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第7話「救出」
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第7話「救出」
ベローチェとスカビオサは、フソク村から出てすぐ近くにある森の中を歩いていた。ベローチェによって操られている男――ゾクは、顔面に蜘蛛の巣がかかっても気にせず、従順に拠点まで案内してくれている。
やがて、建物が見えてきた。
「……着きました……」
ゾクが立ち止まったのは、廃墟の前だった。二階建ての古い洋館のような見た目をしており、玄関前で見張り役の屈強な男が二人、札遊びをしている。
ゾクの姿に気づくや否や彼らもまた、邪心を宿した目でベローチェを見た。まるで、お楽しみを連れてきたとでも言っているようだ。
ベローチェは生まれて初めて不快という感情を得た。
「よお、上玉じゃねえか……お前もそう思わねえか?」
「へへっ、確かにえれぇ別嬪だ。しっかし、村のやつにこんなのいたか?」
男の一人がベローチェへ手を伸ばした途端、彼女は口ずさんだ。
「潰えろ」
すると、見張り役の男たちは両手で首を押さえながら苦しげに呻き、泡を吹いてバタリと音を立てて地面へ倒れた。
「あ……? ……てめぇ、何しやがる!?」
魔眼の効力が切れたゾクは、鮮明になっていく意識の中、事態を理解し、ベローチェへ殴りかかった。
「騒がしい……」
ベローチェはひらりと躱すと、再び「潰えろ」と唱え、見張り役の男と同じようにゾクの呼吸を奪う。
このときベローチェが唱えた呪文は、相手の周囲の空気を一時的に真空状態にする、というものだった。食糧保存に関する書物に記してあった魔法を、ベローチェが応用したのだ。
野菜を袋に詰め、その袋から空気を抜く……そうイメージすれば伝わるだろうか?
ベローチェ曰く、「潰えろ」という文言は、特に魔法の効果とは関係がない。彼女へ魔法を教える時、カルミアはこう言った。
――魔法とは、イメージするものだ!
「スカビオサ、お前に村人の捜索を頼みたい」
「村人の?」
「ああ、他に捕まっている者がいるかもしれんからな」
「御意。ベローチェ様は……」
「私は賊と戯れるとしよう。なに、魔法がどれくらい効くのか見てやるだけだ。スカビオサは気にせず、捜索に当たるが良い」
ベローチェの命令に一礼し、早速スカビオサは館周辺を歩き始めた。見張りは玄関にいた男たちだけなのか、辺りは閑散としていた。
半周ほどした時、スカビオサは小屋を見つけた。小屋の中には、藁が山ほど積まれており、丁度、人がすっぽり埋まりそうな量だった。
――ただの小屋ではない。
スカビオサはそう直感し、剣を使わずに両手で藁を掻き分けていく。ガサガサと音を立てているのに、誰も駆けつけてくる様子がない。ハズレを引いたのだろうか、いやそうであってくれ。下らないいざこざで村人が捕まるなど、あってはならないからだ。
だがその願いは砕け散った。スカビオサは瞠目し、体を硬直させた。
「…………っ!!」
案の定、藁の中には二人の女が両目と口を塞がれた状態で横になっていた。気を失っているのか声すら聞こえず、スカビオサはそっと彼女たちの首へ二本の指を添えた。
ドク、ドク……と規則正しい脈拍が取れ、スカビオサが安堵したのも束の間、次の瞬間、嫌な匂いが漂ってきた。
傷んだ海産物のような匂いに顔を顰める。捕らわれていた村人を改めて観察してみると、顔は体液で濡れ、破けた長いスカートには所々に染みが付着し、ちらりと見える太腿に赤い痣ができているではないか!
人の手のような赤い痣、つまりそういうことだった。
「下衆が……」
そう呟いたスカビオサは、彼女たちを傍らに抱くと、村へ戻り、泣いて感謝を告げる村人を気にも留めず、急いで館へと駆けて行く。
――ベローチェ様!!
一方その頃ベローチェは、複数の男たちに囲まれていた……。
ベローチェとスカビオサは、フソク村から出てすぐ近くにある森の中を歩いていた。ベローチェによって操られている男――ゾクは、顔面に蜘蛛の巣がかかっても気にせず、従順に拠点まで案内してくれている。
やがて、建物が見えてきた。
「……着きました……」
ゾクが立ち止まったのは、廃墟の前だった。二階建ての古い洋館のような見た目をしており、玄関前で見張り役の屈強な男が二人、札遊びをしている。
ゾクの姿に気づくや否や彼らもまた、邪心を宿した目でベローチェを見た。まるで、お楽しみを連れてきたとでも言っているようだ。
ベローチェは生まれて初めて不快という感情を得た。
「よお、上玉じゃねえか……お前もそう思わねえか?」
「へへっ、確かにえれぇ別嬪だ。しっかし、村のやつにこんなのいたか?」
男の一人がベローチェへ手を伸ばした途端、彼女は口ずさんだ。
「潰えろ」
すると、見張り役の男たちは両手で首を押さえながら苦しげに呻き、泡を吹いてバタリと音を立てて地面へ倒れた。
「あ……? ……てめぇ、何しやがる!?」
魔眼の効力が切れたゾクは、鮮明になっていく意識の中、事態を理解し、ベローチェへ殴りかかった。
「騒がしい……」
ベローチェはひらりと躱すと、再び「潰えろ」と唱え、見張り役の男と同じようにゾクの呼吸を奪う。
このときベローチェが唱えた呪文は、相手の周囲の空気を一時的に真空状態にする、というものだった。食糧保存に関する書物に記してあった魔法を、ベローチェが応用したのだ。
野菜を袋に詰め、その袋から空気を抜く……そうイメージすれば伝わるだろうか?
ベローチェ曰く、「潰えろ」という文言は、特に魔法の効果とは関係がない。彼女へ魔法を教える時、カルミアはこう言った。
――魔法とは、イメージするものだ!
「スカビオサ、お前に村人の捜索を頼みたい」
「村人の?」
「ああ、他に捕まっている者がいるかもしれんからな」
「御意。ベローチェ様は……」
「私は賊と戯れるとしよう。なに、魔法がどれくらい効くのか見てやるだけだ。スカビオサは気にせず、捜索に当たるが良い」
ベローチェの命令に一礼し、早速スカビオサは館周辺を歩き始めた。見張りは玄関にいた男たちだけなのか、辺りは閑散としていた。
半周ほどした時、スカビオサは小屋を見つけた。小屋の中には、藁が山ほど積まれており、丁度、人がすっぽり埋まりそうな量だった。
――ただの小屋ではない。
スカビオサはそう直感し、剣を使わずに両手で藁を掻き分けていく。ガサガサと音を立てているのに、誰も駆けつけてくる様子がない。ハズレを引いたのだろうか、いやそうであってくれ。下らないいざこざで村人が捕まるなど、あってはならないからだ。
だがその願いは砕け散った。スカビオサは瞠目し、体を硬直させた。
「…………っ!!」
案の定、藁の中には二人の女が両目と口を塞がれた状態で横になっていた。気を失っているのか声すら聞こえず、スカビオサはそっと彼女たちの首へ二本の指を添えた。
ドク、ドク……と規則正しい脈拍が取れ、スカビオサが安堵したのも束の間、次の瞬間、嫌な匂いが漂ってきた。
傷んだ海産物のような匂いに顔を顰める。捕らわれていた村人を改めて観察してみると、顔は体液で濡れ、破けた長いスカートには所々に染みが付着し、ちらりと見える太腿に赤い痣ができているではないか!
人の手のような赤い痣、つまりそういうことだった。
「下衆が……」
そう呟いたスカビオサは、彼女たちを傍らに抱くと、村へ戻り、泣いて感謝を告げる村人を気にも留めず、急いで館へと駆けて行く。
――ベローチェ様!!
一方その頃ベローチェは、複数の男たちに囲まれていた……。
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