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† 十八の罪――地獄元帥(肆)
しおりを挟む「失礼な。俺は部長候補だぜー。今日なんて、また強くなったって顧問にほめられたとこだよ」
勝ち気に応じる彼だったが、その面持ちにふと寂しげな色が差す。
「……兄貴もたまには試合観に来られるといいんだけど――って、言ってるそばからお帰りみてーだ。おーい、兄貴―! 久しぶりー」
玄関へと走る信雄。
しかし、
「兄貴……?」
帽子を目深に被った彼の異様な雰囲気に、思いがけず立ち止まる。
長男・真備は、顔を上げることなく、
「……ただいま――――」
と、呟いた。
† † † † † † †
もう、どれほど進んだのだろうか。
深部に来ているのだという感覚はあるが、延々と続く迷宮に、気が遠くなりそうだった。
「いつになくまじめだね。きみがそんなに緊張してると、こっちまで力入っちゃうじゃん」
傍らの三条が呼びかけてくる。
「気持ちわりい…………」
俺は前方を睨んだまま、一言だけ声にした。
「まあ、たしかにいい感じはしないけど――」
「似てんだわ」
「へっ……?」
覗き込んでくる彼女。
「ここの澱みきった空気は、兄貴と親父が死んだ日の臭いによく似てやがる」
「……信雄、あのときのことは思い出せないって――――」
はっきりと憶えていないのは事実だが、忘れたのではない。
いや、忘れるはずもなかった。
あの痛み、苦しみ、そして恐怖――そうだ、二人は自殺したんじゃない。
「ぅうう、助け……て…………」
薄れゆく意識の中で瞳に焼きついたのは、天井から壁までを埋め尽くし、泳ぐようにうごめく、無数のおどろおどろしい黒影と、彼らの中央に佇立する青年の姿。今や漆黒に支配された部屋では、その表情までは読み取れなかったが、その狂気じみた片目だけが爛々と光っていた。
「……兄貴、どうして――――」
なぜ忘れていたのだろうか? 思い出さないようにしていただけか。
何より、どこかで嘘だと信じたい自分がいた。それが悪夢で済めば良い、と。
だが、あらためて視たら確信った――この記憶は間違いではない。この神殿に入ってからの尋常じゃない悪寒が物語っている。
(二人とも死んだことになってるけど、親父を殺した後、兄貴はどこに……?)
違う。誰よりも平和な世を願って頑張っていた兄貴が殺しなんて、そんなことをする訳が――――
「信雄ッ! あぶな――――」
間一髪。反らした半身を掠めるようにして、数発の魔力弾が通り抜けていった。
上の空に不意討ちでもやり過ごせたのは、ルシファーとつながっているおかげだろう。しかし、あの湧き上がる魔力は感じられない。茅原との戦いに、よほど全力で臨んでいるようだ。
「なかなかの魔力じゃねーか。当たったらどうしてくれんだ」
次弾を魔法陣で受け止めつつ、攻撃のあった方へと向き直る。
「隊長、あれ……!」
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