【完結】閨係の掟

ユユ

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妹を守れなかった男

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【 兄マークの視点 】


何かおかしいと思っていた。
だけど多忙過ぎて目を瞑ってしまった。


跡継ぎで男の私は、妹とは離されて育てられた。親戚の集まりも後継者は父達と一緒で妹とは別だった。

可愛くなかったわけじゃない。余裕が無さ過ぎた。
つまり私の未熟さがアリサを守れなかった一番の原因だ。

16歳で突然閨係になれと屋敷を追い出され、どれほど辛かったことか。

もう初夜は済んだと聞いた。
手荒にされなかっただろうか。


使用人に聞き取り調査をした結果、父の愛人と隠し子が来てから、アリサは父や私の居ないところで虐めていたという。

母の悪口を言ったり、アリサを貶したり、食事を粗末にしたり。

毒を盛るようになってからは加速した。
時には食事さえ与えなかったと言われ、帳簿の確認をしたら、アリサの予算の8割が二人に使われていた。

アリサの部屋に行くと空き部屋になっていた。
メイドに聞くと、北の物置がアリサの部屋になっていた。

ドアを開けると、粗末なベッドに机と椅子。
物入れを開けると、両側のフックに紐を通してクローゼット代わりにして服を吊るしていた。

許容範囲のドレスは二着だけ。
後は粗末なワンピースだった。

靴も二足のみ。

香水もなければ美容品も無い。

引き出しの奥から日記らしきものが出てきた。
時々記していたようで、最後はメリッサの妊娠と婚約について触れている。


“ヴィンセント様に、父親同士の約束事は、お父様の死によって無効となったから解消すると言われた。

好きではなかったから承諾した。

だけど二ヶ月後の今日、メリッサがヴィンセント様の子を孕んでいて婚約したと言った。

つまり、円満解消ではなく、ヴィンセント様の不貞を隠した解消だった。
騙された。

よりにもよって、未成年の異母妹と関係を持って孕ますなんて。私はどこまで踏みつけられるのだろう。

だけどもう、涙は出尽くしたのか出てこない。

味方が誰もいない。誰も愛してくれない。
早くお母様のところへ行きたい”


「っ!……アリサ……ごめんっ」


その夜は北の物置で、アリサの食べていた固いパンと具なしの薄いスープを食べ、アリサの使っていた石鹸を使い風呂に入り、アリサのベッドで寝た。

死にたくなった。

愛人が来てから徐々にこの生活になって、父が伏せたらこの部屋に移された。

長い間、一人で耐えていたなんて。


何故、愛人の言葉を聞いただけで済ませてしまったのだろう。

“あの子は偏食で、無理矢理食べさせようとすると怒るのよ”

“あの子が婚約は嫌だって言ったのよ”

“あの子が王子様に憧れて、閨係から妾に昇進するんだって聞かないのよ”


あの時、アリサはどんな顔をしていた?

『妾になりたいって本当か?』

“…はい”

無だ。アリサの目は何も映していなかった。

諦めだ。私に対しての諦めだ。
こいつに言っても仕方ない。期待するだけ無駄だ。

アリサは誰も助けてくれないと悟って、覚えのないことに同意して身体を差し出したんだ。

屋敷内にある妹の部屋を何年も訪ねることがなかった。数分時間を割いて訪ねたら判明していたはずだ。

当主として、兄として……失格だ。



屋敷内の使用人をほぼ一掃した。
紹介状は書かなかった。

虐待の加担者として処罰されないだけマシだろうと言って追い出した。

そこに手紙を出していた母の実家の伯爵がやってきた。
彼は母の弟だ。  


「久しぶりだね」

「叔父様。ご無沙汰しております」

「報告は読んだよ」

「愚かな私はアリサを守れませんでした。
苦しんでいるのにも気付きませんでした」

「確かにそうだな」

「はい」

「使用人はすぐに集まる。先ずは家の中を任せられる家令とメイド長、メイド3名を連れてきた。
他にもこのリストの者がやってくる。
それは家令のジョルジュに任せよう。

城から登城命令が出る前に、スローウィット家に行くぞ。明日面談を取り付けた」

「ご迷惑をお掛けします」

「子爵は気の毒だったな」

「愛人なと作らなければ毒殺などされなかったのです」

「まあな」






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