【完結】閨係の掟

ユユ

文字の大きさ
29 / 32

ヴィオレットの最期

しおりを挟む
【 ヴィオレットの視点 】



 二種類の夢をみる。


痛み止めが効いているときは、

侯爵家が繁栄していて、ソバカスも消えて白く艶やかな肌で、髪も瞳も人気のある美しい色になった私は、カイン王子殿下から愛を囁かれていた。
数多くの羨望の眼差しを受けながら彼にエスコートをされる。彼は跪きダンスの申し込みをする。
ダンスが終わるとバルコニーで口付けをされる。

痛み止めが切れると、

私は惨めに一人会場に入りする。その後にカイン王子殿下とアリサという娼婦が入場し、ダンスを踊る。
何故かダンスが終わると娼婦の腹は膨らんでいて、二人で嬉しそうに撫でている。
私は壁に立ち、恨めしそうに二人を見つめる。

バルコニーに出た娼婦を後ろから突き落とそうとするも、カイン王子殿下が止めに入り私を殴る。
倒れた私の顔を踏んだり蹴ったりしながら罵る。

“侯爵家に生まれただけのネズミの分際で!一人前に嫉妬か!お前のその顔と色と肌でアリサに勝てると思っているのか?
身の程知らずめ!お前など生まれてきたのが間違いだ!”


そして悪夢と痛みで目覚める。


牢に備えた医療室のベッドは一人寝るのが精一杯の幅の粗末なものだ。寝心地は最悪だった。

教会から運ばれて、知らせを受けた両親と医師の話を聞いてしまった。

『ヴィオレット!』

『お静かに』

『いくらなんでもやり過ぎよ』

『貴族令嬢を殺そうとしたんだ』

『閨係と聞いたわ』

『侯爵。ご令嬢の有罪は確定しています。
殿下の怒りが凄まじく、これ以上刺激はなさいませんようご忠告申し上げます』

『で、娘は』

『鼻と頬骨の骨折し、顔全体が腫れ上がり、裂けた部分もございます。大きくズレた顎は元の位置に戻しました』

『治療方針は』

『此処では刑を受けられるように最低限のことしかしません。誓約書を提出し侯爵家で雇った医師を派遣することは可能です』

『誓約書?』

『侯爵家で雇った医師が治療以外のことをした場合の責任を侯爵が負うという内容です』

『治療は任せた』

『あなた、医師は派遣しないのですか!?』

『既に有り得ない事をしでかした娘だ。もし派遣した医師を抱き込んで何かやらかしたらどうする。

もう屋敷にも置けないし、嫁の貰い手は無い。疫病神のような存在となってしまった。
私達は侯爵家と領民を守らねばならない。
先生、お任せします』

『あなた!』

『いい加減目を覚ませ。
お前は二度とドレスの新調をしなくてもいいか?
茶会への参加など親族間であってもできなくなるぞ。
それにノエルはどうなるんだ。継ぐ家がどうなってもいいのか?』

『っ!』

『天地が裂けても王子妃に咲き戻ることはない。諦めろ』


二人は私を捨てた。


せめて私は楽しい夢を見たくて医師に頼んだ。

「せんせ…いたみ…たくさん…くすり」

「薬が切れて痛むのは分かっているが、普通の痛み止めではなく、麻薬成分の入った強い物で多用出来ない。効きが悪くても普通の痛み止めを使うか?」

「はい」

痛み止めは効きが悪かった。いい夢など見れやしない。
元の薬に戻してもらった。



一カ月経つ頃には、

「判決を申し渡す。
貴族令嬢で、王子殿下の特別専属公務に就いている面識の無い女性を教会内で焼き殺そうとした罪で有罪とし、次の刑を執行する。

一つ目は貴族籍の剥奪。
二つ目は強制労働を課す。
期間は生涯とする。

閉廷」


何処で労働するかで揉めた。

「薬物の依存症になっていて、薬をくれと煩いし、あちこち探し出すんだ。
武器になるような物は持たせられないし。
何をさせられるっていうんだよ」

「なんで処刑にしてくれなかったんだ?」

「この顔 見れば分かるだろう。
殿下がボコボコにしたから温情をいただいたのさ」

「婚約者だったのにな」

「婚約者と言っても王妃派だ。好きに動かせる家門をローランド王子殿下と王妃殿下がお選びになったのだろう。

カイン殿下にとっては寵愛する閨係の方が大事なんだよ。止めに入るまで蹴り続けておられたらしいからな」

「薬…」

「まだ言ってやがる」

「時間をかければ正気に戻るらしい」




連れてこられたのは元の場所だった。

一般牢のある建物の牢屋の掃除係だ。必ず鉄格子と鎖で繋がれてから掃除を始める。

私が使うことを許される道具はバケツ、雑巾、広げた手のサイズの小さな箒。

あまりの汚さに嘔吐してしまうこともあったが、ソレも自分で片付けて綺麗にしないとならない。


「うわ、酷いな」

初めて私をみる人は顔を歪めるか逸らす。

顎は少しズレ、頬も左右の高さが違い、鼻も曲がったまま。
右目の瞼はあまり動かず常時半開きだ。
前歯も折れて抜けた歯もある。
顔にはいくつか裂傷の傷跡がある。

女性にここまでの暴力を振るうことができるのかと鏡を見て思う。

何度も死にたくなったが、あの夢が見たくて生きている。



ある日、気が付いた。

大怪我をしたらまたあの薬を貰える。


だが、自傷は難しかった。
武器になるような物は与えてもらえない。
ペンもカトラリーさえ禁止だ。
ブラシで叩いてみたが難しかった。髪が男のように短いのでブラシも持ち手のない石鹸サイズだった。


ある日、釘が剥き出しになっている場所を見つけた。額をぶつけるつもりだったのに足が滑った。

石畳に倒れ、体が冷えていく…

「医者呼ぶか?」

「転んで、この釘で首を裂いたんだな。
この出血は大きな血管の損傷だからどうにもならない。死なせてやれ」

駄目駄目!先生を呼んで!あの薬を!

「もう瞳孔が開いてきた。一応上に報告しよう」

待って…お願い…









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる

狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。 しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で……… こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

私の意地悪な旦那様

柴咲もも
恋愛
わたくし、ヴィルジニア・ヴァレンティーノはこの冬結婚したばかり。旦那様はとても紳士で、初夜には優しく愛してくれました。けれど、プロポーズのときのあの言葉がどうにも気になって仕方がないのです。 ――《嗜虐趣味》って、なんですの? ※お嬢様な新妻が性的嗜好に問題ありのイケメン夫に新年早々色々されちゃうお話 ※ムーンライトノベルズからの転載です

十歳の花嫁

アキナヌカ
恋愛
アルフは王太子だった、二十五歳の彼は花嫁を探していた。最初は私の姉が花嫁になると思っていたのに、彼が選んだのは十歳の私だった。彼の私に対する執着はおかしかった。

【完結】私は義兄に嫌われている

春野オカリナ
恋愛
 私が5才の時に彼はやって来た。  十歳の義兄、アーネストはクラウディア公爵家の跡継ぎになるべく引き取られた子供。  黒曜石の髪にルビーの瞳の強力な魔力持ちの麗しい男の子。  でも、両親の前では猫を被っていて私の事は「出来損ないの公爵令嬢」と馬鹿にする。  意地悪ばかりする義兄に私は嫌われている。

離縁希望の側室と王の寵愛

イセヤ レキ
恋愛
辺境伯の娘であるサマリナは、一度も会った事のない国王から求婚され、側室に召し上げられた。 国民は、正室のいない国王は側室を愛しているのだとシンデレラストーリーを噂するが、実際の扱われ方は酷いものである。 いつか離縁してくれるに違いない、と願いながらサマリナは暇な後宮生活を、唯一相手になってくれる守護騎士の幼なじみと過ごすのだが──? ※ストーリー構成上、ヒーロー以外との絡みあります。 シリアス/ ほのぼの /幼なじみ /ヒロインが男前/ 一途/ 騎士/ 王/ ハッピーエンド/ ヒーロー以外との絡み

「離婚しよう」と軽く言われ了承した。わたくしはいいけど、アナタ、どうなると思っていたの?

あとさん♪
恋愛
突然、王都からお戻りになったダンナ様が、午後のお茶を楽しんでいたわたくしの目の前に座って、こう申しましたのよ、『離婚しよう』と。 閣下。こういう理由でわたくしの結婚生活は終わりましたの。 そう、ぶちまけた。 もしかしたら別れた男のあれこれを話すなんて、サイテーな女の所業かもしれない。 でも、もう良妻になる気は無い。どうでもいいとばかりに投げやりになっていた。 そんなヤサぐれモードだったわたくしの話をじっと聞いて下さった侯爵閣下。 わたくし、あなたの後添いになってもいいのでしょうか? ※前・中・後編。番外編は緩やかなR18(4話)。(本編より長い番外編って……orz) ※なんちゃって異世界。 ※「恋愛」と「ざまぁ」の相性が、実は悪いという話をきいて挑戦してみた。ざまぁは後編に。 ※この話は小説家になろうにも掲載しております。

【4話完結】 君を愛することはないと、こっちから言ってみた

紬あおい
恋愛
皇女にべったりな護衛騎士の夫。 流行りの「君を愛することはない」と先に言ってやった。 ザマアミロ!はあ、スッキリした。 と思っていたら、夫が溺愛されたがってる…何で!?

処理中です...