【完結】執着系王子のご執心は回避できませんか?

ユユ

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【 ヴラシスの視点 】

会場で愛想笑いをしていると第二王子ダリウスが俺の腕を掴んで壁際に連れてきた。

「何ですか」

「早く行け。小娘が外に出たらしい。その後をラバル侯爵家の娘と親戚の男が追いかけたらしい」

「何処に!」

「外なら噴水の方だろう」

ラバル侯爵家の娘コーレリアは一緒に又従兄を連れていた。あいつのエリシアに向ける目は不快だった。

噴水に行くも誰もいない。近くの巡回兵に聞くと目が泳いだ。

「誰も来ていません」

巡回兵の腰にさしていた剣を奪い、急所を蹴り上げ頬に目印代わりの傷を付けた。

噴水の周囲をよく見ると、異様に濡れた場所があり、それは茂みに続いていた。

静かに素早く跡を辿るとコーレリアらしき後ろ姿があって、足元にはドレスから白い脚を伸ばして倒れる女の姿と、その上から覆い被さる男の姿があった。

白い腕に俺の瞳の色の宝石のついたブレスレットが見えた瞬間、剣を男の背中に突き立てた。

「があっ!」

「キャアアアアっ!」

笛を吹くとすぐに近衛が駆け付けた。

「後を頼む」

エリシアを担いで宮廷医の元へ向かった。


助手の女がエリシアのドレスをハサミで切っていく。

「ヴラシス殿下、外でお待ちください」

「エリシアは俺の女だ。何があろうと見届ける」

ジョキッジョキッ

「側頭部を殴られたのか、脳震盪を起こしたようですね。身体は抵抗したり引きずられて出来た擦り傷や打ち身はありますがすぐに治ります。
では、最後に……ご令嬢はご無事でした。未遂です」

「そうか」

「身体が冷えておりますので拭ったら急いで温めます」

「頼む」
 
そこに父上とダリウスが現れた。

「何事だ」

「エリシアがラバル家の娘と又従兄に襲われていました。状況からするとラバルの娘が命じてエリシアを犯させようとしていました。
ダリウス兄上のおかげで間一髪、エリシアを助けることが出来ました」

「エリシアは」

宮廷医がエリシアの怪我の程度と純潔のままだと報告すると安堵した。

「父上。ラバルの又従兄は多分死んだでしょう。
女の方はその後で顔を殴ったのでどうなったかは知りません。巡回兵は知っていたようですが嘘を吐きました。目印に右頬を縦に切り付けました」

「後は任せなさい」

「女の口を割らせる役目は俺に任せてください」

「それは後で考える。エリシアに付いていてやりなさい」

「はい。
ダリウス兄上、ありがとうございます」

「おまえの婿入り先が無くなったら大変だからな」

俺はエリシアが学園に入学した後、王妃とロイスとダリウスに宣言していた。

“王位に興味はありません。王子として王宮にも残りません。子爵家の娘と結婚して、ゆくゆくは国王となるロイス兄上の臣下として支えになれるよう頑張ります”

エリシアに学園に行かせたのは、王子の婚姻相手は学園卒は大前提だからだ。
そして普通は伯爵家以上との婚姻を結ぶのが王子だが、子爵家ということで王妃は頷いた。
キュアノス子爵は国王陛下の補佐だが、子爵令嬢を王妃にはできない。俺がエリシアを正妻にし、更には婿入りすれば、ロイスとダリウスが死ぬか余程の傷病を抱えない限り俺は国王にはなれない。
自分の産んだ息子達の将来が約束されたのだから、その婿入り先を失うことは避けたいのは当然だ。


翌朝、やっと目を覚ましたエリシアにホッとした。

「…痛い」

「お腹は?」

「空いてる」

「食事を運ばせるから、先に薬湯を飲もう」

痛みを遮断する薬湯を飲ませて手を握った。

「噴水で暴れた後…覚えていないの。どうなったの?」

「やっつけたよ」

「ヴラシスが?」

「俺がやっつけた」

「聞こえたんだ?」

「え?」

「いっぱい“ヴラシス!”って叫んだから」

「……俺のせいだな。ごめんな」

「助けてくれてありがとう。デザートも持ってきて」

「何でも持ってくるよ」

「私、汚れちゃった?」

「…綺麗なままだ。
例え何かが起きても綺麗なままだ」

「ちょっと怖かったかな」

「エリシア…」

ツーっと涙がこぼれ落ちた。
エリシアの涙なんて初めて見た。エリシアが6歳の時から一緒に過ごしてきたが、転んでも叱られても風邪で辛いときも涙を流したことなんか無かった。
頭頂部を縛られて扇子を持って仰げと言われ“善きに計らえ”とオウムの様に繰り返し言ったとき、他にも笑い過ぎたときに涙を浮かべていた程度で、それ以外見たことがない。

抱きしめると素直に抱き付いてきた。
こんな理由じゃなければどんなに嬉しかったか。




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