22 / 33
アメデオの婚約者
しおりを挟む
【 ベルデマレの王太子アメデオの視点 】
正直、せめてもっと歳の近い娘が良かった。
15歳のときに隣国オヴェルに連れて行かれ、“婚約者”として紹介されたのは幼い王女アイリスだった。王子たる者、政略結婚など当たり前だし好きでもない女を複数人娶ることもあることは承知していた。だが子ども過ぎる。
それを父王に言うと呆れられた。
『男は孫ほど歳の離れた娘を娶ることもある。その程度の歳の差が何だ。王女が嫁ぐ頃にはおまえはいい大人になっていて妻子を持つにはちょうどいい歳になっている。その間に少し楽しんでいればよい。それでこそ初夜も失敗せずに済む』
『わかりました』
その意味はすぐにわかった。
国に帰り座学だけだった閨教育の実践があった。10以上歳上の女が閨に上がったが失敗した。いざとなると萎えてしまった。
次に4歳上の女が閨に上がった。済ませるには済ませたが情けないほど早かった。
妻との初夜が初めてだったらとんでもないことになっていたかもしれない。相手が不満を示したり哀れんだりすれば、私は自信を失くして閨から遠ざかるかもしれない。そうなれば子作りに支障が出るかもしれない。
実践に使った女達は経験者で私に成功させるためにその経験を活かして導いてくれたが、妻との初夜はそうはいかない。未経験の女であることは絶対なのだから、男に裸を曝け出すのも痛みを堪えて男を受け入れるのも当然初めてだ。そんな妻を宥めリードして事を済ませて労うというところまで閨事という仕事になる。貴族の令嬢ならそこまで気遣う事はないが、隣国の王女となれば話は違う。結婚は外交でもあるのだ。
憂鬱だった。だからそれなりに独身の間は遊ぼうと思った。
去年、卒業した婚約者が私の誕生日を祝いに来てくれた。あの日以来、手紙か贈り物でしか交流してこなかった王女がすっかり成長していた。私が関係を持ってきた令嬢達と変わらない身体をしていた。
潤った唇が揺れる白い膨らみが私を刺激する。頬を染める王女は可愛かった。大人になったのなら妻になるアイリスを抱いて何が悪いなどと一瞬思ったが、王女相手にそれはできない。式を挙げてからだと理性的に振る舞ったつもりだ。
だけど私の周りに令嬢達が群がり、王女は身を引くように私から離れた。今はまだ妻ではない他国の王女だからそれも仕方ないと思った。
それから半年以上経って、嫁入りのために移住したアイリスはどこか雰囲気を変えていた。
『あの、少し気になるご報告がございます』
アイリスに付けた侍女の報告を耳にしてアイリスの部屋へ向かい、ドアを開けてクローゼットを見た。
報告よりも卑猥な物が入っていた。
『何だこれは』
『し、下着です』
『こんな端切れで大事な部分を隠せるとでも?』
『か、隠せます!』
『誰に身体を許した?』
『はい?』
『これを着ていかがわしく淫らに男を誘惑していたのか?』
『ち、違います!』
『こんなのが下着?こんなのを身に付けている女は一度も見たことがない』
『…日頃アメデオ様がお相手をするご令嬢達の下着と違っていて申し訳ありません。ですがこれは未来の義妹がデザインして作ってくれた結婚の前祝いなのです。未使用なのが分かりませんか?』
『アイリス…』
『出て行ってください。私はまだオヴェル王国の王女アイリスなのです。他国の王女が使っている客室にノックも許しもなく勝手に入らないでください』
『私は、』
『今すぐ出て行かなければ私が出て行きます』
『わかった』
失態をおかした。言葉選びを間違えた。普通の身綺麗な独身の男なら女の下着などあまり分からないのが普通だ。なのに複数人の女の下着を見てきたと認めた。まあ、歳の差があるし私も男だし他の女と関係を持っていても不思議なことではない。だが明らかにアイリスはショックを受けて傷付いた顔をしていた。そして意外にも気が強かった。あの時の少女はもう居らず、身体だけではなく中身も大人になった王女だった。
部屋を出てシュナー外務室長を呼び付けた。
『アイリスの未来の義妹とは誰かわかるか?』
『オヴェル内でしたらヴラシス王子でしょう。王子には婚約者はおりませんが執着する令嬢がおります。オヴェル王の執務室に所属する補佐の一人がキュアノス子爵で、その令嬢だと思われます』
『子爵家の娘が?』
『オヴェル王自ら幼い王子の遊び相手に選び頼み込んだようです。……』
室長が思い出したように笑った。
『何がおかしい』
『遊び相手になる代わりに“王子御免状”を発行させたらしいのです』
『王子御免状!?』
『不敬罪に問わないというオヴェル王直筆の約束状です。密偵が言うには非常に自由な発想の持ち主で賢い子だったようです。“ヴラシス御免状”ではなく“王子御免状”にしたのが証拠だと。それ故に第一王子へも第二王子へも適用されているようです。当時6歳の娘がですよ?』
『婚約していないのか』
『普通は子爵家の令嬢は王子と婚約でかませんからね。ですがすっかり王や王妃を味方にして、ヴラシス王子の婚約者として扱うことが暗黙の了解となっています』
『特例として許されたのに暗黙の了解?』
『王子の片想いです』
『その娘を招待したい』
『かしこまりました』
アイリスが本当のことを言っているのかどうか直々に確かめようと招くことにした。
正直、せめてもっと歳の近い娘が良かった。
15歳のときに隣国オヴェルに連れて行かれ、“婚約者”として紹介されたのは幼い王女アイリスだった。王子たる者、政略結婚など当たり前だし好きでもない女を複数人娶ることもあることは承知していた。だが子ども過ぎる。
それを父王に言うと呆れられた。
『男は孫ほど歳の離れた娘を娶ることもある。その程度の歳の差が何だ。王女が嫁ぐ頃にはおまえはいい大人になっていて妻子を持つにはちょうどいい歳になっている。その間に少し楽しんでいればよい。それでこそ初夜も失敗せずに済む』
『わかりました』
その意味はすぐにわかった。
国に帰り座学だけだった閨教育の実践があった。10以上歳上の女が閨に上がったが失敗した。いざとなると萎えてしまった。
次に4歳上の女が閨に上がった。済ませるには済ませたが情けないほど早かった。
妻との初夜が初めてだったらとんでもないことになっていたかもしれない。相手が不満を示したり哀れんだりすれば、私は自信を失くして閨から遠ざかるかもしれない。そうなれば子作りに支障が出るかもしれない。
実践に使った女達は経験者で私に成功させるためにその経験を活かして導いてくれたが、妻との初夜はそうはいかない。未経験の女であることは絶対なのだから、男に裸を曝け出すのも痛みを堪えて男を受け入れるのも当然初めてだ。そんな妻を宥めリードして事を済ませて労うというところまで閨事という仕事になる。貴族の令嬢ならそこまで気遣う事はないが、隣国の王女となれば話は違う。結婚は外交でもあるのだ。
憂鬱だった。だからそれなりに独身の間は遊ぼうと思った。
去年、卒業した婚約者が私の誕生日を祝いに来てくれた。あの日以来、手紙か贈り物でしか交流してこなかった王女がすっかり成長していた。私が関係を持ってきた令嬢達と変わらない身体をしていた。
潤った唇が揺れる白い膨らみが私を刺激する。頬を染める王女は可愛かった。大人になったのなら妻になるアイリスを抱いて何が悪いなどと一瞬思ったが、王女相手にそれはできない。式を挙げてからだと理性的に振る舞ったつもりだ。
だけど私の周りに令嬢達が群がり、王女は身を引くように私から離れた。今はまだ妻ではない他国の王女だからそれも仕方ないと思った。
それから半年以上経って、嫁入りのために移住したアイリスはどこか雰囲気を変えていた。
『あの、少し気になるご報告がございます』
アイリスに付けた侍女の報告を耳にしてアイリスの部屋へ向かい、ドアを開けてクローゼットを見た。
報告よりも卑猥な物が入っていた。
『何だこれは』
『し、下着です』
『こんな端切れで大事な部分を隠せるとでも?』
『か、隠せます!』
『誰に身体を許した?』
『はい?』
『これを着ていかがわしく淫らに男を誘惑していたのか?』
『ち、違います!』
『こんなのが下着?こんなのを身に付けている女は一度も見たことがない』
『…日頃アメデオ様がお相手をするご令嬢達の下着と違っていて申し訳ありません。ですがこれは未来の義妹がデザインして作ってくれた結婚の前祝いなのです。未使用なのが分かりませんか?』
『アイリス…』
『出て行ってください。私はまだオヴェル王国の王女アイリスなのです。他国の王女が使っている客室にノックも許しもなく勝手に入らないでください』
『私は、』
『今すぐ出て行かなければ私が出て行きます』
『わかった』
失態をおかした。言葉選びを間違えた。普通の身綺麗な独身の男なら女の下着などあまり分からないのが普通だ。なのに複数人の女の下着を見てきたと認めた。まあ、歳の差があるし私も男だし他の女と関係を持っていても不思議なことではない。だが明らかにアイリスはショックを受けて傷付いた顔をしていた。そして意外にも気が強かった。あの時の少女はもう居らず、身体だけではなく中身も大人になった王女だった。
部屋を出てシュナー外務室長を呼び付けた。
『アイリスの未来の義妹とは誰かわかるか?』
『オヴェル内でしたらヴラシス王子でしょう。王子には婚約者はおりませんが執着する令嬢がおります。オヴェル王の執務室に所属する補佐の一人がキュアノス子爵で、その令嬢だと思われます』
『子爵家の娘が?』
『オヴェル王自ら幼い王子の遊び相手に選び頼み込んだようです。……』
室長が思い出したように笑った。
『何がおかしい』
『遊び相手になる代わりに“王子御免状”を発行させたらしいのです』
『王子御免状!?』
『不敬罪に問わないというオヴェル王直筆の約束状です。密偵が言うには非常に自由な発想の持ち主で賢い子だったようです。“ヴラシス御免状”ではなく“王子御免状”にしたのが証拠だと。それ故に第一王子へも第二王子へも適用されているようです。当時6歳の娘がですよ?』
『婚約していないのか』
『普通は子爵家の令嬢は王子と婚約でかませんからね。ですがすっかり王や王妃を味方にして、ヴラシス王子の婚約者として扱うことが暗黙の了解となっています』
『特例として許されたのに暗黙の了解?』
『王子の片想いです』
『その娘を招待したい』
『かしこまりました』
アイリスが本当のことを言っているのかどうか直々に確かめようと招くことにした。
1,027
あなたにおすすめの小説
グランディア様、読まないでくださいっ!〜仮死状態となった令嬢、婚約者の王子にすぐ隣で声に出して日記を読まれる〜
月
恋愛
第三王子、グランディアの婚約者であるティナ。
婚約式が終わってから、殿下との溝は深まるばかり。
そんな時、突然聖女が宮殿に住み始める。
不安になったティナは王妃様に相談するも、「私に任せなさい」とだけ言われなぜかお茶をすすめられる。
お茶を飲んだその日の夜、意識が戻ると仮死状態!?
死んだと思われたティナの日記を、横で読み始めたグランディア。
しかもわざわざ声に出して。
恥ずかしさのあまり、本当に死にそうなティナ。
けれど、グランディアの気持ちが少しずつ分かり……?
※この小説は他サイトでも公開しております。
カリスタは王命を受け入れる
真朱マロ
恋愛
第三王子の不始末で、馬に変えられた騎士との婚姻を命じられた公爵令嬢カリスタは、それを受け入れるのだった。
やがて真実の愛へと変わっていく二人の、はじまりの物語。
別サイトにも重複登校中
虐げられ令嬢の武器は、完璧すぎる記憶力でした~婚約者の嘘も家の不正も、全部覚えてます~
法華
恋愛
侯爵令嬢のサラは、家では継母と異母姉に虐げられ、唯一の希望である婚約者のハイルからも冷たくあしらわれていた。そんなある日、彼が姉と密通し、「地味で退屈なサラを追い出す」と画策しているのを知ってしまう。全てを失った彼女に残されたのは、一度見聞きした事を決して忘れない"完璧な記憶力"だけ。
――あなたの嘘、家の不正、過去の失言。さあ、私の記憶が、あなたの罪を一つ残らず暴き出します。
「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」
侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。
「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」
そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
幸運を織る令嬢は、もうあなたを愛さない
法華
恋愛
婚約者の侯爵子息に「灰色の人形」と蔑まれ、趣味の刺繍まで笑いものにされる伯爵令嬢エリアーナ。しかし、彼女が織りなす古代の紋様には、やがて社交界、ひいては王家さえも魅了するほどの価値が秘められていた。
ある日、自らの才能を見出してくれた支援者たちと共に、エリアーナは虐げられた過去に決別を告げる。
これは、一人の気弱な令嬢が自らの手で運命を切り開き、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転の物語。彼女が「幸運を織る令嬢」として輝く時、彼女を見下した者たちは、自らの愚かさに打ちひしがれることになる。
【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます
ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」
「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」
シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。
全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。
しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。
アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――
『めでたしめでたし』の、その後で
ゆきな
恋愛
シャロン・ブーケ伯爵令嬢は社交界デビューの際、ブレント王子に見初められた。
手にキスをされ、一晩中彼とダンスを楽しんだシャロンは、すっかり有頂天だった。
まるで、おとぎ話のお姫様になったような気分だったのである。
しかし、踊り疲れた彼女がブレント王子に導かれるままにやって来たのは、彼の寝室だった。
ブレント王子はお気に入りの娘を見つけるとベッドに誘い込み、飽きたら多額の持参金をもたせて、適当な男の元へと嫁がせることを繰り返していたのだ。
そんなこととは知らなかったシャロンは恐怖のあまり固まってしまったものの、なんとか彼の手を振り切って逃げ帰ってくる。
しかし彼女を迎えた継母と異母妹の態度は冷たかった。
継母はブレント王子の悪癖を知りつつ、持参金目当てにシャロンを王子の元へと送り出していたのである。
それなのに何故逃げ帰ってきたのかと、継母はシャロンを責めた上、役立たずと罵って、その日から彼女を使用人同然にこき使うようになった。
シャロンはそんな苦境の中でも挫けることなく、耐えていた。
そんなある日、ようやくシャロンを愛してくれる青年、スタンリー・クーパー伯爵と出会う。
彼女はスタンリーを心の支えに、辛い毎日を懸命に生きたが、異母妹はシャロンの幸せを許さなかった。
彼女は、どうにかして2人の仲を引き裂こうと企んでいた。
2人の間の障害はそればかりではなかった。
なんとブレント王子は、いまだにシャロンを諦めていなかったのだ。
彼女の身も心も手に入れたい欲求にかられたブレント王子は、彼女を力づくで自分のものにしようと企んでいたのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる