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お目付け役は何処へ?
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トントントントントントントントン
トントントントントントントントン
私専用のソファの木製ドリンクホルダーを爪で叩き続ける小僧は黒髪に金色の瞳をしていた。
その相手を嫌々する私はエリシア。子爵家の一人娘だ。
「おい。ジュースはまだか」
「見ればわかるでしょ。まだよ」
「何でこんなに遅いんだ!」
「王子坊ちゃんが勝手にうちに上がり込むからでしょ」
「王子坊ちゃんは止めろ。俺はヴラシスだ!ヴラシス王子殿下と呼べと言っているだろう!」
「ふん。アポ取った常識あるお客様なら呼んであげるけど、不法侵入じゃない。早く帰ってよ」
「俺が来てやってるんだからありがたいだろう!ジュースはまだか!」
小僧のお目付け役は何しているの。職務怠慢よ。
「うるさいなぁ。ジュースしか飲まないなんて言うお子ちゃまは王子坊ちゃんだけなの。だから今わざわざ仕方なく買いに行かせているの」
「何で果物を買っておかないんだよ」
「今日もジュースに向かない果物しかないの。うちはお茶、ハーブティー、コーヒーが通常の飲み物なの。ミント水も嫌なんでしょう?」
「嫌だ」
「じゃあ、レモン」
「ふざけんな!レモン100%搾りたてジュースを客に出すバカがどこにいるんだ!」
「4日前にここにいました。不法侵入した王子坊ちゃんが果汁搾りたて100%をすぐ用意しろと言うから、いっぱいあったレモンを絞ったんじゃない」
「俺は死にかけたんだぞ!」
「それが本当なら本望だけど、一口入れたらほとんど吐き出したじゃない。死にかけの人とは思えないほどピンピン悶絶していたじゃない。死にかけただなんて大袈裟ね」
「ホンモウって何だ」
「めっちゃ望んでる…ずっと望んできたとかそんな感じ」
「一々難しい言葉を使うな!
それに何でタメ口なんだよ!不敬だぞ!」
「え?じゃあ、帰っていいよ?」
「……このクッキー美味いな」
「“いただきます”は?」
「…いただきます」
こうやって大人しく何か食べていれば可愛いんだけどな。顔はいいし。
「な、何だよ」
「ん?可愛いなと思って」
「ばっ!馬鹿っ!カッコいいの間違いだろう!」
顔を真っ赤にして…本当は嬉しいんじゃないの?
「カッコいいって言葉の意味知ってる?」
「知ってるよ!俺のことだろう!」
「カッコいいというのはゼノン卿のような素敵な殿方のことをいうの」
王子坊ちゃんが近衞騎士のゼノン卿を睨み付けた。
「こら!我儘王子坊ちゃんのために命を張っている騎士様を睨まないの!怒るよ!」
「……ジュースはまだか」
「そこにある水でも飲めば」
「水」
「目の前にあるじゃない」
「何で俺が注がなくちゃいけないんだよ!」
「飲みたい人が注いで飲めばいいんじゃない?赤ちゃんじゃないんだから目の前にあるなら自分で注いで飲もうよ」
「メイドが注ぐものだろう!」
メイドには私が指示するまで動かないよう言ってあるけど、相手が王子なので壁際に立っているメイドの顔色がちょっと悪い。
「はぁ…おやおや、こんなところに大きな赤ちゃんが。自分では注げないんでちゅね~。仕方ないでちゅね~。お姉ちゃまが注いであげまちゅね~」
とは言っても6歳児の私にガラス製のウォーターピッチャーは重すぎた。手が震えている。傾ければ間違いなく大雑把な水撒きみたいになりそうだ。
「私がお注ぎしましょう」
「ありがとうございます、ゼノン卿。
心身ともに強い殿方は余裕があって素敵です。婿に来ませんか?」
「えっと…誰の?」
「もちろん私の夫にです。若くてお金もあって純潔ですよ?」
「エリシア嬢!?」
「ジュンケツって何だ?」
「…まだ王子坊ちゃんには早い言葉です」
「ふん!ゼノンといくつ離れていると思ってるんだよ」
「このくらいの歳の差なんて大したことはありませんわよね?ゼノン卿」
「さ、さすがに20歳差はキュアノス子爵が許しませんよ」
「つまり許したらいいのですね?」
「駄目に決まってるだろう!」
「何で王子坊ちゃんが言うのよ」
「何でって…俺の騎士だからだよ!」
「結婚相手にも口出しするの?」
「するに決まってるだろう!おまえみたいなのを嫁にしたらゼノンが不幸になるからな!」
「へえ」
ドンドンドンドンドンドン!
〈 開けろ!俺をつまみ出すなんて不敬だぞ! 〉
ドンドンドンドンドンドン!
〈 開けろ! 〉
「あの、お嬢様…よろしいのですか?」
「いいのいいの。陛下が好きにしていいって言ったから」
「そ、そうですか」
「ずっと叩いていたら手が痛くなるし、叫び続けていたら、口の中のクッキーの残骸が喉にくっついて、」
ドンドンドンドンドンドン!
〈 俺は王子 ゲホッゲホッケホッ 〉
「ほらね?
さっきのコップ持ってきてくれる?」
メイドが水の入ったコップを持ってきた。
玄関のドアをそっと開けてコップだけ外に出し、すぐにドアを閉めて鍵をかけた。
〈 ゴクッゴクッゴクッ 〉
「ほら、大人しく飲んだでしょ?躾は大事よね。放っておいていいから」
居間に戻ってクッキーを食べ、搾ってもらったジュースを代わりに飲んだ。
トントントントントントントントン
私専用のソファの木製ドリンクホルダーを爪で叩き続ける小僧は黒髪に金色の瞳をしていた。
その相手を嫌々する私はエリシア。子爵家の一人娘だ。
「おい。ジュースはまだか」
「見ればわかるでしょ。まだよ」
「何でこんなに遅いんだ!」
「王子坊ちゃんが勝手にうちに上がり込むからでしょ」
「王子坊ちゃんは止めろ。俺はヴラシスだ!ヴラシス王子殿下と呼べと言っているだろう!」
「ふん。アポ取った常識あるお客様なら呼んであげるけど、不法侵入じゃない。早く帰ってよ」
「俺が来てやってるんだからありがたいだろう!ジュースはまだか!」
小僧のお目付け役は何しているの。職務怠慢よ。
「うるさいなぁ。ジュースしか飲まないなんて言うお子ちゃまは王子坊ちゃんだけなの。だから今わざわざ仕方なく買いに行かせているの」
「何で果物を買っておかないんだよ」
「今日もジュースに向かない果物しかないの。うちはお茶、ハーブティー、コーヒーが通常の飲み物なの。ミント水も嫌なんでしょう?」
「嫌だ」
「じゃあ、レモン」
「ふざけんな!レモン100%搾りたてジュースを客に出すバカがどこにいるんだ!」
「4日前にここにいました。不法侵入した王子坊ちゃんが果汁搾りたて100%をすぐ用意しろと言うから、いっぱいあったレモンを絞ったんじゃない」
「俺は死にかけたんだぞ!」
「それが本当なら本望だけど、一口入れたらほとんど吐き出したじゃない。死にかけの人とは思えないほどピンピン悶絶していたじゃない。死にかけただなんて大袈裟ね」
「ホンモウって何だ」
「めっちゃ望んでる…ずっと望んできたとかそんな感じ」
「一々難しい言葉を使うな!
それに何でタメ口なんだよ!不敬だぞ!」
「え?じゃあ、帰っていいよ?」
「……このクッキー美味いな」
「“いただきます”は?」
「…いただきます」
こうやって大人しく何か食べていれば可愛いんだけどな。顔はいいし。
「な、何だよ」
「ん?可愛いなと思って」
「ばっ!馬鹿っ!カッコいいの間違いだろう!」
顔を真っ赤にして…本当は嬉しいんじゃないの?
「カッコいいって言葉の意味知ってる?」
「知ってるよ!俺のことだろう!」
「カッコいいというのはゼノン卿のような素敵な殿方のことをいうの」
王子坊ちゃんが近衞騎士のゼノン卿を睨み付けた。
「こら!我儘王子坊ちゃんのために命を張っている騎士様を睨まないの!怒るよ!」
「……ジュースはまだか」
「そこにある水でも飲めば」
「水」
「目の前にあるじゃない」
「何で俺が注がなくちゃいけないんだよ!」
「飲みたい人が注いで飲めばいいんじゃない?赤ちゃんじゃないんだから目の前にあるなら自分で注いで飲もうよ」
「メイドが注ぐものだろう!」
メイドには私が指示するまで動かないよう言ってあるけど、相手が王子なので壁際に立っているメイドの顔色がちょっと悪い。
「はぁ…おやおや、こんなところに大きな赤ちゃんが。自分では注げないんでちゅね~。仕方ないでちゅね~。お姉ちゃまが注いであげまちゅね~」
とは言っても6歳児の私にガラス製のウォーターピッチャーは重すぎた。手が震えている。傾ければ間違いなく大雑把な水撒きみたいになりそうだ。
「私がお注ぎしましょう」
「ありがとうございます、ゼノン卿。
心身ともに強い殿方は余裕があって素敵です。婿に来ませんか?」
「えっと…誰の?」
「もちろん私の夫にです。若くてお金もあって純潔ですよ?」
「エリシア嬢!?」
「ジュンケツって何だ?」
「…まだ王子坊ちゃんには早い言葉です」
「ふん!ゼノンといくつ離れていると思ってるんだよ」
「このくらいの歳の差なんて大したことはありませんわよね?ゼノン卿」
「さ、さすがに20歳差はキュアノス子爵が許しませんよ」
「つまり許したらいいのですね?」
「駄目に決まってるだろう!」
「何で王子坊ちゃんが言うのよ」
「何でって…俺の騎士だからだよ!」
「結婚相手にも口出しするの?」
「するに決まってるだろう!おまえみたいなのを嫁にしたらゼノンが不幸になるからな!」
「へえ」
ドンドンドンドンドンドン!
〈 開けろ!俺をつまみ出すなんて不敬だぞ! 〉
ドンドンドンドンドンドン!
〈 開けろ! 〉
「あの、お嬢様…よろしいのですか?」
「いいのいいの。陛下が好きにしていいって言ったから」
「そ、そうですか」
「ずっと叩いていたら手が痛くなるし、叫び続けていたら、口の中のクッキーの残骸が喉にくっついて、」
ドンドンドンドンドンドン!
〈 俺は王子 ゲホッゲホッケホッ 〉
「ほらね?
さっきのコップ持ってきてくれる?」
メイドが水の入ったコップを持ってきた。
玄関のドアをそっと開けてコップだけ外に出し、すぐにドアを閉めて鍵をかけた。
〈 ゴクッゴクッゴクッ 〉
「ほら、大人しく飲んだでしょ?躾は大事よね。放っておいていいから」
居間に戻ってクッキーを食べ、搾ってもらったジュースを代わりに飲んだ。
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