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突然の告知
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こんな知らせは聞きたくなかった。
春翔さんと小児病棟への慰問をして来たけど、全てのスケジュールを白紙にすると郡司さんから連絡があった。それに伴いセットで組まれていた睡眠士の仕事も白紙になった。有償の『アクター』への依頼なのだから私だけ訪問しても良かったのだけど、別の依頼の方が重要だからと咲希さんが決めてしまった。
郡司さんが来社して説明をしてくれるというので、咲希さんと聡さんと大輝くん立ち会いの元、事務所でその理由を聞いた。
「雪嶋さんは入院されました」
「春翔さんが!?」
「はい。癌です」
「手術は成功したって…」
「はい。胃に関しては。
ですが雪嶋さんの体には既に複数の転移がありました。抗癌剤と放射線治療で小さくはしましたが完全に消えませんでした。今問題の箇所にはあまり効果が見られず手術も困難な場所にあります。雪嶋さんは積極的な治療を優先するより、最小限の治療で少ない余生を楽しみたいと仰いました」
「積極的な治療をしないだなんて」
「効かせたい場所にあまり効かずに体全身を痛め付ける治療は無意味だと判断なさったんです。主治医の説得は続いていましたが雪嶋さんの決意は変わりませんでした。既に一度退院しており、自宅マンションでお母様が付き添われております。2日後にホスピス専門の住宅へ入居なさいます。通いで放射線治療だけは受けて、後は症状への対処だけに切り替えることになりました」
「っ……ううっ」
そんなことになっているとは知らなかった。
受け入れ難い話に涙が溢れ出す。
「睡眠士であり『アクター』の二条楓さん。雪嶋春翔さんからの依頼です。恋人役でも友人役でもいいから見舞いに来て話をして眠らせて欲しいと。
彼は全財産を注ぎ込んで依頼をしたいと申しています」
「それは後々問題になります」
「死期の迫った方を相手にそんなことはできませんよ」
咲希さんと聡さんが難色を示した。
「必ず依頼として受けてもらいたいと雪嶋さんが希望なさっています。口外はしません。もちろん弊社の顧問弁護士と雪嶋さんと雪嶋さんのご両親とで話し合いをしました。ご両親も、ご子息が慈善活動に力を入れてきたのだから残ったお金くらい好きにパッと使い果たしなさいと仰いました。ご家族の同意も得られた以上、ご本人の希望を叶えない理由はありまん。弊社も最期まで雪嶋さんにお付き合いいたします」
春翔さんのご両親とは二度お会いしたことがあった。一度は退院前、一度は雪嶋さんの実家の近くの小児病棟を訪れたとき。“息子を宜しくお願いします”と仰った。
「楓、あなた次第よ」
「引き受けなくてもいいんだ。今の楓には酷な依頼だからな」
こんなに親しくなる前なら動揺はしなかっただろう。だけど今は…
「楓、この依頼はやり直しがきかない案件だ。もう一度という相手が居なくなってしまうから。楓が雪嶋さんの望みを叶えてやりたいと言うのなら俺が楓のサポートをする。引き受けないのなら別れの挨拶にだけは行こう」
大輝くんが私の肩に手を置いた。大きくて温かい手に安心する。だけど私の中の混乱は収まりそうもない。余命わずかな依頼人は何人もいた。だけど春翔さんは知らない人じゃない。何度も会って話をして揶揄ったり笑ったりしてきた。涙が止まりそうにない。
「郡司さん、楓に2、3日考える時間をください。お引き受けすることになれば空きの日を雪嶋さんの依頼で埋めさせていただきますので」
「わかりました」
郡司さんが帰ると咲希さんと聡さんが話を続けた。
「俺は引き受けなくてもいいと思うぞ。今だって泣いてるのに辛いだろう」
「私は受けた方がいいと思うわ。楓がこんなに泣くのだもの。後悔するに決まってるわ」
「とにかく、早く結論を出してくれ。依頼人には時間がないからな」
頷いて大輝くんと部屋に戻った。
1時間ほど泣いていただろうか。泣き腫らした顔を冷やしていた。その間の大輝くんはタオルを冷やしては交換してくれていた。
春翔さんと小児病棟への慰問をして来たけど、全てのスケジュールを白紙にすると郡司さんから連絡があった。それに伴いセットで組まれていた睡眠士の仕事も白紙になった。有償の『アクター』への依頼なのだから私だけ訪問しても良かったのだけど、別の依頼の方が重要だからと咲希さんが決めてしまった。
郡司さんが来社して説明をしてくれるというので、咲希さんと聡さんと大輝くん立ち会いの元、事務所でその理由を聞いた。
「雪嶋さんは入院されました」
「春翔さんが!?」
「はい。癌です」
「手術は成功したって…」
「はい。胃に関しては。
ですが雪嶋さんの体には既に複数の転移がありました。抗癌剤と放射線治療で小さくはしましたが完全に消えませんでした。今問題の箇所にはあまり効果が見られず手術も困難な場所にあります。雪嶋さんは積極的な治療を優先するより、最小限の治療で少ない余生を楽しみたいと仰いました」
「積極的な治療をしないだなんて」
「効かせたい場所にあまり効かずに体全身を痛め付ける治療は無意味だと判断なさったんです。主治医の説得は続いていましたが雪嶋さんの決意は変わりませんでした。既に一度退院しており、自宅マンションでお母様が付き添われております。2日後にホスピス専門の住宅へ入居なさいます。通いで放射線治療だけは受けて、後は症状への対処だけに切り替えることになりました」
「っ……ううっ」
そんなことになっているとは知らなかった。
受け入れ難い話に涙が溢れ出す。
「睡眠士であり『アクター』の二条楓さん。雪嶋春翔さんからの依頼です。恋人役でも友人役でもいいから見舞いに来て話をして眠らせて欲しいと。
彼は全財産を注ぎ込んで依頼をしたいと申しています」
「それは後々問題になります」
「死期の迫った方を相手にそんなことはできませんよ」
咲希さんと聡さんが難色を示した。
「必ず依頼として受けてもらいたいと雪嶋さんが希望なさっています。口外はしません。もちろん弊社の顧問弁護士と雪嶋さんと雪嶋さんのご両親とで話し合いをしました。ご両親も、ご子息が慈善活動に力を入れてきたのだから残ったお金くらい好きにパッと使い果たしなさいと仰いました。ご家族の同意も得られた以上、ご本人の希望を叶えない理由はありまん。弊社も最期まで雪嶋さんにお付き合いいたします」
春翔さんのご両親とは二度お会いしたことがあった。一度は退院前、一度は雪嶋さんの実家の近くの小児病棟を訪れたとき。“息子を宜しくお願いします”と仰った。
「楓、あなた次第よ」
「引き受けなくてもいいんだ。今の楓には酷な依頼だからな」
こんなに親しくなる前なら動揺はしなかっただろう。だけど今は…
「楓、この依頼はやり直しがきかない案件だ。もう一度という相手が居なくなってしまうから。楓が雪嶋さんの望みを叶えてやりたいと言うのなら俺が楓のサポートをする。引き受けないのなら別れの挨拶にだけは行こう」
大輝くんが私の肩に手を置いた。大きくて温かい手に安心する。だけど私の中の混乱は収まりそうもない。余命わずかな依頼人は何人もいた。だけど春翔さんは知らない人じゃない。何度も会って話をして揶揄ったり笑ったりしてきた。涙が止まりそうにない。
「郡司さん、楓に2、3日考える時間をください。お引き受けすることになれば空きの日を雪嶋さんの依頼で埋めさせていただきますので」
「わかりました」
郡司さんが帰ると咲希さんと聡さんが話を続けた。
「俺は引き受けなくてもいいと思うぞ。今だって泣いてるのに辛いだろう」
「私は受けた方がいいと思うわ。楓がこんなに泣くのだもの。後悔するに決まってるわ」
「とにかく、早く結論を出してくれ。依頼人には時間がないからな」
頷いて大輝くんと部屋に戻った。
1時間ほど泣いていただろうか。泣き腫らした顔を冷やしていた。その間の大輝くんはタオルを冷やしては交換してくれていた。
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