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梅雨
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これは夢か。
これは幻想か。
これは走馬灯か。
ただ一つ、分かることは目の前にずっと追い求めてきた存在が、眼前にあるということだ。
夢と希望を詰め込んだ柔らかな球体。
雪のように白い球体は、中央に桜の蕾が添えられており、まるで上質な陶器のようだ。
そんな球体の上を、半透明なオーロラが包み込み、よりその存在感を強調する。
オーロラからは水滴が滴り落ち、今しがた濡れてきたばかりであることが分かる。
雨水が、荒々しく窓を叩く。車内の窓を叩く音は、線路上を走る音に掻き消される。
俺は、たまの休みに電車に乗って日帰り旅行をしていた。都会の雑踏や人混み、ガス臭さから離れ、自然溢れる所へ向かったのだ。
会社の歯車としてあくせく働いてきた体が、緑と潮の香りが混じる清廉な空気と心安らぐ自然に癒されるだろう。
目的地に着くまではそう思っていた。
実際は、思っていたよりもゴミが散らかっていたり、どこもかしこも虫が湧き出たり、そして、やたら動物の落とし物が多かったためかなんとなく臭かった。
新鮮な魚料理は旨かった、くらいしかいい思い出は出来なかった。
さらに、日中ずっと晴れと謳っていた天気予報が外れて昼下がりから大雨が降るときたものだ。
柄が悪い人間にも出くわすし、最悪の休日となった。
乗る予定の列車には間に合ったものの、頭から靴までずぶ濡れだ。外の天気同様、俺の気分は重かった。
紫陽花の映える駅から列車が走る。幸い汗拭きに持ってきていたタオルがあったのでそれで水気を拭き取る。
いくらか水気を拭き取ったものの、列車内の空調で体を冷やされて車内で貧乏ゆすりをしていた。
俺が乗って二駅目。ドアが開き、1人を乗せて空気の抜けた音と共にドアが閉まる。
腰まで届く長い髪は黒く、水を纏ってぬらぬらと輝く。
水も滴るなんとやら、濡れた睫毛や赤い唇が色っぽい。
学校指定の青いチェックのスカートからのぞくむっちりとした太ももは白く、柔らかそうで。
俺は、ごくりと喉を鳴らした。そして何より、目をひいたものがある。
半透明のオーロラに包まれた柔らかな存在だ。
それは、夢と希望が詰まったもの。
それは、神聖なもの。
それは、母なる女神が授けた至高の宝。
一生お目にかかることはないだろうと思っていたものが、そこにあった。
俺はすぐさま、スマホの録画機能を起動させた。
そしてまた、眼前の女子高生に視点を戻す。
上質な陶器のようにも見える白さと形は芸術のようだ。そして、中央の桜色がアクセントとなり清廉にして可憐で美しい仕上がりとなっている。
先程までの淀んだ気分とはうってかわって、高揚している。
前言撤回。今日は来て良かった。最高の思い出ができた。
俺は、女子高生が降りるまでずっと眺めていた。いつまでも、いつまでも。
だが、大きな音がしたと共に、俺の意識は途絶えた。
「大丈夫か?」
目が覚めると、白い天井。消毒薬の臭いのする空間に、俺はいた。
「あれ、中島?」
「お前事故に遭ったんだって。2ヶ月も目を覚まさなかったんだぞ」
中島は会社の同僚で幼なじみ。彼の仕事を増やしてしまったと思うと申し訳なくなってくる。
「え、事故?俺が?」
「落盤事故に巻き込まれたってさ。ニュース記事持ってるから見てみろよ」
そう言って、中島は切り取った新聞を俺に見せてきた。
列車落盤事故 7人中5名死亡 二名重症
といった文字がでかでかと載っている。
「そういえばあの一両列車、俺以外に人乗ってたな。生きてて良かった」
「そうなのか」
「あ、そうだ。列車といったら可愛い女子高生見たんだけどさ、これがまたいいおかずになりそうなんだよ」
「お前なぁ。ん?女子高生?」
「そう、女子高生。落盤するまでずっと一緒に乗ってたんだよ」
中島が訝しげな顔をした。そして、俺にもう一度記事をよく読めと新聞を押し付けられる。
改めて新聞に目を通す。記事には、男性5人、女性二人が乗っていたそうだ。
男性の年齢は、20代の俺を除いて50から60代、女性の年齢は40代と70代だそうだ。
この新聞の記事が事実なら、女子高生なんていなかったことになる。
「え?じゃ、あの女の子は?あ、そうだ録画してたんだ!」
俺はいそいそとスマホを取り出す。かなり頑丈なおかげか、落盤事故を起こした後でも起動できた。
さらに幸運なことにデータも残っているではないか。録画したものを中島に見せつける。
だが、そこにいたのはあの可憐な女子高生ではなかった。
頭からは血を流し、大きな黒い瞳はこちらをぎょろりと睨んでいる。健康的な白い肌は青白く、体のいたるところが血みどろで、制服はひどく破れ、血や泥にまみれていて可愛らしい制服の面影がなかった。
「おいしっかりしろ!おーい!」
俺は身体中の血の気が引いて気を失ってしまった。
後で分かったことだが、何気なくスルーしていたあの二駅目では何年か前に女の子が死んでしまったらしい。
複数の男にあんなことを無理矢理された挙げ句、誰も味方がいなかった為に自殺したそうな。
その女の子があの女子高生なのだろう。まあ、あれは男がほっとかないだろうなと考えていたら、待ち受け画面に赤い手のひらスタンプが浮かんでいた。
俺はあれ以来田舎がトラウマになった。
これは幻想か。
これは走馬灯か。
ただ一つ、分かることは目の前にずっと追い求めてきた存在が、眼前にあるということだ。
夢と希望を詰め込んだ柔らかな球体。
雪のように白い球体は、中央に桜の蕾が添えられており、まるで上質な陶器のようだ。
そんな球体の上を、半透明なオーロラが包み込み、よりその存在感を強調する。
オーロラからは水滴が滴り落ち、今しがた濡れてきたばかりであることが分かる。
雨水が、荒々しく窓を叩く。車内の窓を叩く音は、線路上を走る音に掻き消される。
俺は、たまの休みに電車に乗って日帰り旅行をしていた。都会の雑踏や人混み、ガス臭さから離れ、自然溢れる所へ向かったのだ。
会社の歯車としてあくせく働いてきた体が、緑と潮の香りが混じる清廉な空気と心安らぐ自然に癒されるだろう。
目的地に着くまではそう思っていた。
実際は、思っていたよりもゴミが散らかっていたり、どこもかしこも虫が湧き出たり、そして、やたら動物の落とし物が多かったためかなんとなく臭かった。
新鮮な魚料理は旨かった、くらいしかいい思い出は出来なかった。
さらに、日中ずっと晴れと謳っていた天気予報が外れて昼下がりから大雨が降るときたものだ。
柄が悪い人間にも出くわすし、最悪の休日となった。
乗る予定の列車には間に合ったものの、頭から靴までずぶ濡れだ。外の天気同様、俺の気分は重かった。
紫陽花の映える駅から列車が走る。幸い汗拭きに持ってきていたタオルがあったのでそれで水気を拭き取る。
いくらか水気を拭き取ったものの、列車内の空調で体を冷やされて車内で貧乏ゆすりをしていた。
俺が乗って二駅目。ドアが開き、1人を乗せて空気の抜けた音と共にドアが閉まる。
腰まで届く長い髪は黒く、水を纏ってぬらぬらと輝く。
水も滴るなんとやら、濡れた睫毛や赤い唇が色っぽい。
学校指定の青いチェックのスカートからのぞくむっちりとした太ももは白く、柔らかそうで。
俺は、ごくりと喉を鳴らした。そして何より、目をひいたものがある。
半透明のオーロラに包まれた柔らかな存在だ。
それは、夢と希望が詰まったもの。
それは、神聖なもの。
それは、母なる女神が授けた至高の宝。
一生お目にかかることはないだろうと思っていたものが、そこにあった。
俺はすぐさま、スマホの録画機能を起動させた。
そしてまた、眼前の女子高生に視点を戻す。
上質な陶器のようにも見える白さと形は芸術のようだ。そして、中央の桜色がアクセントとなり清廉にして可憐で美しい仕上がりとなっている。
先程までの淀んだ気分とはうってかわって、高揚している。
前言撤回。今日は来て良かった。最高の思い出ができた。
俺は、女子高生が降りるまでずっと眺めていた。いつまでも、いつまでも。
だが、大きな音がしたと共に、俺の意識は途絶えた。
「大丈夫か?」
目が覚めると、白い天井。消毒薬の臭いのする空間に、俺はいた。
「あれ、中島?」
「お前事故に遭ったんだって。2ヶ月も目を覚まさなかったんだぞ」
中島は会社の同僚で幼なじみ。彼の仕事を増やしてしまったと思うと申し訳なくなってくる。
「え、事故?俺が?」
「落盤事故に巻き込まれたってさ。ニュース記事持ってるから見てみろよ」
そう言って、中島は切り取った新聞を俺に見せてきた。
列車落盤事故 7人中5名死亡 二名重症
といった文字がでかでかと載っている。
「そういえばあの一両列車、俺以外に人乗ってたな。生きてて良かった」
「そうなのか」
「あ、そうだ。列車といったら可愛い女子高生見たんだけどさ、これがまたいいおかずになりそうなんだよ」
「お前なぁ。ん?女子高生?」
「そう、女子高生。落盤するまでずっと一緒に乗ってたんだよ」
中島が訝しげな顔をした。そして、俺にもう一度記事をよく読めと新聞を押し付けられる。
改めて新聞に目を通す。記事には、男性5人、女性二人が乗っていたそうだ。
男性の年齢は、20代の俺を除いて50から60代、女性の年齢は40代と70代だそうだ。
この新聞の記事が事実なら、女子高生なんていなかったことになる。
「え?じゃ、あの女の子は?あ、そうだ録画してたんだ!」
俺はいそいそとスマホを取り出す。かなり頑丈なおかげか、落盤事故を起こした後でも起動できた。
さらに幸運なことにデータも残っているではないか。録画したものを中島に見せつける。
だが、そこにいたのはあの可憐な女子高生ではなかった。
頭からは血を流し、大きな黒い瞳はこちらをぎょろりと睨んでいる。健康的な白い肌は青白く、体のいたるところが血みどろで、制服はひどく破れ、血や泥にまみれていて可愛らしい制服の面影がなかった。
「おいしっかりしろ!おーい!」
俺は身体中の血の気が引いて気を失ってしまった。
後で分かったことだが、何気なくスルーしていたあの二駅目では何年か前に女の子が死んでしまったらしい。
複数の男にあんなことを無理矢理された挙げ句、誰も味方がいなかった為に自殺したそうな。
その女の子があの女子高生なのだろう。まあ、あれは男がほっとかないだろうなと考えていたら、待ち受け画面に赤い手のひらスタンプが浮かんでいた。
俺はあれ以来田舎がトラウマになった。
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