【完結】高給アクターは夢で癒す

ユユ

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一人の休日

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しばらくしてお手洗いに行くと森社長が手を洗っていた。

「うちの社員が失礼しました」

「誤解をなさったようですね」

「あの子は郡司を慕っているから、郡司と仲のいい二条さんに嫉妬したんです」

「え?社員さんがですか?」

「結婚式に参列した時から郡司を見る目がね…その点、二条さんは違ったようですね。何度か郡司から二条さんの話がでたのでもしかしてと思ったのですが、郡司の片想いみたいですね」

「森社長」

「食事はお口に合いましたか?」

「はい、とても美味しかったです」

「良かったです。デザートも出ますから」

「ありがとうございます」

お開きになると森社長がデザートを箱に詰めて持たせてくださった。
郡司さんが送ると言ったけど断った。迎えが来ると言って嘘を吐いてしまった。


立食だったことと、帰りに迷ったことで疲れて寮に戻って来た。

「ただいま」

「お帰り」

「お土産もらっちゃいました。花音ちゃんに届けてきます」

「俺が行くよ」

袋を受け取った大輝くんは花音ちゃんに届けに行ってくれた。

お風呂に入った後、大輝くんが脚のマッサージをしてくれた。

「大輝くん、啓太さんの友人がいたんです」

「パーティに?」

「はい。…あ、名前聞いていませんでした。大学時代の友人で、啓太さんから大輝くんの動画を見せてもらっていたそうです。興奮してすごく褒めていましたよ」

「そうか」

「咲希さんに叱られませんでした?」

「叱られた」

「良かったです」

「叱られて、楓との夜を思い出していたら、もう行っていいって言われたよ」

大輝くん…。


翌日、郡司さんから評価と振込がされていた。
星はフルに付けてもらって、コメント欄には不快な思いをさせて申し訳ありませんと書いてあったので咲希さんに事情を説明した。

「問題ないわ。お疲れ様」

「お疲れ様でした」

「そういえば、2ヶ月後に先日の柴田様から娘役で予約が入ったわよ。柴田様の誕生日を一緒に祝って欲しいんですって。お弁当とケーキも頼まれたわ」

「分かりました」

依頼だとしても手ぶらは駄目だと悩むこと数分、検索を始めた。
柴田さんは切り絵のアーティスト。だから拡大鏡かアートナイフにしようと思った。結局スタンド型LED付き拡大鏡にした。関節があるので高さも角度も調整可能な可動域が優秀なものを選んだ。そして長時間の作業かもしれないのでリフトレストを選んで注文した。


翌日は急なお休みになった。
依頼主が熱を出し、検査をしたらだったらしくキャンセルになった。うちの会社では、感染性胃腸炎とかインフルエンザなどの『アクター』にうつしかねない病気を患ったまま『アクター』と会ってうつすと休業補償と医療費の負担を求めることを規約に載せている。前日の確認の連絡の際にも体調は大丈夫か聞くようにしている。
最悪は陽性者と接触して上位『アクター』の1人がうつされ、事務や保安、社長副社長、シェフ、同じビル内の寮に住む他の上位の『アクター』達にまで感染が広まり機能が止まることもあり得る。だからしっかり念を押す。

結果、前日の確認の電話で病院に行き検査をしてみたら陽性だったので、慌ててキャンセルしてきたようだ。本人としてはどうせ寝るのだから大丈夫だろうと思って熱があることを黙っていたようだ。
美紀さんが言うには、声がこもった感じがしておかしいなと感じたので“うちの楓の休業補償は『アクター』の中で1、2を争うほど高額ですが大丈夫ですか”とはっきり伝えたとか。

どうせ寝るからって…。
最低でも1時間は手を握って側にいるんですけど。寝る人はマスクなんかしてないんですけど。美紀さんが気付いてなければ私は…。
そう思ったらモヤモヤしてしまった。

今日は大輝くんは地方に行っていて不在だ。やることがない。掃除洗濯はやってくれるし、自炊はお茶を淹れるくらい。

リモコンを持ちCATVのボタンを押して番組表を見ていく。アニマル○ラネットの寄生虫などに蝕まれた人の再現番組を見た後は映画のチャンネルにしたけど、好みの映画ではなかった。

仕方なく着替えて外出することにした。気の向くまま散歩をしていると、区立図書館が見えた。図書館は小学生以来で懐かしかったので入ってみた。図書館は独特の雰囲気があるし、人も少なく匂いもシンプルだ。
電子書籍ではなく、紙に触れページを捲り本の匂いを嗅ぎ取る。気のせいか浄化された気分になる。

図書館を出た後、急に思い立って映画館に行ってみることにした。乗り換えと大きな駅で降りることも考えて近いけどタクシーを使うことにした。行きに迷子になるのは避けたかったから。
映画館の最寄駅は新幹線も止まる大きな駅で、映画館はホテルタワー内にある。
映画館でも家でも、映画はいつも字幕か声優による吹き替えのものに決めている。家では邦画の役者のボソボソ小声に合わせて音量を大きくすると、突然の大きな音楽や効果音が近所迷惑になり得る。映画館だと効果音や音楽が異常に大きくて辛い。どちらにしてもイラッとくるので見ないことにしている。

到着して映画のポスターを見て決めたのは小ザメのアニメ映画だ。絶対和む気がする。
上映時間まで時間があるので、38階の和食のお店に入った。ランチメニューを注文し、出てくるまでの間にスマホで検索していると、○ブリの立体造形物展が出てきた。別の場所でやるらしいけど是非見たかったので調べたら既にチケットは完売らしい。残念。

少し遅いランチを食べて映画を見てホテルを出た。横断歩道を渡って大きな駅の○川エキュートに到着。あんこジャムのスプーンクッキーセット、いちごミルクサンド、猫クッキー、ひとくちバームを購入しタクシーで帰った。みんなの分を買ったので手荷物でいっぱいだった。

帰り着いたのは夕方で、まだ事務所には人がいる。

「聡さん、お疲れ様です」

「お疲れ。楓は休みだろう」

「はい。暇だったので外出しました。お土産です」

ひとくちバームがたくさん入った袋を渡した。

「凄いじゃないか!一人で買い物できたんだな」

「タクシーを使いましたから無事目的地に着いて、無事帰ってくることができました」

「買い物中、迷子にならなかったか?」

「お店の人に聞けば方角を教えてもらえますから」

「そうか。ありがとう、みんなで食べるよ」

次は花音ちゃんの部屋を訪ねた。

「楓お姉ちゃん」

「花音ちゃんにお土産。お母さんと食べてね」

「ありがとう」

「じゃあね」

「寄って行かないの?」

「ちょっと歩き疲れちゃって」

「分かった、また今度遊んでね」

花音ちゃんと別れて自分の部屋に向かった。
靴を脱ぎ服を脱ぎベッドに大の字で倒れ込んだ。

「疲れたぁ」

近所の散歩のつもりだったのに…
少し休んでから陽史さんにあんこジャムを渡しに行った。彼はあんこ好きだから。

「うわっ、クッキースプーン付いてる!」

目を輝かせ喜んでくれた。

「そういえば、柴田様の誕生日ケーキは買うんですか?」

「知り合いのパティシエに注文したよ」

「そうなんですね」

「弁当は豪華に作るから」

「楽しみにしていますね」

仕事をしてお金をもらうのに美味しい食事も食べさせてもらえるなんて幸せだ。
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