111 / 139
† 十八の罪――地獄元帥(弐)
しおりを挟むルシファーも、惜しみない魔力で迎え撃つ。
「紫炎よ、奔れ――“贖いの闇十字”――――」
以前の比ではない火力。
「極大斉射……!」
さらに付け加えた詠唱で、格段に規模と威力を増した十字状の七連弾が彼に迫った。
「…………」
明滅する世界。魔王は依然として、目を離そうとしない。
「ほう。此れを凌ぐ者が現世にいるとはな」
あくまで彼の反応は冷静であったが、それでいて若干の感嘆がこめられている。
「なぜだ? 人間など、とっくにやめたはずなのに――こんなにも、この血がたぎる日が来るとは……!」
満身創痍となってなお、茅原の前進は止まることを知らない。
「尚も其方は忘却れていなかったのであろうよ。人間の心とやらを」
穏やかにルシファーが告げると、その冷淡な瞳に静かな焔が宿った。
「……いざ出でよ、魔剣――其処なるは、己が刃の持てる総てを揮うに足る強敵ぞ。今こそ其の真価を解き放ち、かの者への手向けとせよ……!」
十代の時分より実業家として頭角を現し、政府でもその頭脳に加え、魔法にかけられたような、との形容が流行ったほどの独特な妙味に魅了される者が後を絶たず、出世を重ねていた若き外交官・緑川真備。
訪欧中、彼は懇意の有力者から、ある秘宝を受け取る。
「緑川くーん。ソロモン王の指環って、それ本物かなー」
「かの知恵王を登輝が知っているとはな」
大海原をゆく船の甲板。真備はいつの間に現れた友に、手元の指環から目を移した。
「ひどいよー。ボクだって武芸以外に一般常識ぐらいは――まあ欠けてるかもしれないけどさ…………」
露天船橋の手すりに上体を預けた茅原は、煙管をくるくると回し、口を尖らせる。
「まあ魔術オタクのキミが思うぐらいなら眉唾でもないのかもしれないけど、トランシルヴァニアの片田舎にそんなものがあったとはねー」
「古代の品ではあるが、内外共に劣化が少ない。これを賜わった方は地域の大領主。その筋に手入れをさせていたのだろうよ」
空と海の曖昧すぎる境界に、彼は鉐色の指環をかざした。
「その筋、ねえ――――」
茅原はゆっくりと息を吐き出し、それだけ言い残すと、階段を降りてゆく。置き去りにされた紫煙が、潮風に溶けていった。
「魔力の器としても優秀と見たが、大切なものを差し出すことで、使い魔として本来は手に負えぬような格、数の人外を使役できるようになる、か」
一人に戻った彼は独白する。
「……そうか。フフフ、そんなにも――そんなにも私に天下を治めよと……!」
震えが混じる声。三日月のように、その口元は歪む。
0
あなたにおすすめの小説
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる