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老いと性
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そのきっかけは町の病院だった。定期的に通っている内科。今日は担当医が学会だとかで、代理の医師が入っていた「初めまして。木下といいます」
白衣を着た医師は「木下美優」
年齢は、50を少し超えたくらいだろうか。髪はひとつにまとめているが、ところどころ白いものが混じっている。顔立ちは、「美人」というより、優しそうな印象である。
血圧を測りながら、女医は当たり前のような口調で言った「お一人暮らしですよね」
「ええ」
「夜、眠れていますか?」
「トイレで目が覚めるくらいで、まあ、なんとか」
「食事は?」
「まあ、自分なりに」
「“自分なり”って、だいたいあまり良くないんですよ」
彼女はふっと笑ったのは、患者の年寄と話している医者の顔じゃなかった。人と人が普通に会話している時の顔だった。
そのことに妙に胸がざわついた。
それから数ヶ月の後、担当医は女医に変わった。
「はい、血圧はまあまあ普通ですね」
「普通ですか?」
「この年で、塩辛いものやめられない人いっぱいいますから。ちゃんと我慢してるのでしょ」
「まぁ、酒は少し」
「え、“少し”っていうのが一番怪しいんですよ」
口ぶりは軽いが、その目にはちゃんとこちらを見てくれる気配があった。診察のたびに、世間話が少しずつ増えていく。
「お孫さん、来てくれます?」
「たまに来ます」
「そうですか。じゃあオシャレもしないと」
「オシャレ?」
「誰も見てくれなくなると、ボケちゃいますよ」
そう言って、彼女は自分の白衣の袖を少し整えた。その仕草が不意に目に残った。
ある日、担当医の彼女の薬指に、うっすらと指輪の跡があることに気づいた。
細い指の関節に残る皮膚の色が、わずかに違う。気づいてしまうと、視線をそらすのに苦労する。
「何か気になります?」
脈を取られながら、そう言われて慌てて首を振った。
「いえ、別に」
老いは残酷だと、よく言われる。髪が薄くなり、肌に皺が増え、出来ないことが増えていく。
もっと残酷なのは「見てはいけない」と知っているものほど、よく見えてしまうということかもしれない。
若い頃なら、美しいところだけを都合よく見ていられたが、今は違う。
指輪の跡もうっすら、浮いた青筋も・・夜遅くまで働く人間の疲れの影も、全部見えてしまうのだ。
それでも、だからこそ・・きれいだなと、ふと思ってしまうのだ。
ある日、診察でいつもより血圧が高く出た。
「高いですね!どうしました?」
彼女が眉を上げる。
「昨日、何かありました?」
「何も」
正直に言えば・・昨夜、あなたのことを思い出して、妙に眠れなかった・・と告白することになる。
そんなことは、とても言えない。
「本当に?変なサプリとか飲んでません?」
「そんなものは、飲みません」
「じゃあ、誰かにドキドキさせられました?」
冗談めかしたその言葉に、思わず心臓がさらに跳ねた。
・・先生、あなたにです・・その言葉は喉の奥で飲み込んだ。
以前、老いと性について、若い医者に問われたことがある「ご高齢の方って、もう“そういう欲”はなくなるものなんですか?」
あれは、まだ妻が生きていた頃だ。夫婦で一緒に行った医療講演の問答で、若い医師が会場に向かって投げた質問だった。
会場は、妙に静まり返った。誰も手を挙げない。代わりに講師がこう言った。
「欲が“なくなる”人もいれば、形が変わる人もいます。『触れたい』が『そばにいてほしい』に変わったり。でも、“誰かを見てドキドキする”こと自体は、意外と最後まで残るんですよ」
そのときは「何を当たり前のことを」と思った。
若い看護師に胸を聴診器で触られて、何も感じないわけがないだろう。
ただ、それは単に「しょうがない生理現象」であって、そこに「恋」なんてものが混ざり込む余地はない。少なくとも、そのときはそう信じていた。
65を過ぎて、じわじわと分かってきたことがある。若い頃の性は衝動的だった。
触れたい確かめたい、自分がまだ健康で男であることを。
それが老いとともに、ゆっくりと「渇き」のようなものに変わっていく。誰かに触れたいというより、誰かに見られたい。ちゃんと、この世界にいると認識されていたい。
病院で名前を呼ばれるたび「生きている」と確認されるような気がするのは、そのせいかもしれない。
「佐伯さん」
待合室で名前を呼ぶ声。それだけで木下医師の顔が浮かぶようになっていた。
ある日の診察の終わり、彼女がカルテを閉じながら言った。「失礼なこと、聞いてもいいですか?」
「なんです?」
「佐伯さん、最近、誰かと“手を繋いだりハグしたいな”って思うこと、あります?」
あまりにも直球な問いに、喉の奥がカラカラになった。
「ありませんよ」
「そうですか?」
彼女はじっとこちらを見ていた。医者の目から女の目に、一瞬だけ重なったような気がした。
「この質問、若い患者さんにはなかなか聞きづらいんです」
「え、なぜ私には聞けるんですか?」
「優しそうだから、ですかね」そこで、また彼女は笑った。
冗談のようで、どこか本気のニュアンスが混ざっている笑い方「実は、最近、高齢の方の性についての調査をしていて」
「ああ」
「“恥ずかしいから誰にも言ってないけど、本当は”って話、すごく多いんですよ」
「で・・しょうか」言いかけて、自分で少し笑った。
老いも性も人に話すには気恥ずかしい。
それが二つ重なると、たちまちタブーになる。
「佐伯さんも、もし“本当は”があったら、いつか教えてください」
そう言った彼女の目は、医者として女として真剣だった。
だがその真剣さが、逆に心のどこかをくすぐった。
本当はもう少し近くで顔を見つめてみたい。そんなことを考えている自分、65を超えた爺は内側から苦笑する。
それから、一度だけ夢を見た。
病院の待合室。順番待ちの椅子に座っていると、
彼女が白衣ではなく、薄いブルーのワンピース姿で現れる。
「お待たせしました」
そう言って、膝を突き合わせるように俺の前に腰掛ける。診察室の机も、聴診器もない。代わりにあるのは、手の届く距離。
彼女は、何の前触れもなく俺の手をそっと取る。
「冷たいですね」
「歳を取ると、こうなります」
「私もですよ」
彼女の手は思っていたより薄く、骨ばっている。
柔らかさよりも、これまで生きてきた時間の長さが伝わるような手だ。
その手を自分の手のひらで包む。それだけの夢だった。
目が覚めて布団の中で、一人で笑ってしまった。
「なにを夢見ているんだ、老いも、ここまでくると滑稽だ」もう二度と、そんな夢を見ることはないだろうと思った。
薬の無くなった診察の日。夢のことなどもちろん口には出さず、いつも通り椅子に座る。
「血圧、今日はいいですね」
「ええ」
「何か運動しましたか?」
「夢見が良かったのかもしれません」
「どんな夢でした?」
「内緒です」
思わず、本当のことを言ってしまいそうになって、慌てて口をつぐんだ。
彼女は少し不満そうに眉を寄せたが、すぐにカルテに目を落とした「内緒かぁ。じゃあ、その分ちゃんと生きてくださいね」
「どういう意味です?」
「夢で済ませるより、起きているときに『あ、悪くないな』って思える時間を、ちょっとずつ増やしてほしいってことです」
その言葉が妙に胸に残った。血圧を測る彼女の手が腕に軽く触れる。
若い頃のように、身体が一気に熱くなることはないが、ただ「まだ、生きている」という感覚だけが、じんわりと広がっていく。
老いと性は、誰も教えてくれないままやってくる。欲があるのかないのか、はっきりしない。
恥じるべきなのか、笑い飛ばすべきなのかも、よく分からない。
ただ一つだけ言えることがある。
65を過ぎてから好きになった人のことは、若い頃の「恋」より、ずっと静かで長く心に残る。
触れたいとか抱きたいとか、そういう言葉のずっと手前で「この人に、これ以上疲れないでほしい」
「どうか、今日も無事でいてほしい」そう願う時間が増えていく。
それを“性”と呼ぶのか、“愛”と呼ぶのかは、もうどうでもいい。
診察室のドアが開いて、彼女が白衣の裾を揺らしながら入ってくるたび「ああ、まだ会えた」
そう思えること自体が老いの中に残された、ささやかな悦びだ。
次の診察の日、意を決して彼女に言った。
「先生」
「はい?」
「この歳になって、人を好きになるとは思いませんでした」
彼女は、一瞬きょとんとしたあと、少しだけ笑った「それは、元気な証拠として受け取っておきます」
「すみません」
「何を謝るんですか」
「先生に迷惑かもしれないと思って」
「迷惑だったら、ちゃんと血圧測りませんよ」
そう言って、彼女はいつもより少し丁寧に聴診器を当てた「ドキドキしてますね」
「歳ですから」
「そういうことにしておきますか」
彼女のその言い方が冗談か本気か、最後までよく分からなかった。
診察室を出て病院の廊下を歩く。
ガラスに映る自分の姿は、どう見ても「じいさん」だ。
背中も少し丸くなったし髪も薄い。それでも、
心の内だけは、なぜか若返ったような気がしていた。
老いと性は静かにひっそりと、それでも確かに俺の中で、まだ続いている。
それを誰にも言わずに、ただ今日も病院に通うのだ。次に「佐伯さん」と呼ばれる日まで、もう少しだけ生きていく。完
白衣を着た医師は「木下美優」
年齢は、50を少し超えたくらいだろうか。髪はひとつにまとめているが、ところどころ白いものが混じっている。顔立ちは、「美人」というより、優しそうな印象である。
血圧を測りながら、女医は当たり前のような口調で言った「お一人暮らしですよね」
「ええ」
「夜、眠れていますか?」
「トイレで目が覚めるくらいで、まあ、なんとか」
「食事は?」
「まあ、自分なりに」
「“自分なり”って、だいたいあまり良くないんですよ」
彼女はふっと笑ったのは、患者の年寄と話している医者の顔じゃなかった。人と人が普通に会話している時の顔だった。
そのことに妙に胸がざわついた。
それから数ヶ月の後、担当医は女医に変わった。
「はい、血圧はまあまあ普通ですね」
「普通ですか?」
「この年で、塩辛いものやめられない人いっぱいいますから。ちゃんと我慢してるのでしょ」
「まぁ、酒は少し」
「え、“少し”っていうのが一番怪しいんですよ」
口ぶりは軽いが、その目にはちゃんとこちらを見てくれる気配があった。診察のたびに、世間話が少しずつ増えていく。
「お孫さん、来てくれます?」
「たまに来ます」
「そうですか。じゃあオシャレもしないと」
「オシャレ?」
「誰も見てくれなくなると、ボケちゃいますよ」
そう言って、彼女は自分の白衣の袖を少し整えた。その仕草が不意に目に残った。
ある日、担当医の彼女の薬指に、うっすらと指輪の跡があることに気づいた。
細い指の関節に残る皮膚の色が、わずかに違う。気づいてしまうと、視線をそらすのに苦労する。
「何か気になります?」
脈を取られながら、そう言われて慌てて首を振った。
「いえ、別に」
老いは残酷だと、よく言われる。髪が薄くなり、肌に皺が増え、出来ないことが増えていく。
もっと残酷なのは「見てはいけない」と知っているものほど、よく見えてしまうということかもしれない。
若い頃なら、美しいところだけを都合よく見ていられたが、今は違う。
指輪の跡もうっすら、浮いた青筋も・・夜遅くまで働く人間の疲れの影も、全部見えてしまうのだ。
それでも、だからこそ・・きれいだなと、ふと思ってしまうのだ。
ある日、診察でいつもより血圧が高く出た。
「高いですね!どうしました?」
彼女が眉を上げる。
「昨日、何かありました?」
「何も」
正直に言えば・・昨夜、あなたのことを思い出して、妙に眠れなかった・・と告白することになる。
そんなことは、とても言えない。
「本当に?変なサプリとか飲んでません?」
「そんなものは、飲みません」
「じゃあ、誰かにドキドキさせられました?」
冗談めかしたその言葉に、思わず心臓がさらに跳ねた。
・・先生、あなたにです・・その言葉は喉の奥で飲み込んだ。
以前、老いと性について、若い医者に問われたことがある「ご高齢の方って、もう“そういう欲”はなくなるものなんですか?」
あれは、まだ妻が生きていた頃だ。夫婦で一緒に行った医療講演の問答で、若い医師が会場に向かって投げた質問だった。
会場は、妙に静まり返った。誰も手を挙げない。代わりに講師がこう言った。
「欲が“なくなる”人もいれば、形が変わる人もいます。『触れたい』が『そばにいてほしい』に変わったり。でも、“誰かを見てドキドキする”こと自体は、意外と最後まで残るんですよ」
そのときは「何を当たり前のことを」と思った。
若い看護師に胸を聴診器で触られて、何も感じないわけがないだろう。
ただ、それは単に「しょうがない生理現象」であって、そこに「恋」なんてものが混ざり込む余地はない。少なくとも、そのときはそう信じていた。
65を過ぎて、じわじわと分かってきたことがある。若い頃の性は衝動的だった。
触れたい確かめたい、自分がまだ健康で男であることを。
それが老いとともに、ゆっくりと「渇き」のようなものに変わっていく。誰かに触れたいというより、誰かに見られたい。ちゃんと、この世界にいると認識されていたい。
病院で名前を呼ばれるたび「生きている」と確認されるような気がするのは、そのせいかもしれない。
「佐伯さん」
待合室で名前を呼ぶ声。それだけで木下医師の顔が浮かぶようになっていた。
ある日の診察の終わり、彼女がカルテを閉じながら言った。「失礼なこと、聞いてもいいですか?」
「なんです?」
「佐伯さん、最近、誰かと“手を繋いだりハグしたいな”って思うこと、あります?」
あまりにも直球な問いに、喉の奥がカラカラになった。
「ありませんよ」
「そうですか?」
彼女はじっとこちらを見ていた。医者の目から女の目に、一瞬だけ重なったような気がした。
「この質問、若い患者さんにはなかなか聞きづらいんです」
「え、なぜ私には聞けるんですか?」
「優しそうだから、ですかね」そこで、また彼女は笑った。
冗談のようで、どこか本気のニュアンスが混ざっている笑い方「実は、最近、高齢の方の性についての調査をしていて」
「ああ」
「“恥ずかしいから誰にも言ってないけど、本当は”って話、すごく多いんですよ」
「で・・しょうか」言いかけて、自分で少し笑った。
老いも性も人に話すには気恥ずかしい。
それが二つ重なると、たちまちタブーになる。
「佐伯さんも、もし“本当は”があったら、いつか教えてください」
そう言った彼女の目は、医者として女として真剣だった。
だがその真剣さが、逆に心のどこかをくすぐった。
本当はもう少し近くで顔を見つめてみたい。そんなことを考えている自分、65を超えた爺は内側から苦笑する。
それから、一度だけ夢を見た。
病院の待合室。順番待ちの椅子に座っていると、
彼女が白衣ではなく、薄いブルーのワンピース姿で現れる。
「お待たせしました」
そう言って、膝を突き合わせるように俺の前に腰掛ける。診察室の机も、聴診器もない。代わりにあるのは、手の届く距離。
彼女は、何の前触れもなく俺の手をそっと取る。
「冷たいですね」
「歳を取ると、こうなります」
「私もですよ」
彼女の手は思っていたより薄く、骨ばっている。
柔らかさよりも、これまで生きてきた時間の長さが伝わるような手だ。
その手を自分の手のひらで包む。それだけの夢だった。
目が覚めて布団の中で、一人で笑ってしまった。
「なにを夢見ているんだ、老いも、ここまでくると滑稽だ」もう二度と、そんな夢を見ることはないだろうと思った。
薬の無くなった診察の日。夢のことなどもちろん口には出さず、いつも通り椅子に座る。
「血圧、今日はいいですね」
「ええ」
「何か運動しましたか?」
「夢見が良かったのかもしれません」
「どんな夢でした?」
「内緒です」
思わず、本当のことを言ってしまいそうになって、慌てて口をつぐんだ。
彼女は少し不満そうに眉を寄せたが、すぐにカルテに目を落とした「内緒かぁ。じゃあ、その分ちゃんと生きてくださいね」
「どういう意味です?」
「夢で済ませるより、起きているときに『あ、悪くないな』って思える時間を、ちょっとずつ増やしてほしいってことです」
その言葉が妙に胸に残った。血圧を測る彼女の手が腕に軽く触れる。
若い頃のように、身体が一気に熱くなることはないが、ただ「まだ、生きている」という感覚だけが、じんわりと広がっていく。
老いと性は、誰も教えてくれないままやってくる。欲があるのかないのか、はっきりしない。
恥じるべきなのか、笑い飛ばすべきなのかも、よく分からない。
ただ一つだけ言えることがある。
65を過ぎてから好きになった人のことは、若い頃の「恋」より、ずっと静かで長く心に残る。
触れたいとか抱きたいとか、そういう言葉のずっと手前で「この人に、これ以上疲れないでほしい」
「どうか、今日も無事でいてほしい」そう願う時間が増えていく。
それを“性”と呼ぶのか、“愛”と呼ぶのかは、もうどうでもいい。
診察室のドアが開いて、彼女が白衣の裾を揺らしながら入ってくるたび「ああ、まだ会えた」
そう思えること自体が老いの中に残された、ささやかな悦びだ。
次の診察の日、意を決して彼女に言った。
「先生」
「はい?」
「この歳になって、人を好きになるとは思いませんでした」
彼女は、一瞬きょとんとしたあと、少しだけ笑った「それは、元気な証拠として受け取っておきます」
「すみません」
「何を謝るんですか」
「先生に迷惑かもしれないと思って」
「迷惑だったら、ちゃんと血圧測りませんよ」
そう言って、彼女はいつもより少し丁寧に聴診器を当てた「ドキドキしてますね」
「歳ですから」
「そういうことにしておきますか」
彼女のその言い方が冗談か本気か、最後までよく分からなかった。
診察室を出て病院の廊下を歩く。
ガラスに映る自分の姿は、どう見ても「じいさん」だ。
背中も少し丸くなったし髪も薄い。それでも、
心の内だけは、なぜか若返ったような気がしていた。
老いと性は静かにひっそりと、それでも確かに俺の中で、まだ続いている。
それを誰にも言わずに、ただ今日も病院に通うのだ。次に「佐伯さん」と呼ばれる日まで、もう少しだけ生きていく。完
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