【完結】閨係の掟

ユユ

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ヴィオレットの最期

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【 ヴィオレットの視点 】



 二種類の夢をみる。


痛み止めが効いているときは、

侯爵家が繁栄していて、ソバカスも消えて白く艶やかな肌で、髪も瞳も人気のある美しい色になった私は、カイン王子殿下から愛を囁かれていた。
数多くの羨望の眼差しを受けながら彼にエスコートをされる。彼は跪きダンスの申し込みをする。
ダンスが終わるとバルコニーで口付けをされる。

痛み止めが切れると、

私は惨めに一人会場に入りする。その後にカイン王子殿下とアリサという娼婦が入場し、ダンスを踊る。
何故かダンスが終わると娼婦の腹は膨らんでいて、二人で嬉しそうに撫でている。
私は壁に立ち、恨めしそうに二人を見つめる。

バルコニーに出た娼婦を後ろから突き落とそうとするも、カイン王子殿下が止めに入り私を殴る。
倒れた私の顔を踏んだり蹴ったりしながら罵る。

“侯爵家に生まれただけのネズミの分際で!一人前に嫉妬か!お前のその顔と色と肌でアリサに勝てると思っているのか?
身の程知らずめ!お前など生まれてきたのが間違いだ!”


そして悪夢と痛みで目覚める。


牢に備えた医療室のベッドは一人寝るのが精一杯の幅の粗末なものだ。寝心地は最悪だった。

教会から運ばれて、知らせを受けた両親と医師の話を聞いてしまった。

『ヴィオレット!』

『お静かに』

『いくらなんでもやり過ぎよ』

『貴族令嬢を殺そうとしたんだ』

『閨係と聞いたわ』

『侯爵。ご令嬢の有罪は確定しています。
殿下の怒りが凄まじく、これ以上刺激はなさいませんようご忠告申し上げます』

『で、娘は』

『鼻と頬骨の骨折し、顔全体が腫れ上がり、裂けた部分もございます。大きくズレた顎は元の位置に戻しました』

『治療方針は』

『此処では刑を受けられるように最低限のことしかしません。誓約書を提出し侯爵家で雇った医師を派遣することは可能です』

『誓約書?』

『侯爵家で雇った医師が治療以外のことをした場合の責任を侯爵が負うという内容です』

『治療は任せた』

『あなた、医師は派遣しないのですか!?』

『既に有り得ない事をしでかした娘だ。もし派遣した医師を抱き込んで何かやらかしたらどうする。

もう屋敷にも置けないし、嫁の貰い手は無い。疫病神のような存在となってしまった。
私達は侯爵家と領民を守らねばならない。
先生、お任せします』

『あなた!』

『いい加減目を覚ませ。
お前は二度とドレスの新調をしなくてもいいか?
茶会への参加など親族間であってもできなくなるぞ。
それにノエルはどうなるんだ。継ぐ家がどうなってもいいのか?』

『っ!』

『天地が裂けても王子妃に咲き戻ることはない。諦めろ』


二人は私を捨てた。


せめて私は楽しい夢を見たくて医師に頼んだ。

「せんせ…いたみ…たくさん…くすり」

「薬が切れて痛むのは分かっているが、普通の痛み止めではなく、麻薬成分の入った強い物で多用出来ない。効きが悪くても普通の痛み止めを使うか?」

「はい」

痛み止めは効きが悪かった。いい夢など見れやしない。
元の薬に戻してもらった。



一カ月経つ頃には、

「判決を申し渡す。
貴族令嬢で、王子殿下の特別専属公務に就いている面識の無い女性を教会内で焼き殺そうとした罪で有罪とし、次の刑を執行する。

一つ目は貴族籍の剥奪。
二つ目は強制労働を課す。
期間は生涯とする。

閉廷」


何処で労働するかで揉めた。

「薬物の依存症になっていて、薬をくれと煩いし、あちこち探し出すんだ。
武器になるような物は持たせられないし。
何をさせられるっていうんだよ」

「なんで処刑にしてくれなかったんだ?」

「この顔 見れば分かるだろう。
殿下がボコボコにしたから温情をいただいたのさ」

「婚約者だったのにな」

「婚約者と言っても王妃派だ。好きに動かせる家門をローランド王子殿下と王妃殿下がお選びになったのだろう。

カイン殿下にとっては寵愛する閨係の方が大事なんだよ。止めに入るまで蹴り続けておられたらしいからな」

「薬…」

「まだ言ってやがる」

「時間をかければ正気に戻るらしい」




連れてこられたのは元の場所だった。

一般牢のある建物の牢屋の掃除係だ。必ず鉄格子と鎖で繋がれてから掃除を始める。

私が使うことを許される道具はバケツ、雑巾、広げた手のサイズの小さな箒。

あまりの汚さに嘔吐してしまうこともあったが、ソレも自分で片付けて綺麗にしないとならない。


「うわ、酷いな」

初めて私をみる人は顔を歪めるか逸らす。

顎は少しズレ、頬も左右の高さが違い、鼻も曲がったまま。
右目の瞼はあまり動かず常時半開きだ。
前歯も折れて抜けた歯もある。
顔にはいくつか裂傷の傷跡がある。

女性にここまでの暴力を振るうことができるのかと鏡を見て思う。

何度も死にたくなったが、あの夢が見たくて生きている。



ある日、気が付いた。

大怪我をしたらまたあの薬を貰える。


だが、自傷は難しかった。
武器になるような物は与えてもらえない。
ペンもカトラリーさえ禁止だ。
ブラシで叩いてみたが難しかった。髪が男のように短いのでブラシも持ち手のない石鹸サイズだった。


ある日、釘が剥き出しになっている場所を見つけた。額をぶつけるつもりだったのに足が滑った。

石畳に倒れ、体が冷えていく…

「医者呼ぶか?」

「転んで、この釘で首を裂いたんだな。
この出血は大きな血管の損傷だからどうにもならない。死なせてやれ」

駄目駄目!先生を呼んで!あの薬を!

「もう瞳孔が開いてきた。一応上に報告しよう」

待って…お願い…









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