【完結】執着系王子のご執心は回避できませんか?

ユユ

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アメデオと婚約者•2

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【 アメデオの視点 】

苛立っていた。

『いっそ アイリスが潔白か医師に調べさせよう』

『なりません、王太子殿下。式の前夜にしか行えません』

『何故だ』

『あの診察は男を知っていようが女性にとっては嫌なものなのです。若くて男を知らない女性なら尚更です。それに相手は他国の王女です。命じることなどできませんし王女が受け入れたとしてもオヴェル王が知ったらどうなるか…。
式前検査で黒なら破談なのですから待ちましょう』

破談?破談なんて生ぬるい。祖国になど返すものか。奴隷として閉じ込めて一生飼い殺しにしてやる。


ようやくアイリスの未来の義妹とヴラシス王子が到着したと知らせが入った。物陰に隠れて盗み聞きしたが口裏を合わせたりはしていない。
アイリスと、黒髪に神々しい金眼の逞しい青年と、小柄な少女が目の前を通過しようとしていた。
バチっと目が合ったのは少女の薄紫色の大きな瞳だった。とても可愛い子だ。この中で一番若いし、いくらなんでもあんな下着をデザインして作らせたなんて信じられるわけがない。

王子と握手するとかなり剣を握ってきたことが分かる。その王子が私に警戒の色を見せたのだ。先ずは休ませて晩餐の後に話を聞くことにした。


少しして外務室の室長が慌て私の執務室へ来た。

「王太子殿下!ヴラシス王子殿下とキュアノス子爵令嬢が一般向けの庭園で貴族令嬢と揉めております!」

どこのバカだ!王族相手に揉めるなど死にたいのか!?現場に向かう途中でハリスに会った。

「王太子殿下にご挨拶を申し上げます。
室長、事態は治りました。令嬢達は既にヴラシス王子殿下とキュアノス子爵令嬢が制裁しており、アレ以上は望んでいないそうです」

「どんな?」

「ヴラシス王子殿下が5本の指を折り、顔にインクをかけました。インクはキュアノス嬢の指示です」

「インク?」

「そのまま3日放置するようにと…ククッ、なかなか面白い令嬢ですね。3日後の女達の反応が楽しみですよ。それでいてやり過ぎたかな?と不安を滲ませながら私を見上げるあの瞳が堪りません。ヴラシス王子殿下がいなければ求婚したいくらいです」

氷面のレオナード・ハリスが笑っていた。侯爵家の三男で令嬢達を虫の如く見下す男が…

「何が原因だったのだ」

「ドレス以外の服を着たキュアノス嬢に、ロデリオ伯爵家の次女とその取り巻きが庭園に入るなと絡んだのです。その上で腕を掴み爪を食い込ませました。そこにヴラシス王子殿下が割って入り、掴んだ手の方の指を全て折ったのです」

「なんと愚かな。謝罪に出向かねば」

「室長、既にキュアノス嬢は晩餐の支度を始める頃かと」

「ではヴラシス王子殿下に謝罪をしておこう」


晩餐の時間になって、国王と王妃の前に緊張するキュアノス嬢にヴラシス王子とアイリスがフォローを入れている。大人しく食事をし始めるとアイリスが彼女の事を話し始めた。

「エリシアは2番目の兄より弓の腕が立つのですよ」

「まあ、弓を?大変じゃないかしら」

「訓練とコツを掴むことで引くことができました」

「子爵家は軍部か何かに?」

「父は国王陛下の執務室の一員ですが軍部ではありません。私だけ少し異色なだけです」

「ご兄弟は?」

「私だけです」

「婿を取るのね?」

「はい」

母である王妃は彼女に興味を持ったようだ。

「嫁入りを望まれたら?」

「わかりません」

「そうよね。でもあなたが決められるのなら嫁入りという選択肢はあるの?」

「キュアノス家より居心地が良ければ」

「キュアノス家よりとは?」

「父は私に自由を与えてくださいます。危険がなければ好きな物を作らせてくださいますし、敷地内では怪我をしない限り慎ましくしていなくても叱られません」

「…それはまた変わっているのね。さっき国王陛下の執務室にお勤めと聞いた気がするけど」

「私には甘いのです」

「そう」

母上がチラッと私を見たのは何故だろう。


晩餐が終わり、下着の件について聞きたかったのに母上から話があると引き止められた。2人きりの食堂でワインを飲みながらじっと見ている。

「話とは何でしょう」

「エリシア・キュアノス…随分と可愛い子ね」

「そうですね」

「あの子は妃にはできないけどアイリスを迎えた後なら愛妾にすることも可能よ。まだ学生なら内定を出しておけばいいわ」

「子爵令嬢ですよ?」

「だから愛妾なんじゃない。子を産めば私が妃として昇格させるわ」

「一体どういうことですか。キュアノス家に何かあるのですか?」

「違うわ。好みなの」

「はい?」

「あの顔も素直さもいいわね。私の側に置きたいけど、侍女だとあなたの子を産ませられないもの」

「アイリスと近すぎます」

「アイリスは正妃、エリシアは愛妾。あの感じではエリシアはアイリスの座を欲しがらないわ。むしろ拒絶するでしょうね。アイリスは王女としての教育を受けてきたのだから複数人娶ることも承知しているはずよ。将来別の妃を迎えたときにエリシアの存在がアイリスの支えになるはずよ」

「ヴラシス王子が絶対に渡さないはずです」

「エリシアは子爵家の令嬢なの。先に子爵を説得した方の勝ちよ」

「私は反対です。王太子の愛妾など不向きです」

「空いている宮に住まわせればいいわ。そこで好きに過ごさせれば彼女の願いは叶うもの。
ふふっ、それに少し計算高いところも好きだわ。明日お茶に誘ってみるわ。あなたが嫌ならカルゼンに娶らせるわ」

「カルゼンこそ嫌がりますよ」

「弓を扱う令嬢なら別よ」

参ったな。


ヴラシス王子を呼び出して話を聞いてから警告をすることにした。私の勘では彼は敵にしない方がいいタイプだと判断したからだ。


彼の部屋に行くと不在だった。彼の護衛騎士からは“寝る間際までエリシア嬢から離れません。呼びますか?”と言われた。
アイリスの様子を見に行くと彼女もいなかった。“王女殿下はキュアノス子爵令嬢のお部屋にいらっしゃいます”

多分、キュアノス嬢を愛妾に迎えたら、心配しなくてはいけないのは私の方だ。既に婚約者は私よりキュアノス嬢に夢中のようだ。








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