闘経験がなくて、スキルも無い私が無事に次の村につけるはずがない。
万が一何かの偶然で辿り着けたとしても時間がかかりすぎる。その頃にはアレルはずっと遠くに行ってしまっている。
「……何があったかは知らないが、アレルはリアを嫌ってはいないだろうよ」
「どうしてわかるの?」
「アレルの顔を見ていればわかるさ。あいつは最後までリアのことを気にしていたよ。……なに、心配することはない。あいつはスキルなんかなくたって十分強いからな。小さい時からなぜか頭もキレる。森で死ぬようなことはないはずだ」
確かにアレルは強く、頭が良かった。前に聞いた話では、生後一か月で言葉を話したと聞いたこともある。何かの冗談だろうとも思ったけれど、どうやら本当らしい。
毎日馬鹿真面目に身体を鍛えていたし、素手で魔物を倒すのを目の前で見たことがある。どんなスキルを貰ったのかまではわからないけれど、貴族じゃなく冒険者ならアレルは活躍できるのかもしれない。
もしかしてアレルはそう考えて……?
「ねえ、お父さん」
「どうした?」
「もしアレルが冒険者になったとしたら、貴族を続けるよりも幸せになるのかしら」
「あいつ曰く、そうらしいぞ」
お父さんは私を見て面白そうにふふっと笑った。
どういうことだろう?
アレルがそう言ってたってこと?
「アレルは冒険者になると言っていた。冒険者はギルドに登録するから、追跡はそう難しくない。リアがもう少し大きくなって家を出ることになったら、アレルと直接会ってその時に疑問は全部ぶつければいい」
「……わかった、そうする」
私は唇を噛み締め、今のところは我慢することを選んだ。
今の私には力が足りない。この森すらも越えられないのだ。そんな自分の不甲斐なさが情けない。
「お父さんは、アレルと私がいなくなって寂しくないの?」
「寂しいと言えば寂しいけど、母さんもいるし、ランクのやつも来年には帰ってくる。俺は大丈夫だよ」
ランクというのは、アレルのお兄さんだ。今は王立学院の二年生だから、来年の春には家に帰ってくる予定になっている。長男のランク兄さんが家を継ぐのは自然な形だ。
「そっか……じゃあ私は、十五歳になるまでの半年でできることをやっておかないとね」
私は朝食の席でお父さんから聞かされて、そのことを知った。
昨日は部屋に閉じこもっていたから、あれっきりアレルとは一言も言葉を交わしていない。
「……一言くらい声を掛けてくれてもいいじゃない」
きっとアレルは昨日のことを気にしているのだろう。昨日の彼はどこかおかしかった。みんなの期待を背負っていたのに、裏切ってしまったと思い込んでいた。
それが重荷になって、私に酷いことを言ってしまったのだと思う。……でも、本当にそれだけだったのかしら。
頭の片隅にでも思っていなければ言葉が出てこないとすれば、少なからずアレルは私のことを家族だと思っていなかったのかもしれない。
だから別れも告げずに出ていったのだとしたら……それはとても悲しいけれど、仕方のないこと。
「……アレルの口から本心を聞きたい」
そう思うと、いてもたってもいられなくなった。
今朝出発したのなら、まだ遠くには行っていないはず。今から追いかければ間に合うかも。
私は急いで玄関に行って靴を履き、外に駆け出した。
空はカラっと晴れていて気持ちがいい。アレルのことがなければピクニックでもしたいくらいの天気だ。
「ここから村を出るとすると、まずは近くの村にいくはず。……なら、森の方ね」
私はアレルが森の方に行ったと推理して、足を進めようとする。
でも、前に進むことができなかった。
後ろから手を引かれている。私は驚いて後ろを振り返った。
「お父さん……!? わ、私は別にアレルのことを追いかけようとか、アレルの口から直接本心を聞きたいとか、そういうこと考えてないから! 大丈夫! リラックスして~はぁ」
私何言ってるの!? 自分から全部バラしてどうするのよ! 馬鹿なの!?
「リアの方こそ少し落ち着け。お前がアレルのことを追いかけようとするのはわかっていた。だからここでずっと待っていた」
「……全部バレバレってことね」
「リアがアレルのことを気にしているのはわかるし、追いかけることを止めることはせん。……十五歳になってスキルを授けられたら、その時に改めて村を出てもいい。だけど、今すぐに森へ入るのは無謀だよ」
「……ごめんなさい」
ぐうの音も出ない。森の中には危険な魔物がたくさんいる。戦闘経験がなくて、スキルも無い私が無事に次の村につけるはずがない。
万が一何かの偶然で辿り着けたとしても時間がかかりすぎる。その頃にはアレルはずっと遠くに行ってしまっている。
「……何があったかは知らないが、アレルはリアを嫌ってはいないだろうよ」
「どうしてわかるの?」
「アレルの顔を見ていればわかるさ。あいつは最後までリアのことを気にしていたよ。……なに、心配することはない。あいつはスキルなんかなくたって十分強いからな。小さい時からなぜか頭もキレる。森で死ぬようなことはないはずだ」
確かにアレルは強く、頭が良かった。前に聞いた話では、生後一か月で言葉を話したと聞いたこともある。何かの冗談だろうとも思ったけれど、どうやら本当らしい。
毎日馬鹿真面目に身体を鍛えていたし、素手で魔物を倒すのを目の前で見たことがある。どんなスキルを貰ったのかまではわからないけれど、貴族じゃなく冒険者ならアレルは活躍できるのかもしれない。
もしかしてアレルはそう考えて……?
「ねえ、お父さん」
「どうした?」
「もしアレルが冒険者になったとしたら、貴族を続けるよりも幸せになるのかしら」
「あいつ曰く、そうらしいぞ」
お父さんは私を見て面白そうにふふっと笑った。
どういうことだろう?
アレルがそう言ってたってこと?
「アレルは冒険者になると言っていた。冒険者はギルドに登録するから、追跡はそう難しくない。リアがもう少し大きくなって家を出ることになったら、アレルと直接会ってその時に疑問は全部ぶつければいい」
「……わかった、そうする」
私は唇を噛み締め、今のところは我慢することを選んだ。
今の私には力が足りない。この森すらも越えられないのだ。そんな自分の不甲斐なさが情けない。
「お父さんは、アレルと私がいなくなって寂しくないの?」
「寂しいと言えば寂しいけど、母さんもいるし、ランクのやつも来年には帰ってくる。俺は大丈夫だよ」
ランクというのは、アレルのお兄さんだ。今は王立学院の二年生だから、来年の春には家に帰ってくる予定になっている。長男のランク兄さんが家を継ぐのは自然な形だ。
「そっか……じゃあ私は、十五歳になるまでの半年でできることをやっておかないとね」
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