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神判長との交流
その後、私はパニックに陥った。
部屋の中を行ったり来たり、座ったり立ったりと落ち着かない。
「エリサ様?」
「ごめんなさいね。ちょっと動揺することがあって。
気にしないでね」
あの一件以来、私の専属のメイドと侍女は外れて、新たに選出された。
彼女達はまだ私に不慣れだ。
「あーっ!!」
突然の叫びにビクッとなる彼女達に笑顔を向けた。
「お茶を淹れてくれたら皆さがって」
「かしこまりました」
ハイダー将軍は43歳で平民出身だ。武勲を立てて出世を繰り返した。その過程で妻を娶るようにと言われて前妻マリアを娶る。
マリアは下位貴族の三女。貴族としての指南役を担っての婚姻だ。
昇進すればするほど、要人との面会や会食やパーティへの参加も増えるため、必要な事だった。
そのマリアとの第一子、二子ともに早期流産、最後に宿したのは三つ子だった。妊娠中期に出血が止まらず母子ともに亡くなった。それ以来独身だという。
人気も高く、英雄の妻になりたいと手を挙げる者は平民から貴族まで、若い女性から将軍と同じ歳まで幅広い。
ファルーク神判長は26歳で下位貴族出身だ。
父親は妻帯者だったが平民メイドと関係を持った。関係といっても無理強いだ。事後に普通なら避妊薬を飲ませるところだが、女が逃げてしまい飲ませられなかった。
正妻は貴族出身。どんな目に遭わされるか怖かったのと、また襲われることを恐れて二度と姿を現さなかった。結果 生まれたのがファルークだ。
ファルークには証があり、神殿に父親の名を明かさねばならなかった。
男は父親であることを否定したが、泉で親子関係が証明された。
妊娠の経緯とその後の言い逃れを重く見た結果、男は平民に落とされた。
財産は妻の子、妻、被害者である母、ファルークの4等分にして分配された。
ファルークはそのまま神殿に預けられ、活動や勉強を真剣に取り組み神判長になった。
神判長になったのは今年から。ジャミラとサージの一件は、神判長になって初の仕事だった。
部門ナンバー2になったことで婚姻が可能になり、かなりの縁談を申し込まれているが断っている。
「ふぅ」
陛下が作らせた二人の概要…つまり釣書を読んでいた。
継母に婚約者を寝取られた冴えない私にとんでもない大物が2人も求婚してくるなんて。
まだ王女だから良かったけど、そうでなかったら袋叩きに遭ったかもしれない。
袋叩きとは言わずとも、攻撃には遭うことは避けられなかった。
最初はファルーク様と会うことになった。
「来てくださりありがとうございます、エリサ様」
「ファルーク様、ご招待いただきありがとうございます」
今日のファルーク様は私服に着替えて、首都の劇場へ行き歌劇を観に行く約束になっていた。
警備の関係上、王家の馬車で神殿に迎えに来た。
ファルーク様は私の手を取り甲に唇を付けた。
「今日のために着飾ってくださったのですね。
とても嬉しいです。美しいエリサ様が側にいてくださると思うと胸が高鳴ります」
「あの……ファルーク様の私服姿も新鮮で、良くお似合いです」
「ありがとうございます」
馬車の中で私の隣に座ったファルーク様が頬に触れた。
「ち、近過ぎますっ」
「このくらいで近いなどと言っていては、この先心臓が止まってしまいますよ」
「っ!」
あの真面目なファルーク様が女性達を虜にするような微笑みで私を攻撃してきた。
神殿でも優しく話しかけてくださったが、今日は全身から色気が漂っている気がするのは私の気のせいだろうか。既に酔いそうだ。
劇場に着くと多くの女性が私達を見た。
「ちょっと息苦しそうですね。二階席です。行きましょう」
「よくいらっしゃるのですか」
「演目次第で公演許可が必要になります。そのために二か月前に部下と来ました。もちろん男です」
「慣れていらっしゃるようでしたので」
「エリサ様。デートは初めてです。私は他の女性に興味はありません。誘うこともありませんし、誘われても応じません。貴女だけなのです」
「ファルーク様がですか?」
「そうです。さあ、行きましょう」
彼の手を取り二階席へ行った。貴賓席になっていて二人がけのシートになっている。
この席を視界に入れることができる女性はずっとこちらを見ていて居心地が悪い。
「不躾な者達で溢れかえっていますね」
「ファルーク様はとてもおモテになると伺いました。人気の美しいご令嬢から敬虔な信者の女性もいらっしゃるようですね」
「世俗の欲に塗れた令嬢の何処を見たら美しく感じるのか私には分かりかねますし、信心深いはずの女性が神殿で男に色目を使う姿に幻滅する日々です」
「……」
「確かに様々な女性に言い寄られるので、関わりの少ない部門を選びました。私は嬉しくありませんし寧ろ迷惑です。盛りのついたハイエナなどごめんですよ」
「ファルーク様はどなたにもお優しい方なのかと」
「まさか。仕事以外で女性に関わることはありません。声もかけません。身の回りの世話は下男にさせています」
この国の神殿の下男下女とはメイドのことだ。
掃除や洗濯、食材や皿などを洗ったり、聖職者の生活の手助けをする。
彼らの中にも階級があり、身体に触れるような世話がある場合は下男しか許されない。聖職者は皆男だからだ。
「そうですか」
部屋の中を行ったり来たり、座ったり立ったりと落ち着かない。
「エリサ様?」
「ごめんなさいね。ちょっと動揺することがあって。
気にしないでね」
あの一件以来、私の専属のメイドと侍女は外れて、新たに選出された。
彼女達はまだ私に不慣れだ。
「あーっ!!」
突然の叫びにビクッとなる彼女達に笑顔を向けた。
「お茶を淹れてくれたら皆さがって」
「かしこまりました」
ハイダー将軍は43歳で平民出身だ。武勲を立てて出世を繰り返した。その過程で妻を娶るようにと言われて前妻マリアを娶る。
マリアは下位貴族の三女。貴族としての指南役を担っての婚姻だ。
昇進すればするほど、要人との面会や会食やパーティへの参加も増えるため、必要な事だった。
そのマリアとの第一子、二子ともに早期流産、最後に宿したのは三つ子だった。妊娠中期に出血が止まらず母子ともに亡くなった。それ以来独身だという。
人気も高く、英雄の妻になりたいと手を挙げる者は平民から貴族まで、若い女性から将軍と同じ歳まで幅広い。
ファルーク神判長は26歳で下位貴族出身だ。
父親は妻帯者だったが平民メイドと関係を持った。関係といっても無理強いだ。事後に普通なら避妊薬を飲ませるところだが、女が逃げてしまい飲ませられなかった。
正妻は貴族出身。どんな目に遭わされるか怖かったのと、また襲われることを恐れて二度と姿を現さなかった。結果 生まれたのがファルークだ。
ファルークには証があり、神殿に父親の名を明かさねばならなかった。
男は父親であることを否定したが、泉で親子関係が証明された。
妊娠の経緯とその後の言い逃れを重く見た結果、男は平民に落とされた。
財産は妻の子、妻、被害者である母、ファルークの4等分にして分配された。
ファルークはそのまま神殿に預けられ、活動や勉強を真剣に取り組み神判長になった。
神判長になったのは今年から。ジャミラとサージの一件は、神判長になって初の仕事だった。
部門ナンバー2になったことで婚姻が可能になり、かなりの縁談を申し込まれているが断っている。
「ふぅ」
陛下が作らせた二人の概要…つまり釣書を読んでいた。
継母に婚約者を寝取られた冴えない私にとんでもない大物が2人も求婚してくるなんて。
まだ王女だから良かったけど、そうでなかったら袋叩きに遭ったかもしれない。
袋叩きとは言わずとも、攻撃には遭うことは避けられなかった。
最初はファルーク様と会うことになった。
「来てくださりありがとうございます、エリサ様」
「ファルーク様、ご招待いただきありがとうございます」
今日のファルーク様は私服に着替えて、首都の劇場へ行き歌劇を観に行く約束になっていた。
警備の関係上、王家の馬車で神殿に迎えに来た。
ファルーク様は私の手を取り甲に唇を付けた。
「今日のために着飾ってくださったのですね。
とても嬉しいです。美しいエリサ様が側にいてくださると思うと胸が高鳴ります」
「あの……ファルーク様の私服姿も新鮮で、良くお似合いです」
「ありがとうございます」
馬車の中で私の隣に座ったファルーク様が頬に触れた。
「ち、近過ぎますっ」
「このくらいで近いなどと言っていては、この先心臓が止まってしまいますよ」
「っ!」
あの真面目なファルーク様が女性達を虜にするような微笑みで私を攻撃してきた。
神殿でも優しく話しかけてくださったが、今日は全身から色気が漂っている気がするのは私の気のせいだろうか。既に酔いそうだ。
劇場に着くと多くの女性が私達を見た。
「ちょっと息苦しそうですね。二階席です。行きましょう」
「よくいらっしゃるのですか」
「演目次第で公演許可が必要になります。そのために二か月前に部下と来ました。もちろん男です」
「慣れていらっしゃるようでしたので」
「エリサ様。デートは初めてです。私は他の女性に興味はありません。誘うこともありませんし、誘われても応じません。貴女だけなのです」
「ファルーク様がですか?」
「そうです。さあ、行きましょう」
彼の手を取り二階席へ行った。貴賓席になっていて二人がけのシートになっている。
この席を視界に入れることができる女性はずっとこちらを見ていて居心地が悪い。
「不躾な者達で溢れかえっていますね」
「ファルーク様はとてもおモテになると伺いました。人気の美しいご令嬢から敬虔な信者の女性もいらっしゃるようですね」
「世俗の欲に塗れた令嬢の何処を見たら美しく感じるのか私には分かりかねますし、信心深いはずの女性が神殿で男に色目を使う姿に幻滅する日々です」
「……」
「確かに様々な女性に言い寄られるので、関わりの少ない部門を選びました。私は嬉しくありませんし寧ろ迷惑です。盛りのついたハイエナなどごめんですよ」
「ファルーク様はどなたにもお優しい方なのかと」
「まさか。仕事以外で女性に関わることはありません。声もかけません。身の回りの世話は下男にさせています」
この国の神殿の下男下女とはメイドのことだ。
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「そうですか」
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