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第三章 人類の賭け
Day37 世界が息をひそめる前夜
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《NASA/PDCO オペレーションルーム》
蛍光灯の白い光の下、
いつもと同じモニター、
いつもと同じ机。
違うのは――
誰も無駄話をしていないことだった。
巨大スクリーンには、
アストレアAとオメガの軌道図。
その端に、小さな文字が並ぶ。
〈STATUS:
ATTITUDE CONTROL:NOMINAL
GUIDANCE:NOMINAL
TCM:NO FURTHER MANEUVER
MODE:IMPACT CONFIG〉
フライトディレクターが
静かに告げる。
「本時刻をもって、
我々の側から
アストレアAに送れる“操作コマンド”は
事実上、打ち止めです。」
「ここから先は――
アストレアAのセンサー、
誘導プログラム、
そして宇宙力学に
仕事を任せるしかありません。」
室内を見回し、
ゆっくりと続ける。
「明日、Day36のIMPACT WINDOW中は、
全員“本番シフト”です。」
「“やることがないから来なくていい”
という人間は一人もいません。」
軽い笑いが起きたが、
すぐに消えた。
アンナ・ロウエルが立ち上がる。
「……じゃあ、
こっちからも一つ。」
彼女は
スクリーンのオメガを見上げた。
「明日、
世界中が“アストレアAは当たるのか”だけを
見ようとするはず。」
「でも、本当に大事なのは
“当たったかどうか”より、
“どれくらい進路がズレたか”です。」
「IMPACTから約1時間後の
軌道偏向の一次評価。」
「そこで出る“数キロ、数十キロ”の数字が、
何千万という人の
避難計画と、
明日のニュースのトーンを決める。」
彼女は、
スタッフ一人ひとりを見渡した。
「明日、
あなたたちは“観客”じゃない。」
「“世界が何を知るか”を決める
ファーストフィルターです。」
「怖くても、
眠くても、
泣きたくなっても――」
「数字だけは、嘘をつかないで。」
誰かが、ごくりと唾を飲み込んだ。
スクリーンの隅には、
カウントダウンが出ている。
〈オメガ予測落下日まで:37日
Xデー(Day36)まで:あと1日〉
《JAXA/ISAS 相模原キャンパス/プラネタリーディフェンスチーム》
会議室の真ん中に、
明日の資料一式が積み上がっていた。
・Day36 共同ブリーフィング用スライド
・“プラネタリーディフェンス”説明原稿
・ツクヨミ計画 Q&A
・美星スペースガードセンター観測一覧
白鳥レイナが、
一枚一枚をめくっていく。
「……誤字なし、
数値もDay37時点で最新。」
「“220メートル級のオメガ”って表現も
統一できてるわね。」
広報担当が頷く。
「官邸とのすり合わせも終わりました。」
「明日の中継では、
総理メッセージの直後に
“プラネタリーディフェンス”の
解説パートが入ります。」
若手研究者が
手を挙げた。
「“ツクヨミ”について、
どこまで踏み込んでいいんでしょう。」
「“今どこまでできているか”を
正直に言うと、
“まだそんな段階か”って
不安にさせるかもしれないし……。」
レイナは
少しだけ笑った。
「“まだそんな段階か”って
言われた方が、
将来の予算はつきやすいわ。」
「“秘密裏に全部準備してました”の方が、
よっぽど信用を失う。」
彼女は、
ホワイトボードの隅に書いた。
〈明日、必ず言うこと〉
・これは“最初の一歩”であること
・次のオメガのための体制づくりが続くこと
・ツクヨミは“飛ばさないで済むこと”が最善だということ
「それから、“美星”の名前も
どこかで出しましょう。」
「“夜の日本で
ずっと空を見ている人たちがいる”って。」
「子どもたちが、
“自分もそうなりたい”って
思ってくれるかもしれない。」
若手が、
スクリーンの端に
小さく文字を打ち込んだ。
〈Xデーまで、あと1日〉
《総理官邸・危機管理センター》
壁一面の大型モニターに、
各局の明日の番組表が並んでいた。
〈Day36 特別編成〉
・民放A局「OMEGA X-DAY LIVE」
・民放B局「決戦オメガ」
・NHK「特集 オメガXデー~地球防衛の最前線~」
中園広報官が説明する。
「明日は、
19時前後に総理の短いメッセージを
各局同時中継で。」
「そのあと、
NASA/JAXA/ESAの
共同ブリーフィングへ接続。」
「Jアラートなど
国内向けの警報については――」
藤原危機管理監が引き取る。
「基本、“鳴らないで済ませる”方針です。」
「アストレアAの結果が
“明らかな失敗”でない限り、」
「いきなり全国一斉に
“避難しろ”とは鳴らさない。」
「その代わり、
都道府県別の防災行政無線や
自治体アプリでの
“落ち着いた案内”を
あらかじめ準備済み。」
サクラは
それを黙って聞いていたが、
やがて口を開いた。
「……明日、
私は“勝負の結果”を語るつもりはありません。」
中園が顔を上げる。
「“結果”を語らない、ですか。」
「はい。」
サクラは、
テーブルの上の原稿案に
赤ペンを入れながら言う。
「私が国民に伝えたいのは、
“明日で終わりではない”こと。」
「アストレアAが成功しても、失敗しても、
この国で生きていく日々は続く。」
「“恐怖とどう付き合うか”って話は、
明日だけじゃなくて
その先の37日間、
ずっと続いていく。」
里香秘書官補が
小さくうなずく。
「……総理、当日は
どれくらい眠れそうですか。」
サクラは、
冗談めかして答えた。
「三時間眠れたら
勝ちね。」
「でも大丈夫。」
「どうせ世界中のリーダーが
似たような顔色で
モニターを見てるでしょうし。」
モニターの一つには、
ホワイトハウスの会見室の
ライブ映像が映っていた。
《アメリカ・ホワイトハウス/大統領執務室》
ジョナサン・ルース大統領は、
机の引き出しから
二枚の原稿を取り出した。
Day40に書きかけた、
“成功版”と“失敗版”のメッセージ。
そこに、
今日新たに一行書き足す。
「どんな結果であっても、
明日の後にも、
あなたの一日は続いていきます。」
側近が
恐る恐る聞いた。
「大統領、
Xデーの中継は
ご家族と一緒にご覧になりますか。」
ルースは
一瞬だけ目を閉じた。
「……私は、
安全保障会議室で見る。」
「家族は――」
言いかけて、
少しだけ微笑む。
「“それぞれの場所”で
見ていると思う。」
「私は、
あの人たちの前で
“顔色を変えない仕事”がある。」
窓の外の空を見上げる。
(俺は、
ひとつ前の時代に
家族を守れなかった人間だ。)
(せめて、
この時代の誰かの家族が
明日も明後日も
普通に食卓を囲めるように――)
「明日のメッセージに、
“日本の判断に感謝する”一文を
入れておいてくれ。」
側近が首を傾げる。
「日本、ですか。」
「ああ。」
ルースは
静かに言った。
「核を“最終手段”に追いやったのは、
あの国の総理の
固い意志だ。」
「明日の結果がどうであれ、
それを忘れないように
世界に言葉で刻んでおく。」
《世界各地・それぞれの夜》
・ロンドン
パブの黒板に、
“X-DAY Viewing Party 明日20時~”の文字。
その下に小さく、
“騒ぎすぎないこと”と書き足される。
・ソウル
地下鉄構内のモニターに、
“明日、主要駅での中継予定”テロップ。
通り過ぎる人々は、
足を止めたり止めなかったり。
・カイロ
モスクの前で、
若いイマームが
「明日は特別な祈りを」と
信徒たちに語りかける。
・ブラジルの海辺
サーファーたちが
“もし全部うまくいったら
明後日は特大パーティーだな”と笑い合う。
その笑いの奥に、
どこか本気の不安が混じっている。
《黎明教団・本部ホール》
白い布で覆われた広いホールに、
椅子が整然と並んでいる。
明日の“Xデー瞑想集会”の
準備が進んでいた。
スタッフが、
マイクとカメラの位置を確認する。
「セラさん、
明日の配信タイトルは
これでよろしいですか。」
〈Day36:
“光は選別する――
オメガとともに目覚める魂へ”〉
天城セラは、
タイトルを見て
ゆっくりと頷いた。
「いいですね。」
「“終わり”とか“最後”という言葉は
あえて使わないでください。」
「これは、
“始まりの日”ですから。」
スタッフが尋ねる。
「アストレアAの中継と
同時刻ですが……
そちらには触れますか。」
セラは微笑む。
「触れます。」
「“人類が放つ矢も、
宇宙が放つ光も、
どちらも一つの物語に過ぎない”と。」
「“本当の選別は、
それをどんな気持ちで見守ったかで
決まるのだ”と。」
ホールの照明が落とされ、
試験的にキャンドルが灯される。
ゆらめく光の中で、
セラの影が
長く伸びた。
《新聞社・社会部》
フロアの一角だけ、
異様な静けさに包まれていた。
“Xデー特集”の
最終チェックが
進んでいるからだ。
・Day36のタイムライン解説
・NASA/JAXA共同中継の見どころ
・“Xデーの過ごし方”読者投稿紹介
若手記者が、
プリントを抱えて
桐生誠のデスクに駆け寄る。
「桐生さん、
“Xデーまであと1日”の
コラム、見てもらえますか。」
タイトルには、
こう書かれていた。
『Xデーまであと1日――
“世界同時視聴”という、
初めての体験』
桐生は一読してから、
静かに言った。
「悪くない。」
「でも、
一行だけ足してくれ。」
「“見ないでいることを選ぶ人たちも
同じようにこの時代を生きている”って。」
若手が目を瞬かせる。
「……“見ない自由”ですか。」
「そう。」
桐生は
モニター隅の数字を見た。
〈オメガ予測落下日まで:37日
Xデー(Day36)まで:あと1日〉
(明日、
世界は同じ方向を向くようでいて、)
(実際には
それぞれ全然違う場所と気持ちで
この瞬間を迎えるんだろう。)
(その“バラバラさ”ごと
記録しておきたい。)
若手がコラムに一行を書き足す。
「……よし。」
編集長の声が飛ぶ。
「Xデー前日号、
これで締めるぞ!」
プリンターがうなり、
紙の束が吐き出されていく。
Day37。
オメガ予測落下日まで37日、
そして“世界が息をひそめるXデー”
Day36まで――あと1日。
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.
蛍光灯の白い光の下、
いつもと同じモニター、
いつもと同じ机。
違うのは――
誰も無駄話をしていないことだった。
巨大スクリーンには、
アストレアAとオメガの軌道図。
その端に、小さな文字が並ぶ。
〈STATUS:
ATTITUDE CONTROL:NOMINAL
GUIDANCE:NOMINAL
TCM:NO FURTHER MANEUVER
MODE:IMPACT CONFIG〉
フライトディレクターが
静かに告げる。
「本時刻をもって、
我々の側から
アストレアAに送れる“操作コマンド”は
事実上、打ち止めです。」
「ここから先は――
アストレアAのセンサー、
誘導プログラム、
そして宇宙力学に
仕事を任せるしかありません。」
室内を見回し、
ゆっくりと続ける。
「明日、Day36のIMPACT WINDOW中は、
全員“本番シフト”です。」
「“やることがないから来なくていい”
という人間は一人もいません。」
軽い笑いが起きたが、
すぐに消えた。
アンナ・ロウエルが立ち上がる。
「……じゃあ、
こっちからも一つ。」
彼女は
スクリーンのオメガを見上げた。
「明日、
世界中が“アストレアAは当たるのか”だけを
見ようとするはず。」
「でも、本当に大事なのは
“当たったかどうか”より、
“どれくらい進路がズレたか”です。」
「IMPACTから約1時間後の
軌道偏向の一次評価。」
「そこで出る“数キロ、数十キロ”の数字が、
何千万という人の
避難計画と、
明日のニュースのトーンを決める。」
彼女は、
スタッフ一人ひとりを見渡した。
「明日、
あなたたちは“観客”じゃない。」
「“世界が何を知るか”を決める
ファーストフィルターです。」
「怖くても、
眠くても、
泣きたくなっても――」
「数字だけは、嘘をつかないで。」
誰かが、ごくりと唾を飲み込んだ。
スクリーンの隅には、
カウントダウンが出ている。
〈オメガ予測落下日まで:37日
Xデー(Day36)まで:あと1日〉
《JAXA/ISAS 相模原キャンパス/プラネタリーディフェンスチーム》
会議室の真ん中に、
明日の資料一式が積み上がっていた。
・Day36 共同ブリーフィング用スライド
・“プラネタリーディフェンス”説明原稿
・ツクヨミ計画 Q&A
・美星スペースガードセンター観測一覧
白鳥レイナが、
一枚一枚をめくっていく。
「……誤字なし、
数値もDay37時点で最新。」
「“220メートル級のオメガ”って表現も
統一できてるわね。」
広報担当が頷く。
「官邸とのすり合わせも終わりました。」
「明日の中継では、
総理メッセージの直後に
“プラネタリーディフェンス”の
解説パートが入ります。」
若手研究者が
手を挙げた。
「“ツクヨミ”について、
どこまで踏み込んでいいんでしょう。」
「“今どこまでできているか”を
正直に言うと、
“まだそんな段階か”って
不安にさせるかもしれないし……。」
レイナは
少しだけ笑った。
「“まだそんな段階か”って
言われた方が、
将来の予算はつきやすいわ。」
「“秘密裏に全部準備してました”の方が、
よっぽど信用を失う。」
彼女は、
ホワイトボードの隅に書いた。
〈明日、必ず言うこと〉
・これは“最初の一歩”であること
・次のオメガのための体制づくりが続くこと
・ツクヨミは“飛ばさないで済むこと”が最善だということ
「それから、“美星”の名前も
どこかで出しましょう。」
「“夜の日本で
ずっと空を見ている人たちがいる”って。」
「子どもたちが、
“自分もそうなりたい”って
思ってくれるかもしれない。」
若手が、
スクリーンの端に
小さく文字を打ち込んだ。
〈Xデーまで、あと1日〉
《総理官邸・危機管理センター》
壁一面の大型モニターに、
各局の明日の番組表が並んでいた。
〈Day36 特別編成〉
・民放A局「OMEGA X-DAY LIVE」
・民放B局「決戦オメガ」
・NHK「特集 オメガXデー~地球防衛の最前線~」
中園広報官が説明する。
「明日は、
19時前後に総理の短いメッセージを
各局同時中継で。」
「そのあと、
NASA/JAXA/ESAの
共同ブリーフィングへ接続。」
「Jアラートなど
国内向けの警報については――」
藤原危機管理監が引き取る。
「基本、“鳴らないで済ませる”方針です。」
「アストレアAの結果が
“明らかな失敗”でない限り、」
「いきなり全国一斉に
“避難しろ”とは鳴らさない。」
「その代わり、
都道府県別の防災行政無線や
自治体アプリでの
“落ち着いた案内”を
あらかじめ準備済み。」
サクラは
それを黙って聞いていたが、
やがて口を開いた。
「……明日、
私は“勝負の結果”を語るつもりはありません。」
中園が顔を上げる。
「“結果”を語らない、ですか。」
「はい。」
サクラは、
テーブルの上の原稿案に
赤ペンを入れながら言う。
「私が国民に伝えたいのは、
“明日で終わりではない”こと。」
「アストレアAが成功しても、失敗しても、
この国で生きていく日々は続く。」
「“恐怖とどう付き合うか”って話は、
明日だけじゃなくて
その先の37日間、
ずっと続いていく。」
里香秘書官補が
小さくうなずく。
「……総理、当日は
どれくらい眠れそうですか。」
サクラは、
冗談めかして答えた。
「三時間眠れたら
勝ちね。」
「でも大丈夫。」
「どうせ世界中のリーダーが
似たような顔色で
モニターを見てるでしょうし。」
モニターの一つには、
ホワイトハウスの会見室の
ライブ映像が映っていた。
《アメリカ・ホワイトハウス/大統領執務室》
ジョナサン・ルース大統領は、
机の引き出しから
二枚の原稿を取り出した。
Day40に書きかけた、
“成功版”と“失敗版”のメッセージ。
そこに、
今日新たに一行書き足す。
「どんな結果であっても、
明日の後にも、
あなたの一日は続いていきます。」
側近が
恐る恐る聞いた。
「大統領、
Xデーの中継は
ご家族と一緒にご覧になりますか。」
ルースは
一瞬だけ目を閉じた。
「……私は、
安全保障会議室で見る。」
「家族は――」
言いかけて、
少しだけ微笑む。
「“それぞれの場所”で
見ていると思う。」
「私は、
あの人たちの前で
“顔色を変えない仕事”がある。」
窓の外の空を見上げる。
(俺は、
ひとつ前の時代に
家族を守れなかった人間だ。)
(せめて、
この時代の誰かの家族が
明日も明後日も
普通に食卓を囲めるように――)
「明日のメッセージに、
“日本の判断に感謝する”一文を
入れておいてくれ。」
側近が首を傾げる。
「日本、ですか。」
「ああ。」
ルースは
静かに言った。
「核を“最終手段”に追いやったのは、
あの国の総理の
固い意志だ。」
「明日の結果がどうであれ、
それを忘れないように
世界に言葉で刻んでおく。」
《世界各地・それぞれの夜》
・ロンドン
パブの黒板に、
“X-DAY Viewing Party 明日20時~”の文字。
その下に小さく、
“騒ぎすぎないこと”と書き足される。
・ソウル
地下鉄構内のモニターに、
“明日、主要駅での中継予定”テロップ。
通り過ぎる人々は、
足を止めたり止めなかったり。
・カイロ
モスクの前で、
若いイマームが
「明日は特別な祈りを」と
信徒たちに語りかける。
・ブラジルの海辺
サーファーたちが
“もし全部うまくいったら
明後日は特大パーティーだな”と笑い合う。
その笑いの奥に、
どこか本気の不安が混じっている。
《黎明教団・本部ホール》
白い布で覆われた広いホールに、
椅子が整然と並んでいる。
明日の“Xデー瞑想集会”の
準備が進んでいた。
スタッフが、
マイクとカメラの位置を確認する。
「セラさん、
明日の配信タイトルは
これでよろしいですか。」
〈Day36:
“光は選別する――
オメガとともに目覚める魂へ”〉
天城セラは、
タイトルを見て
ゆっくりと頷いた。
「いいですね。」
「“終わり”とか“最後”という言葉は
あえて使わないでください。」
「これは、
“始まりの日”ですから。」
スタッフが尋ねる。
「アストレアAの中継と
同時刻ですが……
そちらには触れますか。」
セラは微笑む。
「触れます。」
「“人類が放つ矢も、
宇宙が放つ光も、
どちらも一つの物語に過ぎない”と。」
「“本当の選別は、
それをどんな気持ちで見守ったかで
決まるのだ”と。」
ホールの照明が落とされ、
試験的にキャンドルが灯される。
ゆらめく光の中で、
セラの影が
長く伸びた。
《新聞社・社会部》
フロアの一角だけ、
異様な静けさに包まれていた。
“Xデー特集”の
最終チェックが
進んでいるからだ。
・Day36のタイムライン解説
・NASA/JAXA共同中継の見どころ
・“Xデーの過ごし方”読者投稿紹介
若手記者が、
プリントを抱えて
桐生誠のデスクに駆け寄る。
「桐生さん、
“Xデーまであと1日”の
コラム、見てもらえますか。」
タイトルには、
こう書かれていた。
『Xデーまであと1日――
“世界同時視聴”という、
初めての体験』
桐生は一読してから、
静かに言った。
「悪くない。」
「でも、
一行だけ足してくれ。」
「“見ないでいることを選ぶ人たちも
同じようにこの時代を生きている”って。」
若手が目を瞬かせる。
「……“見ない自由”ですか。」
「そう。」
桐生は
モニター隅の数字を見た。
〈オメガ予測落下日まで:37日
Xデー(Day36)まで:あと1日〉
(明日、
世界は同じ方向を向くようでいて、)
(実際には
それぞれ全然違う場所と気持ちで
この瞬間を迎えるんだろう。)
(その“バラバラさ”ごと
記録しておきたい。)
若手がコラムに一行を書き足す。
「……よし。」
編集長の声が飛ぶ。
「Xデー前日号、
これで締めるぞ!」
プリンターがうなり、
紙の束が吐き出されていく。
Day37。
オメガ予測落下日まで37日、
そして“世界が息をひそめるXデー”
Day36まで――あと1日。
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
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