【完結】執着系王子のご執心は回避できませんか?

ユユ

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押し付けられた経緯

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遡ること5日前。
国王陛下の執務補佐室の1人である父セイン・キュアノス子爵が私エリシア6歳を連れて出勤した。母オレリーは心配そうにソワソワしながら見送った。

私はキュアノス子爵家の一人娘。両親は大恋愛結婚で長く不妊だった。あらゆる祈りの結果、やっと私を授かったらしい。
神殿、聖なる泉、女神像に拝んで駄目だと悟ると意味不明なおまじないにも手を出し、星やら太陽やら虹やらに祈りを捧げた。
そして…内緒だけど悪魔に祈ったら妊娠したらしい。生後2日の私を抱っこしながら“悪魔様ありがとうございました”と両親が言ったから。
その悪魔さんは異世界の魂をエリシアの体に入れたようだ。日本人で25歳の記憶を宿したまま産まれた。
歩き回れるようになるまで退屈だった。
今はまだ子どもの立場を利用して、疲れると抱っこをせがんで歩かなくて済む。

王宮内もパパに抱っこしてもらった。

到着すると、国王陛下と私と同じくらいの男の子がいた。金色の瞳は王族の証。髪は黒。母親似らしい。王子が全員同じ金色ではない。帰りに見かけた第二王子は薄い金色だった。第一王子は肖像画からするとそれなりの金色みたいだけど…。

男の子の名はヴラシス。7歳で私の1歳上。第三王子で母親は平民。隣国の国賓が連れてきていた侍女の1人で国王の一目惚れだった。艶やかな黒い髪に青い瞳、そして才女らしい。
国王は周囲の反対を押し切って隣国と交渉し、アリーシャ様を娶った。庶妃として迎え入れたけど王子を産んだので上級側妃になった。アリーシャ妃は離宮で大事に囲われている。

“平民の女から産まれた子”“黒髪”ということで差別を受ける一方で陛下から甘やかされたヴラシスは我儘に育った。
キュアノス子爵から私のことを聞いていた国王は、私をヴラシスの友達にしようとして呼び付けた。

両親のいいとこ取りをした私エリシアはとても可愛かった。藤色の大きな瞳に薄茶色のサラサラの髪。お人形さんみたいだった。
難しい言葉を理解して読み書きもあっという間にできた。正確には産まれたときにはできていた。悪魔のおかげだろうか。この国の言葉で分からない言葉はなかった。だけど生後1分で“ノー”と言って産婆に驚かれた。歯も生えていないので発声はイマイチだけど聞き取れたらしい。産婆の顔を見てまずいと悟り、その後は赤ちゃんのフリをした。
娯楽がほぼ無い生活だから本を読むしかなかった。
ハイハイを始めると捕獲されるまで屋敷中を物色し、歩き始めると図書室に入り浸った。さらに3歳頃にはあれこれと絵を描いて作らせた。
そのことを親バカなパパは職場でよく自慢していたらしい。それで国王が目を付けたのだ。

だけど中身は25歳。我儘小僧の相手なんて嫌だ。
だから礼儀のなっていないヴラシスを見て拒否った。

『嫌だ~!パパと離れたくない~!』

『ヴラシスと友達になって欲しいだけだ』

『不敬とか言われて牢屋に入れられちゃう~!市中引き回しの後に打首とか嫌だ~!』

『…なかなか変わった娘のようだな』

『はい。エリシアは特別な子ですから』

国王とパパの話は噛み合ってはいないが、国王はどうしてもヴラシスに友達を作ってあげたくて、話を合わせた。

『こんなに可愛らしくて特別な子なら、ヴラシスを受け入れてくれるだろう』

『まあ、確かに』

パパはあまりにも簡単に丸め込まれた。

30分抵抗したけど結局決定してしまった。
だけど王子御免状を発行させた。あえてヴラシスに限らなかったのは正妃の産んだ第一王子と第二王子が後に絡むかもしれないから。
国王は何の疑いもなく、私が書いた王子御免状に署名をした。これさえあれば王子という存在から不敬を問われないのだ。


ヴラシスはすぐに私に懐いた。翌日にはアポ無しで子爵邸うちに現れた。
礼儀を守れない人には私も守らないと宣言し、タメ口にして王子坊ちゃんと嫌味を込めて呼んだ。
それでも更に4日後の今日もアポ無しで押しかけて来たのだ。

こんなにぞんざいに扱っても来るとは思わなかった。



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